【小説家・真山仁さんご出演】経済小説の名手は経済嫌い?『長尾一洋 ラジオde経営塾』8月22日(月)放送

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約9,000社の企業に携わってきた経営コンサルティングのエキスパート長尾一洋社長が、悩めるビジネスマンのご相談に回答している当番組。
8月29日はゲスト回!大ヒット作『ハゲタカ』シリーズをはじめ、社会に鋭く切り込む作品の数々で知られる小説家の真山仁先生にご出演いただきました。真山先生と長尾社長、松尾アナの3人のトークの一部をご紹介します。
※テキスト化にあたり、発言に一部、省略や再構成を加えています。

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■経済小説の名手は経済嫌い?「ハゲタカ」が生まれた背景とは


真山仁さん
(写真中)

1962(昭和37)年、大阪府生まれ。 同志社大学法学部政治学科卒業。 新聞記者、フリーライターを経て、2004(平成16)年に企業買収の壮絶な舞台裏を描いた『ハゲタカ』で衝撃的なデビューを飾る。 同作をはじめとした「ハゲタカ」シリーズはテレビドラマとしてたびたび映像化され、大きな話題を呼んだ。〈新潮社HPより引用〉

 

 

長尾社長も松尾アナも真山さんの小説の大ファン。ということで、まずは大ヒットシリーズ『ハゲタカ』が生まれた舞台裏をお聞きしました!

長尾社長:金融界にいらっしゃったわけじゃないのに、ぐいっと踏み込んだ作品で…。

真山先生:そうですね、経済嫌いで。(小説執筆以前は)経済の取材は「素人なんでわからないんで」って、大体断っていましたね。

松尾アナ:ではなぜこのテーマを選んだんでしょうか

真山先生:いろいろないきさつがありますが、小説を書くチャンスをいただいて、そこで経済小説でやってほしいというお話だったんです。
で、もともと経済が嫌いな理由は、世の中を数字で語るのが好きじゃないんですよ。ただ経済って欲望の結果じゃないですか。だからその欲望を書くのだったら面白いかな、と。

ハゲタカは2004年に発表したんですが、その頃まだまだバブル崩壊の影響がすごく大きかったんです。当時も”ハゲタカ外資”と投資銀行なんかが呼ばれていて「彼らが悪いんだ」という定説があった。本当は彼らはあんまり関係ないんですけど(笑)。
本当に悪いのは経営を破綻させた日本人じゃないのかと。そろそろ誰かのせいにして、自分達は無責任に次に行ってしまうようなことを改めないと、日本はだんだんダメな国になるんじゃないかな?というのがあり、逆に何も知らない門外漢が経済を見ることで新しい視点ができたらいいのかな、というのが始まりなんです。

長尾社長:なるほど。そこであの鷲津※が出てきたわけですね。

(※ハゲタカの主人公「鷲津政彦」。ニューヨークの投資ファンド社長)

真山先生:はい。最初まったく経済がわからなかったんですけど、『ユダヤの商法』なんかを読み始めたんですよ。

一番冒頭に、ビジネスの第一番は笑いで、相手の懐に入って信頼してもらうところから始める…って書いてあるんです。
私は大阪生まれなので「ああ、これ船場のおっちゃんらと一緒や!」と。だったら自分も大阪で育っているので、わざわざ外資の人に聞かなくてもいいって。それで鷲津は船場生まれなんですよ。あまり大阪で知られてないんですけど(笑)。
それで、全部外国のせいにすると負けてしまうけど、魂は十分に日本にあるんだったら、船場の商法でM&Aをやってみるのは面白いかな…みたいなことが鷲津の形になっています。

 

 

■最新刊『墜落』(文藝春秋)

今夏刊行されたばかりの最新刊『墜落』についても長尾社長と松尾アナがインタビュー!
人気の冨永シリーズ3作目として、沖縄にフォーカスした話題の1冊についてお聞きしました。

 

松尾アナ:今回テーマは沖縄なんですね。日米の関係や若年層の非行や貧困、そして戦闘機が墜落するという…。思わぬところのテーマに迫ったんだなという印象を受けました。

真山先生:たまたま今年が沖縄返還50年なんで、沖縄本としてイメージされがちなんですが、結果的に50年の時に本が出ただけ。沖縄が始まりではなく、戦闘機の墜落が始まりなんですよ。
やはり日本の安全保障って、国家予算をどうするかみたいなことでずっと揉めているじゃないですか?
島国で、先進国で、自分達の国をどう守るかは、もうちょっと真剣に考えるべきなんですよね。
さらにものすごく製造業が強いのに、なぜ飛行機だけは日本が作れていないかというのも、背景がもちろんあるわけです。
そこで例えば、戦闘機が墜落して一番インパクトがあるのがどこかというと沖縄じゃないですか。前から沖縄はやらなきゃいけないとも思っていて。それで、どうせ沖縄やるなら基地問題だけではないな、と。我々が知るべきことは何かな?ということで出てきたのが貧困の問題。
だからどちらかと言えば反対から作っていたんです。
結果的には皆さんはなんとなく「ああ、50年だから」と。ある意味あざといと思っている人もいるでしょう(笑)。貧困もクローズアップされているのでどうしてもね。

