それでもやっぱり、家で死にたい。上野千鶴子さんの「おひとりさま」シリーズ、最新刊を語る(前編)(おとなライフ・アカデミーWEB)
今を楽しく生きるオトナ世代のための情報番組「大垣尚司・残間里江子の大人ファンクラブ」。
残間里江子さん(フリープロデューサー)と、大垣尚司さん(青山学院大学教授、移住・住みかえ支援機構代表理事)が、お金や住まいの話を中心に、暮らしにまつわる様々な事柄を語り合います。
2021年5月1日の放送は、ゲストに社会学者の上野千鶴子先生をお招きしました。ラジオの内容を前・後編の記事にまとめてお送りします。
今年1月に発売された『在宅ひとり死のススメ』がベストセラーとなっている上野さん。
一人暮らしでも、認知症リスクを抱えても、病気があっても、家で死ぬにはどうすればいいのか――。一人暮らしで楽しい老後を送る方々が増えてきた時代だからこそ気になるテーマです。
執筆の背景などについて、詳しくうかがいました。
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上野千鶴子さん
社会学者、東京大学名誉教授、認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。
1948年、富山県生まれ。女性学、ジェンダー研究のパイオニア。現在は高齢者の介護とケアの問題について研究している。
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『在宅ひとり死のススメ』は、大人世代の必読書
残間 『在宅ひとり死のススメ』、拝読しました。大人世代の必読書だと思います。非常に多岐にわたるお話を説得力を持って書かれていますよね。それでいて、肩肘張らないというか。
上野 ありがとうございます。残間さんにそう言ってもらうと嬉しいです。
残間 本当に参考になりました。晩年に向かって、座右の書として持っておきたいと思っています。
「在宅ひとり死」は過激すぎる?! 編集者が及び腰な中での執筆
残間 「在宅ひとり死」という言葉が、まず、いいですよね。
これまで、一人暮らしの老人が家で一人で亡くなるのは全て「孤独死」と考えられてきましたよね。でも、「孤独死」ってネガティブな印象も強くて。
「在宅ひとり死」だと、ポジティブな響きがあっていいですよね。
上野 言葉がないから、勝手に作ったんです。実は、こういうタイトルで本が売れるとは思わなかったんですよ。編集者にも「タイトルが過激だから変えたほうがいい」と言われたりして。
ようやくこのタイトルで本が出せるような時代になりました。
「上野は国策に加担した」と言われ・・・。呉越同舟と語る意図は
大垣 僕は最初に上野さんが在宅ひとり死を提唱されたとき、少し驚いたんです。
というのも、「家で死ぬ」って、ともすれば「看取りや介護を家族に全て負担させる」と捉えられてしまうというか。
上野 そうですね。厚労省は在宅介護を推奨していますが、それは、そちらのほうが国にとって安上がりだからです。
大垣 そうなんです。さらに、介護はこれまで「女の仕事」として捉えられて、プロフェッショナルな仕事として見なされてこなかったわけでしょう。
上野さんは日本フェミニズムを大きく前進させた先鋒者であるのに、ここにきて、在宅での介護や看取りを推奨されるというのは、少し、これまでおっしゃってきたことと食い違うのではないかと思ったんです。
上野 実はわたしも在宅派なので、「上野は国策協力者になった」と言われたりしたんですよ(笑)。
もちろん、国が在宅介護を推進するのは社会保障費を抑制したいという不純な動機からです。
でも、同時に、家で死ぬことは多くのお年寄りにとっての希望でもあります。
大垣 なるほど。
上野 それなら呉越同舟でも、行き先が同じなら、在宅ひとり死がしやすい制度や環境を作っていけばいいと思いました。
介護保険、育てていく? 守っていく?
大垣 「呉越同舟」の話でいくと、著書の中で介護保険の重要さについても説かれていますよね。これも、案外こういうことを言っている人って、今までいなかったなと思うんですが。
上野 そうなんです。介護保険制度は2000年にできて、去年で「成人式」を迎えました。ぜひ言いたいのは、日本の介護保険って、本当に素晴らしい制度なんだということです。
制度のもとで現場の経験値が上がってきました。在宅看取りというと、おカネがかかるとお感じでしょうが、つい最近も在宅看取りを実践している訪問医の方から「医療保険と、介護保険の本人1割負担だけで、独居でも在宅看取りができるようになってきました」とご報告をいただきました。
大垣 在宅ひとり死には、介護保険は欠かせないと。
上野 はい。現場の専門職が、もう十分に育ってきました。あとはこれを守っていかなければなりません。
在宅ひとり死の費用は最大でも400万円。この額、実は、日本人の多くが捻出できる可能性が
大垣 本の中には、在宅で死ぬための費用についてのお話がありますよね。
介護サービスの方にうかがったところ、在宅ひとり死の事例で自費負担がもっとも高額だったのは、月額160万円が約2ヶ月半で、およそ400万円だったとか。
上野 はい。30万円から300万円あれば足りるんですよね。
大垣 実は、この額って、日本人の終身生命保険の平均とほぼ一緒なんですよ。ちょうど400万円なんです。
現状、生命保険は亡くなったあとでないと受け取れないんですが、これを存命中のどこかのタイミングでお金にできれば、ぴったりだなと。
少ない自己負担でも、在宅ひとり死が可能になってきた
上野 保険もありますが、実は高齢者の方って、300万円程度なら貯金を持っている方も多いと思いますよ。
というのも、独居で相続人のない方が遺されるお金は平均して600万円だそうですから。生きてるあいだに、どんどん使っていただければいい。
鈴木 そんなに多いのですね。
上野 それに加えて、現場の経験値もどんどん上がってきています。
私が介護保険について研究を始めたのは2000年代ですが、この頃には「一人暮らしで家で死ぬなんて無理」と言われていました。
それが、ここ2〜3年で、現場が急速に変わってきて。在宅ひとり死が現実的な選択肢になってきました。かつては「ご家族がいないと無理」と言われていたのが、最近では「外野のノイズが少なければ少ないほどやりやすい」と、専門職がおっしゃるようになりました。
残間 そうなのですね。
後編は、上野さん、残間さん、大垣さん、三者それぞれの「介護観」について語ります。
家族の介護は、背負える分だけ負担して。上野千鶴子さんが考える、令和の「死に方・看取り方」(おとなライフ・アカデミーWEB)
ベストセラーの『在宅ひとり死のススメ』、絶賛発売中です
上野千鶴子さんの「おひとりさま」シリーズ最新刊『在宅ひとり死のススメ』が、文春新書から、税込定価880円で発売しています。
電子版も各書店サイトで好評販売中。
書店でも手に取ってご覧ください。
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