雰囲気に押され自粛する……そんなことが戦時中にも? 「禁演落語」を重藤暁が解説
「西川あやの おいでよ!クリエイティ部」(文化放送)、8月8日からの1週間は、8月15日の終戦の日を前に「戦争と平和について考える1週間」としてお届け。初日の特集コーナーでは、「戦時中の伝統文化」を、伝統芸能研究家の重藤暁が解説した。
西川あやの「戦争によって禁じられた伝統文化。どういったものがあるんですか?」
重藤暁「いちばんよく言われていたもので、『禁演(きんえん)落語』というものがあります。太平洋戦争中に戦意高揚を妨げるとして、噺家たちが演じることを禁じた53の演目を指します。きょうはその代表的な演目として、満州へ行った五代目古今亭志ん生の代表的な演目『品川心中』をお聞きいただければと思います」
実際に音源をオンエア。禁止になった理由について、さらに重藤が解説する。
重藤「『品川心中』というのは品川の遊郭を舞台にした噺で、前半は遊郭で働く女性と客の心中がテーマで、後半は自分をだました遊郭の女性に、客が仕返しをもくろむという展開なんです。これの自粛、禁止のポイントというのは男女の噺、荒唐無稽な噺、遊郭、家族と子供の噺……などを『禁演落語』として設定されたので、そのどこかに該当したのかなと思います」
西川「男女の噺なんか、いま聴いている場合じゃないぞ、みたいな」
重藤「そういうことです。吉原に行く、品川に行く、みたいな噺は控えましょうね、と」
山内マリコ「戦争中って笑うこともダメと言われていそうですけど、落語家さんは寄席で笑いをとっていた?」
重藤「そうですね。ここだけはしっかり言っておきたいところですが、禁演落語というのは、国家権力に禁止された、というわけではなく。噺家さんたちから自粛をした、という演目なんです。具体的に命令、おふれがあったわけではなく、『自粛をしてくださいね』みたいなムードになったために、この53の項目が制定された。ここが大事なところです」
西川「噺家さんたちが『品川心中』やめておいたほうがいいね、と話し合ったということですか?」
重藤「そうです。もうひとつ、明確な基準がわからない、ということはいえますね。戦争や有事のとき、明確な基準がわからず空気(雰囲気)で叩かれる、みたいなことは、いまでも変わらない。そういうものが当時もあったんだな、と」
山内「噺家さんたちが『不謹慎な噺はNGにしますので勘弁してください』みたいな、偉い人へのポーズ、という意味合いもあった?
重藤「明確にあったと思います。こういう噺、戦意高揚を妨げることはやめてくださいね、みたいな内閣の条例……おふれみたいなものが閣議決定されている、という証拠はあるんです。直接じゃないけど、そういう空気にされてしまったので『じゃあ、やめようかしら』となって、それをポーズで見せています、という感じで。だから自ら『禁演落語』と名乗った、という意味合いが強いんじゃないでしょうか
重藤は「禁演落語」について詳しく知れる、ゆかりの場所も紹介した。
重藤「禁演する53の噺の台本みたいなものを、台東区にある本法寺というお寺に、『はなし塚』、噺のお墓みたいな意味で埋めることになったんですよ。葬ったというポーズをとるんです。いまでも本法寺の『はなし塚』は、空襲から免れたので、残っています。こういう経緯でこういう噺を葬りました、みたいな碑があって。お近くの方は行ってみると、こうだったんだとわかると思います」
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