東京理科大学・宮永博史教授に聞く!日本企業にいま必要なもの『長尾一洋 ラジオde経営塾』8月8日(月)放送

東京理科大学・宮永博史教授に聞く!日本企業にいま必要なもの『長尾一洋 ラジオde経営塾』8月8日(月)放送

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約8,000社の企業に携わってきた経営コンサルティングのエキスパート長尾一洋社長が、悩めるビジネスマンのご相談に回答している当番組。
8月8日放送はゲスト回!大人気のビジネス書『ダントツ企業』や『成功者の絶対法則 セレンディピティ』の著者である東京理科大学名誉教授 宮永博史先生にご出演いただきました。宮永教授と長尾社長、松尾アナの3人のトークを一部ご紹介します。


※テキスト化にあたり、一部、省略や再構成を加えています。


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■超伝導研究者から技術経営(MOT)まで。異色の賢人・宮永博史名誉教授

ゲストの宮永博史(みやながひろし)先生のご経歴、は華々しくもユニークです。

東京大学工学部卒業、MIT大学院修了。NTT電気通信研究所にて研究に携わり、AT&Tなどを経て、コンサルティング業界に転じ活躍。現在は東京理科大学の社会人大学院(MOT)で教鞭をとり技術経営を教えていらっしゃいます。

まずはそのご経歴や人となりについて、長尾社長と松尾アナがインタビュー!

松尾アナ:もともとは理系で超伝導を研究なさっていたそうですね。


宮永先生:超伝導から半導体に行きました。研究では世界のトップデータを出すのが目標でしたが、その後いろいろな経験を積んで気づいたのが、技術だけ良くてもそれがビジネスに繋がらないというケースが結構あるというこ。今の日本企業もそうですね。

それは一体なぜなのか、自分の体験やさまざまなケースを研究し、大学院で教えてきたということですね。

長尾社長:東大を出てた後でMITにも行かれたんですね。

松尾:すごいですね!マサチューセッツ工科大学!

 

宮永先生:これはもうNTTに感謝しかないです。大学院に留学させていただき、会社からお給料いただきながら1年半ボストンで学べたことは本当に貴重でした。

松尾:そこからどうして大学教授になられたのでしょうか?

宮永先生:NTTの研究所の人たちの出口は大学教授が結構多いんですよ。だからそんなに違和感は無いんです。ただほとんどは理系の大学教授になるのですが、私はそこから道を外れて。
いろいろな体験をしていたとき、ちょうどマネージメント・オブ・テクノロジー『MOT』がブームになり、経産省も文科省も推していました。理科大が開講する最初のタイミングで声がかかって、一緒に作り上げるところから始めさせていただいたという経緯です。

松尾:(東京理科大に入職される以前)コンサルティングをなさっていたというご経歴も評価されたとのことですね。

宮永教授:そうなんですよ。NTTの研究所にいただけでは教えるのに十分な経験や知識を持てなかったと思うのですが、それまでと全く違う会計士ばっかりいるようなところでやって来たことがすごく良い経験になりました。

▪︎学生の7割が技術者!東京理科大のMOTとは?

松尾アナ:東京理科大学大学院の経営学研究科 技術経営専攻(MOT)は、どういった学校なんでしょうか?

宮永教授:基本的に全員社会人で、平均年齢42~3歳。7割ぐらいは技術者です。技術者は会社に入って10年くらいは専門分野をどんどん極めて行って、教育もされるんですけれども、その後放っておかれるんでよね。MBAもありますが、これは主に文系の人たちのビジネススクールなんで、技術者が行ってもやはりちょっと違うかなと。

で、技術者は技術を持っているんですけど、それが逆に壁になってしまって、マネージャーになった時に、担当者と同じ仕事のやり方をしてしまう人が時々いるんですね。担当者(部下)と競争してしまったり。
そうではなくマネジメントのポジションで何が必要とされるかを考えないといけないんですけど、それがなかなかできない。自分の経験からも、そういう人たちをお手伝いしたいと。そうすると本人も幸せだし会社も幸せだし、日本もより元気になるかなという思いでやらせていただきました。

松尾アナ:理系畑の第一線で活躍されていて、マネジメントもわかるという宮永さんはうってつけの人材だったんですね!

 

■「学生に助けられた」宮永教授のセレンディピティな執筆活動


松尾アナ:ご著書もたくさん出されていて『成功者の絶対法則 セレンディピティ』(祥伝社)『理系の企画力』(祥伝社新書)他、大人気のビジネス書を多数執筆されていますね。

私も読ませていただいたんですが『ダントツ企業 「超高収益」を生む、7つの物語』(NHK出版新書)には、いろいろな事例が登場して「あの企業ではこんな取り組みをしているのか!」というのが、とても面白かったです!

