『大垣尚司・残間里江子の大人ファンクラブ』    フレイル研究の第一人者 飯島勝矢さんを迎えて

『大垣尚司・残間里江子の大人ファンクラブ』    フレイル研究の第一人者 飯島勝矢さんを迎えて

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情報番組「大垣尚司・残間里江子の大人ファンクラブ」では、残間里江子さん(フリープロデューサー)と、大垣尚司さん(青山学院大学教授、移住・住みかえ支援機構代表理事)が、お金や住まいの話を中心に、大人世代のあれこれを語ります。

この連載は、番組内の人気コーナー「おとなライフ・アカデミー2024」の内容をもとに大垣さんが執筆した、WEB限定コラム。ラジオと合わせて、読んで得する家とお金の豆知識をお楽しみください。

今回は特別編。フレイル研究の第一人者、飯島勝矢さんをゲストにお迎えした、2024年9月7日放送のダイジェストをご紹介します!

<飯島勝矢さん プロフィール>
1990 年東京慈恵会医科大学卒業、千葉大学医学部附属病院循環器内科入局、東京大学大学院医学系研究科加齢医学講座 助手・同講師、米国スタンフォード大学医学部研究員を経て、2016 年より東京大学高齢社会総合研究機構教授、2020 年より同研究機構教授・機構長、および未来ビジョン研究センター教授

「負のドミノ倒し」でフレイルへ
鈴木 飯島先生は、フレイル研究の第一人者として知られています。「フレイル」というのは、年を取ってだんだん衰えてきて、健康な状態と介護が必要な状態の、真ん中あたりを指す言葉、今日はどうすればフレイルになるのを防げるのか、じっくり伺っていこうと思います。残間さんは先日、先生の講演をお聞きになったんですね。

残間 はい。何人かの人と聞かせていただいて、みんなやっぱり「あ、そうか」って。一番の関心事じゃないでしょうか。でも単に健康といっても身体だけのことじゃないので、そのあたりを聞きたいと思っています。

鈴木 そもそもフレイルっていうのは、どういう状態のことを指すんでしょう?

飯島 体が年を取ることによって衰えてくるっていうのは、ある意味当たり前なんですけれども、それが体の筋肉とか物理的なパーツだけでなく、心、そして社会性、人とのつながり、日常生活の作り方…そういうところから、ちょっとずつ陰りがでてきて、最終的に筋肉がどんどん弱くなっていく。いわゆる健康診断の臓器別のチェックではなかなかわからないんです。立体的にズルズル…っと負の連鎖で落ちていく。これがフレイルっていうやつなんです。

大垣 どっちかっていうと、気持ちの方が先なんですか?

飯島 気持ちもそうなんですけど、十数年、ご高齢の方の大規模な調査をやってきますと、やっぱり人とのつながり、社会性というところからけっこう陰りが出て、そこで動かなくなるとか喋らなくなるとか。そしてドミノ倒しが始まっていくという流れでしょうね。

残間 フレイルっていうと、みんな、イコール筋肉が衰えるって思いがちですよね。

飯島 そうですね。

残間 それも大きいんでしょう?

飯島 当然、筋肉が落ちてきて最終的にパフォーマンスが鈍くなってくるわけですけど、ある日突然、いきなり筋肉がガタッと落ちるわけではなく、もっと前半戦にプロローグと言いますか…いろんな陰りがドミノ倒しになっている。そこから見つめなおして底上げしていただきたいわけです。

40代からフレイルの兆候が
残間 何歳ぐらいからなんでしょう。

飯島 ご高齢の方々のデータを中心にエビデンスをベースとして打ち立てた概念ではあるので、比較的ご高齢の方が対象なんですけど、もう一つか二つ手前の世代、40代くらいから「陰り」というものが出始めています。

