『大垣尚司・残間里江子の大人ファンクラブ』 郵便事業について考える
情報番組「大垣尚司・残間里江子の大人ファンクラブ」では、残間里江子さん(フリープロデューサー)と、大垣尚司さん(青山学院大学教授、移住・住みかえ支援機構代表理事)が、お金や住まいの話を中心に、大人世代のあれこれを語ります。
この連載は、番組内の人気コーナー「おとなライフ・アカデミー2024」の内容をもとに大垣さんが執筆した、WEB限定コラム。ラジオと合わせて、読んで得する家とお金の豆知識をお楽しみください。
★メールまとめ
郵便料金値上げは、悪循環にしかならないのでは…
★メール本文
先日郵便局に行ったら、「10月から値上げになるんです」と、局員の方が申し訳なさそうにチラシをくれました。
「郵便事業の安定的なサービスを維持していくため」だそうですが、どう考えても、さらに利用者が減って、また値上げ…という悪循環になりそうな気がします。
手紙、ハガキのヘビーユーザーとしてはとても悲しいです。
どんな田舎に暮らしていても、均一料金でサービスを受けられる、この仕組みは、どんなに赤字だろうと、国が補填して維持すべきじゃないかと思います。
(練馬区 切手大好きおばさん)さん
郵便事業は日本郵便の独占か
この話は「信書の民営化」の問題につながります。現実には「民営化」されてないですよね。一時期、宅配の人がメール便をやってたけどダメになって、結局、郵便局しかやらなくなってしまった。実は、法律では「民営化してもいい、誰がやってもいい」ということになっていて、郵便局しかやっちゃいけないわけではありません。「民間事業者による信書の送達に関する法律」には免許を取ればだれでもできる、と書いてあります。
それでは、条件を満たせば大垣郵便局が作れるのでしょうか? そういうのを、もし始めたとして、免許をもらわないでやると、当然のことながら、大垣郵便局はダメです。でも大垣さんが5円で、日本郵便よりずっと安く届けてくれると言って、その私にハガキを預けた残間さんはどうなるか? これも罪になるんです。どのぐらいかというと3年以下の懲役または300万以下の罰金…。日本郵政以外は「何人(なんぴと)も」他人の信書の送達を業としてはならない、と書いてある。そして「何人も」この規程に違反して信書の送達を業とするものに信書の送達を委託してはならない…って書いてあります。
日本郵政以外は事実上不可能
でも民営化するときにやっていいことになったんですよ。そしたら、すぐやりそうな業者はいくつか思い浮かびますよね。でも、やってないでしょ。
なぜかというと、免許を取る条件として「日本全国の自治体ごとの人口に応じて」その数だけ、絶対に郵便局を置かないといけないというのがあります。法律通りに単純に計算すると、10万か所ぐらいの郵便局が必要になるんです。それで、全然無理っていう話になって…それできっと宅急便の人とか怒ってんじゃないかと思います。
ハードルが高い理由は
なんで「信書」って、「何人も」とか300万以下の罰金とか、そんなに厳重なのかわかりますか? 「通信の秘密」が憲法で保証されているからです。昔は途中で手紙を誰かが開けて見てた。当たり前に「検閲」をやっていたわけですよね。そういう時代から、ちゃんとした民主主義の時代になるときに、一番大切な原理の一つが、自分で出した郵便の中身を人に見られない、ということ。だから、郵便をやろうという人は、厳重に免許で管理しようということになったわけです。
でもね、よーく考えたら、ホントに大事な書類でも、いまは平気でpdfをメール添付して送ってますよね。それをネット事業者が検閲してないかというと…、わからない。だから、なんだかよくわからなくなってきているんです。
郵便がどれだけ大切な存在なのか
そんな中で、郵便という、一個だけでも確実に検閲されないものがあるということを守るのがどのぐらい大事なのか、考えなくてはいけない。大事なものだとしたら、それに対してたくさんお金を払う、ということなのかなあ、と思います。残間さん世代は手紙好きな人が多いですよね。やっぱり手書きのほうが伝わりやすいということもあります。でもそれって、ある種「効果」を求めてやっているわけで、情報伝達だけだったらLINEでいい。手紙を出すのは情報以上のものをそこに付け加えたいわけだから。今でも宅急便は離島まで行きます。宅急便の事業者にはポストがないだけで。だから、どこかチグハグになってきていて。この議論をするときは、さっき話したように、「日本郵便以外は絶対ダメ」みたいなことになるんですけど。でも、こうしたことは郵便以外の分野でもたくさん起きているように思います。民営化してだいぶ時間が経ちましたから、またこうした議論をしてもいい時期かもしれません。
今日は「これからの郵便事業」について考えてみました。
メールをお寄せいただき、ありがとうございます。
大垣尚司 プロフィール
青山学院大学 法学部教授、一般社団法人 移住・住みかえ支援機構代表理事。
第一線で培った金融知識をもとに、住宅資産の有効活用を研究・探究する、家とお金のエキスパート。
東京大学卒業後、日本興業銀行、アクサ生命保険専務執行役員、日本住宅ローン社長、立命館大学大学院教授などを経て、現在、青山学院大学法学部教授。
2006年に「有限責任中間法人移住・住みかえ支援機構」(現、一般社団法人 移住・住みかえ支援機構)の代表理事に就任。
日本モーゲージバンカー協議会代表理事を兼務。著書に『ストラクチャードファイナンス入門』『金融と法』『49歳からのお金ー住宅・保険をキャッシュに換える』『建築女子が聞く 住まいの金融と税制』『生きづらい時代のキャリアデザインの教科書』など。
家とお金に関するご質問、お待ちしてます
番組では、家とお金にまつわるメールやご質問をお待ちしています。
宛先は、otona@joqr.netまで。
※この記事で掲載されている情報は全て、執筆時における情報を元にご紹介しています。必ず最新の情報をご確認ください
お知らせ
パーソナリティの一人である大垣尚司さんが代表理事を務める一般社団法人「移住・住みかえ支援機構」(JTI)では、賃貸制度「マイホーム借上げ制度」を運用しています。
住まなくなった皆さまの家をJTIが借り上げて、賃貸として運用。
入居者がいない空室時でも、毎月賃料を受け取ることができます。
JTIは非営利の公的機関であり、運営には国の基金が設定されています。
賃料の査定や、ご相談は無料。資格を持ったスタッフが対応いたします。
制度についての詳しい情報は、移住・住みかえ支援機構のサイトをご覧ください。
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大垣尚司・残間里江子の大人ファンクラブ
土 6:25~6:50
楽しいセカンドライフを送るためのご提案などがたっぷり! 金融・住宅のプロフェッショナル大垣尚司と、フリープロデューサー残間里江子が 大人の目線でお届けします。…