映画「大輪廻」が描く時空を超えた愛と愛憎の世界~鈴木BINのニュースな映画
文化放送報道デスク兼記者兼プロデューサーの鈴木敏夫(鈴木BIN)が、時事解説などとともに映画紹介をしています。
文化放送公式ホームページにて「第5スタジオは礼拝堂」も連載中
台湾映画「大輪廻」1983年公開の映画が蘇る
前回ご紹介した「少年」と比べて、この「大輪廻」は日本の映画祭でも過去に幾度か上映され、現在もDVD販売されているポピュラーな作品と言える。
ストーリーは非常にユニークで、男2人女1人の男女3人が輪廻転生を繰り返しながら、愛憎まみえる人間ドラマを繰り返す不思議な物語。出演者は同じだが、3人の監督がバトンを繋いでゆくオムニバス形式。個性派監督たちが独特な世界を展開する。
第1章の舞台は「明」の時代。アクションの大家キン・フー監督が担当した物語は、父親の命令で政略結婚させられる娘、彼女を横取りしようとする男、恋人を取り戻そうとする若者が山中で激しい戦いを繰り広げる。キン・フー監督演出のスペクタクルなアクションがすごい。
第2章の時代は、中華民国が誕生した20世紀初頭だ。ホウ・シャオシェンの師として知られるリー・シン監督がメガホンを撮った。旅回り(広東オペラか?)の劇団の団長と可憐なヒロインと彼女と愛し合う旅先の御曹司の3人の悲恋。活劇調の1章から全く風合いが変わり、静かでたおやかな物語でとにかく映像が美しい。時代を越えた3話でいずれもヒロインを務める彭雪芬(シルヴィア・バン)の美しさがもっとも際立っているのはこの第2章だ(主観です)
第3章の舞台は、映画公開時点における現代。監督は新進のパイ・ジンルイで、2章と少し設定が似ているのだが、今同じ演劇でも今度は漁村にやってきた前衛芸術の集団という設定。ヒロインと彼女に恋する漁師の弟、そして村のシャーマン的な存在の兄が登場し、ブラックコメディのような展開の中で衝撃的なラストを迎える。
出演者は同じなのに監督を変えてゆくという発想自体が面白い。得意なジャンルがいずれも違う人気監督3人の個性がぶつかり合う感じで時代を渡ってゆくが、出演者たちが同じだけに一層パラレルワールド的で奇妙な異世界に誘われていく。
無粋ながらこの映画、酒を飲みながらぼんやり眺め、独特の浮遊感で漂いたい気分になった(個人的見解です)。
この「大輪廻」も「少年」と同じく、1983年の公開で、この年の台湾金馬奨最優秀編集賞・美術賞、さらにアジア太平洋映画祭最優秀男優賞を受賞している。これらの作品を含む「台湾巨匠傑作選2023~台湾映画新発見」は新宿K’s cinemaで7月22日(土)から始まり、全国順次開催される。
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