【アナコラム】西川あやの「芝浜っぽいもの」
文化放送メールマガジン(毎週金曜日配信)にて連載中の「アナウンサーコラム」。週替わりで文化放送アナウンサーがコラムを担当しています。この記事では全文をご紹介!
▼3月1日配信号 担当
西川あやのアナウンサー
お話をいただいたのは去年の年末……。2022年3月に真打昇進された蝶花楼桃花師匠から発注のメールをいただいた。そこには、
“蝶花楼桃花が、異なるジャンルで活躍中の知人友人を招いて開催するイベント。(前回は俳優の南沢奈央さんと開催)……聞き手としてではなく表現する職業同士としての、パフォーマンスになれば嬉しいです!”
との文章が……。
桃花師匠には2018年に文化放送のナイターオフ期間に放送していた「シバハマラジオ」をきっかけに、もう5年以上お世話になっており、久しぶりにトークイベントが出来る!とそれはそれは楽しみな予定になった。
お客様の前で桃花師匠とトークをするのは楽しみ。客として通っていた池袋演芸場の楽屋に入れてもらえるのも楽しみ。桃花師匠の落語を舞台袖でこっそり聞くのもすごく楽しみ。
けれども……何せ“表現する職業同士としての、パフォーマンス”とのことで、自分1人で高座に上がる時間が15分以上、用意されていたのだ。南沢奈央さんは、名だたる噺家さんに落語を教わっている本格派。私に噺を覚える記憶力や上下振り分ける技術などあるはずもなく……。
前回、お江戸日本橋亭でイベントをやらせてもらった際は、“オカリナ漫談”と称して、オカリナの音色をブリッジにし、ラジオあるあるを披露してお茶を濁したのだった。再度そんな無謀な挑戦をする気持ちもなく、とにかく自分には何が出来るか悩み抜いた。
落語に明るい知人らに相談などをしながら、落語に挑戦…!とは銘打たず、小噺をすることで落ちついた。登場人物が多いと、私の技術ではお客様を混乱させてしまうと思い、なるべく登場人物が少ない噺。西川の個性を少しでも乗っけられる噺。全ての条件が合致したのが、年末に演じられることが多い夫婦愛を描いた「芝浜」であった。
ちなみに小噺でも何でもない、落語会や寄席の最後・トリでかけられることの多い大ネタである。
この話はあくまでフィクションとし、架空のラジオ局で働く架空のアナウンサー・西川文子が、芝浜の舞台でもある浜松町周辺で、有名ラジオパーソナリティー野村くにまるさんのお財布を拾う話を作った。「芝浜」の有名なサゲ(=噺のオチの部分)「……また夢になるといけねえ」に展開を持ってゆくのがとにかく大変だったこと……!
本番当日は優しい優しいお客様に見守られながら、独特な時間を過ごさせていただいた。ライトを浴びながら、人の笑顔を見られることの幸福たるや、忘れられない光景となった。