【アナコラム】斉藤一美「箱根駅伝に向けて、立教大学を取材」
文化放送メールマガジン(毎週金曜日配信)にて連載中の「アナウンサーコラム」。週替わりで文化放送アナウンサーがコラムを担当しています。この記事では全文をご紹介!
▼12月27日配信号 担当
斉藤一美アナウンサー
箱根駅伝予選会トップ通過の勢いを加速させ、一気に63年ぶりのシード権獲得を狙う立教大学の取材へ行ってきました。
エントリーメンバー中、私が気になったのは山本羅生(らいき/4年)。前回大会で5区を任され山を上った猛者が、今季はすっかり成りを潜めていたからです。
高林祐介監督(後列左)と山本羅生(前列右から二人目)
本人によれば「今年は体調不良が続き、朝練習もできない状況から抜け出せなかったが同期全員がずっと励ましてくれていた」とのことでした。
山本は大学生活最後の一年を迎える春先に仙骨(脊柱の最も下にある骨)を骨折したことから負のスパイラルに陥ります。直後に就任した高林祐介監督が練習内容を見直したことでチームそのものは一気に強化されていきました。しかし、故障ですっかり出遅れた山本は長い距離をじっくり走る新たなメニューに順応するまで時間がかかってしまったのです。
「7月に復帰したが全体の6~7割しか練習を消化できない我慢の日々が続き、夏合宿後半では夜に眠れなくなった。2時間寝たら目が覚めて1時間起きてしまう悪循環に陥った。結局トータルで3~4時間睡眠にとどまり続け、食事中は吐き気を催すこともあった」とのこと。検査の結果、山本は”軽度のうつ状態”と診断されます。我慢しすぎていたことが原因です。発症直後は周りの励ましの声も重圧に感じてしまい陸上競技を辞めることまで考えそうですが、山本羅生は見事に復活しました。
10月の箱根駅伝予選会と11月の全日本大学駅伝で魂を剥き出して走る仲間たちを見て自然と「頑張りたい」と思えるようになったのです。「無くしかけていた気持ちが甦ってきた」というタイミングでしっかりと走り始めた彼は最後の最後で16名の箱根駅伝エントリーメンバーに滑り込みました。
「予選会までは全く走っていなかったが今はもう大丈夫。昨日のポイント練習は入学以来最高の内容だった。練習をやってきた期間は短いが明らかに感触はいい。おそらく過去に積み上げてきたものが良い形で引き出されている。(強豪・駒澤大学で2年間コーチを経験してきた)高林監督の手腕のおかげ。箱根駅伝に間に合ったのは同期全員が精神的に支えてくれたから。監督も根気強く”待ってるよ”と声をかけ続けてくれた。チームの想いを受け止めた4年生の意地とプライドが今の自分にはある。前回よりも箱根に懸ける気持ちは強い。だから絶対に速く走れる」と山本は断言しています。
5区のランナーに最も必要なものはガッツです。絶望から這い上がってきた男なら最高地点874m・天下の剣たる箱根の山を攻略できるはずです。もちろん順位が良ければ万々歳ですが、最後の箱根で納得のいく走りを見せて卒業する選手が一人でも多く出ることを1/2・3の2日間、心よりお祈りいたします。
【箱根駅伝・往路総合実況/斉藤一美】