『大垣尚司・残間里江子の大人ファンクラブ』 仕組み債の危険性について考える
情報番組「大垣尚司・残間里江子の大人ファンクラブ」では、残間里江子さん(フリープロデューサー)と、大垣尚司さん(青山学院大学教授、移住・住みかえ支援機構代表理事)が、お金や住まいの話を中心に、大人世代のあれこれを語ります。
この連載は、番組内の人気コーナー「おとなライフ・アカデミー2023」の内容をもとに大垣さんが執筆した、WEB限定コラム。ラジオと合わせて、読んで得する家とお金の豆知識をお楽しみください。
★メール本文
4月17日の朝刊に、金融庁が金融機関にリスク商品の販売について顧客の立場に立つよう求めたとのことです。
貯金から投資への流れに変化は起きそうですか。
(ライムさん 横浜市保土ヶ谷区 30歳男性)
「顧客の立場で考えよ」とは…!?
「顧客の立場に立つように」って役所が求めるのは、おかしいことだと思いませんか。普通、どんな商売だってお客さんの立場に立ってないものはないはずでしょう。それを役所が問題視して「顧客本位の業務運営に勤めよ」って…金融業ってこういうことを言われる面白い産業なんですね。
実はこれ、何の話かといえば「仕組み債」という名前がついていて、ものすごくいろいろな問題を引き起こしているものなんです。実はものすごく歴史があって、私が銀行に入ったばかりの80年代前半からあります。ものすごく分かりにくくしてあるのが特徴で、デリバティブ、オプションとか先物とかで構成されています。
投資には2つの種類がある
投資には2つの種類がある、と、以前からお話してきました。1つは株を買うと、その会社がどんどん良くなっていって、株の価値が増えて儲かるというもの。もう1つは、株の値段が日々上下することを利用して、安いときに買って高いときに売って儲けるやり方。どっちも漠然と「投資」って言ってますが、僕ら専門家は、最初の方が「投資」で、2つめは「投機」と呼びます。
経済は、このところ、そんなにぐんぐん成長するということが起きなくなっています。だからお客さんに「儲かるものをください」って言われたときにどういう商品を紹介するかといえば「長い目で見て儲かっていくだろう」というものじゃなく「いま安いものを仕入れて高いときに売りますぜ」っていうやつが、いっぱい、あるんです。その中でいちばん激しいやつ、抽象化したようなやつが「デリバティブ」っていうものなんです。
デリバティブの仕組みは…
直接投資することもできます。たとえば、小豆が3か月後にいくらになるかという話で、いまの値段と3か月後の値段を比べて、上がってたらその分をいただきます、下がってたら差額を差し上げます…という契約をすれば、小豆の現物は必要ないですよね。極端な話、たとえば私の身長が3年後にどうなってるか、1ミリ伸びてるか、縮んでるかとか、そういう話でもいい。何でもネタにできちゃうのがデリバティブなんですね。でもこれは、お客さんの方から話が来て「買いたいんだけど」っていう人にしか売っちゃいけないという規制があります。それだけ危険を伴う商品なんですね。「不招請勧誘」と言いますが、顧客から依頼がないのに勧誘してはいけないことになっている。
普通に売れる「デリバティブ」
ところが、いろいろなことを考える人がいます。「負けたときに払わなきゃいけないお金を全部預かっておいて、それを貯金しておく。万が一のときはそれを引き出して払うことにしておく。うまくいったときは、もともと貯金しておいたお金と、儲かった分を合わせれば、すごく利回りが高く見える商品ができる!」と思いついた人がいるわけです。
先ほどの例で、小豆が上がったとか下がったとかって言ってるのは口約束だけ。でもそうじゃなくて、最初にお金を払い込んで、上がったらリターンがあって戻ってくることになるから、これは債券みたいなものになります。そうすると、ここが日本の法律のヘンなところなんですが、「債券」になった瞬間に、規制がなくなるんです。実態は同じなのに。
でも、個人のよく分かってない人を勧誘しても、こちらは違法じゃない。
それで、いろいろな銀行が、退職金をもらわれた方に「いま、うちに預けていただいても0.01ぐらいしか金利はつきません。でもこの商品は、うまくいけば5%とか10%とか儲かりますよ」って一斉に売り出したんです。そして、虎の子の退職金が跡形もなくなったというケースが出てきてしまいました。
バブルの「飛ばし」と同じ仕組み
実はこういうものは40年前からありました。当時はバブルでやられた会社が「飛ばし」って言って、損がいっぱい出た有価証券をどこか遠くの島の会社に一時的に転売して、損を隠す偽装工作。それと同じような話なんです。最近もそういうことをやってた会社が明るみに出て、株価が急落したという事件がありました。
