『大垣尚司・残間里江子の大人ファンクラブ』    「ほんとうの定年後」とは

『大垣尚司・残間里江子の大人ファンクラブ』    「ほんとうの定年後」とは

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情報番組「大垣尚司・残間里江子の大人ファンクラブ」では、残間里江子さん(フリープロデューサー)と、大垣尚司さん(青山学院大学教授、移住・住みかえ支援機構代表理事)が、お金や住まいの話を中心に、大人世代のあれこれを語ります。

この連載は、番組内の人気コーナー「おとなライフ・アカデミー2024」の内容をもとに大垣さんが執筆した、WEB限定コラム。ラジオと合わせて、読んで得する家とお金の豆知識をお楽しみください。

今回は特別編。話題のベストセラー「ほんとうの定年後」の著者、坂本貴志さんをゲストにお迎えした、6月1日放送のダイジェストをご紹介します!

<坂本貴志さん プロフィール>
・1985年生まれ。
一橋大学国際公共政策大学院公共経済専攻修了後、厚生労働省で社会保障制度の企画立案などに携わった後、内閣府、三菱総合研究所を経て、現在はリクルートワークス研究所研究員・アナリストとしてご活躍されています。

地味で堅実な「ほんとうの定年後」

残間 「ほんとうの定年後」拝読しました。「これでいいんだ」という趣旨なんだけど、思ってたより地味ですよね。堅実というか。

坂本 はい。すごくキラキラしているような定年後ですとか、悲惨な定年後というのではないですね。

残間 これが実態というか、平均的な姿なんでしょう?

坂本 そうだと思います。

残間 みんなちゃんと読んどくべきだと思いました。こうなるんだという、心づもりに。

大垣 だいたい政府の委員会に出てくるような人はキラキラした人が多いから…。でも85年のお生まれっていうと、まだ、だいぶありますよね。

坂本 そうですね。いま39ですから…。

大垣 そのお年で我々を見上げるというのは、どんな感じなんでしょう?

坂本 皆が経験する未来ですから、興味はありますよね、若くても。

大垣 まだそういう、何というか、動物の観察をしているみたいにご覧になるのか、それとも身につまされる感じはあるんでしょうか。

坂本 どうですかねえ。まあ、まだ二十数年ありますから、かなり客観的に、外から見てる感じでしょうか。

リアリティをもって読む50代・60代

残間 読んでいると、なんか突き放して冷たく、ちゃんと考えろよなというのじゃなくて、ていねいに説明してくれているので。

大垣 論理的にちゃんと言っておいてあげないとね…。

残間 この本を一番読んでいるのは、何歳ぐらいの人ですか?

坂本 ターゲットとしては50代ですとか、60代に入ったところ…そのぐらいですかね。

残間 そうするとリアリティをもつんでしょうね。男性が多いんでしょう?

坂本 はい、男性が多いと思いますね。

残間 「定年後」っていうと、やっぱり組織とか企業から離脱するっていうことが。

大垣 現実的には55ぐらいですよね。

坂本 うん。そのぐらいだと思います。

大垣 役職定年になっちゃう人もいるしね。

残間 だけど、これから先、坂本さんたちがその年になるころって、もっと違ってくるでしょうね。システムも、世の中の企業も。

坂本 ええ、そうだと思います。

大垣 坂本さんたちは逆に僕らと違って、ハナっからお約束がないから、期待もしてないんじゃないかしら。そうでもない?

坂本 やっぱり若い方は、そういう意味では感覚は変わっていると思いますね。

大垣 どのへんから、「お約束はない」っていうのが普通の状態になってるんでしょう。

残間 「お約束」って終身雇用とか?

大垣 僕らのころは、ずっと雇ってもらえるとか、給料はずっと上がっていくとか、いっぱい「お約束」がありましたよね。それがどんどん裏切られて…消えていったんだけど。どのへんから思わなくなったんでしょう。もう思ってない世代ですか?

坂本 そうですね、感覚的にいうと、私ぐらいの世代は、もう、ちょっとそういう感じではなさそうだな、という感じになってきましたかね。就職したときはまだもうちょっとあるかな、という感覚でしたが厳しくなってきたな、という。

大垣 氷河期のちょっと後だもんね?

