【アナコラム】長谷川太「『伝える』『言葉』って難しいものです」
文化放送メールマガジン(毎週金曜日配信)にて連載中の「アナウンサーコラム」。週替わりで文化放送アナウンサーがコラムを担当しています。この記事では全文をご紹介!
▼1月17日配信号 担当
長谷川太アナウンサー
年末から年始にかけて今年も競馬の有馬記念と、箱根駅伝の実況を担当しました。
競馬の実況は「先頭はダノンデサイル 外から2番手はシャフリヤール
内からレガレイラは3番手!さあゴールまであと200m!」とこんな感じになり、
駅伝の実況は「先頭は青山学院大学 第2位は駒澤大学 そして國學院大學が第3位に上がってきました。さあ大手町フィニッシュまであとわずか!」
とこんな感じになります。
競馬も駅伝も実況種目としては同じ「レース物」なのですが、
言葉の使い方に大きな違いがあることに気が付きますか?
そう レースの途中 競馬の場合、前から2番目にいる馬は「2番手」と実況し
駅伝の場合、前から2番目にいるチームのことは「第2位」と実況します。
「2番手」と「第2位」 大きな違いがあります。
なぜこのような「違い」が生じるのでしょう。
放送で使う言葉は、放送を見たり聞いたりする人たちとの「共通認識」で出来上がります。
アナウンサーが勝手に新しい表現を使っても
リスナーにその言葉の意味が分かってもらえなければ伝わりません。
例えばサッカーの実況で昔は「センタリング」と言っていたプレーを、
2002年の日韓共催W杯の頃から「クロス」と言うようになりました。
日本サッカー協会が当時制作した「用語ガイドライン」に実況アナウンサーも倣ったのです。
でも昔からサッカーの実況を担当していた私は、「クロス」と実況してリスナーにそのプレーをわかってもらえるかとても不安でした。
だからちょっと工夫して「稲本 今右サイドからクロス!センタリングを上げた!ゴール前!!」というように2つの表現を並べて実況していました。
今では「クロス」という表現は完全に一般化しましたよね。時間をかけて「共通認識」になったのです。
さて競馬と駅伝の話に戻りますが、
実は私は駅伝の実況で「前から2番目にいるチーム(選手)を第2位」と表現することにやや違和感があるのです。
レースが終了し順位が確定したら「第〇位」
レース中、まだ激しく順位争いをしているときは「〇番手」と表現したほうが、
まだレースの途中であることを伝えるという意味でもわかりやすく適切なのではないか、と思うのです。これってラジオを聞いてくれているリスナーとの「共通認識」にならないかなあと思うのです。
五輪中継の時にNHKが制作するガイドラインに、
「順位を表すときの「2番手 3番手」は競輪用語、ギャンブル用語なので使用は控える」という記載があるので、民放もそれに倣っています。
文化放送でも、駅伝の中継では「2番手 3番手」ではなく
「2位 3位」と表現しましょうと決めているので、
私も駅伝を実況するとき「2番手 3番手」という言葉は絶対に使いません。
でも個人的にはどうも違和感があるので、
レースの途中では「駒澤大学は、現在、第2位」という風に「現在」とか「今」とか言葉をいれて、まだレースの途中であることを何とか伝えようと工夫しているのです。
それでも、いつもなんだか、これでいいのかなあって思いながら実況しているのです。
「伝える」「言葉」って難しいものです。
「駒澤大学は2番手!」と実況すれば、まだレースの途中であることが伝わります。
「駒澤大学は第2位!」と実況すると、既にレースは終了して
その結果であるという印象を受けませんか。皆さんはどう感じますか?