【インタビューvol.3】長野智子「白と黒、その中間にあるグレーの部分を忘れたくない」。新ラジオ番組で大切にしたい思い

【インタビューvol.3】長野智子「白と黒、その中間にあるグレーの部分を忘れたくない」。新ラジオ番組で大切にしたい思い

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4月1日から平日夕方の生ワイドとしてスタートする新番組『長野智子アップデート』
番組パーソナリティを担当する長野智子さんに、文化放送での思い出や、これまでの歩み、新番組にかける思いなどをうかがいました。
全3回の連載でお届けする第3回です。

【インタビューvol.1】はこちら▶https://www.joqr.co.jp/qr/article/118175/

【インタビューvol.2】はこちら▶https://www.joqr.co.jp/qr/article/119356/

目次

  1. 「アップデート世代」に向けた新番組
  2. 日本社会でアップデートしたいこと
  3. 行動し続けるために「心の温度を落とさない」
  4. 白と黒、その中間で迷い続ける場所として

「アップデート世代」に向けた新番組

── 今回の新番組『長野智子アップデート』のオファーが来たときの心境を教えてください。

長野 アナウンサーの道に進んだ後は主にテレビの世界で過ごしてきましたけど、一周まわって、文化放送でまたこういう機会をいただけて。人生長く生きていると本当に何が起こるかわからないと思いましたし、『ミスDJリクエストパレード』のときにやり残したことのリベンジマッチなのかなとも感じています。メディアという私のキャリアの扉を開いてくれたのが文化放送だったので、その恩返しにもなるのかなという思いもあります。「ここでもう一度、文化放送で喋らせてくれるんだ!」って。ミラクルですね。

── 番組名の「アップデート」という言葉を長野さんとしてはどう捉えていらっしゃいますか?

長野 プロデューサーの方が「長野さんのこれまでの人生から浮かんできた仮のタイトルなんですけど、『アップデート』というのはどうでしょうか」と。もうそれだけで嬉しいじゃないですか。すぐ「それでお願いします」とお返事しました。

この番組について、文化放送の齋藤社長が「2024年は50歳以上が日本の人口の過半数になる。そういう“大人の世代”にきちんとしたニュース・情報を届ける番組にしたい」というお話をされましたが、その対象になるのが私たちの世代なんです。

私たちの世代は、20代の頃にバブル経済を経験した新人類世代なんですけど、この世代ってまさに「アップデート世代」だと思うんです。小学生の頃は『ちびまる子ちゃん』に描かれているような時代で、デジタル機器なんて身近にありませんでした。その後ファクスが普及し始めたとき、「なんで紙が電線で送れるの?」って不思議に思っていたぐらいですから(笑)。それからポケベル、お弁当箱みたいな携帯電話、Windows95、iモード、インターネット、スマートフォン、といった時代ごとのテクノロジーに次々と適応してきたわけです。

── すごい適応力ですよね(笑)。

長野 いま思い出しましたけど、フジテレビでの新人時代、天気予報の中継の前に、現場で原稿を受け取る手段がないので公衆電話で「東の海上に低気圧が」という感じで、聞き書きしながら原稿を作っていました。その後、お弁当箱型の携帯電話を渡されたときは、「すごい!」って感激しましたから(笑)。

最近の若い人たちは生まれたときからスマホやタブレットがあって「デジタルネイティブ」と呼ばれていますけど、それに比べたら私たちは「手動アップデート世代」ですね(笑)。この先どんな新しいテクノロジーが出てきても、そのたびに自分の中のOSをアップデートしていけるというか、そういう意味での「強さ」がある世代だと思っています。

日本社会でアップデートしたいこと

── 「アップデート」という意味では、昨年出版した著書『データが導く「失われた時代」からの脱出』に「日本社会でアップデートしたいこと」が書かれてあるように感じました。

長野 そうですね。「意思決定層の中に(女性を含めた)多様性がある企業のほうが業績も良く、投資も集まり、いい人材を確保できる」ということをデータで示した本です。

── 報道時代のお話で「証拠を集めて提示する」ということがありましたが、この本も「データを集めて提示する」という構造になっていますね。

長野 出版したとき、田原総一朗さんがSNSに「日本の問題点を追及した書籍は少なからずある。しかし多くが悲観論で終わる。ところがこの長野智子さんの本は問題にどう取り組めば良いのか、問題を前向きに捉える数少ない本だ」と書いてくださって、自分でも「あっ、そうか」と気付かされました。やっぱり証拠を提示しながら伝えようとする癖がついているんだと思います。

── この本の中に、田原総一朗さんから「長野さんは何がやりたいの?」と問われて、咄嗟に「女性の国会議員を増やしたいです」と答えるエピソードがあります。

長野 あの田原さんに真正面から「ジャーナリストとして何がやりたいの?」って聞かれて、一瞬頭が真っ白になりましたよ(笑)。そのとき最初に浮かんだのが「女性の国会議員を増やしたい」ということでした。いま衆議院で男性議員が9割、女性議員は1割です。意思決定層に女性が入ってないというのは、少子化対策をはじめとして、日本社会がもがき続けている現況に通底している問題だと思っています。だから、国会議員の皆さんと一緒にクオータ制(議員数の格差を是正する制度)の勉強会を始めました。

行動し続けるために「心の温度を落とさない」

── 長野さんのお話をうかがってきて一つお聞きしたいのが、いろいろと悩みながらも実際に行動に移すわけですよね。その原動力はどこから生まれるのでしょうか?