坂本 そうですね。

若い世代は今から意識している

大垣 そうすると、もう意識なさってるでしょう。「ほんとうの定年後」に対して。

坂本 そうだと思いますね。

大垣 だから、この本の読者は、たぶん意識しなかったんだね。

坂本 読者の方はそうだと思いますね(笑)。

残間 坂本さんなんかは、JOB型に近いというか、個人できちんと仕事をやっていけるから…。

大垣 意識がね。

残間 意識もそうだし、おそらく…これだけのキャリアがあると、いろんなところに出ていけるじゃない。

大垣 まあ、そうですね。でも、本当はみんな意識しとかないといけないわけで。

坂本 若い人はやっぱりそういった形で、自分の力で、っていうような感覚は、あるんでしょうね。

大垣 それがまさに、「小さな仕事」っていうか。たぶんもっと前からネットワーク型で始まっていくような形に変わっていくんじゃないかって期待しているんですけど。どうなんだろう。

残間 坂本さんのいう「小さな仕事」っていうのは…。

坂本 「小さな仕事」が定年後の典型になるという風に説明をしているんですけれども。
「小さな仕事」というのはどんな仕事か、というと、まず「収入水準が低い」ことですとか、あるいは「そもそも労働時間がかなり短い」ことですとか。「仕事の責任が重くない」ことですとか…。人間関係とか仕事の量、仕事の質。そういったものがそこまで重くないというようなものを「小さな仕事」という形でまとめて使っております。

残間 そうするとストレスがないよ、って書いてあるけど。ホントはもっと大きい仕事がしたいけど、できないストレスってないのかな。

坂本 両面あると思います。おっしゃっていただいたように、やっぱり大きな仕事をしたくても、現実問題、60を過ぎて、あるいは70を迎えて、ちょっと難しいなと感じられる部分もありますし。一方、やっぱりもうちょっと仕事のサイズを小さくして、ストレスがない、少ない仕事をしていきたいなという気持ちもあります。両面、複雑な思いを抱きながら仕事をされている、ということなのかと思います。

大事なのは「誰かの役に立つ」こと

残間 中でも言われているけど、誰かのために役に立つっていうのが、今のそのストレスを違う形で軽減するというか、いい方向に行くと書かれてますよね。

坂本 はい。そこはひとつ、ポイントだと思いますね。若いころであれば、自分のキャリアアップをしたいということですとか、もっと高い収入を得たいということ。あるいは、役職を得たいですとか、社会に大きなインパクトを起こしたいですとか。そういった気持ちで仕事をしている人も多いと思うんですけど。定年後の方は、自分のできる範囲で社会の役に立ちたいなという気持ちで働かれてますね。

大垣 最近思うんですけど、これを書かれたちょっと前、それから今もそうなんですけど、「定年」をあるものとしてとらえてますよね。でもこのところ経済が変わってきて、定年があるからそのあとどう考えていけばいいのかという視点より、とにかく75まで働かなきゃいけないときに、なんで給料減るんだろうと。むしろ、もしかしたら、坂本さんの時代の方々は、そんなものがなくなって、年金が本気でもらえるようになるまでは、同じ仕事やってたら確実におんなじお金をもらわないと、生きていけないんじゃないかという風に。むしろ、我々はなんとなく納得しちゃってるんですよね、もう。「定年なんだから、もうあんまり若い奴のジャマしない」って。

残間 まあね、給料も減るしね。

大垣 で、減るっていうことを甘受してますけど。本来、おかしいですよね。仕事がすごく変わってるんでなければ。

残間 昨日と今日と変わらないのに、給料だけ…。

大垣 そういう方も多いと思います。僕らはまあ、そういう中で生きてきて、変わってく中だからいいんだけど、これからもこういうことで行くんだろうか? それとも、そもそもこんなものが概念としてなくなっていくんじゃないかって気もするんですけど。坂本さんの世代からご覧になってて、どんな感じなんですか?

坂本 報酬の体系ですよね、企業における。やっぱり日本の企業っていうのは、pay for performanceではないんですよね。年功賃金で。まあ中高年のとき、お金の必要な時期にたくさんの給与を支払う。その代わり、定年を過ぎたら低い給与でいいでしょう…という形になっているわけですけど。やっぱり、今後を考えると、そういう訳にはいかなくなっていきますよね。

日本の定年はなくならない!?

大垣 それからJOB型っていって、JOBに合わせていっちゃってるじゃないですか。だったら逆に、そのJOBをやっていれば、年齢に関わらずもらえるっていう風になっていってもいいような気がするんだけど、定年は厳然としてまだあり続けてますよね。どうなっていくんだろう。

坂本 そういう意味ではpay for performance、成果に基づいてという方向になっていくとは思うんですけど。けっこう人事制度の運用としては難しいですよね。

大垣 そういう意味では二つあってね。そこで老人の反乱が起こって、そっちが変わっていく方向に行くのか。それとも、やっぱりこれは岩盤…変わらないんだから、どこまでいってもアメリカ人みたいに「自分の定年は自分で決める」っていう風に、日本人はならない…っていうのだとすれば、早めにやっぱりそういうこと…変わってくれない会社を見限って、50ぐらいから次の、セカンドキャリアを始めないと、間に合わないような気がするんですけど。どっちが現実的なんだろう。

坂本 少しずつ、やっぱりそういう年功賃金でない方向に変わっていくとは思うんですね。そういった時に、ずっと右肩上がりのキャリアっていうわけにもいかないと思うんです。