松尾アナ:『墜落』の中には戦闘機や国防に関することなど、なかなか情報が手に入らないようなことがいっぱいあって、どうやって取材なさったんだろうと気になりました。
真山先生:広報にお願いして取材依頼すると半分以上断られるんですけど、いろいろな伝手を使って。例えば元自衛官や、防衛省や警察のOBが知り合いにいるってなると、その伝手をたどってどんどん夜にお誘いして、お食事をしつつお話を聞き…。まあその人自信が情報源になることはあまり無くて「友人にこういう人がいるから紹介しましょうか?」となって順番にたどっていくという感じです。

■小説を楽しみ、情勢を知る。いままさに読むべき1冊

松尾アナ:完成まで、構想や執筆にはどのくらいかかったんですか?

真山先生:墜落は短かったんですが、普通、連載までに1年半くらい、連載で1年半くらい、単行本に半年くらいかかるので、早くて3年、長い物だと5〜6年。
なので、今ホットな話題を小説にしようとすると、それが5〜6年先にもホットなのかどうかが重要。だから事件を扱うことはあまり無いです。
逆にその事件や事故の前提に本質的な問題があるのに、そこになかなかフォーカスされないという場合は、多分5年持つんですよね。

長尾社長:今まさに沖縄というか、台湾の問題とかいろいろあって、ドンピシャなタイミングで出てきた感じがあるんですけども、狙ったわけじゃなくて?

真山先生:まあ「予言できるんです」って言えたらいいんですけど(笑)。そしたら投資家として大金持ちになってますね。
(小説には)可能性をたくさん織り込んでいるんです。
これは小説の良いところで、ノンフィクションだと1つ間違うと「ちゃんと書けていない」と言われますが、小説は1つか2つ当たると「これは予言している!」と言われる。だからたくさん予言しているんです。そのうちの当たったものだけを読者は拾ってくださるんで。

長尾社長:そういうことですか!
いやでも、まさにこれは日本国民が今読むべき小説というか。あまり難しくなく読めて、今の国際情勢などもわかるし。
松尾アナ:「闇に浮かびあがる沖縄の真実。本土復帰50年」という帯がついていますけれども、ミステリの要素も多いので、いろいろな角度から楽しめる1冊ですよね。

 

真山先生:そうですね。お説教の本ではないので。
やはりエンタメとして面白くなければエンタメ小説ではないので、そこは大前提。ミステリ的な色がつくとエンタメの色も強くなるので、そこはすごく大事にしています。

 

 

■真山作品に底通するテーマとは?

番組後半ではこれまで出された本についてもお話をうかがいました。


松尾アナ:昨年は政治をテーマとしたノンフィクション『ロッキード』を発表されました。

この作品ではどのようなところからロッキードに迫ろうと思ったんですか?

真山先生:ご縁があり「ノンフィクションを書かないか?」と言われ、何をやろうかというとき、やはり昭和の総括みたいなことをやりましょうという話になりました。
で、戦後の昭和で一番闇が深いと言ったらロッキード事件。もう40年以上前なんですよね。
今さら何が出てくるのか分からなかったんですけど、その一方で関係者がまだぎりぎりご存命だったりする。
「みなさま最後だと思って協力してほしい」って言って取材をし始めたら、やはりいろいろな事が出てきたという感じですね。

 

松尾アナ:選ばれるテーマは、真山さんの中で何か一貫したものがずっとあるのかな?と思ったんですけども、いかがでしょうか?

