台湾映画「擬音」は、音へのこだわりと映画愛に溢れている
鈴木BINのニュースな映画
文化放送報道部デスク兼記者兼プロデューサーで映画ペンクラブ会員の鈴木BIN(敏夫)が、気になる映画をご紹介しています
台湾映画「擬音」が、明日(11月19日)から公開されます。音にこだわりのある人はまさに必見(必聴?)です。テーマはずばり「映画の効果マン」のドキュメンタリー。主役はフー・ディンイーという台湾映画における伝説的なベテラン効果マンです。今まで1000本近い映画やドラマに音響効果技師(フォーリー・アーティスト)として携わってきたという「生ける台湾映画」。「バナナパラダイス」や「青春無悔」「九月に降る風」など思い出深い映画の効果を担当していたのかと思うと感慨深いものがあります。
そして、この映画を観ながら「私が取材した世界とまったく同じだ」と思ったのです。と言うのも、ずいぶん前になりますが、「映画の音作り」をテーマに取材し、特番として放送したことがあります。タイトルは「ゴジラの声の作り方」でした。お邪魔した先は、世田谷の東宝・砧撮影所で、大ベテランの東宝の名効果マンが、喉を絞って「ギャー」「ガオー」「グオー」などいろいろな咆哮を録音してくれたのですが、大の男が、マイクに向かい顔を紅潮させて大声を出し続けている姿は、正直言って少し奇妙でした(ごめんなさい)。ところが、ひとしきり録音が終わり、その声をミキシングで合成し始めると、あら不思議。魔法のように誰もが知っているあの「ゴジラ」の声ができあがっていったのです。まさにプロフェッショナル!我々のためにわざわざ録音過程を再現して頂いたわけで、感謝感激でした。何年か前のことですが、他局のラジオを聴いていたら、同じく「ゴジラの声」について話していました。ところが、コントラバスを使って音を出すという話をしていたので、私の記憶とは少し違っていました。ゴジラの声の作り方も時代に沿って変わってきたのか、咆哮も一種類では無いのでバージョンが違っていたのかも知れません。ちなみに、私が取材した東宝の効果マンの方は若い頃、石原裕次郎さんの足音も担当していたそうです。裕ちゃんが歩くシーンにあわせて、実に巧みに靴の音を響せる作業も再現して頂きましたが、それもまた芸術的な技でした。昔は撮影と同時に録音することが難しかったため、アフレコ(アフターレコーディング)でセリフやノイズを録音し直すことが殆どだったそうです。
そういえば、かつて文化放送にも玉井さんという業界きってのラジオドラマの名手がいました。四谷の社屋には「効果音室」という謎の小部屋があって、その部屋に玉井さんと林田さんという2人の効果係が常駐、部屋にはマラカスやソロバンや小豆の袋や下駄など様々な小道具を作って、ラジオドラマの効果音を作り続けていたのです。何枚かCD化もされています。当時の小道具の一部は、文化放送の地下倉庫に今も保管されているので、写真に収めてみました。
兵どもの夢のあとですね(そろそろ整理整頓がしたい)
「擬音」の話に戻ります。台湾の地方都市が舞台の映画の場合は、その景色も日本占領時代の家屋が多く残っているために、まるで昔の日本にタイムトリップしたような気分になり、癒される人も多いと聞きます。台湾も台湾映画も、そこに携わる方々も皆、懐かしい気持ちにさせてくれるのが不思議です。ただし、戦時中空襲を受けることもなかった台湾ですが、戦後は白色テロが起きたり、戒厳令も敷かれるなど、民主化されるまでは、我々が知らない困難時代を経験していて、映画の中にも時代の移り変わりがにじみ出ています。話がそれましたが、ともあれ、まずは映画のために紡ぎだされる素晴らしい音の数々と、スクリーンに溢れるワン・ワンロー監督の映画愛、そしてフォーリー・アーティストの熱い生き方を見つめて、「私も仕事をガンバロウ!」という気持ちになって頂ければ嬉しいです。
この記事を読んで頂いている方は、おそらくアジア映画通、台湾映画通の方が多いと思いますので、文化放送OGで今は台湾映画のコーディネーターとして活躍する江口洋子さんの映画紹介寄稿文をじっくりと読んで頂ければと思います。
『擬音 A FOLEY ARTIST』
監督:王婉柔(ワン・ワンロー)
出演:胡定一(フー・ディンイー)台湾映画製作者たち
共同製作:行人股份有限公司
配給:牽猴子整合行銷股份有限公司(台湾)
協力:国家文化芸術基金会
後援:台北駐日経済文化代表処台湾文化センター
特別協力:東京国際映画祭
日本語字幕:神部明世
配給・宣伝:太秦
2017|台湾|カラー|DCP|5.1ch|100分 ⒸWan-Jo Wang
『擬音 A FOLEY ARTIST』公式サイト
公式Twitter:@foley_artist22