大垣 いかないですね。

坂本 じゃあ本当に能力が少し下がってきたときに、あなたはもう降格ですよというような形で、企業も厳しい対応も考えなくてはいけなくなると思うんですね。

大垣 僕もよく「ある年になったらガンダムスーツを脱いで、素手で戦うんだよ」っていう話をするんだけど。やっぱり大きい仕事って一人ではしてないですよね。そうすると。みんなでやる仕事は若い時の仕事で、一人でやる仕事は年を取った仕事。っていう風に考えていくと、やっぱり企業は器としてはいらなくなっていく方向に変わっていくと考えてもいいのかなと。
いろいろご覧になっていてどうですか。そうするとやっぱり、磨きなおさないといけないし。そうすると今いってるのは「会社が必要なスキルを身に着けようね」「AIもやろうね」のリスキリングじゃなくて、この際リカレントで。リスキリングとリカレントって全然違うと思うんですね。リカレントでもう一回、昔やってたことで、本当は自分が好きだったかもしれないことを思い出してみよう、とか。そういうところへ意識を早く変えていく、ということをした方がいいのか。

「定年後のリアル」がここにある

残間 坂本さんのこの本はね、すごく優しいよね。本当は「ちゃんと考えろこのヤロー!」って言ってもいいのに、ほんとうの定年はこうだよ、って説明してくれてるから。丁寧に。

大垣 僕らは手遅れ世代なので、こうやって言ってもらわないと。「もう、そんなこと言われても」っていう世代なんです。

残間 でもやっぱり、こういう風に言ってほしいんだろうなあ、って思う。「そんなことやってると、お前ら行く先ないぞ」っていうよりは、「こうなるからね」って諭すようにね。本の第二部に、7つの実例が…もちろんその人たちのプライバシーがあるから、とても気を遣ってるけど。すごくリアルですよね。社会貢献のほうに行ったり、今までと全然違うところに行く、という人たちの心模様が描かれていて。これやっぱり、全部取材なさったわけでしょう。

坂本 そうです。もちろん大垣さんのおっしゃられたように長いキャリアをキャリアアップして、自分の力で生きていこうっていうような、能力の高い方もいらっしゃると思うんですけど、この本で紹介している方々は、もう少し普通の人で、たとえば介護施設のドライバーの仕事をされている方、寮の管理人をされている方。そういった方に焦点を当てて展開しているんですね。ただもう60代後半、70代に入るとそういったところも難しくなってくると思うんです。

残間 70歳になってから急に、では難しいでしょう。

大垣 それは無理よ。ちゃんと順番にやっていかないとね。いま僕らがやばいのは、そこを言ってもらってないのに、急にそれがきちゃってるから。

残間 言ってもらわなくたって、ちゃんと自分で考えなきゃ。

大垣 でも、今はそうだけど、十年前に考えられたかっていうと…。

残間 それはだから、あなたのいた会社の周辺が、やっぱり環境がよかったのよ。給料もいいし、社会的地位もあって。

大垣 そうですよ。だから、私らの同期なんかもっといい思いをしてるのも多い。

残間 そういう人はダメになったら自業自得だよ。

大垣 でも案外ダメにならないんだよね。そういう人たちはね。

残間 企業年金がまだあったりしてね。

★坂本貴志さんの著書「ほんとうの定年後 「小さな仕事」が日本社会を救う」ぜひご一読ください!

大垣尚司 プロフィール
青山学院大学 法学部教授、一般社団法人 移住・住みかえ支援機構代表理事。

第一線で培った金融知識をもとに、住宅資産の有効活用を研究・探究する、家とお金のエキスパート。

東京大学卒業後、日本興業銀行、アクサ生命保険専務執行役員、日本住宅ローン社長、立命館大学大学院教授などを経て、現在、青山学院大学法学部教授。
2006年に「有限責任中間法人移住・住みかえ支援機構」(現、一般社団法人 移住・住みかえ支援機構)の代表理事に就任。
日本モーゲージバンカー協議会代表理事を兼務。著書に『ストラクチャードファイナンス入門』『金融と法』『49歳からのお金ー住宅・保険をキャッシュに換える』『建築女子が聞く 住まいの金融と税制』『生きづらい時代のキャリアデザインの教科書』など。

家とお金に関するご質問、お待ちしてます
番組では、家とお金にまつわるメールやご質問をお待ちしています。
宛先は、otona@joqr.netまで。

※この記事で掲載されている情報は全て、執筆時における情報を元にご紹介しています。必ず最新の情報をご確認ください

お知らせ
パーソナリティの一人である大垣尚司さんが代表理事を務める一般社団法人「移住・住みかえ支援機構」(JTI)では、賃貸制度「マイホーム借上げ制度」を運用しています。

住まなくなった皆さまの家をJTIが借り上げて、賃貸として運用。
入居者がいない空室時でも、毎月賃料を受け取ることができます。
JTIは非営利の公的機関であり、運営には国の基金が設定されています。

賃料の査定や、ご相談は無料。資格を持ったスタッフが対応いたします。

制度についての詳しい情報は、移住・住みかえ支援機構のサイトをご覧ください。

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