宮川彬良「同業者としては信じがたい存在」伊藤賢治「みんなすぎやま先生の背中を追っていた」2人の作曲家が語る『伝説の作曲家 すぎやまこういち』の偉大さとは

宮川彬良「同業者としては信じがたい存在」伊藤賢治「みんなすぎやま先生の背中を追っていた」2人の作曲家が語る『伝説の作曲家 すぎやまこういち』の偉大さとは

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今年9月30日にご逝去された作曲家・すぎやまこういちさんへの追悼特別番組『伝説の作曲家 すぎやまこういち』が12月29日に放送され、声優・豊田萌絵と、太田英明(文化放送アナウンサー)がすぎやまこういちの半生を振り返るとともに、ゲストとして登場した作曲家の宮川彬良氏による「亜麻色の髪の乙女」や、「恋のフーガ」「学生街の喫茶店」などのポップスの解説やゲーム音楽家の伊藤賢治氏に影響を与えた「ドラゴンクエスト」、「半熟英雄 ああ、世界よ半熟なれ…!!」などのゲーム音楽についても取り上げた。

ゲスト:宮川彬良さん

-すぎやまこういちと、宮川彬良の出会いとは-

すぎやまこういちが唯一「師匠」と呼んだ作曲家の宮川泰を父に持つ、同じく作曲家の宮川彬良は、すぎやまこういちとの出会いについて、このように回想する。

「はっきり覚えているのは30年くらい前。僕が30歳くらいですぎやま先生が60歳くらい。作編曲家協会というものがあって、たまにみんなで集まってオーケストラコンサートをやる。宮川泰を筆頭に、服部 克久さんとかすぎやまこういちさんは当時会長だった。綺羅星の様な先輩と喫茶店に行ったりした。そもそも、すぎやま先生が東大だっていうのがすごく不思議だった。なんで東大なんですか?って聞いたら、本当は音大行きたかったけど、しょうがないから東大行ったって言ってて、なんなんだこの人は!?みたいな(笑)音楽は誰か支障がいるのかって言ったらいないって言うし。最初はどうして音楽に触れたんだって言ったら、ベートーベンのレコードをたくさん持っていて、それをお家で聞いて、コントラバスのパートを特に聴きながら聞いたって」と、信じられないことを言われたようだ。

ベートーヴェンの田園であれば、メロディはバイオリン。メロディではなく、コントラバスの「ド~ソ~」という音を聴いていたというのだから驚きである。その後でビートルズが出てきたときにすぎやまはビートルズの曲を聴いて、「これはベートーヴェンと一緒だ。ポップスって面白い」と、大分後で目覚めたそうだ。同業者としては信じがたい存在とは、宮川彬良の弁だ。


-宮川彬良が考える、すぎやまこういちのポップス-

宮川彬良がすぎやまこういちの曲を聴いて感じるのは、どの曲もクラシックの考え方が元なんだということだそうだ。

「たとえばフォークシンガーやメロディライターの人の作曲はメロディが甘美だったり優雅だったり、キャッチーなことが一番いい。クラシックの考え方はそれだけじゃない。メロディ主義を利己的とあえて言うと、クラシックは伴奏している人たちもみんないい曲ですねといえないといけない。調和を求めている。ベースラインもメロディになっていないとイヤというのがクラシックの考え方。どんな曲でもこうなるわけではない。ベース奏者もエンジョイしている。メロディで触っていた音とベースラインで触っていた音が全部違う。ベートーヴェンもベースラインがメロディになっている。素晴らしい調和を言葉ではできない理想郷を表している。ポップスの亜麻色の髪の乙女一つとってもそうなる。聞き流しちゃうとわからないんだけどゆっくり弾いて考えてみると、すぎやま先生はやっぱりクラシックの人だってことがわかる」

宮川泰とのコラボレーションとなった「恋のフーガ」について宮川彬良はこう語る。

「恋のフーガは、イントロの部分は宮川泰が作って、追いかけてからのメロディの部分はすぎやま先生が作ったとそういう認識。すぎやま先生の音楽を研究していくと、追いかけてというメロディのバックに弦楽器が半音で降りてくる。両方両立した立体感は、宮川泰のセンスにも入ってる。どっちかがどっちかに影響を与えて、どのくらいの割合でだれのアイデアが採用されてるかはわからないけど、2人の天才がシェアしながら作ったことを考えながら聴いてほしい」

宮川彬良の話を興味深く聴いた豊田萌絵もこの2人の関係性は朝ドラにできる!と太鼓判を押した。

ガロの「学生街の喫茶店」について、宮川彬良は今聞くと色々なことを思うと語る。

「すぎやま先生に実際にこれって、バッハですよね?って聞いたら、そうだよ、これはバッハだよと言っていた。チェンバロだったら完璧にバロック音楽に聞こえる。ソロなんだけど、イントロが音楽のジャンルの分け方ができない。なんか怖いんですよ。何とも言えないような・・・強いて言えばフュージョンかな?なんかタンゴみたいに盛り上がってきて、バロックのメロディをフォークシンガーグループがギターとマンドリンを弾きながら歌う。なにこれ~って感じ。入ってくるメッセージはボブ・ディランだなんだという当時の若者の心の中心にあったことに行く。一歩も二歩も、一年も二年も先に行かれてるような感じがする。今聞いてもそうだし、当時の持っていかれ感もそう。かなり攻めてる。(すぎやま先生はオリジナルを作れる方なんですねとの声を聴いて)先生は実験してる感じがする。それを思ったのは、紅白歌合戦にガロが出たときに、すぎやま先生が指揮をしている。真っ白なジャケットにパイプオルガン席みたいな高いところで指揮してるんだけど、途中でピースしたりしてる。なんかバックトゥザフューチャーのドクじゃないけど、科学者が俺の研究したものが売れた!みたいなそういう感じがした。音楽家は皆さんに喜ばれようとするタイプが多い。でも、すぎやまさんのサービス精神はちょっと違うところにあって、自分の研究の先に、究極のサービスがある。楽曲の分析も面白いけど、バロック音楽をフォークシンガーが歌う、その全体像を見て欲しい。壮大なミスマッチ。それに1億人が騙された」


