『大垣尚司・残間里江子の大人ファンクラブ』 『マンガ 認知症』の作者・佐藤眞一先生と、最新の認知症研究を語る(おとなライフ・アカデミーWEB)
今を楽しく生きるオトナ世代のための情報番組「大垣尚司・残間里江子の大人ファンクラブ」。
残間里江子さん(フリープロデューサー)と、大垣尚司さん(青山学院大学教授、移住・住みかえ支援機構代表理事)が、お金や住まいの話を中心に、暮らしにまつわる様々な事柄を語り合います。
この連載では、人気コーナー「おとなライフ・アカデミー2021」で話した内容をもとに大垣さんが執筆した、ここだけのエッセイを掲載中。
ラジオと合わせてもっと楽しい、読んで得する「家とお金」の豆知識です。
2021年8月21日の放送は、ゲストに老年行動学がご専門の心理学者、佐藤眞一さんをお招きしました。
認知症について、専門家以外の人が理解するための書籍やツールなどを数多く発表されている佐藤先生。前編となる今回は、最新の認知症研究や、先生の開発された認知症診断ツール「CANDy」について、おうかがいしました。
後編はこちら
介護の要らない人生よりも、介護を受けつつ愛される人生? 認知症研究者の佐藤眞一先生と考える、令和の認知症論(おとなライフ・アカデミーWEB)
佐藤眞一さん プロフィール
1956年、東京生まれ。
早稲田大学大学院後期課程を終え、東京都老人総合研究所研究員などを経て、現在は大阪大学大学院人間科学研究科教授。
老年行動学、臨床死生学が専門。著書に『ご老人は謎だらけ 老年行動学が解き明かす』『後半生のこころの事典』など(他多数)。
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固定観念で捉えない、共感に溢れる目で捉えられた「高齢者像」
鈴木 本日のゲストは、老年行動学がご専門の心理学者、佐藤眞一さんです。
佐藤 よろしくお願いします。
残間 佐藤先生の書かれる、認知症や老いにまつわる文章って、読んでいても不愉快にならないんですよね。固定観念で高齢者を捉えていないからだと思うんですが。
大垣 私もそう思いました。
先生の著書である『認知症の人の心の中はどうなっているのか? 』(光文社新書)では、認知症のいわゆる「問題行動」にまつわる心理的な背景が書かれていますよね。
読みながら、「確かに、こういう状況に陥ったら、私でもこういう行動をしてしまうかも・・・」と納得させられました。
佐藤 ありがとうございます。
誰もが認知症になる時代。認知症でも楽しく生きられる社会を作ることも大事?
残間 認知症の患者数って、年々増え続けているんですよね。今(2021年)って、日本において、65歳以上で認知症の方ってどの程度いらっしゃるんですか。
佐藤 今は17パーセントぐらいですね。
大垣 現時点でも、統計では95歳以上の方のうち7割以上が認知症だそうですね。
個人的には、認知症って「病気」というより「老いの一形態」なのかな、と思ってしまうんですが。
残間 95歳以上の人のコミュニティでは「普通のこと」ですものね。
佐藤 そうですね。
大垣 だとすると、認知症について大事なのって、むしろ予防や対策よりも、認知症の人が当たり前に生活できる社会を作っていくことなのでは、と思うのですが・・・。
認知症を「病気」と捉えることも必要
佐藤 確かに、それも一つの考え方ですよね。
一口に「認知症」といっても、問題の出方や、症状の進行スピードは人によって異なるんですね。そして、周囲の対応のいかんによって、より事態が悪化してしまうこともある。
大垣 なるほど。
佐藤 ・・・ただ一方で、病気であると考えないと、治療の研究が進まない面もあります。
原因が何で、それは取り除くことができるのか、あるいは予防できるのか。薬や治療法は考えられそうか。こういった側面の問題も、継続して考えていかなければならないと思います。
大垣 なるほど・・・。「病気」として治療や予防をする側面と、社会で受容していく側面、二つが必要なんですね。
認知症の予防や治療は、どれぐらい進んでいる?
