「結局ミサイルの撃ち合いになる」敵基地攻撃能力で議論されない盲点を元防衛官僚が指摘

大竹「柳澤協二さんは新聞のコラムなどで国防のことについてご解説されていますが、今話題になっている、専守防衛からはみ出した敵基地攻撃能力に関しては、とても不安だという意見を表明されていらっしゃいます。柳澤さんは、ずっと防衛に関する研究所長などを歴任されてきているので、このようなことをおっしゃるのは、ちょっと意外だと私は思うんですが。いつごろからこういうことを考えていらしたんですか？」

柳澤「私が現役の官僚の時代は、まあ仕事人間でしたし、あまり突っ込んで考えることはなかったんですね。それを辞めてから、特にイラク戦争などに自衛隊員が行って誰も死ななかったから良かったものの、1人でも亡くなっていたら自分はどうしたんだろうという事から、戦争について本格的に勉強し始めて。だから退職してからここ十数年ですね。その中でいろいろ考えていくと、やっぱりこれちょっとおかしいんじゃないか、というところがたくさん目につくようになってきたんです。」

室井「わたし、新聞とかで敵基地攻撃能力に付いての話をしていただいて本当に嬉しかったんです。みんな防衛費の話をしているけど、どうして敵基地攻撃が必要なのかとか、どこまでやるつもりなのかっていう話し合いが全然されてないのがすごく不満だったんですよ。」

柳澤「私も不思議なのは、本当に議論がないまま決まっちゃうんですね。いわゆる敵地攻撃能力の話について言うと、発端は飛んできたミサイルを打ち落とせないから発射前に叩かなければいけないという発想で、ミサイルからいかに安全を守るかが原点のはずなんです。今回やろうとしているのは先制攻撃になってはいけないから、日本に向けて発射準備しているミサイルを叩くと言ってるんですね。だけどミサイルっていうのは打ち上げてみないと、どこに飛んでくか物理的に分からないんですね。」

室井「潜水艦から撃つのもありますよね。」

柳澤「それは発射の兆候がわからないんですね。兆候が分かったとしても、日本に向けた攻撃なのかどうかが分からない。仮に分かったら、自衛隊が今度大量に買うトマホークのような巡航ミサイルで潰そうというわけです。でも巡航ミサイルってジェット機と同じ速度ですから間に合わないんですね。こんな私のような兵器の素人が考えただけでも辻褄が合わない話のまま物事が決められてしまってる。一体決めた人はどうやって納得したんでしょうか。」

室井「だからその話し合いが見たいと思うんですけど、柳澤さんみたいな専門家の人が言ってくれないと。あたしみたいなのが言っても、右の人たちからは中国が攻めてきたらどうするんだって言われるし、左の人からは戦争反対って言ってればいいのになんでそんな話し合いがいるんだ、みたいなこと言われる。」

柳澤「去年、ロシアがあんな乱暴な戦争を始めたことや、アメリカと中国が台湾を焦点に対立してることもあって、戦争に対する不安が急激に高まってきてると思います。戦争が心配なのはみんな分かるわけです。戦争になったら相手をやり返す武器を持つというのは1つの答えかもしれない。しかしもっと大事なことは戦争にならないためには何をするかという視点が全くかけているんですね。」

大竹「先ほどの議論だけどね。僕達が知ってる話というのは、敵が打つ準備段階のところを叩くんだ、というんだけど、ここで話が終わってるんだよね。問題はこの後どうなるかっていう話を誰もしてくれない。普通に考えたら、敵の基地を叩いて1回で殲滅できればいいけど、そんなことはまず起こらない。それに攻撃したからって相手が「すいません」って辞めるわけないよね。」

柳澤「こっちが撃てば、向こうだって撃ってくるんですよ。戦争っていうのは自分だけが一方的にやっつけて相手は何もしてこないような錯覚をしているけど、こっちがやれば相手もやり返してきてミサイルの撃ち合いになってくわけですね。その後を、どうやってミサイルから国民を守るんですかと。ウクライナを見れば、ミサイルから安全な場所なんてないわけです。飛んでくるミサイルから国民の命・安全を守るのが出発点だったはずなんですが、結果としてミサイルの撃ち合いになってしまうようなことをしたら国民の命は守れないでしょ、という議論が全くないんです。」

「大竹まこと ゴールデンラジオ」は午後1時～3時30分、文化放送（AM1134kHz、FM91.6MHz、radiko）で放送中。 radikoのタイムフリー機能では、1週間後まで聴取できます。