「日銀同意人事、承認までカウントダウン」国会で手続きスタート~ニュースパレード 山本香記者取材後記
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文化放送報道記者として国会、官邸を担当し、日夜取材活動で活躍する山本香記者が放送でお伝え出来なかった話題を取材後記としてお届けします。
政府は2月14日、黒田東彦日銀総裁の後任として植田和男共立女子大学教授を充てる人事を提示した。
黒田総裁は4月8日に5年の任期を迎えるためだ。この日は同時に、3月19日が任期となる副総裁2人の人事案として前金融庁長官の氷見野良三氏と日銀理事の内田真一氏も示され、国内外から注目を集める総裁人事の国会での手続きがいよいよ始まった。
2月24日には衆議院、2月27日(調整中)には参議院でまず、所信聴取と質疑が行われる見通しで、3月中旬までには衆参の各本会議で可否が判断される。
人選
人事案について鈴木財務大臣は2月17日の記者会見で、構造的賃上げを伴う経済成長と物価安定目標の持続的安定の実現に取り組む方を念頭に、金融市場に与える影響などにも十分注意を払いつつ検討が行われたことに加え、2008年のリーマンショック後、主要国中央銀行トップとの緊密連携や内外の市場関係者に対する質の高い発信力、受信力が格段に重要になっていることも十分に配慮して人選が進められたと述べた上で、特に植田総裁候補については、「国際的にも著名な経済学者であり、理論、実務両面で、金融分野に高い見識を有することから最適任と内閣において判断され提示されたと考える」と語った。
岸田内閣の人選について経済界や永田町からは、総裁候補は学者、副総裁候補の2人は官僚、日銀出身とバランスが取れたチームだという評価の他、野党からも「大規模金融緩和からの出口戦略について柔軟に対応してくれそうなメンバーだ」という声もあり、おおむね好感触だ。
しかし、国会に提示される前に報道が出たことについて野党から「情報管理が甘い」「漏洩ではないか」など政府の対応を問題視する声があがった。
国会では、事前に報道された場合、政府に対して情報漏洩などがなかったか政府に調査、報告させるという申し合わせがあることから、2月16日、松野官房長官が調査結果を報告し、陳謝した。
政府側は、人事について事前に情報を知り得た岸田総理や鈴木財務大臣、総理秘書官ら政府関係者14名と、正副総裁候補に挙がった3名の計17人に対して「報道機関を含む第三者に情報を提供したか否か」、「資料管理の不備等により情報漏洩がなかったか否か」について聴き取り調査を行い、情報漏洩はなかったと結論付けた。
総裁・副総裁の候補者については、各メディアが一斉に報じたのは2月10日夜だったが、その時点ではまだ、政府から就任要請を出しておらず、要請したのは14日だったという。
では、なぜ漏れたのか・・・しかも候補者本人に要請する前に。
人事案が事前に漏れたら候補を差し替えるというルールが以前は存在した。
しかし情報漏れのたびに候補者差し替えになっていては国会が形がい化しかねないことから、2013年に与野党がルールを撤廃することで合意した。
その代わりに政府には、人事案が漏れないよう情報管理の徹底を行うよう要請する文書も作成されたが、もはやこの申し合わせは意味をなしていない。
手続き
日銀法23条で「総裁及び副総裁は、両議院の同意を得て内閣が任命する」と定められていることから、内閣から国会に提示された候補者については、衆参の各会派が検討の上、本会議で可否を判断する手続きが取られる。
日銀正副総裁、原子力規制委員会委員と委員長、公正取引委員会の委員長などは、衆参の各議院運営委員会で所信聴取と質疑を行った上で可否の判断をするのだが、過去、冒頭に行われる候補者の所信以外は非公開とされてきた。
所信発言が終わると、部屋から記者は追い出され、質疑は密室で行われていた。どんなやり取りがあったのかは数日後、議事録という形で公開されるまで待たなければならなかったが、国民の関心の高まりを受けて、1989年から質疑についても報道機関に公開されるようになった。
写真は、1月26日に行われた衆議院議院運営委員会で会計検査官が所信を述べている様子だが、この際は、所信と質疑は報道機関に公開されたが、国民向けのインターネット中継は前例にならって行われなかった。
国民に公開されないことについて、この日の質疑の場で野党議員から異論が出たことをきっかけに、日銀正副総裁人事は、候補者本人の了解を得ることを条件に、インターネットでも公開されることとなった。
なぜ、これまで公開されなかったのか・・・衆議院事務局によると、同意人事は内輪の問題で、いわば候補者の資質を見る面接という意味合いが強いからということだった。
例えば検査官や公正取引委員長への所信に対する質疑は、衆議院の場合、各会派の議員一人当たり持ち時間は3分間で、その時間内であれば何問でも質問できる。
衆議院では委員会が行われる部屋にデジタル時計がないため、国会職員が手書きで残りの質問時間を紙に書いて表示する。
この質疑時間だが、日銀の総裁・副総裁候補の場合は、持ち時間3分では短いため、1人当たり10分に増やされる予定だ。
そして、各会派の質問が一通り終わった後は、1人1分以内1問という形で追加の質問が許されているが、その際、ワイヤレスマイクを使って議員席から質問する形となる。わざわざ、質問をする発言席に出ていく時間がもったいないからという理由だそうだ。
ワイヤレスマイクで質問をするスタイルも、衆議院で残り時間を紙に手書きで書くのも他の委員会では見られない光景である。
さて、所信と聴取が終わると、衆参の各本会議に可否が諮られる。
法案とは違い、衆議院の優越規定はないことから、衆参の判断が分かれた場合、人事案は不同意となる。
ねじれ国会だった2008年、福田康夫政権の時に戦後初めて日銀総裁人事は野党が多数を握る参議院で否決され不同意となったことがある。
しかも1カ月足らずの間に2回続けてである。武藤敏郎氏、田波耕治氏の2人が立て続けに不同意となり、3人目に提示された白川方明氏(当時、日銀副総裁からの昇格)でようやく同意、了承されたが、この間のドタバタで、戦後初めて、日銀総裁ポストが空席となる異常事態が生じた。
現在の国会の構成は、衆参ともに与党が過半数を占めており、不同意の判断にはならず了承される見通しだ。
現在の総裁の任期は4月8日、副総裁の任期は3月19日と異なるが、黒田総裁が任期前、つまり副総裁の任期に合わせて辞任すれば、新総裁は、副総裁と同じ時期に就任する可能性もある。
本命といわれた雨宮正佳副総裁ではなく、政府が選んだ植田総裁候補のは経済学のプロ。承認されれば戦後初の学者出身の日銀総裁となる。
黒田総裁と植田総裁候補は同じ筑波大学駒場高校出身でその後東大へ。
異次元の金融緩和を10年間続けてきた黒田総裁の後始末を、後輩である植田総裁候補がどのようにつけるのか。
立憲民主党の野田佳彦氏は、2月13日に行った共同通信の講演で「マイナス金利とかイールドカーブとか異例なことばかりやりすぎて弊害が出ている。それをどこからどうやって解除していくかは時限爆弾の解除と同じ。青いコードを切るのか、赤いコード切るのか、黄色を切るのか順番を間違えたら大変。慎重にやらないといけない」と指摘した。
植田総裁候補は、大規模金融緩和からの出口戦略をどう描くのか、国民生活に関わる問題が絡むだけに、マーケットはもちろん、国民も固唾をのんで24日の総裁候補の所信と質疑を見守ることになりそうだ。
そしてGoogleスマートスピーカー (#GoogleHome 、#GoogleNest )や、 androidスマホから聴けるようになりました。
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