残間 認知症の研究って、今はどれくらい進んでいるのですか。
一般的には「治療はできないけれども、進行を止めることはできる」と考えている人が多いと思いますが。
佐藤 今はまだ、進行を止めることは難しいです。
例えば、アルツハイマー型認知症だと、症状が進む前に投与すれば効果のある薬が最近になって出てきました。
ただこれも、症状を改善させることは難しいんです。
残間 そうなのですね。
「こういう人は認知症になりにくい」とよく言いますが・・・
残間 予防の面ではどんなことに気をつければよいのでしょう。よく、「社交的な人は認知症になりにくい」なんてことが言われたりしますが・・・。
佐藤 うーん。実は、「こういう性格だから認知症になりにくい」ということは、なかなか言えないんです。認知症はあくまで脳、つまり体の病気ですから。
大垣 なるほど・・・。たとえば「明るい性格の人はガンになりづらい」とは言わないし、言えないのと同じですね。
佐藤 体や心の健康に良いことは、しても良いのでしょうけどね。
残間 よく言われている「良妻賢母の女性は、長い間感情を抑えてた人が発症しやすい」とか、「ガス抜きが上手な人はなりにくい」といった話を聞くと、たしかにそうかも、と思ってしまいますが。
佐藤 認知症になると、今までとは違う状態になるわけなので、それまでがあまりにも立派な方だと、落差に周囲がビックリすることはあるかもしれませんね。
それから、もともと人間関係が好きで社交的な方は、認知症になっても閉じこもらないことが多いので、症状が悪化しないまま保たれる可能性があります。
大垣 なるほど・・・。認知症の予防はできなくても、なってから「どんな認知症患者になるか?」はその人次第、ということでしょうか。
「きょうから認知症」なんて人は一人もいない
大垣 認知症って、ちょっとずつ進行していくじゃないですか。周囲や本人が「認知症かもしれない」って思いながら生活する期間がそれなりにある。
僕は、これが結構残酷だな、と思っていて。
残間 それを本人が気に病んだりしていると、本人はもちろんですが周囲も辛いですよね。
夫婦間の「もしかして」にはCANDy(日常会話式認知機能評価)を使うことも
大垣 先生の所属される大学研究室では、「CANDy(日常会話式認知機能評価)」という認知症発見のためのツールを公開されていますよね。
このツールって、「認知症かもしれない」という程度の、比較的早い段階でも使うことができるんですか。たとえば夫婦間などで。
佐藤 「CANDy」で認知症テストをする際は、普段の会話などでの印象をもとに、15の質問に本人以外の方が回答します。
質問は、たとえば
・会話中に同じことを繰り返し質問してくる
・話を早く終わらせたいような印象を受ける
・会話量に比べて情報量が少ない
といったような内容なのですが。
その質問の答えに対してさらに、どういうときにその質問に当てはまるのかについても記録してもらうと。
大垣 うーん。会話から、こういう傾向を聞き出すのって結構テクニックが必要そうですね。
佐藤 CANDyのサイトでは、質問項目と、会話する際のマニュアルがどなたでもダウンロードできるようになっていますよ。
マニュアルには、どういう会話をして、どういうポイントでチェックをするのかも書かれているので、参考になるかなと思います。
大垣 そうなんですね。それならチャレンジできそうです。
会話の中で認知症チェックができる
大垣 私は以前金融機関に勤めていたんですが、そうすると、お客様が認知症かもしれないというケースが少なからずあるんですね。
そんなとき、私の勤めていた機関では「長谷川式」というテストに基づいて、質問をすることになっていたんです。
その質問が、「私たちがいるところはどこですか」とか「知っている野菜の言葉をできるだけ多く言ってください」とかで。
確かに認知症かどうかを素早く判断できるのでメリットも大きいのでしょうが、これをお客さまに対してできるか、と言われると・・・という感じで。
そういう面からも、CANDyは、普通の会話をしながらチェックができるので、する側もされる側も気楽ですね。
(後編に続く)
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記事の後編では、研究で分かってきた、「老い」が人間にもたらすメリットを語ります。
介護の要らない人生よりも、介護を受けつつ愛される人生? 認知症研究者の佐藤眞一先生と考える、令和の認知症論(おとなライフ・アカデミーWEB)
お知らせ
パーソナリティの一人である大垣尚司さんが代表理事を務める「移住・住みかえ支援機構」(JTI)では、賃貸制度「マイホーム借上げ制度」を運用しています。
住まなくなった皆さまの家をJTIが借り上げて、賃貸として運用。
入居者がいない空室時でも、毎月賃料を受け取ることができます。
また、皆さまの大切な我が家をケアするパートナーとして、入居者トラブルにも責任を持って対応しています。
JTIは非営利の公的機関であり、運営には国の基金が設定されています。
カウンセリングやご相談は無料。資格を持ったスタッフが、皆さまの家についてしっかりとお話をうかがいます。
制度についての詳しい情報は、移住・住みかえ支援機構のサイトをご覧ください。
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