【第99回箱根駅伝】「そろそろお前に譲る」駒澤大学・大八木弘明監督、退任発表後囲みインタビュー

【第99回箱根駅伝】「そろそろお前に譲る」駒澤大学・大八木弘明監督、退任発表後囲みインタビュー

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第99回箱根駅伝。大学駅伝三冠を達成した駒澤大学・大八木弘明監督の退任発表後の談話です。

Q:退任を決めたきっかけや時期は?
A:決めたのは昨年の4月ごろ。三冠を獲る獲らないに関係なくこの辺で一区切りにしようかなと思った。夏あたりにキャプテン、副キャプテン、田澤(廉、4年)あたりに「監督を退いて総監督になる」ということだけは言っておいた。彼らは本気で三冠を狙っていたので、じゃあ俺も最後本気になってやると誓った。今回の優勝は子供たちがくれた素晴らしいプレゼント。ありがたいなと思う。29年間駒澤で指導してきて、オリンピックにも世界陸上にも輩出して箱根も4連覇して……。最後に残っているのが何か考えた時に、じゃあ三冠だなと。自分の中で大学駅伝監督としては全てやり切ったような思いがある。田澤を含めた多くの選手から一緒に世界を見据えてほしいとも言われたので、その気持ちを受けて、もう少し駒澤に残りながら上の選手も田澤と一緒に見てやりたいと思う。

Q:退任を決めた理由は満足感から?
A:それもそうだが、部員50人を見るのは体力的にもキツイ。もう次の誕生日で65歳だしね。現場に出るのもやっと。朝から晩まで見ているし、女房にもまかないなどで苦労をかけている。(女房に)少し休んでほしいと思った時に、私が退かないと女房は聞いてくれないかなと。来年以降も教え子たちは結果を出していってほしい。良い選手層は作ったつもりなので、来年も三冠を狙えるだけのチームが出来上がっているはず。次にやる監督も頑張ってほしい。2年続けての三冠はまだやった大学は無いのでそれを目指していってほしい。

Q:藤田コーチにはいつ頃伝えたのか?
A:ちょっと前くらいかな? いやだいぶ前かな? 改めては伝えていないが「そろそろお前に譲る」ということは言っていた。

Q:4年生3人に退任を伝えた時(大八木監督が)涙を流されたそうですが
A:(笑いながら)そりゃ思うところはありますよ。29年やって三大駅伝優勝27回でしょ?こんな幸せな監督は他にはいない。子供たち、全てのスタッフに恵まれた。ただ自分として今度は世界に通用する選手を育てたいという思いがあってこの決断をした。中国の言葉で『百里の道は九十九里をもって半ばとす』というものがあるが、ちょうど100回大会の前の99回大会で半ばとしてみようと。今一度自分のやりたいこと、新たな世界を見たいと思った。世界を狙える選手と新しいトレーニングをしていきたい。

Q:それは田澤選手と出会ってより強く思ったのか?
A:思ったのと出会った時期が重なったのは少なからずある。一人二人を見るのにはちょうどいい年齢であるのもあるし、巡りあわせですかね。

Q:退任が頭に浮かび始めたのはいつ頃?
A:決めたのと同じ去年の4月ごろ。田澤の4年が終わったら一緒にやりたいという気持ちがあったのでそれまでは(監督をやる)。田澤が3年の時に、就職なども含めて相談した時に「一緒にやるのか?」と聞いたら「やりたいです」と言ってくれたので、その辺から少しずつ考えるようになった。

Q:今後は総監督として活動される?
A:そういう方向でいるというだけ。まだ細かいところは決まっていない。誰がどこの役割になるのかはまだ発表してないので、まだ上の学年は指導していこうかなと。年度替わりが一応のタイミングだが、箱根が終わってからの指導は藤田敦史(現駒澤ヘッドコーチ)に任せようかなと。

Q:トヨタのコーチにもなるのか?
A:それはまた後で……(笑)。トヨタに所属するが、田澤は駒澤で練習、私が見るようになると思う。たまたまトヨタの田澤が私のところで練習するというだけ。次に見たいと思う選手が出てきたら、その選手が企業に入りながら私が面倒を見るような形をとると思う。いずれは他大学の選手も見たい。

Q:藤田コーチに引き継いでいくことはあるか?
A:8年くらいは一緒にいるから「これは良い、これは悪い」というように取捨選択して、自分流で好きにやっていってほしい。自分の中で気づいて行ってほしい。

Q:大八木監督から見た藤田コーチの監督としての素質は?
A:几帳面な所やまじめな所、選手との話し合いも多くやっている。話すのはとても上手。俺よりも上手だと思うから、選手への説得を始めとして(選手を)導いていってあげればまた面白くなるのかなと。

Q:運営管理車に乗っている時に最後という思いはあったか?
A:そうですね。これが本当に最後かなと。マネージャーにも最後だから10区の20キロ地点で声をかけさせた。

