初パラリンピックで3つのメダル獲得!富田宇宙「同じパラリンピック選手でも考え方は違う。それも多様性」~ニュースワイドSAKIDORI
東京パラリンピックの競泳(視覚障害のクラス)で、3つのメダル(400m自由形、100mバタフライで銀メダル。200m個人メドレーで銅メダル)を獲得した富田宇宙選手が、5日、文化放送「斉藤一美ニュースワイドSAKIDORI!」内『応援!ユニバーサルスポーツ』に、スタジオ生出演。名勝負となった100mバタフライ決勝やライバルの木村敬一への思いを語った。
2019年1月以来のスタジオ出演となる富田は、黒のジャケット、黒のパンツ、白のシャツで現れた。斉藤キャスターとの再会をとても楽しみにしていたという。東京パラリンピックが閉幕して1ヵ月。冒頭、今、どんな気持ちかと斉藤に問われた富田は「(お世話になった)皆さんからたくさんのお言葉をいただき、皆さんにメダルを届けて、お礼を伝えている。(自分の活躍を)本当に喜んでくれて、改めてパラリンピックの力をずっと実感している」と静かに喜びを嚙みしめていた。
富田は3つのメダルを大切に持ってきてくれた。銀メダル、銅メダル、それぞれ美しく輝き、ズシリと重い。これらのメダルを獲るために、どれほどのトレーニングを積んだのだろうか。しかし、あまりそうしたことを言わないのが、富田の美学かもしれない。また生放送前には、メダルを収納するメダルケースの素晴らしさについても話してくれた。
話は本題に入る。東京パラリンピック前のNHKの特番で、富田がライバルの木村敬一との会話の中で、「木村君に金メダルを獲ってほしい」とコメントしたことが話題になった。その時、木村は富田に「俺は金メダルを目指していない奴と戦うのか」と言い返し、ムットした表情を見せていたのだが、その真相を斉藤が尋ねた。富田は「木村君に獲ってほしいというか、自分が獲りたいのと同じくらい木村君に獲ってほしいという言葉だった。やはり彼が金メダルを目指してきたことをずっと横で見てきた。僕は途中でクラスが全盲のクラスになって、後から木村君のライバルになった。元々は、(木村は)チームメイトの1人で、練習パートナーの1人だった。リオデジャネイロ・パラリンピックで木村君が金メダルを獲れなかった瞬間はすごく悲しかったし、その後、歩み出す時に苦労している姿も見ていた。彼を応援したいという気持ちは、そこにずっと変わらずあった。ただ、それだけのこと」と、いつもよりほんの少しだけ熱くなった。続けて富田がいつものトーンに戻って語った。「ただ、木村君との価値観の違いというか、それはすごく感じた。同じパラリンピックの選手であっても考え方は違う。それも多様性。そこからも学ばせてもらった」
他方、取材する側として見た場合、あの一件から、富田のコンディションが上がったのもまた事実だ。あの特番の収録は、5月のジャパンパラ競技大会より前に何回かに分けて行われていたとのこと。コロナ禍で練習環境が整わず、ふさぎ込む日々があり、3月の大会ではタイムを落としていた富田が、5月のジャパンパラで復活し、特に400m自由形で内定を勝ち取った時の表情は、久々に晴れやかだった。5月の時点で、富田は東京で戦えるフィジカルとメンタルを手にしていたのだ。(意外にも木村のコンディションが上がってきたのは8月に入ってから)そして引き続き、東京パラリンピックの時の富田のコンディションはとても良かった。木村の言葉は、富田に何らかの影響を与えたことは確かだと信じたい。
東京パラリンピックを取材した松井佐祐里キャスターが、富田対木村の名勝負について切り込む。今大会、2人の対決は2度あり、最初が200m個人メドレー。富田が銅メダル。木村が5位だった。そして2度目は、ライバルの木村がどうしても金メダルを手にしたかった100mバタフライだ。前半は木村がリードし、後半は富田が猛烈に追う。あと5メートルあったら、、、松井があえてそんな質問をぶつけると、富田は「あと5メートルは実際無いが、悔しさがあるとすれば、あの100mバタフライだけ、(今大会)自己ベストが出なかった。僕はずっと自己ベストを目標にして、自分の成長をあの大会場で示したいと戦ってきた。しっかりと自己ベストが出ていれば、金メダルだった。自分との戦いに負けた」と振り返っていた。それにしても、ここまで自分との戦いにこだわり、負けたことについて冷静に語れるアスリートがいるだろうか。アスリートは、勝利を目指し、相手に勝つことが目標だと勝手に考えていた身にとって、富田の言葉は本当に考えさせられる。富田は常に自分との戦いがメインだからだ。放送前にも、「メダルの色は関係ない、勝負は時の運」と言っていたほど。富田の存在感は、パラアスリートの中で本当に際立っている。多様性とは富田宇宙のことではないだろうか。
9月3日夜、東京アクアティクスセンターで行われた100mバタフライ決勝は、日本パラ水泳の歴史に刻まれる名勝負になった。日本人のワンツーフィニッシュ!パラリンピックの世界で、同じクラスに日本人が2人もいて、お互いに頂点をつかむ実力があり、何よりお互いがお互いを高め合っていることは奇跡だ。木村が動なら、富田は静。木村が勝利にこだわり、タレントのような輝きを放つタイプの一方、富田は我が道を行く修行僧や哲学者の雰囲気がある。このコントラストは、取材する側にとってたまらない(ワクワクするという意味だ)。話す内容もそれぞれが味わい深い。
ちなみに、富田は文化放送9階のスタジオフロアに入った際、「以前、石田純一さんがコメンテーターでしたよね?」とスタッフに訊いてきた。2019年1月当時、火曜日の番組コメンテーターだった石田さんと、スタジオの出演者の入れ替えの際、少し言葉を交わしたことが今も印象に残っているとか。「あと、もう1人(のキャスター)は竹田さんという方でしたよね?彼女が企画した環境問題の番組を見ましたよ。キャスター以外に、そうしたことに取り組んでいるのが面白いなと思いまして」当時の火曜日のサブキャスターは竹田有里さんで、環境問題をライフワークとしている。こうした富田の記憶力にも驚いたが、これも彼の律義さでもあり、人間性でもある。
次回(10月12日)の『応援!ユニバーサルスポーツ』も、引き続き富田宇宙選手がゲストで、来月から競技力向上のため、スペインに行くという。そのあたりを掘り下げる予定。是非、聴いてほしい。
『斉藤一美ニュースワイドSAKIDORI』は平日午後3時30分~5時50分、文化放送(AM1134KHz、FM91.6MHz、radiko)で放送中。
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