『大垣尚司・残間里江子の大人ファンクラブ』 正しい「断捨離」について考える
情報番組「大垣尚司・残間里江子の大人ファンクラブ」では、残間里江子さん(フリープロデューサー)と、大垣尚司さん(青山学院大学教授、移住・住みかえ支援機構代表理事)が、お金や住まいの話を中心に、大人世代のあれこれを語ります。
この連載は、番組内の人気コーナー「おとなライフ・アカデミー2023」の内容をもとに大垣さんが執筆した、WEB限定コラム。ラジオと合わせて、読んで得する家とお金の豆知識をお楽しみください。
今回は特別編。「断捨離」の提唱者であるやましたひでこさんをゲストにお迎えした、6月3日放送のダイジェストをご紹介します!
「断捨離」は登録商標
鈴木
今日のお客様です。断捨離という言葉を世に広めた元祖、やましたひでこさんです。
やました
断捨離の言い出しっぺです。よろしくお願いします。
残間
世に広めたというよりは、概念を作ったというようが
やました
そうですね。
残間
ヨガの哲学があるんでしょう?
大垣
そうなんですね。ちょっと宗教っぽい感じがしますよね。
鈴木
断捨離はやましたさんの登録商標となっております!
残間
みんな勝手に使っちゃだめなのよ。でもあまり言わないわよね。
やました
そうですね、言葉だから囲い込みようがないですよね。でも違ったことを断捨離といわれると、すごい切ないですね。
鈴木
ご著書「断捨離」は日本のみならず中国・台湾でもベストセラーで、国内外でシリーズ累計700万部を超える大ヒットというのはすごいですね。一般的な読者の反応って様々だと思うんですけど。
やました
そうですね。断捨離イコール捨てるという理解が先行してますけど、実は捨てるじゃなく選び抜くこと。取り入れるモノを選ぶ、取り入れないモノも選ぶ、そして残すモノを選ぶ、残さないモノも選ぶ…という選択決断を促す。
残間
話を聞いたりすると、モノじゃないんだよね。人の心の内側みたいなモノだよね。整理してくれる、片づけてくれるというか
やました
モノに現れちゃうんですよね。モノが自分の意識を映し出すし、そのモノのありさまが展開している空間がいまの自分を物語ってる。モノと空間を見たらその人の心のありようがね…どんな心の積もり方をしてるのかなってのが見えてくるんですね
大垣
気づいてあげると割とすーっと、そうだよねって思える。
やました
そうですね、視覚化ですから。心の中って見えないけど、それがそのまま展開して見える化になる。
大垣
今度はモノで確認していく。
やました
動かぬ証拠があるんですよね。だから認めざるを得ない。どうしてもモノに思いを託すでしょう。
日本人はモノに心を寄せる
残間
昔アメリカ人の女友達と話していたら、失恋して男が出てった。でもカシミアの毛布を置いてってくれたからうれしい…っていったときに。え、そんな男がおいてった毛布なんて捨てちゃえばいいと思ったの。怨念がこもってると思って。そしたら彼女がモノはモノよ、それは単にカシミアの毛布で彼とは関係ないといった。
やました
実はあるんです。
大垣
アメリカ人一般じゃないでしょ?
