映画『すばらしき世界』の主人公のモデルは横山やすし似だった!? 西川美和監督がインスパイアされたラジオ番組

映画『すばらしき世界』の主人公のモデルは横山やすし似だった!? 西川美和監督がインスパイアされたラジオ番組

Share

文化放送で昭和63年に放送されたドキュメンタリー番組『戸籍のない男〜バラ24本の幸せ〜』。

2021年2月に公開されヒットした映画『すばらしき世界』で、主演の役所広司さんが演じた男のモデルとなった田村明義さんの肉声が残っていました。

今回文化放送ではこの『戸籍のない男〜バラ24本の幸せ〜』を当時の音源で再放送した特別番組『24年間獄中にいた男のこえ~昭和63年放送「戸籍のない男」を聴く』を2021年10月9日(土)午後6 時00分から放送致しました。

この番組内で映画『すばらしき世界』の西川美和監督が、このドキュメンタリー番組の制作者で実際に田村明義さんに会った大谷尚美さんから当時の思い出話しを聞き、インスパイアさせて行ったのかを改めて語りました。

 


(右が西川美和監督、左が大谷尚美さん)

 

高倉健? 横山やすし?

 

実在した人物を実写の映画やテレビドラマで描く場合、そのキャスティングを考えるのは案外悩ましい問題なのかもしれない……。

 

1990年(平成2年)に刊行された佐木隆三さんの小説『身分帳』は、実在した田村明義さんという人物を主人公のモデルとして書き上げたものだ。殺人などの罪で受刑10犯、のべ24年間も刑務所で過ごした田村さんを、佐木さんは丹念に取材し、人生の再スタートを切った田村さんの戸惑いや葛藤を小説に書き上げた。

「会った瞬間、“あっ、横山やすし!”と思った」

こう話すのは、当時佐木さんの取材に同行した、文化放送OGの大谷尚美さん。田村さん自身は、映像化されるなら、自分自身を演じるのは「高倉健かなあ…」と照れながら話していたというが、大谷さんの目には、高倉健とはずいぶん違う印象に映ったようだ。

「“高倉健さんをイメージしないでくださいね”と(佐木さんは)おっしゃっていたのですが、その辺を歩いていたら普通のおじさんですから、あまりのギャップに私はショックを覚えました」

 

そして今年2月、小説『身分帳』を原案とした映画『すばらしき世界』が公開され、大きな話題を呼んだ。高倉健も横山やすしも、今はこの世にはいない人…。かくして、田村さんをモデルとした主人公・三上正夫を演じたのは、日本を代表する映画俳優の役所広司だった。

「役所さんは10代の頃からファンだったんです」

映画『すばらしき世界』の西川美和監督にとって、役所広司のキャスティングは、満を持してのことだった。

「30代後半から40代前半の頃の、殺人犯などの役を演じる役所さんが好きだったんです。ちょっと狂気があって、かつ、色っぽさがある――自分がいつかそういう男を書けた時に、出演をお願いしようと思ってきましたが、自分が書くものと、役所さんの年齢だとかそういうものとが、なかなかフィットせずに今まで来ました。

『身分帳』の主人公は、役所さんの雰囲気に合っているかどうかは別として、私自身はものすごく魅力的な主人公だと思いました。こんな魅力的な主人公を、この後、自力でまた書けるとは思えないし、やっぱり自分が一番いいと思う役を役所さんに持っていくのが良いんじゃないかと思いまして、役所さんにオファーしました。まだシナリオも出来ていませんでしたけどね…。

この主人公は感情のうねりがものすごくて、寂しげな時もあれば、子どものように屈託のない時もあって、そういう細かい喜怒哀楽を、役所さんなら自由自在に演じ分けてくださるだろう、と思いました」

映画の主人公・三上は、社会復帰するために奮闘するが、愚直な性格ゆえに、様々な困難に直面する。しかし、生きづらい社会の中で閉塞感を覚えながらも、周りの人々の温かさに触れ、時にはその表情をほころばせる。主人公・三上は、役所広司以外にありえなかったのでは…と錯覚するほど、役所は見事なまでに西川監督の想いに応えていた。

 

これまで原案も自ら手掛けてきた西川監督にとって、映画『すばらしき世界』は長編映画では初めての原作ものだった。ただ、これまでのオリジナル作品と同じように(また、原作者の佐木さんと同じように)、時間をかけてリサーチを行って、脚本を書き上げていった。

その過程で、西川監督が出合ったのが、大谷さんがディレクターを務めた『戸籍のない男〜バラ24本の幸せ〜』という30分間のラジオ番組だった。昭和63年(1988年)4月に放送されたこの番組こそ、大谷さんが佐木さんの取材に同行して、田村明義さんと佐木さんへのインタビューを基に制作したものだった。

「役所さんの雰囲気ともまた違うんですけど、何かひととなりの魅力みたいなものは、この肉声から感じたものが大きかったかなと思いますね」

刑期を終えて2年後の田村さんの肉声、そして、田村さんに寄り添おうとする佐木さんの姿勢は、西川監督が脚本を進めていく上で、大きなヒントになったという。

(昭和63年2月収録時の様子 田村明義さんを真ん中に右が佐木隆三さん、左が大谷尚美さん)

 

(田村さんが当時住んでいたアパート:写真はともに大谷尚美さん提供)

 

10月9日に放送された文化放送開局70周年記念特別番組【24年間獄中にいた男のこえ】〜昭和63年放送「戸籍のない男」を聴く〜では、貴重な当時の音源をまるまる聴くことができる。

映画『すばらしき世界』を観た人は、田村さんの肉声に、役所が演じた三上の面影を重ねながら聴いてみるのもいいだろう。

もしくは、横山やすしを思い浮かべながら聴いてみると、また違った解釈が見えてくるかもしれない⁉︎

 

 

『24年間獄中にいた男のこえ~昭和63年放送「戸籍のない男」を聴く』はPodcastで聴くことが出来ます。

西川美和監督の映画「すばらしき世界」はBlu-rayとDVDの他、配信サービスでもご覧いただけます。
詳しくは映画公式ホームページでご確認ください。

映画『すばらしき世界』オフィシャルサイト|大ヒット上映中 (warnerbros.co.jp)

 

Share

関連記事

NOW ON AIR
ページTOPへ