旧統一教会 名称変更は政治判断か?岸田総理の打つ手は~ 8月6日ニュースパレード 山本香記者取材後記
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文化放送報道記者として国会、官邸を担当し、日夜取材活動で活躍する山本香記者が放送でお伝え出来なかった話題を取材後記としてお届けします。
名称変更問題
「今となっては責任を感じる」。下村博文氏が文部科学大臣だった旧統一教会が世界平和統一家庭連合に教団名の変更を文化庁が認めたことについて述べた。また自身の関与については否定した上で「社会的な問題を生じさせているのは事実。今後は関係団体を含め一切の関係を絶つ」と明言した。
旧統一教会の名称変更が認可されたのは2015年、安倍政権の時だった。旧統一教会が、最初に名称変更を文化庁に相談したのは1997年。当時、文化庁宗務課の課長だった前川喜平元文部科学事務次官は、霊感商法の問題などを抱える宗教法人の実態が変わらないのに看板をかえるのはいかがなものか、という判断から門前払いしたという。
しかし18年後にあっさり認められたことで、霊感商法など教団の被害救済に関わる弁護士らは、この名称変更によってより被害を拡大させる要因となったと指摘している。
外部からの圧力
2015年の名称変更の際、当時、文部科学審議官だった前川喜平氏の元に、当時の文化庁の宗務課長が説明に来たが、前川氏は認証すべきではないと意見を述べたがその後、認証された。これについて前川氏は「何らかの政治的な力が働いたのでは」と強調する。18年間、認証しない姿勢を貫いてきたにもかかわらず、一転して認証を受理する態度に転じたことは、前例を踏襲する役所の仕事の仕方からすれば外部からの力が働いたとしか考えられないと思ったという。「ノー」と伝えた前川氏の判断を覆し「イエス」にできるのは、前川氏より上のポストにいた人物しかいない。
当時、前川氏の上のポストにいたのは事務次官と大臣だけだ。前川氏は「下村氏の意思が100%働いていたのは間違いないと思う」とした上で、下村氏に誰が圧力をかけたのはわからないが、自民党内の有力者、或は官邸か・・・いずれにせよ政治的な力が無ければ認可されなかったと指摘している。
不作為の作為
下村氏は、旧統一教会の名称変更について当時、文化庁から団体から認証申請が出て、それを受けなければ「不作為の作為」で、訴えられれば裁判に負ける可能性があるので申請については受理したいと報告があったと説明。自身の関与はもちろん、政治家の圧力は無いと説明している。
下村氏が繰り返す「不作為の作為」とはどういう意味で使われているのか。
行政の不作為とは、例えば法律に基づきだされた申請書を受け取らなかったりした場合は行政手続き法違反になる。
旧統一教会の場合、申請書が出たため、これを作為的に受理しないことができないことから不作為の作為という言葉で説明したのではないだろうか。訴訟リスクがあると宗務課長が下村氏に説明したのかもしれないが、リスクがあったとしても名称変更することで起きる霊感商法の被害拡大などを鑑みれば、拒否する選択肢もあったのではないだろうか。
ちなみに下村氏は大臣だった2012年、朝鮮高校を高等学校等就学支援金制度、いわゆる高校無償化の対象から外す判断をし、裁判沙汰になった。朝鮮高校に対する訴訟リスクは恐れず、旧統一教会だけ憂慮せざる得ない事情が他にあったのだろうか。
魔女狩り
永田町では今、誰が旧統一教会に関わっているか、魔女狩り状態になっていると指摘する声がある。
関連団体も多く、よく知らずにかかわった国会議員もいるだろう。実際、旧統一教会とのかかわりを調べず、安易に祝電を送ったり、政治献金を受け取ったという国会議員もいる。
反対に、旧統一教会と知りながら、選挙で組織票をお願いしたり、選挙運動を手伝ってもらうなど、濃密な関係を築いてきたという議員もいる。
攻めか守りか
岸田総理は8月10日に党役員人事と内閣改造を行なう。
物価高、旧統一教会問題などで陰りが見え始めた支持率の歯止めにしたい思惑のほか、安倍元総理という重しが消えた今、党内掌握に向けた攻めの人事という狙いも透ける。自民党幹部は「人事をやっても就任後に旧統一教会との関係が明るみになれば、記者会見で火だるまになるのは目に見えている。身体検査は十分にやっていないのではないか」と危惧する。
岸田総理は8月6日、旧統一教会との関係について関係はないとしたうえで「私の内閣では当該団体との関係をしっかり点検してもらう。その上で適正な形に見直すことを指示したい」と述べた。また、岸田総理は、悪徳商法への対応や被害者救済について政府一体となって万全を尽くす考えを示しており、今後、法改正の検討に向けた議論も進む可能性があるが、名称変更など、教団側との癒着によって行政がゆがめられたのではないかという疑惑について徹底的に調査し、真実が明らかにされるのかは不透明だ。
岸田総理にとって攻めの人事か、守りの人事か、いずれにせよ、逃げの人事であってはならない。