Q:大八木監督の指導歴の中でターニングポイントになった時期は?
A:初めの方は箱根で手一杯だった。とにかく駒澤を箱根で優勝できる常連校にしたいという強い思いがあった。箱根を走りたい、箱根で優勝したいという思いで子供たちも入ってきてくれている。私も期待に応えたいと思ったので、早い段階から強いチーム作りに着手した。だからこそ5年目で優勝できたし、そのまま4連覇もできた。それから「箱根の次は世界で通用する選手を育てたい」と思うようになった。10年目から15年目辺りはそればかり考えていた。一時期勝てなくなった時は2つとも追ってしまっていたからかなと。箱根も勝って、オリンピックも勝って、世界陸上も勝つような選手はなかなかいない。マラソンと駅伝はまたちょっと違う。歳を重ねて、色んなスタッフや教え子が多くのことを教えてくれたので、今は両方とも上手く行き続けている。

Q:4年生の3人以外には教えなかったのは?
A:チームへの影響を考えて。上の4年生がしっかりしていたので、お前らには話すと。全体には終わってから言うことにした。

Q:森本さんや高岡さんへの思いは?
A:ありがたい気持ちしかない。森本葵(元監督)先生は現場の責任者として全て任せてくれた。責任は全部オレが取るからとも言ってもらえた。だからこそ強いチームが出来たと思う。一番うれしかった。高岡公(元ヘッドコーチ)さんもそうでした。やりやすいようにしてくれたのは感謝しかない。

Q:箱根という舞台はどのようなものだったか?
A:ずっと憧れてきた。今回もそうだがこれだけの人に応援してもらえる。子供たちも憧れてくれる。こんな素晴らしい大会に出場させてあげたいし、勝たせてあげたい。この喜びが将来役に立つと思うし、必ずプラスになる。選手の人生にとって重要な舞台になると感じる。

Q:100回大会に向けての願いは?
A:もちろん来年度も三冠をしてほしい。藤田にもこれから言おうと思う。できないチームではないし、達成できるチームを作り上げてきたつもり。プレッシャーになるとは思うが、3年生以下に良い選手も残っていることだし。今回も佐藤(圭汰、1年)、花尾(恭輔、 3年)がいなくても勝てることを証明したわけだから。来年もエース格は残っているし頑張ってほしい。

Q:山で1年生を使ったのも来年に向けて?
A:それもあるが、適性があったから。彼を走らせるのが一番面白いと思った。帰山(侑大、1年)も良かったが、他の2人に賭けることにした。

Q:どのような判断基準で決めているのか?
A:データがある。もちろん自分の指導者としての感性も使っていますよ。

Q:箱根駅伝という大会の盛り上がりへの思いは?
A:凄い大会だと思うので、ここで結果を出させないと子供たちがかわいそう。出雲、全日本は前哨戦のようで気楽に臨めている。やっぱり箱根が一番大変。往路復路もありますし。1日で終わればほっとするが、次の日もあると不安になる。体調を崩すかもしれないとずっと張りつめていて胃が痛かった。

Q:田澤選手と世界の舞台で目指す目標は?
A:とにかく出て入賞争いが出来る選手にはしたい。今は競技全体のレベルが上がっている。出ることすら大変な世界。とにかく世界陸上やオリンピックに出ることを目指して指導してきたい。

Q:やはり箱根が近づくとそわそわしたか?
A:そりゃした(笑)。あまり口には出さないようにして心掛けていた。総監督として監督車に乗れるかもしれないが、それは自分の中で線引きしていこうかなと。

Q:目標が区間順位5番以内なのは基本に立ち返ってのこと?
A:繋いでいけば勝てる自信があったので、初心に戻りながら箱根を勝つことだけを考えて行った。やはり4連覇した時にも層が厚かった。何かが起きても次の選手が使える状況を作ることが、勝つためには不可欠なのかなと。補欠が上手く走ってくれた。みんな5番以内だしね。

Q:中央大や青山学院大に勝てたのはその層の厚さがあってこそ?
A:そうだと思う。ただ、ギリギリの戦いだった。あと一人でも調子を崩していればこちらがやられていたかもしれない。選手たちに感謝しかない。勝つために最善を尽くしてくれた。

Q:4月以降もグラウンドには顔を出す?
A:期間は空けない。田澤を見ないとだからね。前の中村匠吾(現富士通陸上競技部所属)と同じ感じで育てていきたい。

Q:今の気持ちを一言で表すと?
A:難しいですね……。まぁ「指導者人生のラストチャレンジ」かな(笑)。

Q:今の心境は?
A:今はほっとしているが、これからは新しい選手や上のレベルの選手を見始めることになるはず。現場に出るとやはりワクワクするタイプなのでそうなると思う。ただ普段はもう少しゆっくりしたい。夫婦で旅行にも行かないとね(笑)。何もしてあげられなかったから。

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