残間
でもモノと心の関係って、日本人はやっぱり。あの人とあのとき過ごしたモノとか…。
やました
日本人って遺骨とか位牌に思いを寄せるじゃないですか。ですからモノに思いを寄せる。器物沈思っていう。モノに思いを寄せて自分の気持ちを述べるっていうのは伝統的にありますよね。
大垣
もともといろんなモノにスピリットがあると思う人が多い。
やました
そうですね。宿るという考え方がありますから。
残間
やってらっしゃる断捨離の番組なんか見てると、亡くなった人のモノが捨てられないの多いですね
やました
それは人間関係、親子関係であり夫婦関係であり…そこの家の不全感とかいとしさとかが全部残ってるんですよね。
大垣
それは残っててもいいんじゃないですか。これにしようね、ってとかやるんですか。
やました
いえ、ご本人が気が付いてないので。自分はどういう思いでこのモノを取り残しているのか。
大垣
漠然と亡くなった人のモノ…
残間
別れた人のモノもあるよね
やました
捨てられない、捨てたいのに捨てられないという心の逡巡の背景、ベースはどこにあるのかをひもとく。自分でひもとけますから。
残間
まさしく人間模様ですよね。見たことない人はやましたさんが「はいだめ、これいらない」とか言いそうだと思うでしょう。でも違うの。ほとんど人生相談で、押しつけがましくなく聞いてあげてて、するとご本人がはっとするんですよね。でも一か月ぐらいですか、断捨離するんですけど、やましたさんいないところで、また「ためらい」が出てきて。大変なのね。一か月の間がね。
やました
そうですね、私はきっかけづくりとゴールはあっちだよねって。ゴールを見上げようねって。あとは自分が登山する。それを同伴するガイドみたいなもんですね。
覚悟がない人は大変です
残間
一番大変なのはどういう人ですか?
やました
覚悟がないっていうかな。番組に出る勇気は振り絞ったんだけど、自分の諸問題につまり、整理をつけていく、始末をつけるという覚悟がないんですよね。だからモノを捨てる覚悟がないのでね、ああでもない、こうでもないっていう。
残間
捨てることによって覚悟ができるのもありますよね。
やました
行動が先なんですよね。考えがまとまったから捨てられるんじゃない。捨てるっていう行動を起こしながら、だんだん気づいていくし、覚悟も固まっていく。なぜなら捨てるってリスクが大きいから。自分の思考感覚を総動員しなきゃならないんですよね。それをなんとなく肌で感じてるから、やってるとどんどん覚悟が決まってく。ああもういいや、あきらめよう。いやこれは絶対残しておこうという…鮮明に意識がクリアになっていくんですよね。
大垣
転機が訪れて、やましたさんにご相談にお見えになるというのもひとつなんだけど。こう、なんか、こういう時はもう…たとえば退職のときとか。何かここはやったほうがいいぜみたいなタイミングはありますか。
やました。
もちろんあります。人生のステージって変わってくるじゃないですか。特に退職とか大きいしね。そのときにやっぱりああ、次のステージに行くときに古い舞台の大道具小道具はもういらないなって思うんだけど。思わないと古い舞台のままそのまんまもってきて、新たな舞台が混乱してしまう。
残間
役だって主役じゃなくなって、端役どころか通行人か何かなのに、まだいろんなモノを置いてある。
やました
そういうことなんですね
大垣
だらだらういっちゃうと、そうとうやばい段階になってから相談することになっちゃう。それより前にやるもんだ、みたいな…
人はなぜ住み替えられないのか
大垣
私ずっとお聞きしたいと思っていたのは、15年ぐらい前から家族で住んできたおうち、子供がいなくなって二人になったら、おそらく子供部屋を物置にして、旦那の部屋はなくて、冷房が高いから図書館に行ってきなさいみたいな生活をするよりは、昔の言葉でアクティブシニアっていうんですか、新しいところに動いて行って…というのが起こるだろうと思ったんです。でもこの10年、まったく起きないんです。
やました
私もね、そういうふうに起こってしかるべきだと思うんです。ステージに合わせて住み変わるのが自然でしょう。
大垣
それって家の中の断捨離じゃなくて家をどう断捨離するか。
