『大垣尚司・残間里江子の大人ファンクラブ』 複雑な事情の家庭に中途半端な財産。相続をどうすればいい?
情報番組「大垣尚司・残間里江子の大人ファンクラブ」では、残間里江子さん(フリープロデューサー)と、大垣尚司さん(青山学院大学教授、移住・住みかえ支援機構代表理事)が、お金や住まいの話を中心に、大人世代のあれこれを語ります。
この連載は、番組内の人気コーナー「おとなライフ・アカデミー2023」の内容をもとに大垣さんが執筆した、WEB限定コラム。ラジオと合わせて、読んで得する家とお金の豆知識をお楽しみください。
★メールまとめ
・相談者は60歳男性。兄弟は弟が一人。共に独身。
・母は既に亡く、実家の父は再婚しているが、80代後半でまだまだ元気。
・実家の家と土地のほか、200坪の貸している土地がある。相続税が心配。今のうちに打てる手はあるか。父は遺言書を作成するようなタイプではない。
★メール本文
相談があります。86歳になる父の事です。
まだまだ元気で、普通に仕事をしていますが、
年も年なので、いつ何があってもおかしくありません。
困るのは、中途半端に財産があることです。
30坪ほどの自宅のほか、200坪ほどの地所があり、
配送業者に倉庫として貸しています。
自宅は築50年を過ぎており、ほとんど建物の価値はなさそうです。
父は、早くに母と離婚しており、現在後妻と暮らしています(母はすでに死亡)。
子どもは、私と、弟の二人で、二人とも独身です。
現金がどれくらいあるのかは、不明ですが、
もし突然、何かがあったら、相続が大変なことになるのは目に見えています。
また、私は病気がちなので、この先そんなに長く生きるとも思えず、
最終的に弟が土地を相続することになるのでしょうが、
その弟は「そんな広い土地の固定資産税はとても払えないと思う。
生きてるうちに何とかしてくれと親父に話してくれ」と私に言うのです。
父は、性格的に、遺言書を作成するようなタイプではありません。
今のうちに、どういう手が打てるでしょうか。
(きっちゃんさん 東京都江東区 60歳)
ぜひお父様に遺言書作成を勧めてください
こういう方は、けっこういらっしゃるのかもしれません。江東区、評価額もけっこう高そうですよね。
遺言書がなければ、財産の半分は後妻さんに、残りの半分をきっちゃんさんと弟さんの二人で分けることになりますが、もしお父様が、後妻さんに家をきちんと遺したいと考えていらっしゃるなら、ぜひ遺言書の作成を勧めていただきたいと思います。これは難しくない、簡単なことなんです。
「配偶者居住権」というものがあります。ご主人が亡くなられた後、奥様は、その後半年はまず何もなくても当然のように、そこに住むことができます。これは「短期配偶者居住権」と言います。
でも、遺産の分割次第では、その後、奥様は家を出なくてはならない状況になってしまう可能性があります。ご主人が、その状況を回避したいと思われるなら、「妻はずっとここに住み続けていい」と遺言する必要があるんです。そうしておけば「配偶者居住権」が保証されて、奥様は亡くなられるまで、その家に住み続けることができます。
もちろん、遺産分割のとき、お子さんたちが「お母さんはずっとここに住んでいいですよ」と言えば、それでも良いのです。
奥様が住み続けるメリット
遺言書を作って、奥様がずっと住み続けることになったとします。そうすると、相続した土地の上に、人が住んでることになるわけです。亡くなられるまでの間の、分かりやすく言えば「家賃」というか、利用料に該当するぐらいの金額は、相続するとき引いてもらえることになり、その分、税金が安くなります。
奥様がずっと住み続けられるのは、自然なことだと思いますが、息子さんたちにとっても、少しはメリットがあるというわけです。
いずれにしても、お父様が動かれて、遺言書を作成されるのが第一歩です。ただ、これはごく最近できた制度ですから、ご存じない方も多いんです。「遺言書なんか、冗談じゃない」と思われている方でも、奥様のためになることなら、きちんとやられるのではないでしょうか。息子さんから勧めていただければと思います。
200坪の土地も、きちんとした賃貸借であれば…
ご自宅のほか、200坪の土地を倉庫として貸していらっしゃるとのこと。これは、きちんと賃貸借の形をとっていれば、相続の際も200坪そのままの評価にはなりません。
どっちにしても、確かに相続税は大変だと思います。でも、売っていい土地があるのなら、全部持っていかれるわけじゃなくて、きちんと納税してもある程度の金額は残ります。それはそれでいいのかもしれません。
ちゃんとした答えにはなっていませんが、まず4人での話し合いをお勧めします。そのとき、ご自宅に関しては「もう俺たちは家はいらないから、住み続けてください」って、お父様と後妻さんに話しておくこともできます。それから税理士さんに、どうすれば一番節税できるのか、ご相談されるのが良いかと思います。
兄弟お二人とも独身とのこと、土地をもらうより奥さんをもらうほうがいいのでは…と放送で話したら、残間さんに「それ、よけいお金がかかるじゃない」と言われました。そうかもしれない…。
今回は、相続について考えてみました。
メールをお寄せいただき、ありがとうございます。
大垣尚司 プロフィール
青山学院大学 法学部教授、一般社団法人 移住・住みかえ支援機構代表理事。
第一線で培った金融知識をもとに、住宅資産の有効活用を研究・探究する、家とお金のエキスパート。
東京大学卒業後、日本興業銀行、アクサ生命保険専務執行役員、日本住宅ローン社長、立命館大学大学院教授などを経て、現在、青山学院大学法学部教授。
2006年に「有限責任中間法人移住・住みかえ支援機構」(現、一般社団法人 移住・住みかえ支援機構)の代表理事に就任。
日本モーゲージバンカー協議会代表理事を兼務。著書に『ストラクチャードファイナンス入門』『金融と法』『49歳からのお金ー住宅・保険をキャッシュに換える』『建築女子が聞く 住まいの金融と税制』など。
家とお金に関するご質問、お待ちしてます
番組では、家とお金にまつわるメールやご質問をお待ちしています。
宛先は、otona@joqr.netまで。
※この記事で掲載されている情報は全て、執筆時における情報を元にご紹介しています。必ず最新の情報をご確認ください。
お知らせ
パーソナリティの一人である大垣尚司さんが代表理事を務める一般社団法人「移住・住みかえ支援機構」(JTI)では、賃貸制度「マイホーム借上げ制度」を運用しています。
住まなくなった皆さまの家をJTIが借り上げて、賃貸として運用。
入居者がいない空室時でも、毎月賃料を受け取ることができます。
JTIは非営利の公的機関であり、運営には国の基金が設定されています。
賃料の査定や、ご相談は無料。資格を持ったスタッフが対応いたします。
制度についての詳しい情報は、移住・住みかえ支援機構のサイトをご覧ください。
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