大垣 たぶん、役職定年きて、定年きたりすると、絶対にガクン、と…

飯島 そうですね。

大垣 確かに喋らないと…声を出しているとけっこう体を使ってますよね。喋らないと確かに落ちるんでしょうね。

飯島 よく健康長寿のために体操とか、タンパク質をしっかりと…という定番があるんですけど、最終的にはよく喋り、しかも喋ってる相手と仲良く、また来週も会いたいよね、というそこの気持ちですよね。一方的に喋るのも重要なんですけど、やっぱりキャッチボールができて、次に何が待っているのかというところが、おそらくフレイル予防の一番の好循環のところだと思います。

大垣 2年前からコーラスを始めたんです。月に3回ぐらいめちゃくちゃ声を出す、3時間ぐらい歌ってるんですけど。走ってるより体力を使う感じですね。

飯島 おそらくコーラスは、物理的に肺活量とか、横隔膜を使って、物理的な部分もありますが、みんなで一曲しっかりした歌を仕上げたという達成感も非常に大きいんじゃないでしょうか。

大垣 歌も一緒に習い始めたんですけど、このぐらいの年になると、上達していくものってないですよね。たまたまノドを使ってなかったからかもしれないけど、何もないところから始まることって、60過ぎるともうないんですよ。ところがそれって何もないところから始めてるからうまくなっていく。そうすると面白い。

残間 ものすごくうまい。こんな声からは想像できない(笑)。

飯島 自分がちょっとした次なるステージに入れたかな、というのが感じられると嬉しいし、それがいわゆる「継続性」というものになってくるんです。

大垣 そうなんです。でもそれを見つけるのは難しいかもしれませんね。

文化活動には運動以上の効果も
残間 先生の話を聞いてね、あ、と思ったのは、体操とかやらなきゃいけないと思って去年からやり始めましたが、それと同じくらい…たとえば運動は何もやらなくても、合唱とか趣味の会に入っていれば、同じくらいの効果があるんですね。

飯島 そうなんです。大きな二つのエビデンスを出しておりまして、一つは地域の元気にされているご高齢の方の全員のデータを集めて…運動習慣バリバリで、それこそ一人でウォーキングっていう方もいるんですけど。一方で、運動習慣がないんだけれど、文化活動や地域ボランティア活動みたいな、運動じゃないんだけど、結局ワイワイ集まっているという。

大垣 お喋りが大事なんだ。

飯島 はい。そういう方々はまったく負けない、むしろそちらの方がベターだったりするんですね。

大垣 女の人が長生きなのは、それじゃない? もしかしたら…

残間 そうかもしれない(笑)。

飯島 ですから、そういう意味では、やっぱり一人で黙々と、眉間にしわを寄せながら炎天下で走って、っていうのも一つなんですけど、むしろそこまでの運動をやらなくても、結果的に動いてるっていうことですね。

大垣 男は大変ですね。比較感としては男の方が絶対難しい。

飯島 そうですね(笑)。

残間 男の人は黙々と苦虫を噛み潰して歩いてる人、多いよね。知り合いでも、妻と毎朝歩いてる人がいます。妻がどんな顔してるかわからないけど、無理やりかもしれない(笑)。でもご本人はすごくうれしそう。

フレイル予防 3つの柱
大垣 3つの柱っていうのがあるんですね。

飯島 はい。一つ目は「栄養」というくくりになりますけど、具体的には食事と口腔機能の維持向上。ただ栄養価の高いものを、というよりしっかり噛んでちゃんと咀嚼して食べてないと、というところです。二つ目は「身体活動のアップ」ということなんですけど、純粋な運動も重要ですが、もう一つ非運動性の活動…運動の範疇ではないんだけど、結果的に妙にいっぱい動いちゃってるらしい、という…それは庭仕事も入るかもしれない、お孫さんの世話かもしれない、住民ボランティア的なことかもしれない。これもかなりバカにならないという結果が出ています。そして三つ目が食事と運動をセットで考える「社会参加」。すなわち何を食べるのかとか、きょう何歩歩いたか…ではなく、誰と食べているか、どういう人たちと一緒に、次に何が待っているのか。そこらへんが重要になってきて。この三つの柱を三位一体として自分の日常生活を「チョイ足し」…ちょっとでもアレンジして、底上げできるかどうかということです。

