避雷針について知っていますか?避雷針を調べてみたら 雷のコトがいっぱいわかりました!!!<WEBオリジナル記事>
「知らないを好きになる」をテーマにWEBオリジナル記事をお届けしていきます。今回は「避雷針」について取り上げます。
毎年毎年 "過去最高" を更新している酷暑。いかがお過ごしですか?
ライターの鼻メガネです。
夏は苦手です。汗でメガネが下がるので。
電気料金の高騰など厳しい状況はありますが、命には代えられないので適度にクーラーも使って涼んでいます。
この時季は暑さもですが "夏の危険" から身を守ることが最優先です。
ちなみに8月は年間で最も落雷が多いそうです。強い日差しによって温められた空気が上昇し、雷を生み出す積乱雲に発達するためとのこと。つまり、落雷も、"夏の危険"のひとつとなります。
先日、歩いていて『〇〇避雷針工業』っていう会社を見つけたんですが、「避雷針専門の会社とは?」「どういうことを仕事にしているんだろう?」と、気になりました。
避雷針というのが、先端が尖った、屋上や屋根についている棒ということや、「雷が高いところに落ちる性質を利用しているらしい」ぐらいの知識で、詳しいことは何も知らないことに気づいたので、今回は避雷針について調べてみました。
目次
①雷のプロ(?)の集まりに潜入!
「避雷針について調べよう」と思い立ったものの、周りに詳しい人がいないので、避雷針を作っているメーカーさんに電話をかけてみました。
問い合わせたのは、東京都大田区に本社を構えるムラタ避雷針(株式会社 村田電機製作所)さん。なんと今年で創業110年の超老舗です!
鼻メガネ: 避雷針について教えていただきたいのですが…
ご担当者:いいですよ。お電話でお話ししましょうか? それとも対面で?
鼻メガネ: たくさん質問したいので、できれば対面でお願いします!
ご担当者:では明日、“雷被害対策の集まり” がありますので、そこにいらしてください! 我が社だけではないので、いろいろな話が聞けると思いますよ
「雷被害対策の集まり」とは?
そんな集まりがあるとは知らなかったのですが、そこに行けば間違いなく、避雷針業界の方々に会えるはずなので、お邪魔させていただくことにしました。
お伺いしたのはコチラ! 東京のど真ん中にある 一般社団法人 日本雷保護システム工業会 (Japan Lightning Protection System Industrial Association 略称:JLPA)」!
JLPAさんは “雷被害リスク低減のために必要な雷保護システムの啓発・普及活動” に尽力されている組織で、日本を代表する雷保護メーカーの技術者と研究者で構成されています。
*「雷保護」とは、雷の影響に対して、建物や人を直撃雷から保護するシステムと、建物内の電気・電子機器・設備類を電流や電圧の急上昇から保護するシステムの両方を含む、「総合的雷保護」の対策を呼びます。
当日「集まり」に参加されていたのは、こちらの皆さんです。
林 和博さん:株式会社 九電工 技術本部 副本部長
引地 順さん:非営利活動法人 雷保護システム普及協会 理事
深山康弘さん:株式会社 昭電 技術開発部 副部長
松本隆之さん:エースライオン株式会社 取締役
嶋田 章さん:株式会社 村田電機製作所 本社技術部
避雷針のプロの皆さんに早速質問をぶつけてみました(以下、皆さんに色々答えていただいたので「JLPAさん」として記載します)。
②まず『避雷針とは?』
*我々が見ている尖った先端は、避雷針の一部で、”突針” と呼びます。
③避雷針の形と値段
実は、アマゾンなどのショッピングサイトでも「避雷針(突針)」は買うことができ、安いものだと8千円台からあります。
形も値段もいろいろですが、これらはどのような違いがあるのでしょう?
この金額は、突針部を含めた受雷部、地面までの引き下げ導線、接地極、工賃など、防雷システム設置に関する設備・作業がすべて含まれたもの。これで落雷から命を守れると考えれば、決して驚くほどの額ではないかもしれません。
④落雷から身を守る方法!
避雷針が屋内の人や機器を守ることはわかりましたが、それでもこの季節は、屋外で突然の雷雨に遭うことも多いですよね。その回避方法についても聞いてみました。
⑤意外な場所で活躍する避雷針!
去年、ネットを騒がせたこの写真。ご存じですか?