長野 なんか、楽しいんですよね。楽しくなかったら、やらないと思います。私、出不精だし(笑)。その私が外に出て、いろいろやっているということは、楽しいんですよ。

先ほどの本を書くのに約2年間、多くの企業を取材しましたけど、様々な改革に取り組んで実際に結果を出している経営者の方にお会いすると、すごく楽しいんです。だって、そこに夢があるわけですから。会社の空気もポジティブですし。そんな場所に行きたいから行っているというか。たぶん、映画を観に行くように、好奇心で行っちゃうんだと思います。

── フジテレビ時代のお話で「壁を越えられなくても、壁の前でウロウロしていると扉が開くことがある」という横澤彪さんの言葉がありました。その壁のクリアの仕方は今でも変わらないのでしょうか? それとも時を経て、何か違う壁のクリアの仕方が生まれたのでしょうか?

長野 私の場合は変わってないですね。壁の前でウロウロするしかありません。ただ、そのうえで一つ大事だと思うのは「心の温度を落とさない」ということです。時々「長野さんって自分がやりたいと思ったことを叶えてきましたよね」と言われることがありますけど、なんというか、「願えば叶う」という言葉は、私としては少し違うのではないかと思っていて。願っても叶わない人はたくさんいると思うし。

例えば、「女性の国会議員を増やしたい」ということにも「激厚な壁」があります。「200年経ってもこの壁は越えられないのではないか」と感じることさえあります。それでも、ここまで三、四年ほど活動を続けてきたら、うっすらと扉の「線」ぐらいは見えてきた気がするんです。

だから、心の温度を落とさない。「女性の国会議員を増やしたい」とか、「いつか報道をやりたい」とか、やりたい目標に対する心の温度を落とさず何かしらの努力をしながらウロウロしていると、それを見てくれる人が現れる可能性が上がるということは確かだと思います。諦めずに、長く続ける。二、三か月では見つけてくれないかもしれないけれど、二年、三年と続けていれば見つけてくれる人が現れるかもしれない。いつの日か、私たちが解決したい問題について優先順位の高い人が総理大臣になるかもしれないじゃないですか。「それを信じて、やるしかないっしょ」という感じですね。

白と黒、その中間で迷い続ける場所として

── これから『長野智子アップデート』を、どんな番組にしていきたいですか?

長野 自分自身を振り返ったとき、ニュースについて評論したり、「こうあるべき」と明言したりするタイプではないと思っています。世界の様々な地域で取材をしてきて感じたのは、物事を「白と黒」で判断することはとても難しいということでした。真実や正義というものは当事者の立場によって変わるし、「グレー」なんです。だけど、今の世の中って「これが正しい」とか「お前は間違っている」とか、白か黒かを求める議論ばかりじゃないですか。

2004年のイラク人質事件のとき、1か月ほどカタールのテレビ局・アルジャジーラに滞在して取材をしました。イラク戦争が収束した後、アルジャジーラ主催で各国のメディアが集まりシンポジウムが開かれて私も参加したんです。そこでアメリカのFOXのジャーナリストが「アルジャジーラの偏った報道がすごく迷惑だ」と批判したんです。彼はアメリカが正義だと思っているわけですね。

それに対して、アルジャジーラの報道局長はこう答えました。「あなたの言いたいことはよくわかりました。けれども、正義とは一つだけなのでしょうか。アメリカの正義もあれば、中東の正義もある。各国のメディアができるのは、それぞれの正義を伝えること、それぞれの正義を考えることではありませんか?」と。その場にいた世界中のジャーナリストがスタンディングオベーションを送りました。

つまり、「これが正しい」「我々こそが正義だ」と言い張るのではなく、難しいからこそみんなで話し合って、「ここは妥協できる」とか「ここだけは守りたい」とか、折り合いをつけながら小さな地球で生きていくというか。白と黒、その中間にあるグレーの部分をこの番組は忘れたくないし、リスナーの皆さんと一緒に迷ったり悩んだりすることを大切にする番組にしたいと思っています。

── 最後にリスナーの方に向けて、特に同世代の方たちに向けてメッセージをお願いします。

長野 「お待たせしました」という感じですね。現代のマーケティングが若い世代中心にシフトしている中で、いまひとつ満足するコンテンツに出会えていない同世代の人たちは多いんじゃないかと思うんです。私たちの世代は「よく働き、よく遊ぶ」世代だとも言えるので、そういう元気な大人たちが今の社会に対してできることはまだまだたくさんあると思います。大人の世代が楽しそうに活躍している姿って、若い人たちの背中を押すメッセージにもなるでしょうし。だから、「この番組で、若い人たちから憧れられるような大人にアップデートしていきましょう」とお伝えしたいですね。

『長野智子アップデート』左から:鈴木純子アナ、長野智子、鈴木敏夫解説委員
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