偉大なるキン・フー監督 「空山霊雨」~鈴木BINのニュースな映画
鈴木BINのニュースな映画
文化放送報道部デスク兼記者兼プロデューサーで映画ペンクラブ会員の鈴木BIN(敏夫)が、気になる映画をご紹介しています
「空山霊雨」
©1979 Lo & Hu Co-Production Ltd. / © 2018 Taiwan Film Institute. All rights reserved.
「空山霊雨」 空山は人気(ひとけ)の無い寂しい山、霊雨は恵みの雨(慈雨)のことだそうだ。もうタイトルを聞くだけで面白い映画に違いないという確信を持てる。このワンシーンを見ると尚更だ。そして中身はその期待に違わないハラハラドキドキのスピーディーな展開。ただのアクションではなく、人の生き方への教訓もある。
静謐な景色と時代感溢れる装束も一体となったスペクタクルだが、壮大な物語というわけではなく、舞台はほとんど巨大な寺の中だけで展開する。この渋いロケーションをフルに生かしたワイヤーアクションの痛快さが楽しい。ちなみに韓国のお寺がロケ地だそうで、香港映画なのだがどこか無国籍なアジア映画の雰囲気も漂う。
ストーリーは、三蔵法師の巻物をめぐる虚々実々の駆け引きの物語。誰が敵で誰が味方か分からない権謀術数の人間模様が絡み合い、高級官僚も大金持ちも将来有望な僧侶も、潔いほどに欲をむき出しにしてくるのだが、そのような中で、この寺に送られてきた囚人ひとりが寺の状況を憂い、周囲に翻弄されながらも解決策を見出そうとする。
何と言っても、監督はアクション映画の名手、キン・フー。普通程度のアジア映画好きなら知らない名前かも知れない。しかし香港映画をものすごく好きなら誰でも知っている監督で、この人無くして香港のワイヤーアクション映画は語れない巨匠だ。別名は「香港の黒澤明」。
キン・フー監督は、中国・北京で生まれ、毛沢東による共産党政権が成立した翌年に香港に渡った。1960年代から80年代にかけて香港や台湾で活躍し、日本を舞台にし製作の指揮をとった「客途秋恨」という作品もある(監督はアン・ホイ)。その間、台湾の戒厳令解除なども万感の思いで見つめたであろう。愛する香港の中国返還を目前にして65歳で台湾の台北で死去している。
「侠女」「残酷ドラゴン 血斗竜門の宿」などの一連の作品はツイ・ハーク、アン・リー、ツァイ・ミンリャンといった中華圏の名匠たちの教科書だ。例えば「侠女」の作品中、竹林の中で戦うシーンは後にアン・リー監督が「グリーン・ディスティニー」で再現してみせた。
さて、台湾映画ファンにはおなじみの「台湾巨匠傑作選2023」が今年(2023年)も、7月22日(土)から新宿K’s cinemaで始まる。今回はこのキン・フー作品「空山霊雨」やホウ・シャオシェン作品「少年」など27作品が一挙上映される。ちなみに「空山霊雨」は1979年の作品だが、ほぼ同じキャストを使い同時進行で撮影された「山中傳奇」とあわせて観ると一層面白いだろう。
次回は、台湾映画で見る近代史について語らせて頂きます。
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Profile
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1964年、奈良県生まれ。関西学院大学卒業後、1988年、文化放送にアナウンサーとして入社。その後、報道記者、報道デスクとして現在に至る。趣味は映画鑑賞(映画ペンクラブ会員)。2013年「4つの空白~拉致事件から35年」で民間放送連盟賞優秀賞、2016年「探しています」で民間放送連盟賞最優秀賞、2020年「戦争はあった」で放送文化基金賞および民間放送連盟賞優秀賞。出演番組(過去を含む)「梶原しげるの本気でDONDON」「聖飢魔Ⅱの電波帝国」「激闘!SWSプロレス」「高木美保クロストゥユー」「玉川美沙ハピリー」「NEWS MASTERS TOKYO」「伊東四朗・吉田照美 親父熱愛」「田村淳のニュースクラブ」ほか