『大垣尚司・残間里江子の大人ファンクラブ』 ミャンマー住宅開発インフラ銀行元COO・泉賢一さんが、ミャンマークーデターを語る(前編)
今を楽しく生きるオトナ世代のための情報番組「大垣尚司・残間里江子の大人ファンクラブ」。
残間里江子さん(フリープロデューサー)と、大垣尚司さん(青山学院大学教授、移住・住みかえ支援機構代表理事)が、お金や住まいの話を中心に、暮らしにまつわる様々な事柄を語り合います。
2021年4月17日の放送は、ゲストにミャンマー住宅開発インフラ銀行元COO・泉賢一さんをお招きしました。10年近くミャンマーと関わってきた泉さんは、今回のクーデターについてどうお考えなのでしょうか。
読んで学べるWEB版「おとなライフアカデミー」をお送りします。
●泉賢一さんプロフィール
ミャンマー住宅開発インフラ銀行元COO。
太陽神戸三井銀行、現在の三井住友銀行に入行。国内中小企業営業を中心にキャリアを重ねて、2013年からミャンマー担当に。現地に単身赴任後、英語とミャンマー語を学ぶ。
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●金融支援の観点から、ミャンマークーデターを考える
鈴木 今回のゲストは、ミャンマー住宅開発インフラ銀行元COOの泉賢一さんです。
残間 ミャンマーのクーデター、本当に大変なことが起きていますね。
泉 そうですね。ニュースでも記事を目にしない日がないほど、連日、非常に悲しいことが起こっています。
クーデターについて、すでに様々な方が解説されてきていますが、私は今回、自分の専門である金融支援の観点からお話しできればと思います。
●今回のクーデター、一体何が起こっているの?
鈴木 報道では語られないミャンマーの今について、泉さんにお話をうかがっていきたいのですが。
泉 まず、今回のクーデターで表面的には何が起きているのかおさらいしておきましょう。
クーデターのきっかけになったのは、2020年11月に実施されたミャンマー連邦議会の総選挙です。
アウン・サン・スー・チーさん率いる国民民主連盟(National League for Democracy、NLD)が、旧与党である連邦団結発展党(USDP)に圧勝しました。
USDPは政党の形をとっていますが、ミャンマー国軍と表裏一体の関係にあります。
ちなみに、NLDは2015年11月に行われた連邦議会の総選挙でも、8割を越す議席を獲得し大勝をおさめたのですが、今回は前回を上回る議席数を獲得しています。
この流れに強い危機感を抱いた国軍が、クーデターを起こした・・・と表面的には見えるわけですが。
実は、このクーデターに至るまでには、10年以上前から続く経緯があるのです。
●日本とミャンマーの深い関わりは、第二次世界大戦から始まった
泉 そもそもの話は、第二次世界大戦(1939〜1945)よりも前にさかのぼります。
ミャンマーは1824年から1948年まで、イギリスの植民地でした。独立運動が始まったのは1938年ごろからなのですが、それを主導したのが、スー・チーさんのお父さんであるアウン・サン将軍だったのです。
このとき、日本国軍は、これを助け、ミャンマー軍(当時はビルマ)と一緒にイギリスと戦っています。
日本のメディアでは「日本はミャンマー国軍とNLDのどちらにも太いパイプを持つ唯一の国」と言うことがありますが、これはこのような理由があるわけですね。
●日本が戦争に負け、ミャンマーは再びイギリス統治へ
泉 ただ、第二次世界大戦も終わりにさしかかり、日本が敗戦する可能性が高まってくると、ミャンマーは「日本では駄目だ」とイギリス側につくことを決めます。
国としての独立は維持する約束だったのですが、イギリスは約束を反故に。
1945年、ミャンマーは再びイギリスの植民地となってしまいます。
3年後の1948年にふたたび独立を果たすのですが、独立に至るまでに国軍内部でも対立があり、アウン・サン将軍は残念ながら独立を前に暗殺されてしいます。
このように、ミャンマーの政治はかなり不安定でした。その不安定さが今に至っても根本からは解決されておらず、今回のクーデターにも結びついています。
●政策の失敗により、東洋一豊かな国から東洋一貧しい国へ・・・
さて、1947年にアウン・サン将軍が暗殺されてから15年間、ミャンマー(当時のビルマ)はウー・ヌ氏による政権が続いていました。
そこに、1962年、ネ・ウィン氏の率いる軍部がクーデターを起こし、「ビルマ式社会統治」と呼ばれる社会主義を立ち上げます。
が、このときの経済政策は、失敗に終わってしまいます。
もともとミャンマーは「東洋一豊かな国」といわれていたのですが、この頃から「東洋一貧しい国」と呼ばれるようになってしまったほどでした。
政権は20年以上続き、最終的に国はひどいインフレの状態になってしまいます。国民は軍事政権に不信感を持ち、1988年には民主運動が勃発。
そのときにリーダー格として頭角を表したのが、スー・チーさんです。