やました
それは違うんです。家というのも「建物」というモノなんですけど、その中に大量のモノを抱え込んでるから、動こうって気がしなくなってる。
残間
ブツだけじゃなくて。
やました
そうそう。
大垣
家にもたぶん、入っちゃってますよね。
やました
結局私もそうやってね、いま若い人たちが子どもがいっぱいいる人が狭いうちに住んで、年取ったら広い部屋、。チェンジすべきだってずーっと思ってるんだけど、お年寄りの人の方が貯めこんだモノが固着になっちゃってて。
大垣
ぜったい使わないのにね。
やました
動こうって気にならない。まして家ってね、私たちがいちばん捨てがたいモノ。土地は離れたくない。でね、人間関係は断ちたくない。
大垣
でもたぶんそれを断捨離するのが、これからおそらく90くらいまで生きちゃうわけじゃないですか。病気にでもならない限り。そうするといちばん幸せになるために重要なことって、もしかして家が片付くというよりその家そのものが片付く…
やました
家そのものなんですね。断捨離って結局新陳代謝なんです。モノを新陳代謝して最適化していくごとく家も新陳代謝させて…。
大垣
おっしゃるように、次の新しい選択というか。
やました
私も声を大にしてそれを言いたい。
四つの拠点を軽やかに移動
残間
やましたさんはすごく身軽で。信じられない。ご主人と息子さんは小松市。
やました
夫はね、育ったところである石川県と、沖縄をいま行き来してるんです。寒いの嫌だって(笑)。私は東京と指宿を行ったり来たりしてる。ホテルの一角に住民票も移したんですけど、コロナの時にね。過密の東京にいる意味が見いだせなかったので、過疎ってどんなところだろうって行ってみたんです。で。どちらもいいので、行ったり来たりになってますね。
残間
お仕事でリトリートって。
やました
そうですね、皆さんが実家みたいな感覚で集ってくればいいなって。一日でも二日でも一カ月でも。おかえり、って言って迎えてあげたいなと…
残間
そういう空間を作ったんですね。で、自分も行っちゃった。
やました
「おかえり」「いってきます」っていう空間ですよね。
残間
で、旦那さんのところにも行くんでしょう。だから四拠点あるわけね。
やました
だけどほとんどいま夫と会ってないですね、そういえば(笑)。
残間
看取るかもしれないし、看取らないかもしれないっていう夫婦増えてるでしょう。ケンカしてるんでもなく、右と左に別れるんでもなく。
大垣
そんなこと言うと断捨離される夫がいっぱい出てまずいんじゃないですか?
残間
執着してる人は断捨離されちゃう。
やました
断捨離されるかもしれないって、自分自身のことを思うか、思わないか。それだけのこと。
残間
思う人はいいのね。思ってもいない人は危ない。断捨離されるはずがないって。
大垣
執着してたんだわ、この人にとかって思われちゃったり。
やました
それもありますよね、もちろん。それをモノとの関係を問い直していくと、結局人間関係の問い直しになるんでね。そこに向かい合いましょうということですね。小さいうちから芽を摘んでおけば大ごとにはならない。
残間
寂しさとかは全然ないんでしょう? モノでも人でも別れって寂寥感を伴う。
やました
それはもちろんありますよね。でもあるからこそそれも、果敢に受け入れていく。それを脱いだ殻をずっと抱えていく? ヤドカリが家を変えても前の家を抱えてないじゃないですか。脱皮しても前の殻を抱えてないじゃないですか。でもその脱皮するときとかね、住み家を変えるときって寂しいもんですよ。
残間
自分も脱皮したいと思うじゃない。変化して。でもなかなかできないね。
情報の断捨離は難しい
大垣
若い子とか見てると、平気でメルカリとか出すじゃないですか。あれ、割といいことなのかもしれませんね。もっと何か思い入れってないの、とか思うんだけど。
やました
そうですね、二つのタイプがあると思いますね。捨てる後ろめたさをなんとかお金に代える。誰かの役に立つとか、そういうふうにしてる場合もあると思います。あるいは、実際にまったく執着がなくてどうでもいいと思っているかもしれないし。いろいろだと思いますね、関わり方は。
大垣
