陸上養殖でサステナブルなサーモンをつくりたい~ FRDジャパンの挑戦~
丸の内Innovation Culture Cafe 「~未来の食から見える世界とは?~」
TMIP×文化放送「浜松町Innovation Culture Cafe」スペシャル企画 前半
2022年5月18日に開催したTMIP×文化放送「浜松町Innovation Culture Cafe」スペシャル企画・丸の内Innovation Culture Cafe 「~未来の食から見える世界~」。
前半は陸上養殖の現在地点と未来について語り合いました。
◆登壇者紹介
<デロイトトーマツコンサルティング シニアマネージャー 坂口直樹>
Future of foodをテーマに、食や農に関わるデジタル変革・社会課題解決型ビジネスに取り組む。
<FRDジャパン取締役 COO 十河哲朗>
三井物産時代、陸上養殖を手掛けるFRDジャパンと出会い、同社のシステムを活用したサーモン養殖事業を三井物産に提案。現在は三井物産を退社し、COOとしてFRDジャパンに参画。
早稲田大学ビジネススクール教授・入山章栄
元乃木坂46、麻雀カフェ「chun.」オーナー 中田花奈
文化放送アナウンサー・砂山圭大郎
十河:今、世界ではどんどん魚の需要が伸びており、魚の値段も高騰していますよね。
入山:魚不足は深刻な問題ですね。中国が世界中の魚を買っているので、日本が買い負ける現象も起きていると聞きます。
十河:そうですね。人口が増えているだけでなく、一人当たりの動物性タンパクの消費量、とくに魚の消費量が拡大していますので。しかし、漁獲量の規制により、天然魚の生産量はここ30年以上増えていません。魚種によっては、養殖魚もそろそろ頭打ちになるといわれています。
中田:養殖魚が頭打ちになることがあるのですね?
十河:はい。代表例がサーモンです。いま、世界中の人がサーモンを食べていますが、サーモンの生産国はおもにノルウェーとチリの2カ国のみなんですね。どちらも水温が低く、サーモンの育成に適しているうえ、複雑なフィヨルド地形で海が穏やかという特徴があります。養殖は船で給餌や収獲を行うので、荒れた海は向かないのです。
坂口:たんぱく質源をいかに確保するかは、人口の増えるこれからの時代、深刻な問題です。代替肉や培養肉にも注目が集まっていますが、同時に養殖など従来の生産方法についても見直しが求められます。同時に、温室効果ガスの抑制など新たな課題も出てきています。
入山:環境保全しながら生産量を増やす…。未来の食の問題は難しいですね。
十河:そこで僕らが取り組んでいるのがサーモンの陸上養殖です。陸上に置いた水槽にバクテリアを活用したスーパー濾過装置を取りつけ、環境管理を自動化します。水さえあれば砂漠でも宇宙空間でも魚が生産できるしくみです。
入山:なるほど!巨大なプールみたいなものを置いて、つねにきれいな水を循環させれば、どこでもサーモンがつくれるわけですね。
十河:ノルウェーやチリから飛行機で輸送すると、大量の温室効果ガスを排出してしまいますが、首都圏近郊で育てれば排出量を抑制できます。ですので、FRDジャパンではさいたま市岩槻区と千葉県木更津市の2地域でサーモンを養殖しているんですよ。
中田:岩槻!お人形で有名な町ですよね。びっくりです。でも、水温の管理などでCO2が排出されたりしないのですか?
十河:たしかに陸上養殖はポンプや水質管理で電気を使うため、養殖期間においてそれなりのCO2排出はあります。しかし、消費地に近いところで生産すれば、CO2を大量に排出する航空機輸送の必要はありません。結果的にサプライチェーン全体では海面養殖と比較しても排出量が少なくなるのです。
入山:なるほど、地産地消すれば環境にもいいし、養殖魚の頭打ち問題も解決できるというわけですね。坂口さん、陸上養殖は日本でも広がっているのでしょうか。
坂口:ノリをはじめ、養殖技術自体は進んでいます。ただ、陸上養殖は収益性が課題であると思われます。
入山:えっ、本当ですか?!陸上養殖という言葉は聞くので、すでに事業として回ってるのかなと思ったんですが…。
十河:問題はコストです。具体的には電気代、そして設備の減価償却費の2つですね。この問題を解消するには大規模化するしかない。でも、目標生産数量を上げている企業は世界にもまだありません。ですから、どうしても固定費が割高になってしまうのです。しかし、牛、豚、鶏に比べると魚は温室効果ガスの排出量が少ないし、淡水の使用量も少ない。魚はもっとも持続可能なたんぱく質源といえます。ですから今、投資対象として魚に注目が集まっているのです。
入山:魚にお金が集まっているんですね…。ところで、味についてはいかがですか。これから経験値が高まっていけば、相当美味しい魚が陸上養殖でつくれる可能性もあるのでは。
十河:“おいしさの減点”は絶対に出さないようにしています。臭いが出ないよう、しめたらすぐ血抜きし、即冷凍するなどの対策は徹底しています。一方、“おいしさの加点”を追求するのは簡単ではありません。サイズを大きくすれば脂は乗りますが、その分生産効率は低くなる。また自然界で天然のイカなどの贅沢な餌を食べた天然魚の旬の味は想像を超えるもので、それに匹敵するサーモンをつくれるかどうか――。実現までの道のりは長いでしょうね。だからこそ、面白い仕事でもあるのですが。
坂口:日本では天然魚人気が根強いし、食のサステナビリティに対価を払う意識はまだまだ根づいていません。例えば認証マークをつくるなどして、新たなマーケットを作っていくことも、食のサステナビリティを広げていくきっかけになるかもしれませんね。
入山:陸上養殖の課題は多いけれど、乗り越えれば、すごい可能性が広がっていそうですね。その起点となるのが埼玉県かもしれないという…。いやあ、驚きのお話でした。今日はどうもありがとうございました!
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<入山章栄のキーワード~「センスメイキング」>
「世界標準の経営理論」(ダイヤモンド社)より
〇ミシガン大学のカール・ワイクらが発展させてきた「センスメイキング理論(sensemaking)」。定義は多様ですが、私がもっともしっくりくる日本語は「腹落ち」という言葉です。組織のメンバーや周囲のステークホルダーを納得させることが、正解の見えない世界に足を踏み出すための重要なカギとなります。
〇サステナビリティは時間軸の長い課題です。脱炭素問題は少なくとも20年、30年先も変わらず残っているでしょう。だからこそサステナビリティは未来へのパーパス、つまり「未来においても残り続ける社会課題の解決」となりえるのです。
〇三井物産はFRDジャパンに9億円を出資し、株式の80%を取得しています。十河さんの語るストーリーに腹落ちしたからこそ生まれたパートナーシップといえるでしょう。これからも十河さんらトップのセンスメイキングによって、同社のイノベーションは加速していくに違いありません。
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