残間 一人暮らしのお年寄りがだんだん増えてくると…私も一人暮らしで不愛想な猫しかいないけど、やっぱり自分で外に出ていかないとね。ずーっと家にいちゃうと…

大垣 残間さんは大丈夫、交友が非常に広い(笑)。

残間 そうでもないんですよ、うちにいると(笑)。でも退職した男の人は困るって言ってたけど、ホントよね。スリーピング・ブッダみたいに…野球だけ見てる人いるもん。

大垣 認められなくなることっていうのが大きい可能性ありますね。

飯島 特に男性は、我々の研究でもそうですけど、価値観っていうものに妙にこだわっちゃうのが男性なんです。自分は認められてるんだ、自分ってけっこう頼りにされてるんだ、そこがメインエンジンになりやすい。

残間 先生が地域でやってらっしゃる「フレイルサポーター」には男性もけっこういますよね。やっぱり一歩踏み出すと、いけるんじゃないですか?

飯島 そうですね。男性がなるべく入りやすい養成、研修をやっています。各市町村自治体が、導入しましょうという最初のボタンを押してくれないと我々のシステムが導入できないんですけどね。脳梗塞後で半身マヒの杖歩行の方でも、サポーターをやられてる方がいらっしゃいます。すべてが完璧なシニアだけが入れるというものではなく、自分のためと地域貢献ですから。

大垣 そういうメソッドは一般には見られないんですか?

飯島 ホームページの情報などで出しておりますけれど…。

大垣 先生もYouTubeなどやられたらいいんじゃないでしょうか。

飯島 いいですね(笑)。先ほどの男性をなるべく一人でも多くというのは、女性は一般的にチラシを出せばけっこううわーっと来てくださるんです。男性はこだわりというか、何を目的としてるんだ、何を目指しているのかがクリアでないと…まあ、ちょっとややこしい性別なんですよね(笑)。

残間 この間、私がやった講座では、先生はものすごい人気で。男の人が多かったですね。

筋肉はあっという間に委縮する
大垣 私は20年ぐらい前、誰も考えていなかったころから「金融ジェロントロジー」を提唱して…老後のお金の問題が重要だと思っているんですが、フレイルの面では「お金」の問題ってどうなんでしょう。

飯島 認知機能が低下していくと、特にご飯を食べてとか、お手洗いに行ってとか、ベーシックなところではなく、もうちょっと高次機能を使うところ…そこの最たるものが「お金の管理」。管理だけじゃなくて、たとえばスーパーの買い物で「1008円」とかだったら、なるべく小銭を増やしたくない、というのがありますよね。それを常に1万円札を出してしまうとかですね。そういう細かい計算が頭の中でささっとできない、というかしなくなってしまう。そうなってくると、非常に認知機能というか、フレイルに密着していますね。

大垣 支えになるお金が減ってくると弱気になったりとか…。

飯島 そうかもしれませんね。アクティブに活動するときは、時には多少お金もかかったりするかもしれませんから、そこはね…。

大垣 男は60超えたら意識しないと…。

飯島 いわゆる「現役世代」は、イヤでもやらざるを得ないというものが目の前にしっかりありますけども。定年、リタイアするとやっぱり多趣味の男性はすーっといけるんですけどね。大きな分岐点になってしまうと、徐々に「社会的フレイル」と言いますが、人とのつながりがどんどん薄くなって。決して健康診断のデータは悪くないんだけど、足腰も、筋肉はそこまで衰えてないんだけど、どんどん生活不活発になっていく。そうすると筋肉はあっという間に委縮していってしまうので。

残間 習い事も男の人の方がやめる率高いね。どうやったら引っぱり出せるんだろう。女の人が誘えばいいのかな。

大垣 それはあると思いますよ。

飯島 それと後は、たとえば演奏した後の脚光を浴びているとか…やっぱり「見られてる」っていう意識ですよね。気持ちいい、っていう感じです。そこはけっこう、女性だけではなく、男性はとくに強いんじゃないかと思います。

65歳で「独身寮」入りは!?
大垣 学校へ行く、というのはどうですか?