子どもたちは僕らより圧倒的にモノが少ない。
残間
恬淡としてますね。モノに対して。
大垣
豊かだったってのもあるかもしれませんね
やました
お年を召した方はモノでいっぱいなんだけど、若い人はいま、情報で頭がいっぱい。
大垣
それはある。情報をなんとかしないといけない。
やました
詰まってることには変わりがないと思うんです。
残間
情報の断捨離って難しいね。
やました
考えてみたらモノ、イコール、情報みたいなモノじゃないですか。情報に伴って私たちはモノを取り込む。
大垣
執着してるモノなんて、要するに情報ですもんね。そうか…若いやつらはそっちだね。
やました
携帯への執着はすごいじゃないですか。
残間
モノを越えてるもんね。
大垣
じゃそれに何か違う名前をつけて教祖になろうかな(笑)「情報を捨てなさい…」とかなんとかいって。
やました
情報との付き合い方を学ばなきゃいけませんね。
残間
怖いんじゃない? 情報にもう、囲まれてないと
大垣
入ってないと不安っていうのがあるでしょうね。
やました
大量なモノをもてあまし、大量の情報に振り回され、大量の人間関係にわずらわしさを感じる。ただの「いいね」があるなしとか、そういうレベルの話じゃないですか。
残間
モノと人との関係を突き詰めてると面白いなって。やましたさんと話してると尽きないのよね。
鈴木
いろんなヒントをいただいた気がします。
残間
言葉のひとつひとつが確かに、と思いますもんね。
鈴木
最後に一言お願いします。
やました
断捨離に対する誤解、断捨離イコール捨てる事、ではないよ、ということは。人生をより有機的に代謝していっていただきたいなって。それが私の願いです。
残間
私、捨てるっていう字も好きなのよね。
やました
そうですね、潔さがありますよね。捨てるって施すって意味もあるんです。
やました ひでこ
学生時代に出逢ったヨガの行法哲学「断行・捨行・離行」に着想を得た「断捨離」を日常の「片づけ」に落とし込み、誰もが実践可能な自己探訪メソッドを構築。断捨離は、心の新陳代謝を促す、発想の転換法でもある。全国展開している「断捨離セミナー」は、年齢、性別、職業を問わず受講者から圧倒的な支持を得ている。処女作『断捨離』<マガジンハウス>は、日本はもとより台湾、中国でもベストセラーとなり、『俯瞰力』『自在力』<いずれもマガジンハウス>の断捨離3部作や、他、著作・監修を含めたシリーズ関連書籍は国内外でミリオンセラー。
大垣尚司 プロフィール
青山学院大学 法学部教授、一般社団法人 移住・住みかえ支援機構代表理事。
第一線で培った金融知識をもとに、住宅資産の有効活用を研究・探究する、家とお金のエキスパート。
東京大学卒業後、日本興業銀行、アクサ生命保険専務執行役員、日本住宅ローン社長、立命館大学大学院教授などを経て、現在、青山学院大学法学部教授。
2006年に「有限責任中間法人移住・住みかえ支援機構」(現、一般社団法人 移住・住みかえ支援機構)の代表理事に就任。
日本モーゲージバンカー協議会代表理事を兼務。著書に『ストラクチャードファイナンス入門』『金融と法』『49歳からのお金ー住宅・保険をキャッシュに換える』『建築女子が聞く 住まいの金融と税制』など。
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※この記事で掲載されている情報は全て、執筆時における情報を元にご紹介しています。必ず最新の情報をご確認ください。
お知らせ
パーソナリティの一人である大垣尚司さんが代表理事を務める一般社団法人「移住・住みかえ支援機構」(JTI)では、賃貸制度「マイホーム借上げ制度」を運用しています。
住まなくなった皆さまの家をJTIが借り上げて、賃貸として運用。
入居者がいない空室時でも、毎月賃料を受け取ることができます。
JTIは非営利の公的機関であり、運営には国の基金が設定されています。
賃料の査定や、ご相談は無料。資格を持ったスタッフが対応いたします。
制度についての詳しい情報は、移住・住みかえ支援機構のサイトをご覧ください。
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