 

宮永教授:ありがとうございます。(著書の刊行にあたっては)学生に助けられたんですよ。
学生の中にセレンディピティについてレポートを書いてきた人がいて、なかなか面白かったんです。
で、今度は日経BPの仕事をやっていた方から「先生、セレンディピティについて、WEBで書きませんか?」と言われて書いたら、それが祥伝社の編集者の目に止まって本を書くことに。
そしたら今度は学生たちが「無料で校正やったげます!」と。
いつもレポートを書いてもらって、こちらがコメント書く側だったんですけど、逆になって(笑)。助けられたと。そんなことばかりなんです(笑)。

長尾社長:まさにセレンディピティな展開!

 

■日本企業の存在感低下の原因とは
次に気になる日本企業の危機について、事業戦略、研究開発戦略などのコンサルティングを手掛けていた宮永教授にその背景を伺いました。

 

松尾アナ:お仕事柄、さまざまな企業の事例を研究されて来たかと思います。
今、強い日本の時代が終わってしまって、アジアの中でも日本企業の存在感が弱くなっているとも言われていますが、宮永さんはどんなふうにご覧になっていますか?

宮永教授:もう10数年前には予兆がありました。企業幹部の方とお話しすると、外資系企業の日本法人トップたちが愚痴を言い出すんです。
それまではアメリカの次は日本だった。市場が伸びているので、日本のトップや日本市場は非常に尊重され優遇されていたのですが、その頃から”アジアパシフィック”という括りの中に入ってしまって、日本法人の存在感が薄れて来ていると。「先生、外資系日本法人のトップを集めた愚痴を語る会を作ってくれませんか?」と言われたんです。

もう1つ、これは日本企業のことなんですけども。
高度成長期時代がなぜ良かったかというと、1つは人口が増えて行ったことと、もう1つ欧米にお手本とする製品、コンセプトがあったんです。

で、その品質を上げたり値段を下げることが日本はものすごく得意で。そういう学校教育もしているので、あっという間に(欧米のお手本を)抜いて行くんですよね。ところが抜いて行った途端に、自分でコンセプトを考える教育をされていないし経験も無いので、やはり失敗するんですよ。失敗にはそれまでの減点主義の人事評価がそのまま適用されちゃうので、なかなか上手く行かない。
そのような背景があります。

■正解が無い中で考える。宮永教授×長尾社長のコンサルティング談義

松尾:最近番組に届く相談の中では、今の時代の経営の舵取りをどうしたらいいんだろう?というような声もありますが、宮永さんだったらどんなふうにお答えになりますか?

宮永:僕もコンサルティングやっていたので、相談を受けることはたくさんあるんですが、まず基本的には相手の話を聞くことから。
1人1人抱えている問題は違うし、実は本人が思っている問題は問題じゃないということが意外とあったりするんですね。そこから始まって、「あなたの問題はこういうことではないですか?」と。

長尾社長:そうですよね。すぐ答えを求める人が多いんですよね。「いま何やったら儲かりますか?」みたいな。「いや、あなたに何ができるかもわからないのに、それは言えないよ…」っていうの、ありますね。

宮永:そうなんです!全くその通りです。大学院でも最初ケースディスカッションをやると、終わった後に時々「で、先生。正解はなんですか?」と言う学生がいて。
だから、それが今苦しんでいることで、正解が無い中で何を考えなきゃいけないかという。

長尾社長:いろいろなやり方があるのにね。

 

■DX推進の潮流をどう見る?

次に話題は番組でもたびたび取り上げている『DX』へと移ります。

松尾アナ:今の日本のDX推進の流れについて、宮永さんはどのように考えていらっしゃいますか?

宮永教授:これはIT業界に特徴的なんですが、DXとかデジタルツインとかネットワークコンピューティングとかASPとか、同じ内容のことを手を変え品を変えやって来ているところがあるんです。

長尾社長:(笑)

宮永教授:ちょっと前までは”ビッグデータ”と言っていたり、メタバースも”セカンドライフ”というのが昔あった。それからディープラーニングも、実は”ニューラルネットワーク”という、かつてブームになったものと本質的には同じ。
人間の特質として、昔の記憶がその言葉に染みついちゃうということがあって。例えば”ニューラルネットワーク”で論文を書いた人たちがいたんですが、その論文は拒絶されちゃったんです。でも彼らがそれを「ディープラーニング」と変えて論文にしたら見事採用されて、チューリング賞というコンピューター業界のノーベル賞のような賞を受賞しているんです。

松尾アナ:え!?言葉を変えるだけで?

宮永教授:そうそう。でも実は言葉が変わっただけでなく、その背景には半導体の技術の進歩があって、20~30年前は無理だったことが、今はできるようになってきた。
そうやって生き延びるために、手を替え品を替え名前を替えやってくるので、「これ、またブーム去るのかな?」とか、使う側は見極めなきゃいけないんですね。
DXもその1つ。企業から研修をお願いされたりするんですが、基本的なパターンとして、上の人がどこかで「DX」と聞いて来てDX推進室ができました、と。だけどどうしていいかわからない…ということが多いですね。

松尾アナ:実際どうなんでしょう?DXを既に取り入れている会社は、もうあんまり「DX!DX!」とは言ってないということもあるんでしょうか?