 

真山先生:例えば、(日本は)”平和ボケ”って言われているじゃないですか。ムカっともするけど「そうかも」とも思っている。じゃあ具体的にどう平和ボケなのか、どうすれば平和ボケでも生きていけるか知りたいじゃないですか。

その時に具体的な例、例えば食、金融、あるいは安全保障など、いろいろなアプローチから日本列島を立体、3Dで見ていこうとする。それから時間軸も。
そうやって見ることで、初めて日本人のアイデンティティみたいなものがわかる。それがわからないと、外国と日本という対比も本当はできない。
日本ほど、世界のニュースを知っている割に自分達の国のことを知らない人って珍しいんですよ。
それがエンタメだと、そんなに勉強しているつもりはなくても…(知ることができる)。
「確かにここでアメリカに負けるよな」「中国にこんなんじゃ勝てないよな」って思って、それを「なぜ」って思えるように作っているんで。それに立ち向かう人たちが出てくるんですけども、簡単には勝てない。そのへんが多分ずっと一貫して大事にしているところなのかと思います。

 

長尾社長:立ち向かったらやられたりとかね。まさにロッキードとかそんな感じがありますもんね。

真山社長:ただ転んでもタダでは起きないみたいなことは大事にしたいなと思っています。

 

■ここでハゲタカファンの長尾社長に朗報!

番組途中には、長尾社長をはじめ、ハゲタカを愛読する皆様への朗報も聞くことができました。


松尾:そしてハゲタカファンの長尾さんとしては…

長尾社長:続編!! 鷲津に早く再登場してほしいですね!

真山先生:私あと2年でデビュー20年なんですよ。その頃には皆さんのご期待に添えるようなものが出てくるのではないかと。準備は進めています。ぜひご期待ください!

 

■”正しさ”が氾濫するSNS社会を生きる若者たちへ

さらにこの9月には、若い読者に向けた真山先生の新刊『“正しい”を疑え! 』(岩波ジュニア新書)が発売されます。

 

松尾アナ:“正しい”を疑え! とはどういうことでしょうか。

真山先生:SNSはいまや生活に必ず必要なものとなっていますが、よく炎上とかしますよね。SNSでは、(皆が)常に正しい立場にいたいんですよ。逆にそこで自分がどっちにいるか気になったりするんです。特に若い人はそこが強いと思います。
でも私の持論からすると、世の中に正しいことは無い。すべて正しいし、すべて正しくない。
だから自分にとって正しいことは、いつも相手にとって正しくなく、これが国家になると、両方が「お前のやっていることは間違っている」ってなるから戦争は起こるんですよね。
この正しさを振りかざすと交渉って出来ないので、大人は「私は正しいと思うけど、どう妥協するか」ってやるんですが、それを若い人に教えなくなったんです。
その一方でSNSに正しさが氾濫してしまっているので、(若い人は)自分達はどう生きていいかが分からなくなっているんですよね。
だから「正しいなんて思わなくていいよ」と。”正しい”はものすごくたくさんあって、しかも世間は多様性の時代って言っているんだから、他人の正しさよりもあなたはどうしたいのか、あなたはその中でどう考えたいのか、それだけを大事にすれば、もっと楽に生きられるんじゃないの?というのをやろうとしているんですね。

私自身、座右の銘として、“正しさ”を疑え!とずっと書いています。小説もそこが1つのテーマなんです。
例えば「農薬は悪か?」という話で小説を書いたことがありますが、”正しい”人たちがたくさん出てきて「私は正しい」と言う。その意見衝突の中で、それぞれの立場があって議論するんですが、読んでいると、全員の言うことがもっともだと思える。でも社会はそうならないわけです。
特に今はSNSのせいで非常に生きづらくなっているので、(今作のような取り組みによって)楽になればいいのかなと思いました。

 

長尾社長:これ読みたいけど、ジュニア新書なんだ。高校生向けなんですかね?

 

真山先生:そこはお気遣いなくというか、まさに自分の子に買うようにお買い求めいただいて。
どちらかというと、これからどうやって大人に売ろうかと…。多くの大人の方々に読んでいただきたいです。

 

長尾社長:まさに、お話を聞いていて、まず大人こそ読むべきだと思いました!。

 

■リスナーの皆様に、真山仁先生からのメッセージ

最後に、番組をお聴きの皆様へ、真山先生からメッセージをいただきました。

真山先生:不安がたくさんあって、これから先行きどうしたらいいかと皆さん思ってらっしゃって、だんだん自信がなくなってきてしまっていると思うんですね。
その一方で日本人って、自信は傲慢と同じ意味だと思っている人が多い。”自信過剰”とかね。
本当は自信って、自分を信じることです。最後は自分しかいないんだ、という。
逆に言うと、いま自分を取り戻すこと、自分を見つめることによって、そこに自信が生まれてくるんですよ。
自信が最初にあるのではなく、結果として自信が生まれてくる。不安になったら自分と対話して、自分の強みを再確認することで、すごく普段の生活が楽になると思います。そう言う意味で自信を持ってほしいと思います。

 

今回テキストでご紹介した部分以外にも、真山先生が小説になられた経緯など、番組では興味深いお話をたくさんお聞かせいただきました。

お聴き逃しの際はぜひradikoやSpotifyなどからお楽しみください!

 

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