『大垣尚司・残間里江子の大人ファンクラブ』 社会に浸透してきたフィランソロピー
情報番組「大垣尚司・残間里江子の大人ファンクラブ」では、残間里江子さん(フリープロデューサー)と、大垣尚司さん(青山学院大学教授、移住・住みかえ支援機構代表理事)が、お金や住まいの話を中心に、大人世代のあれこれを語ります。
この連載は、番組内の人気コーナー「おとなライフ・アカデミー2024」の内容をもとに大垣さんが執筆した、WEB限定コラム。ラジオと合わせて、読んで得する家とお金の豆知識をお楽しみください。
今回は特別編。日本フィランソロピー協会の髙橋陽子理事長をゲストにお迎えした、3月2日放送のダイジェストをご紹介します!
(髙橋陽子さん プロフィール)
岡山県生まれ。
1973年 津田塾大学学芸学部国際関係学科卒業。
1980年 千代田女学園高等学校英語科非常勤講師
1985年 上智大学カウンセリング研究所専門カウンセラー養成課程修了、専門カウンセラーの認定を受ける。
1985年~1991年 関東学院中学・高等学校心理カウンセラーとして生徒・教師・父母のカウンセリングに従事。
1991年 社団法人日本フィランソロピー協会に入職。
事務局長・常務理事を経て2001年6月より理事長。
主に、企業の社会貢献を中心としたCSRの推進に従事。NPOや行政との協働事業の立案・実施や、各セクター間の橋渡しをし、「民間の果たす公益」の促進に寄与することをめざしている。
90年代に登場した「フィランソロピー」
大垣 バブルの最後ぐらいのとき、1990年ぐらいに降ってわいたみたいにそういう言葉がでてきて。
残間 そのころはもうキャッチしてたんだ、フィランソロピーって言葉を。
大垣 したほうがいいっていう話で。あっという間にすべての企業が横並びで、絵に描いたみたいに。でも、誰も何やっていいかよくわからないっていう雰囲気で。
髙橋 私も1991年にフィランソロピー協会に入りました。振ってわいたように(笑)
大垣 きっかけは?
90年に朝日新聞を読んでいたらフィランソロピーって言葉が出てたんですね。それで「あ、フィランソロピーが呼んでいる」って。全然呼んでないんですけど(笑)、妄想で。
残間 学校の先生やってらして、そのあとカウンセラーやって、ハッと思いついたんですか?
髙橋 学校のカウンセリングだから、保護者でもお母さんが多くていらっしゃった。でもね、なんかお父さんが変だなというのはずっとやりながら思っていて。でも、お父さんが悪いっていうよりも、やはり企業社会の何かこう…生産性の行き過ぎた経済性とか生産性とかが、学校にも家庭にもしわ寄せがきてるのかなあ、っていうのをなんとなく思っている時に、フィランソロピーって言葉に出会ったっていうか。妄想で(笑)しっかり考えてたら、きっとやらなかったと思うんですけど(笑)
大垣 なんかよくわからない言葉ですもんね(笑)
髙橋 そう。おーすごい、とか思って。
残間 すぐにそれで、歩みをそっちに進めるってすごいですね。
髙橋 いやいや、おっちょこちょいだから。ほんとに。ほんとに。
フィランソロピーが生まれた背景
大垣 それまでも社会、企業が何か社会貢献をやること自体はありましたけど、でもなんで突如で降ってわいたように言葉が降りてきたんですかね。
髙橋 あれはね、難しく言うと1985年のプラザ合意で、円高ドル安がガッときて、日本の企業がアメリカを中心にどんどん出てったじゃないですか。日本の企業からしたら税金も落とすし、雇用もするし、お金も寄付するしすごく歓迎されてほめられるのかなーって思ったら、なんだかいろいろバッシングされる。それでなんでだろうっていうので、アメリカに行ってみたら、「企業市民」という言葉があって、企業も市民と同じようにお金だけじゃなくてそこの住民として責任もあるしボランティアもあるし、もっとそこでやらなくちゃいけないっていう洗礼を受けた。
大垣 確かにそれまでは、経営者がやってたのかもしれませんね。
髙橋 経営者か、あるいは企業がお金を出すんだけれど、お金のやりとりだけ。
残間 お金だけ出す、ってよく言われましたよね
髙橋 しかも「これをやりたい」と思ってやるんじゃなくて、頼まれてそれにお応えするっていう、そういう感じで
大垣 確かにあの頃ね、ニューヨークのビル片っ端から買ってた時代ですからね
髙橋 「ジャパン アズ ナンバーワン」
残間 だからボランティア元年っていうのが1995年の阪神淡路のころですから、その間やっぱり4,5年あるんですものね。お金だけじゃなくて。
大垣 そうか。だから企業がちゃんと主体的にやるっていう概念になってきたのか、なるほど。
髙橋 そうです、そうです。
残間 その頃から見ると、だいぶ変わりましたでしょう。
髙橋 そうですね。それはやっぱり、変わりました。90年代はやっぱり「えらいですねえ」「がんばってください」「さようなら」っていう感じでした。
だけど今はね、若い人を中心に…、それから、そういうことしないと投資家が投資してくれないとか、いろんなことになってきたので。
残間 確かにそうですね。
髙橋 そういう意味では変わってきたと思います。関心は皆さんおありですね。あとはどう取り組むか。それから今はやっぱりSDGsっていうのが、皆さん一番なじみのある言葉かもしれません。ただ、SDGsの真髄は、誰も取り残さない社会を作る、ということなんです。でも、実際には17個項目のうち、これやってますよ、これやってますよ…で、やりやすいのだけどうしてもやるから、取り残されていく人とか課題はやっぱり多いと思うんです。うちの役割はそのへんの取り残されてるところがありますよ、っていうことを言っていくことかなと思って、だんだんディープな世界に…。
取り残されるものに目を向ける
残間 フィランソロピー協会のいまの課題はなんですか?
