「子どもを格差社会に適応させようと頑張っちゃう」日本の公教育で起きている問題とは?
お笑い芸人の大竹まことが同世代や全世代の男女に向けてお送りしているラジオ番組、『大竹まことゴールデンラジオ』(文化放送・毎週月〜金曜13:00~15:30) 10月18日の放送は、集英社新書から発売中の『崩壊する日本の公教育』を著した教育研究者の鈴木大裕氏が出演。金曜パートナーの壇蜜とともに、本の内容について伺った。
大竹「本のタイトルは『崩壊する日本の公教育』というものなんですが、何か誤解されることがあるそうですね?」
鈴木「8年前に『崩壊するアメリカの公教育 日本への警告』を出したときに、多くの人から、自分もアメリカで公立学校に行ってたけども素晴らしかったよと言われたんです。自分が言いたかったのは、そういうことではなくて。アメリカの公立小中学校は全て悪いとか、日本の公立小中学校はすべて悪いと言ってるわけではなくて、そもそも「公」という概念、「教育」という概念そのものが崩壊を起こしつつあるということを言いたかったんですね。別に日本の公立学校がどれほどダメかという批判する本ではなくて、なんでこれほどまでに日本の子どもたちや教員が、今、学校で息苦しい思いをしているのか、その息苦しさの正体に迫ろうという本です」
壇蜜「公というのは、本来どんな意味で使われて、何を大切にしてきたかをもっと詳しく知るべきだということですもんね」
鈴木「我々日本人の公教育のイメージは、日本の公立の小中学校だったら、どこに行っても、それ相応の教育が得られるという前提があると思うんですけども、実はそうではなくなってきているんですね。本来であれば、経済格差を是正するはずの公教育そのものが、経済格差を再生産するようになっているのではないかということですね」
壇蜜「本の最初の方で、公教育の説明の例えに、花火大会についてご説明されてますよね。それでよく分かりました」
鈴木「8年前に出した本にも同じことを書いてあるんです。自分が育った千葉県千葉市には、千葉市民花火大会というのが戦後からずっと続いていました。幼少期は、家族4人で真夏の暑い中、荷物を持って3キロぐらい歩いてしんどい思いをして、浜辺の特等席に行って本当に大きな頭上に降りかかってくるような、素晴らしい花火を見た記憶が未だに鮮やかに残っているんです。ただ、昔は早いもの勝ちだった浜辺の特等席が、いつからか有料化されてA席、B席、C席とかに分けられたんですよね」
壇蜜「なんかコンサート会場みたいになっちゃいました」
鈴木「まさにそうなんですよ。その流れは近年加速してるんですね。昨年は、もうチケットを持ってない人は来ないでくれと、ウェブで言い始めたんですね。何を意味しているかというと、昔は買うようなものでもなかった物が商品化されて、行政が公然と市民を差別化して、多くの市民を排除してるということなんですよね。そういうことは千葉だけの話じゃありませんね。もっと話題になったのが、昨年の琵琶湖大花火大会ですね。高さ4mの目隠しフェンスを作ったんですよね。それに対して地元の自治連合会が大反対をして、反対決議の中での決行だったわけですよね。自治連合会長は、この壁が人々の気持ちを変えてしまうんだと言ってました。結局フェンスの小さな穴から、みんな群がって見てるわけです。きっと大人たちは、来年は絶対にあのエグゼクティブシートに座ってやるんだと思うだろうし、子どもたちは自分が大人になった時には絶対、塀の中で見るんだというふうに思うでしょうね。僕が本の中でも何回も引用するMIT名誉教授のノーム・チョムスキーは、「民衆を受け身で従順にする賢い方法は、議論の範囲を厳しく制限し、その中で活気ある議論を奨励すること」だと言ってるんですね。今の例で言ったら、膨張する花火大会の経費をどう賄うのかというのが議論の枠組みですよね。それで活発な議論を強いられて、いろいろアイディアを出すわけじゃないですか。でも、そもそも、花火大会は誰のものなのかということは問われてないんですよね。なんでお盆の時期にあるのかといったら、死者の慰霊のためですよ。千葉市民花火大会だって戦後、復興に明け暮れた市民の憩いとなるために作られたイベントなんですね」
壇蜜「霊を慰めるためですからね、もともとは」
鈴木「そもそも採算の取れるものではなかった。買うようなものでもなかった。誰のためって言ったら死者のためですよね。それがいつしか、稼げる商業イベントへと変身した。そうやって、かつては商品ではなかったような物をお金を出して買うようになって、平等の権利を主張していた人たちが階層化されて、消費者として市場に呑み込まれていくということだと思います」
壇蜜「格差がつくことで、優越感とか感じちゃってるのが問題な気がします」
鈴木「そうですね。みんなそうなんですよ。そこを目指しちゃうんですよね。だから多くの大人たちは、なんとかして競争社会の中で上に行こうとするし、保護者もそうで、なんとか子どもたちを、この競争的な格差社会に適応させようと頑張っちゃうわけですよね。でもそうやって、そもそもみんなのものであったものを消費者として奪い合う、競争し合うことによって、いわゆる「公」、パブリックと言われてた空間がどんどん小さくなっていくってことだと思います。それが教育でも起こっているということです」
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