おわかりいただけますか? 注目していただきたいのは、この部分です。
巨大ボウリングピンが、避雷針になってます。
株式会社ラウンドワンの経営企画本部ブランドマネジメント部のご担当者によると、「全国で100店舗あるラウンドワンのうち、屋上にピンが設置されているのは69か所。法令に基づき必要に応じてピンの位置が建物で1番高い部分の店舗に対して、避雷針を兼用しています」とのことでした。
なお避雷針のJIS規格にも下記のように記載されています。
受雷部:雷撃を受け止めるために使用する金属体。この中には突針部、むね上げ導体、ケージの網目状導体のほか、直撃雷撃を受け止めるために利用される手すり、フェンス、水そうなど建築物に附属した金属体も含まれる。
ラウンドワンのピンは、この条件を満たしているということのようです。ということは…
やっぱり!
では、プロ推薦の避雷針スポットを聞いてみました。
我々の遥か上空で異彩を放つ避雷針。
眩しくて暑い太陽の光に下を向きがちですが、上を向いてみると、新しい発見があるかもしれません。
⑥最新の防雷システム『キノコ型』とは?
18世紀にベンジャミン・フランクリンが考案した「避雷針」。
日本には明治時代に伝えられましたが、当時の資料がこちらです。
現在の避雷針システムと、ほぼ同じ形をしているのは驚きですね。
この時代の原理が、現在まで継承されているといってよさそうです。
ところが近年、従来とは異なる原理の避雷針が登場しています。それがこのPDCE避雷針。
これまでの避雷針は “自らに雷を引き寄せる” ことで他所への落雷を防いでいましたが、こちらの「キノコ型避雷針」は、なんと “雷を起こさせない” のだそうです。
その原理はこちら。
従来型避雷針は先端からプラス電荷を出すことで、雲の下部に集まったマイナス電荷を引き寄せて、積極的に落雷を誘導。エネルギーを安全な路に通して大地へと逃がすものでした。
対してPDCE避雷針は先端にマイナス電荷を集めることで電荷が引き合わず、雷自体が抑制される仕組みなんです。文字通り、「雷を避ける針」なんです。針ではありませんが。
従来のものに比べて金額が高かったり、防雷効果が広く認知されていなかったりと課題はあるそうですが、すでに競馬場や競技場、文化財などに徐々に設置数を増やしています。
今後はこのキノコ型のPDCE避雷針が、主流になっていく可能性はあるんでしょうか⁉
⑦『雷自体をコントロール』する最新の研究
キノコ型の「PDCE避雷針」は落雷自体を防ぐ原理ですが、そもそも雷自体を制御・誘導することはできるのでしょうか? 調べたところ、雷をコントロールする実験はかなり昔から行われていたようです。
【研究1】ロケット誘雷
ワイヤー線をつけた小型のロケットを地上から雷雲に向けて打ち上げて、雷を地上に導く方法です。
引き上げられるワイヤーは地上200~300mにもおよび、瞬間的に避雷針の役割を果たすといわれます。たくさんの釘をばら撒いて誘雷することもあるのだとか。
1967年にアメリカの研究者グループが成功させたのを皮切りに、現在までに各国で誘雷に成功。日本では1977年に石川県で実施したものが初めてとされ、以後、落雷が設備に与える影響や雷のメカニズムに関するデータが得られています。
【研究2】レーザー誘雷
雷をレーザーで安全な場所まで誘導して落雷させる方法です。
高エネルギーのレーザービームを照射することで大気中に導電路を形成し、ロケット誘雷におけるワイヤーの役目をさせようというもの。
1997年に成功したものの、高出力のレーザー装置が高額であることから実験は活発ではありませんでした。が、今年になってスイスの大学が誘雷に成功。まだ成功確率は1/4程度だそうですが、新たな防雷方法の確立として期待されています。
いずれもコストが高く、一般の建物にまで技術転用されるようになるには時間がかかるそうですが、危険を及ぼす落雷の対策が各地で行われていることは期待したいですね。
なお落雷は1/1000秒の間に電気を放電します。たった1回の雷で、電球90億個をすべて光らせることができるほどのエネルギーです。家庭の使用量に換算すると約50日分の電気代が賄えるそうなので、落雷誘導による蓄電も、いつかはできるかもしれません。教会の時計台に落ちた雷のエネルギーで未来に帰還した、バック・トゥ・ザ・フューチャーのように。
今回の取材を通して―――
お世話になった日本雷保護システム工業会(JLPA)の方々をはじめ、世界中で多くの技術者や研究者が、雷被害を防ぐために奔走していることを知り、心強かったです。
雷鳴を聞くたびに、会議室での雷レクチャーの光景を思い出す予感がします。日本の夏、防雷の夏。
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