髙橋 流れとして皆さん、社会貢献であるとか、そういうことに関心は高くなってきたし、予算もなさるんだけど、落ちていってるものがあるじゃないですか、取り残されている。そこにきちっと目を向けてくださいって言うことは常に言い続けないと、単にお繋ぎするだけになってしまうので。
残間 想いはもっているんだけど、どうしたらいいかわからないっていう人はいますよね。
髙橋 そうですよね。それと本当にこれが寄付したときにそこに行くかどうかとかね。
大垣 典型的に落ちていく領域というのは…
髙橋 私どもが一番関わっているのは、少年院や刑務所から出てきた人たち。やっぱりやり直しができる社会というか、罪は罪として償った後、やり直しができる社会っていう。
残間 子どもにも焦点を合わせてますよね。
髙橋 そうですね。おとながその子どものことを一生懸命考えてやると、その子も大人になったら人のことに心を砕くようになる。そういう意味で、子どもたちのシチズンシップ教育もやっています。
「誕生日寄付」のススメ
残間 あ、そうかと思ったのは、誕生日寄付っていうのがあるんです。自分の誕生日にいくばくか、いくらでもいいから。
そこは子どもさんたちでも、海外から親の都合で日本にきてなかなか溶け込めないとかいろんな問題があって。どこに寄付しますかという選択肢があって、毎年ささいな金額ですけど
髙橋 残間さんには呼びかけ人になっていただいて、毎月していただいてるんですけど。誕生日ってね、みんなにおめでとうって言われるけど別にえらいわけじゃなくて、親が生んでくれて、そしてみんなにお世話になって今日があるので、感謝をする日だな、特に命を与えられたことに感謝する日かなと思って。その感謝を次に伝えるという意味で、寄付先はいま言ってくださったように次の世代を担う子どもでつらい思いをしてたり、困難な状況にある子どもたち。6団体あるんですけど、そこに寄付をするということで、1000円から。
残間 日本サッカー協会の初代チェアマンの川淵三郎さんがね、「寄付金額っていうのは、その人個人がちょっと痛いなって思う程度の寄付がいい」とおっしゃっていて。
私はそんな痛くない金額で些少なんですけど、やっぱり子どもたちにと思って、誕生日寄付をしています。
髙橋 やっぱりいろんなつらい思いをしてる子がいるので、その子たちに。本人たちにもそうだし、病気とか障害がある子がいると、親はどうしてもその子にいっちゃうので、きょうだいってけっこう我慢しちゃってるのがあるんです。ヤングケアラーって言葉もありますけど、そういう方をサポートする団体にもご寄付をしています。ちょっと痛い金額はみんな一人一人違うし、ライフステージによっても違うし。いろいろです。1,000円からできるので、たとえば43歳だったら4,300円してくださる方もあるし43,000円とか言う人もあるし、いろいろ。ご自分で選んでいただいて、寄付仲間を広げたいと思って、残間さんにも応援していただいています。
残間 企業から始まったイメージがあるけど、個人でもそういうところに参画できるんです。
大垣 昔は1,000円だと送金できなかったんですね。手数料が高すぎて。最近少額の送金ができるようになったので。前はそれで、寄付をね、クラウドファンディングっていうのが出てきたときに、最初寄付を募る人が出てきて。でもその時はうまくいかなかったんです。送金のコストがかかりすぎて。今は銀行振り込みしてもすごくちっちゃい金額でできるようになった。案外そういうのがやりやすくなった要因かもしれません。
髙橋 引き落としもできます。
寄付先団体の紹介を読むだけでも
大垣 最近はやっぱり、さっきのクラウドみたいに直接ここにというのが増えてる中で、やはり団体に寄付を繋いでいくっていう方が効率がいい部分というのはあるんですか。
髙橋 どちらもありですけど、ただふわーっとしてるのは不安でしょうから、いただいたものはこういうところに回します、というのはちゃんとお伝えしたほうがいいんだろうなと思います。
鈴木 寄付先の紹介を読むだけでも、あ、こういう団体があってこんなことに困ってるんだということを知ることができますね。
髙橋 まず、知っていただくことが大事だと思います。
大垣 若い子は、だんだん僕らよりはずっと意識が高くなってますよね。
