『大垣尚司・残間里江子の大人ファンクラブ』日銀による国債購入は賛否両論。専門家がじっくり解説
情報番組「大垣尚司・残間里江子の大人ファンクラブ」では、残間里江子さん(フリープロデューサー)と、大垣尚司さん(青山学院大学教授、移住・住みかえ支援機構代表理事)が、お金や住まいの話を中心に、大人世代のあれこれを語ります。
この連載は、番組内の人気コーナー「おとなライフ・アカデミー2022」の内容をもとに大垣さんが執筆した、WEB限定のエッセイ。ラジオと合わせて、読んで得する家とお金の豆知識をお楽しみください。
「日銀が国債の買いオペを始めた」ってどういう意味?
今回は、経済ニュースにまつわる質問をいただきました。
日銀が国債の買いオペレーションを始めたという
ニュースがありましたが、
これはどういう意味でしょう。
「長期金利が上がらないように、国債を買い入れる」
これがよくわからないです。
スーパーキャット さん(千葉県船橋市)
2022年の2月10日、日銀が、10年国債を全て0.25パーセントの利回りで買い取ると発表しましたが、このニュースのことですね。
金利が下がる理屈は、スーパーの野菜売り場をイメージ
最初に、日銀が国債を買うと金利が下がる理屈は、スーパーの野菜売り場をイメージしてもらえれば理解しやすいかと思います。
たとえば、冷夏が続いたなどの理由で、野菜の出荷量が低くなった場合を考えてみましょう。
この場合、当然ですが野菜の値段は上がりますよね。
言い換えれば、マーケットに出回っている商品の量が減ると、値段が上がるのです。
国債も同じで、日銀が国債を購入する=市場で購入できる国債の数が減ると、国債の値段も上がります。
国債の価格が上がると、金利が下がる
さて、国債の値段が高くなるとどうなるのでしょうか。
そもそも国債は、満期まで持ち続けることで、「額面金額」と利子を受け取れる商品です。「額面金額」というのは、購入前に決まっている価格ですね。
国債の値段が上がるとは、つまり、
100円で購入して、100円が戻ってくる(額面金額が100円)だった商品が、
110円で購入し、100円が戻ってくる商品になったということ。
値上がりした10円の分だけ、もらえる金額は少なくなりますから、実質の金利は低くなっています。というわけで、市場全体として、金利が下がるのですね。
市場に出回るお金が増える!
それから、日銀が国債を買い、代金を支払うことで、市場に出回るお金が増えることも忘れてはいけません。
これによって、お金を貸したい人が借りたい人より多くなり(貸したい人が不利にな理)、低い金利でしか貸せなくなりますね。
このような理屈で、マーケットの金利水準が下がっていくのです。
金利には、長期と短期の2種類がある
さて、いただいた質問には「長期金利が上がらないように、国債を買い入れる」という言葉がありました。この「長期金利が上がらないように」という言葉が少し曲者でして・・・。
まず、金利には「短期金利」と「長期金利」の二つが存在することを抑えていきましょう。
短期金利とは、1年未満の期間で金銭の貸し借りをしたときの金利です。
一方、ご質問にあった長期金利は、1年以上の貸し借りをしたときの金利を指します。
私たちが住宅ローンを組む際に使われるのも長期金利です。
日銀が国債を購入するのは「ありえない」ことだった
もともと、日銀(中央銀行)は、短期金利をコントロールし、物価を調節することが役割だと考えられてきました。
一方、長期金利の水準は、景気などを反映して決定されます。
政府等の機関によって無理矢理コントロールするものではないと考えられてきたのですね。
そうしなければ国の景気がどれほどなのかが把握できませんし、なによりマーケットの自由が維持できなくなってしまいますからね。
国債の買いオペは、人生ゲームでプレイヤーが勝手にお金を刷っている状態
そもそも、日銀は日本で唯一、お金を発行できる機関。そんな機関が長期金利をコントロールすること自体にも、かなり問題があります。
この状況をたとえていうなら、人生ゲームでプレイヤーの一人が、自分のプレイを有利にするためにお金を刷っているようなものと考えると分かりやすいです。
少し乱暴なたとえですし、正確ではありませんが。
「家を購入する、3000万払う」というマスに止まった人が、勝手に3000万円のお札を印刷して、そのお金を利用して家を買っていると想像してみるとどうでしょう。
なかなか難しい問題であることがわかると思います。
日銀が国債の買いオペを始めたのは2016年からですが、当時も今も、「日銀の国債購入」の是非については議論の決着がついていません。
再起不能なまでの経済破綻を起こしてしまうからやめるべきだと考える人もいれば、国としての経済的な信用があるうちは行っても構わないと考える人もいます。
どうしてリスクを冒して買いオペを続けるの?
なぜ日銀はリスクを冒してでも「買いオペ」を続けるのか。これは一言でいえば、低金利にしておかないと、企業や家計が困るからです。
皆さんご存じの通り、現在日本はあまり景気が良くありません。
そんな中で、日本中の金利が上がってしまったら、どうなるでしょう。
企業は出費がかさむことになり、最悪の場合は倒産してしまうことになります。住宅ローンを組むのも大変ですね。
今でさえ悪い景気がもっと悪くなる。それを食い止めたいと日銀は考えています。
欧米はすでに、金利をあげていく段階に
なお、国債の買いオペに似た政策は日本だけでなく、欧米においても取られていました。
しかし、近年は徐々に景気が改善してきたことから、これらの政策は徐々に終了し、むしろ金利をあげていく政策が取られるようになってきています。
日本もその影響で、ジワジワですが金利が上がりだしています。これは、景気が悪いままで金利が上がってしまうので、あまり嬉しいことではありません。
日本でも、できれば徐々に景気がよくなっていってほしいと思いますが・・・。残念ながら、まだ先行きは不透明なようです。
そんなわけで今回は、日銀の国債買いオペについて考えてみました。
メールをお寄せいただき、ありがとうございました。
お知らせ
パーソナリティの一人である大垣尚司さんが代表理事を務める一般社団法人「移住・住みかえ支援機構」(JTI)では、賃貸制度「マイホーム借上げ制度」を運用しています。
住まなくなった皆さまの家をJTIが借り上げて、賃貸として運用。
入居者がいない空室時でも、毎月賃料を受け取ることができます。
JTIは非営利の公的機関であり、運営には国の基金が設定されています。
賃料の査定や、ご相談は無料。資格を持ったスタッフが対応いたします。
制度についての詳しい情報は、移住・住みかえ支援機構のサイトをご覧ください。
関連記事
この記事の番組情報
大垣尚司・残間里江子の大人ファンクラブ
土 6:25~6:50
楽しいセカンドライフを送るためのご提案などがたっぷり! 金融・住宅のプロフェッショナル大垣尚司と、フリープロデューサー残間里江子が 大人の目線でお届けします。…