-宮川彬良にとってすぎやまとは-

「僕は父と少し似たところにあって、サービス精神が旺盛で、目の前の人を楽しませるタイプ。すぎやま先生はその向こうを見ている感じ。今、僕が解説したようなことは勉強すると誰でもわかること。クラシックを勉強すると誰でもキャッチできる。そういう価値観か、と共有できること。これが素晴らしいこと。1回価値観を共有すると信頼関係が生まれる。すぎやま先生も僕の音楽をすごく褒めてくれた。僕もすぎやま先生を褒める材料が無限にある。これって本質的な人間と人間の繋がり。イデオロギーの面で話題になることも多かったけど、言葉なんて言うものはしょせんは外側。人間の繋がりの上では、荷物で言ったら包装紙の部分。中身で言ったら、音楽の方が近い。それが音楽の役目。言葉、イデオロギーを超える繋がりがある。人間が一番大切にしないといけないものは、音楽を通した心の繋がり。それを改めて考えさせられた」

ゲスト:伊藤賢治さん

-ゲーム音楽家伊藤賢治とすぎやまこういちとの出会いとは-


2人目のゲストとして登場したゲーム音楽家の伊藤賢治のすぎやまこういちとの出会いは当時発売されたドラゴンクエスト3だったそうだ。

「当時はゲームに疎かった。友人がドラクエにハマっていて、ドラクエを持っている友人の家に行って、友人がドラクエをやるのを見ていた。有名なメインテーマの「序曲」は知っていたがどんなゲームかは知らなかった。当時、王様に挨拶に行くときに王様のところに行く途中の曲がなんてメロディアスなんだ!こういう音楽なんだ!ドラクエ3ってこういう世界観だったんだ!ファミコンのピコピコ音と呼ばれる中でこんなに世界観を表現できるんだ!素晴らしいとおもって、その1年から2年後に進路を決めないといけない時期だったので、ゲーム音楽で生計を立てていくなんとなくのイメージができた。すぎやま先生との出会いが無ければ、今ここにいないかもしれない」

実際に、すぎやまこういちと話すことはあったのか問われると、伊藤賢治はそれはなかったという。

「お話はすることはなかったが、半熟英雄のサウンドトラックの制作の際にご挨拶だけさせていただいた。当時は邪魔になってはいけないとすぐに帰ってしまったが、今考えるともったいなかったかもしれない」と当時を回想した。


-伊藤賢治が選ぶすぎやまこういちのゲーム楽曲-

ドラゴンクエスト3から、「王宮のロンド」

後々自分がスクウェアに入って勉強していく中でドラクエのサントラは中にスコアがあった。それを打ち込みながら勉強させてもらった。3和音の中でどうやって作っていくのか確認させてもらった。実はこの曲は譜面通りに打ち込んでもこの通りに鳴らない。デュレーション(音が実際に発音される長さのこと)といって、たとえばドドドドという音を♪いっぱいに伸ばすか、スタッカートにするかの組み合わせで、音の長さの変化をつけると表現が変わる。それを勉強させてもらった。

ドラゴンクエスト4から、「エレジー」

「試用期間だから、こういうもので勉強しなさいと言われて渡されたのがドラクエ4。スクウェアのソフトじゃないんですけど、いいんですか?と言ったら上司からいいからさっさとやるんだと言われてやった。物語の中でもかなり悲しいシーンに流れる曲で、心をわしづかみにされて泣きました。ファミコンの中でここまで表現できるのかと思ったバラード。メロディもちゃんとビブラートで震わせている。心の機微を表していて、そこまで入り込んで忘れさせないイベントにするBGM」

半熟英雄から、「おとぼけ卵乱戦」

「私はこういうジャンルの曲をへにょへにょ曲と言ってる。こういう漫画チックだったり、コミカルな曲もすぎやまさんのサービス精神。半熟英雄は当時植松伸夫さんがファミコンで担当されていたが、植松さんがへにょへにょ曲がすごく得意。すぎやまさんも植松伸夫さんの曲を研究されてこの曲を作ったのではと思っている」

伊藤賢治がゲーム音楽で大事にしていきたいことは一体何なのか。

「大事にしていきたいのは親しみやすさ。ゲーム音楽って、ループなんですよね。すぎやまさんも言われていた聴き減りさせない、飽きさせないという部分は特色でもあり、命題でもある。そこは外せない部分」


-伊藤賢治にとってすぎやまこういちとは

「我々にとって大きな道のり、足跡を残していただいた。シューティングやら他のジャンルの方もみんなすぎやま先生の背中を追っていた。ジャンル分け隔てなく我々に筋道を立てていただいた方。若い世代の人たちがゲーム音楽を目指す場合も、すぎやまさんのスピリットを知っていくべき」

今回の放送は、1週間raikoのタイムフリー機能で聴取可能です。すぎやまこういち先生の楽曲や宮川彬良氏のピアノによる生演奏付きの解説が聴けますので、下のバナーからぜひ聴取ください。

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