悲願の戴冠メッシと本田圭佑 ~ 了戒美子カタールサッカーレポート最終回
FIFAワールドカップカタール大会は、アルゼンチンが史上3か国目の連覇を目指したフランスをPK戦の末に破り、36年ぶり3度目となるワールドカップの頂点に輝きました。
大会期間中、現地カタールで取材するドイツ在住のサッカージャーナリスト了戒美子さんのレポートも今回最終回。
アルゼンチン不動のエースとして5度目の挑戦で悲願の栄冠を勝ち取ったメッシと、日本代表のエースを長らく務めた本田圭佑さんについて書きました。
アルゼンチンがフランスを下し36年ぶり3回目の優勝を飾り、カタールW杯は幕を閉じました。
決勝は、激闘という言葉がふさわしい試合でした。
アルゼンチンが2点リードして迎えた80分にPKで、82分には流れの中からそれぞれエムバペが得点。序盤から動きの悪かったフランス代表が息を吹き返し、逆に優勝間近に見えたアルゼンチンの選手たちは意気消沈。延長前半は互いに無得点で過ごし、同後半に入り109分にメッシの得点でアルゼンチンが勝ち越しますが、118分にハンドによるPKをエムバペがきっちり決め、PK戦に突入しました。フランス先攻で、一番手エムバペが決めると続くアルゼンチンはメッシが決め、さすがのクオリティの高さを見せつけました。結局フランスの二人がはずしアルゼンチンに歓喜の瞬間が訪れることになりました。
優勝表彰の前に大会MVPとして表彰されたメッシが、まだ手渡されていないW杯にフライングでそっと触れていく姿は本当に感涙ものでした。
さて今大会、皆様はどのように試合観戦されたのでしょうか。テレビでしょうか、それともネット配信でしょうか?今大会はネット配信がテレビ中継にとってかわった大会で、私の住むドイツでも地上波では全試合は放送されず(それでも大半は放送されましたが)、インターネットで全試合配信されていました。ただ日本とは違い有料でしたので、戸惑った利用者、サッカーファンは多かったように思います。とはいえ、ドイツは早期敗退していますから基本的には盛り上がらなかった大会ではありました。
日本のインターネット配信による中継で活躍したうちの一人に本田圭佑さんがいますが、本田さんが決勝戦の試合中ひたすらメッシ推しだったのはご存知でしょうか。
メッシと本田さんといえば、私が思い出すのは2005年のワールドユースという20歳以下の世界一を決める大会です。
本田さんは星稜高校を卒業し、名古屋に入団したばかりで初めて日の丸を背負って臨む公式な国際大会でした。
メッシも同じ大会に参加していました。直前の04/05シーズンに17歳ながらバルセロナでトップデビューを果たし、すでに初ゴールも決めており、世界的な注目を集め始めた頃でした。
本田さんも名古屋で1年目ながら活躍しており、大会でも活躍が期待されました。開催地オランダとの初戦に先発した本田さんでしたが、64分に退きその後3試合で出場はありませんでした。現在の解説振りからも想像できるとおり、当時からコメント力に定評のあった本田さんでしたが、大会中に急激に調子を落とし見るからに痩せていきました。大会後、緊張で何もできなかったことを認めています。まだ若く、南アやロシアで得点した勝負強さの片鱗もありませんでしたが、この時の苦い経験がのちにつながっていることは言うまでもないでしょう。
一方のメッシにとっても初めての大舞台。10代前半にバルセロナに移り住みながらも、母国愛はひとつも薄れなかったメッシの初の公式な国際大会でした。初戦のアメリカ戦こそ途中出場でしたが、その後決勝まで全6試合に先発し6得点2アシスト、優勝と得点王、最優秀選手に輝きました。85年以降生まれが対象となるこの大会で87年生まれのメッシにとってはいわば飛び級参加した大会でした。この年代にとっては1歳差による心身の成長の差は大きいのですが、メッシは全く物ともせず活躍したのでした。現場で見たメッシはまだ細くて小柄で、一人子供が紛れ込んだような雰囲気だったことをよく覚えています。大会直後にはA代表デビューも飾り、08年には北京五輪では金メダルを獲得しています。
ちなみにこの北京五輪では日本は3連敗で1次リーグ敗退しています。メンバーにいたのは本田さんだけでなく、長友佑都さん、吉田麻也さん、岡崎慎司さん、香川真司さん、内田篤人さんら。今思えばそうそうたるメンバーがそろったチームで舐めた辛酸でした。
カタールW杯決勝は、そんな本田さんらとメッシらの世代を締めくくる1試合でもあったように思います。
メッシは大会前に公言していたはずの代表引退を撤回したようでしたが、4年後は40歳に手が届こうとする年齢です。次の道を探っていてもおかしくありません。ですが、優秀な若手は次々とでてきます。大会8得点で得点王に輝いたのはフランスのエムバペで23歳。決勝でハットトリックを決め、さらにPK戦でもあの落ち着きぶり。所属のPSGではネイマールやメッシの影に隠れていますが、そろそろ圧倒してほしいものです。
ヤングプレーヤー賞に輝いたフェルナンデスはポルトガルのベンフィカに移籍したばかり、欧州での今後の活躍が期待されます。日本でも、今大会は久保建英選手が最年少でしたがどんどん若手は出てきます。オランダAZでリーグ優勝を争うなどすでに結果を出している菅原由勢選手や、レアル・マドリードBにいる中井卓大選手ら、10代から海外経験を積む選手がもはや珍しくない時代になりました。今大会以上に堂々と世界と戦い、今度こそ本当に新しい景色を見せてくれるかもしれません。
歴史に残る激しい決勝戦に、いつの日か日本チームがここに立つ姿を見られたら、と思ったことは言うまでもありません。そんな日の到来を願いながら、このコラムを最後にしたいと思います。どうもありがとうございました。
Text&Photo
了戒美子 Yoshiko Ryokai
映像制作会社勤務からサッカー取材を開始。五輪は2008年北京五輪、W杯は2010南ア大会から現地で取材。2011年からドイツに拠点を移し、ブンデスリーグ、ヨーロッパで活躍する日本人選手を精力的に取材し、雑誌、新聞、WEB、ラジオなど媒体を問わず活躍中。
「ニュースパレード」では大会期間中、了戒美子さんから現地レポートを交えながら大会結果をお伝えしていきます。「西川あやの おいでよ!クリエイティ部」内、平日午後5時~5時15分、文化放送(AM1134kHz、FM91.6MHz、radiko)で放送中。 radikoのタイムフリー機能では、1週間後まで聴取できます。
また「ニュースパレード」はPodcastでも配信しています。