僕らから見たら、なんでそんなの個人に売るの、というものなんです。しかもあまり説明せずに売ってしまう。そうすると当然ですが、そんな話ちゃんと聞いてなかった! という人が出てきます。ただ、ちゃんと説明されてもよくわからない商品ではあるんです。だから本当に気を付けていただきたいのですけれど…。でも、僕らの感覚では、お客さんのところに持っていくのが信じられないような商品を持っていってる。「だってほかに売るものがないんだから、仕方ないじゃん」って言われたらその通りなんですけど。
契約のときも、仕組みがきっちり出来ていて、いろんなとこにハンコを押すよう求められます。そうなると、結果的にそれで損をしても、騙された! って言えないようなシステムになっています。泣き寝入りせざるを得ないことの方が多いんです。
もしリスク商品を買うなら
もしリスク覚悟で、こういった商品に手を出してみたいなら、先ほどお話しした小豆の先物取引のようなものが、まだいいと思います。なぜかというと、証拠金っていって、最初ちょっとだけ損の分を入れておくんです。ヤバくなってきたら、追証っていいますが、損が膨らんできたので追加でお金を入れて下さいと言われる。入れなければ、じゃあここで損切しましょう、って終われる。損が少なくて済むんです。
でも仕組み債は、最初から損の全額を払い込んでしまっている上に、途中でやめようと思っても抜けられません。ホントにひどいことになると、最後までいっちゃう。退職金が跡形もなく消えてしまう。損がどこまでも膨らむんです。だから、そもそも分からないという人は絶対やらない方がいいんです。それで最初の話に戻りますが、役所が「顧客の立場に立つように」という指導をすることになった。
金融機関のモラルが恐ろしく低下している
違法なことをやってたら、銀行を呼びつけて「バカモノ、何をやってるんだ!」って怒れる。でも違法じゃないし、お客さんもハンコついてる。だけどこれはまずいだろう、っていう話なので、まどろっこしい言い方をせざるを得なかったんです。
で、今回面白かったのは、言われた瞬間に、ほとんどの銀行が売るのをやめちゃったことでした。もともと後ろ暗いと思ってたんでしょうね。合法なら胸を張って売り続ければいいものを、全部やめちゃった。
皆さんに言っておきたいのは、これからもこういう危ない商品はいくらでも作られるだろうということ。いまの経済状況だと、これから上がっていく金融商品を作ってくださいといわれても不可能なんです。ギャンブルみたいなやつを、上手にそうじゃなく見せる形に仕立てるしかないので、これからも別な形で出てくると思います。「おいしい話は基本的にウソ」と、ぜひ肝に銘じておいていただきたい。それくらい、金融機関のモラルが低くなってきています。
今回は、「仕組み債の危険性」について考えてみました。
メールをお寄せいただき、ありがとうございます。
大垣尚司 プロフィール
青山学院大学 法学部教授、一般社団法人 移住・住みかえ支援機構代表理事。
第一線で培った金融知識をもとに、住宅資産の有効活用を研究・探究する、家とお金のエキスパート。
東京大学卒業後、日本興業銀行、アクサ生命保険専務執行役員、日本住宅ローン社長、立命館大学大学院教授などを経て、現在、青山学院大学法学部教授。
2006年に「有限責任中間法人移住・住みかえ支援機構」(現、一般社団法人 移住・住みかえ支援機構)の代表理事に就任。
日本モーゲージバンカー協議会代表理事を兼務。著書に『ストラクチャードファイナンス入門』『金融と法』『49歳からのお金ー住宅・保険をキャッシュに換える』『建築女子が聞く 住まいの金融と税制』など。
家とお金に関するご質問、お待ちしてます
番組では、家とお金にまつわるメールやご質問をお待ちしています。
宛先は、otona@joqr.netまで。
※この記事で掲載されている情報は全て、執筆時における情報を元にご紹介しています。必ず最新の情報をご確認ください。
お知らせ
パーソナリティの一人である大垣尚司さんが代表理事を務める一般社団法人「移住・住みかえ支援機構」(JTI)では、賃貸制度「マイホーム借上げ制度」を運用しています。
住まなくなった皆さまの家をJTIが借り上げて、賃貸として運用。
入居者がいない空室時でも、毎月賃料を受け取ることができます。
JTIは非営利の公的機関であり、運営には国の基金が設定されています。
賃料の査定や、ご相談は無料。資格を持ったスタッフが対応いたします。
制度についての詳しい情報は、移住・住みかえ支援機構のサイトをご覧ください。
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