非営利の団体の面倒をみさしていただいてるんですけど。人を取るときにやっぱり漠然としてるので、最初は普通の転職エージェントにお願いするとぴったり合わないんですね。ところが最近、社会貢献みたいなところの機会があったら動いてみたい、っていう人が登録してるエージェントがあって。普通の転職エージェントは一人取ると年収の3割とか払わなきゃいけないんですけど、そこは何人とっても…っていう仕組みで。ちゃんとした株式会社なんですけど。何人ぐらい登録してるんですかって聞くと2万人なんですって。
髙橋 おー、すごい。
大垣 そういうのって僕らのころはあまり考えられなくて。
残間 今、でも若い人って自分の所属する組織や会社がどれだけ世の中に貢献してるかとか。
髙橋 選ぶときの基準になっていますね。
大垣 こっち側にお金儲けがあって、最初のころはこんなに儲けてるんだから…みたいな感じで始まりましたよね。反対側は、最初は完全な寄付なんだけど、だんだん両方が真ん中に寄ってきて…フィランソロピーっていうんですか、そういうふうになってくる。
誇りを持てる企業で働きたい若者たち
髙橋 いま企業がそういうことに関心が高くなってらっしゃるのも、若くて優秀でそういう感度のいい人を雇用したいっていうのはあるみたいです。
残間 それは本来あるべき姿ですけどね。
髙橋 そうですね。本当です。若者がね、誇りをもてる。
残間 ソーシャルって考え方が、けっこうこなれてきたのかもしれないね、社会全体の中での自分の立ち位置とかね。髙橋さんは苦労もおありになるでしょうに、全然そういう感じじゃないからいいね。
髙橋 苦労が日常になってる(笑)。
大垣 今でこそですけど、最悪の時期に始まってる感じですもんね。
髙橋 ブームになったことはないんですけど、ブームにならないっていうのは、ずーっとやっていけるのかな、とちょっと思って。
大垣 ブームになると消えちゃう。
残間 特にね、ブームがあると必ず叩かれるしね。
髙橋 職員も企業からいらした方が、けっこう増えてきました。出向じゃなくて、やめて。給料は下がるんですよ、って言うんですけどね。
残間 想いがとげられるじゃない。お金ばっかり…お金ばっかりの人もいても良いし、いるんだけど、そうじゃない気運があるというのはなんとなく救いだね。
大垣 そうですね。
髙橋 でもお金もいります(笑)。
鈴木 続けていくには大切なことですよね。
大垣尚司 プロフィール
青山学院大学 法学部教授、一般社団法人 移住・住みかえ支援機構代表理事。
第一線で培った金融知識をもとに、住宅資産の有効活用を研究・探究する、家とお金のエキスパート。
東京大学卒業後、日本興業銀行、アクサ生命保険専務執行役員、日本住宅ローン社長、立命館大学大学院教授などを経て、現在、青山学院大学法学部教授。
2006年に「有限責任中間法人移住・住みかえ支援機構」(現、一般社団法人 移住・住みかえ支援機構)の代表理事に就任。
日本モーゲージバンカー協議会代表理事を兼務。著書に『ストラクチャードファイナンス入門』『金融と法』『49歳からのお金ー住宅・保険をキャッシュに換える』『建築女子が聞く 住まいの金融と税制』など。
家とお金に関するご質問、お待ちしてます
番組では、家とお金にまつわるメールやご質問をお待ちしています。
宛先は、otona@joqr.netまで。
※この記事で掲載されている情報は全て、執筆時における情報を元にご紹介しています。必ず最新の情報をご確認ください
お知らせ
パーソナリティの一人である大垣尚司さんが代表理事を務める一般社団法人「移住・住みかえ支援機構」(JTI)では、賃貸制度「マイホーム借上げ制度」を運用しています。
住まなくなった皆さまの家をJTIが借り上げて、賃貸として運用。
入居者がいない空室時でも、毎月賃料を受け取ることができます。
JTIは非営利の公的機関であり、運営には国の基金が設定されています。
賃料の査定や、ご相談は無料。資格を持ったスタッフが対応いたします。
制度についての詳しい情報は、移住・住みかえ支援機構のサイトをご覧ください。
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大垣尚司・残間里江子の大人ファンクラブ
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