宮永教授:そうなんですよ!DXをさりげなく使っている会社はブームになる前からやっていて、別にあえてDXとか言っていない会社がほとんどだと思います。

松尾アナ:このあたり、長尾さんも講演などでお話しされることが多いんじゃないですか?

長尾社長:はい。もうね本当に、IT業界とかコンサル業界とかに騙される人が多いので、気をつけてほしいですよね、先生?(笑)。
大切なことは、本質は何かということ。DXという言葉に意味があるのではなく、DXで言われていることは一体なんなのか、ということですよね。
やはり”デジタルをどう活用して会社を変えて行くか?”ということなので、やっている会社からすれば「今頃DXとか言っているのはもう遅いよ」という感じじゃないかとは思いますね。

■DXが叶えた、家庭も保育園も楽ちんの『手ぶら登園』

とはいえ、遅くともDXの必要性に気づき取り組んでいくことに意味はあると話す宮永教授。DXが奏功した事例についても紹介してくれました。

宮永教授:最近『手ぶら登園』というのがあるんです。従来、保育園で使うオムツは、親御さんが子供の名前を1つ1つ書いて持って行っていた。保育士さんもそれぞれ子供の名前が書かかれたオムツを使わなければいけない。これは結構大変です。

 

松尾アナ:名前、書きました!すごい荷物になるんですよね。

 

宮永教授:そうですよね。そこで保育園を経営している方が「朝から親御さんの元気が無い」と気づいて『手ぶら登園』というものをユニチャームと一緒に作りました。ユニチャームと親御さんの契約の間に『BABY JOB』という会社が立ち、そこから保育園にオムツが届きます。保育士は誰のオムツかを気にせず使えると。

 

松尾教授:それは楽ちんですね!

 

宮永教授:そう、楽ちんなんですよ。そこにはDXが入っていて、今ある在庫の数を入力するだけで発注すべき数をシステムが教えてくれるんですね。
DXのポイントはデジタル化だけじゃなくて、他の仕組みと組み合わせてジグソーパズルを作るように、全部のピースを埋めて行くことじゃないかと思うんです。DXのピースだけあってもジグソーパズルは完成しない。また、はまらないピースを無理やりはめようとすると、なかなか上手く行かないのかな?という気がするんですね。

■宮永教授からリスナーの皆様へ「新しいコンセプトに挑戦しよう」

最後に、宮永先生から番組リスナーの皆様にメッセージをいただきました。

宮永:いろいろ大切なことはあるんですが、僕が1つ皆さんに伝えたいのは「新しいコンセプトを作る」ことに挑戦してほしいということです。

1つだけ例を挙げると、ウィンブルドンや全仏などテニスの大会で『チャレンジ』という仕組みがあるんですね。インかアウトか判定しにくい時、選手が「チャレンジ」というとシステムが回って、CGで拡大して1mm単位で判定する仕組みで、SONYのハイスピードカメラが使われています。1秒間に1万コマまで撮れるという非常に高性能なカメラです。
イギリスのホーク・アイ・イノベーションズという、もともと迎撃ミサイルの技術開発をしていたベンチャーが、テニスボールをミサイルに見立て、そのカメラで撮影して軌跡まで分析し、最後CGで出すというシステムを開発しました。

このシステムは売ると結構高いので、彼らが考えたビジネスモデルが、例えば「東レ パン・パシフィックの9日間、630万円でサービスを提供します」と。エンジニアが来てセットして、イベント中は全部オペレーションをやってくれて、片付けて帰って行く。
東レ側としても、1年間ほとんど使わないシステムを持つ必要がなく、使う時のオペレーターの確保に悩まされることもない。

とはいえ、それだけではペイしない。そこで彼ら(ホーク・アイ・イノベーションズ)が何をしたかというと、データを取ってデータを販売するんです。テニスだと売る先は多く無いんですが、サッカーとなると各選手、クラブチームなどにデータを売れる。最近では大リーグの全球団がそれを入れました。例えば大谷選手の打球の軌跡などのデータ分析をしているんですよ。

この会社を買収したのがSONY。SONYがリカーリングビジネスと言っているのは、まさにそこだと思っていて。
売り切りではなく、その武器を使って継続的にビジネスをやる。この場合は、製品・技術・サービス・ビジネスモデル、収益モデルですね。全部ひっくるめてコンセプトを考えて行かないといけない。

そこを日本企業はやって行かないと、せっかく良い製品や技術を持っていても続かない。

長尾:そうですよね。結局最後のビジネスモデルのところをどこかに持って行かれたりとかね。技術は日本の技術なんだけど…みたいなの多いですよね。

宮永:そうなんですよ!その通りです。

松尾:その部分から日本の底上げが図れるんですね。

宮永:そうじゃないかと思うんです。
せっかく良いものを持っているんですから、それを生かさない手はないと思います!

 

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