ただ、この運動は国軍によって鎮圧されてしまいました。またスー・チーさんはその後、国軍によって3回、計15年間、自宅に軟禁状態に置かれています。
その後、2011年にテイン・セインという軍出身の方が大統領となり、国際社会からの孤立を強く認識したミャンマーはここでようやく、形式上は軍政から民政へ移行し、スー・チーさんの政治復活を許したのです。
●テイン・セインさん
泉 実は、今回のクーデターを引き起こす土台は、テイン・セインさんが大統領を務める直前の2008年に作られた新憲法にあります。
新憲法では、「国会議員の議席のうち、4分の1は軍に割り当てられる」ということが決まったのですね。
この「4分の1ルール」が、現在のミャンマーの混乱を作り出しているのです。
というのもミャンマー議会では、何か重要な問題を決めるときには、4分の3を超える同意が必要なのですね。
つまり、与党と野党が全員賛同し、その上で軍から一人、造反者が出ないと可決されない仕組みなのです。
残間 それだと決まりませんよね。
大垣 私がミャンマーの支援をしていたときも「法律が通らないので、何かしようにもできない」と言われて困ってしまうことがよくありました。
泉 スー・チーさんが大統領になれないのは、「親族に外国籍のものがいる場合は大統領になれない」という条文があり、これを改正するには4分の3以上の国会議員の同意が必要であるという理由によるものです。
※編集部補足
スー・チーさんには亡くなったご主人と同じ英国籍の息子がいるため、自身が大統領になるには息子の国籍をミャンマーに変更する必要があります。
しかし、スー・チーさんは「親族の国籍と大統領の資格は無関係であり、これに応じることは軍に屈することになる」として、息子の国籍変更を拒んでいます。
●テイン・セインさんの政策によって、ミャンマーは民主化していったものの・・・
大垣 テイン・セインさんは、欧米や日本のメディアでは「ミャンマーを民主化させた」として高く評価されていますよね。
泉 そうなんです。2016年にスー・チーさんの側近であるティン・チョウ氏が大統領になりましたが、私個人としてはテイン・セイン氏が続投されても良かったな、と思っていました。
実は、テイン・セインさんの任期の終盤である2015年ごろというのは、ミャンマー軍の内部が揺れ動いた年だったのです。
そのきっかけの一つになったのが、下院の議長であるトゥラシュエマンさんです。この方は軍の序列では第3位であったのですが、自分より下位の第4位であったテイン・セインさんが大統領、自身は下院の議長として任命されてしまった為、自分の意思が政治に反映できません。
それを不満に思い、彼は軍の人間であるにも関わらず、当時国民の人気が絶大であったスーチーさんに協力をするようになりました。当然、国軍側はトゥラシュエマンさんをよく思いません。
また、今回の選挙では、国軍側が、少しでも議席を挽回する目的で、選挙制度を従来の小選挙区制から比例代表制に変える議案を検討していましたが、トゥラシュエマンさんの働きのため、この議案は潰されてしまいます。
小選挙区制の場合、選挙区の中でもっとも投票数の多かった人しか選ばれないので、国民に不人気の国軍側に不利だったのです。
こういう経緯もあり、彼は最終的に国軍から軟禁されてしまいました。
●クーデターの「泥沼化」は、国軍にとっては誤算だった?
泉 トゥラシュエマンさんの動きでも推察できるのは、軍事政権の力が弱まってきていること。
民主化がこれ以上進んでしまうことを恐れて、国軍側は、NLDが昨年の選挙で不正を行なったと主張します。選挙の調査をするよう要望も出しましたが、NLD側は聞き入れませんでした。
そのため、国軍はこの不正が「国家的連帯」を脅かす非常事態であると主張。これに対してもNLDは意に介さない態度を崩しませんでした。
これを承け、2021年2月1日、国軍はクーデターを実行しました。
2008年に軍が主体となって作成した憲法には、非常事態の場合は国軍が政治の主導権を握ることが認められています。これが今回のスー・チーさん拘束にはじまるクーデターの根拠なのですね。
・・・選挙に負けた側が不正選挙を主張するというのは、他の国でも聞いたような話なんですが・・・。
残間 なるほど、そういった背景があったのですね。
今回のクーデターの様子をテレビで観ていると、ミャンマー国民の方々、特に若い人たちが必死に闘っている様子に胸を打たれます。国軍側からすると、国民からの抵抗があることは折り込み済みでのクーデターだったのでしょうか。
泉 残間さん、すごく鋭い指摘だと思います。今回の抵抗は、実は国軍側にとって大きな誤算だったと私は考えているんです・・・。
・・・後編では、ミャンマーの人々と、実際に関わりながら金融支援をしてきた泉さんだからこそ語れる「ミャンマーの今」についておうかがいします。
続きは後編でお楽しみください。
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