飯島 当然、向学心があれば。

大垣 そういうの、やった方がいいかもしれないね。大学でクラブ活動もちゃんとやらなきゃいけないことにして。

飯島 おそらくですが、今までの研究の中では、物理的に「行く」ということがすばらしいのではなく、行って積極的にどう学ぼうとするのか、何を自分で吸収しようとするのか、アクティブなところがないと。

残間 意欲がないとダメですよね、ただ座ってるだけでは。

大垣 昔の独身寮みたいなところに行っちゃったらどうかと。プライバシーのない世界ってあったじゃないですか、昔(笑)。

残間 65歳くらいになってそういうところ行くの?

大垣 僕は全然抵抗ないけど。

残間 僕はね(笑)。ほかの人はもうちょっと難しいと思うんじゃないの?

大垣 でも一人よりみんなの方が楽しいですよ。

残間 男同士って、老人ホームでもなかなか仲良くなれないよ。一人でいる人、多いですよね。

大垣 そこまで行ったら、もうフレイルなわけでしょう。だからその前ですよね。

飯島 その段階は、かなり進んでますよね。

残間 でもフレイルになっても戻れるんですよね。

飯島 フレイルっていう概念の、基軸になっている考え方に「リバーシビリティ」…まだ戻せる段階なので、早めに気づいて腰を上げた方がいいというものがあります。男性のお話が出ましたが、私が全国展開しているフレイルサポーターに、けっこう男性の割合は高いんです。やっぱり全国共通、オールジャパンのプラットフォームをやっているという感じがある。北から南まで同じユニフォームを着て、同じ方向を向いて同じチェックをやり、いろいろ住民目線で情報を共有していくということなんで。各自治体ごとの集団で、うちは青だ、うちはオレンジだっていうのはありますけど。ホームページには情報がいっぱい上げてあります。

大垣尚司 プロフィール
青山学院大学 法学部教授、一般社団法人 移住・住みかえ支援機構代表理事。

第一線で培った金融知識をもとに、住宅資産の有効活用を研究・探究する、家とお金のエキスパート。

東京大学卒業後、日本興業銀行、アクサ生命保険専務執行役員、日本住宅ローン社長、立命館大学大学院教授などを経て、現在、青山学院大学法学部教授。
2006年に「有限責任中間法人移住・住みかえ支援機構」(現、一般社団法人 移住・住みかえ支援機構)の代表理事に就任。
日本モーゲージバンカー協議会代表理事を兼務。著書に『ストラクチャードファイナンス入門』『金融と法』『49歳からのお金ー住宅・保険をキャッシュに換える』『建築女子が聞く 住まいの金融と税制』『生きづらい時代のキャリアデザインの教科書』など。

家とお金に関するご質問、お待ちしてます
番組では、家とお金にまつわるメールやご質問をお待ちしています。
宛先は、otona@joqr.netまで。

※この記事で掲載されている情報は全て、執筆時における情報を元にご紹介しています。必ず最新の情報をご確認ください

お知らせ
パーソナリティの一人である大垣尚司さんが代表理事を務める一般社団法人「移住・住みかえ支援機構」(JTI)では、賃貸制度「マイホーム借上げ制度」を運用しています。

住まなくなった皆さまの家をJTIが借り上げて、賃貸として運用。
入居者がいない空室時でも、毎月賃料を受け取ることができます。
JTIは非営利の公的機関であり、運営には国の基金が設定されています。

賃料の査定や、ご相談は無料。資格を持ったスタッフが対応いたします。

制度についての詳しい情報は、移住・住みかえ支援機構のサイトをご覧ください。

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大垣尚司・残間里江子の大人ファンクラブ

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