『大垣尚司・残間里江子の大人ファンクラブ』 みんなが知るべき「限界分譲地」の現実
情報番組「大垣尚司・残間里江子の大人ファンクラブ」では、残間里江子さん(フリープロデューサー)と、大垣尚司さん(青山学院大学教授、移住・住みかえ支援機構代表理事)が、お金や住まいの話を中心に、大人世代のあれこれを語ります。
この連載は、番組内の人気コーナー「おとなライフ・アカデミー2024」の内容をもとに大垣さんが執筆した、WEB限定コラム。ラジオと合わせて、読んで得する家とお金の豆知識をお楽しみください。
今回は特別編。話題の新書「限界分譲地 繰り返される野放図な商法と開発秘話」の著者、吉川祐介さんをゲストにお迎えした、3月2日放送のダイジェストをご紹介します!
(吉川祐介さん プロフィール)
・1981年、静岡生まれのブロガー。
2017年に八街市周辺の物件探し中に多く目撃した高度成長期以降の「投機型分譲地」についてのブログを開設。その後、youtubeでも発信をスタート、不動産にまつわるトピックスで注目を集めていらっしゃいます。ご著書に「限界ニュータウン」「限界分譲地 繰り返される野放図な商法と開発秘話」。
郊外のベッドタウンのはずが…
吉川 もともとは結婚を機会に…それまでは都内に住んでいましたが、当時の私の収入では…今もそうですけど、東京都内で家を買うのは無理だなと思って。妻も私も田舎出身なんでもうちょっと地価の安いところで家を買えるぐらいのところを探していって、たどり着いたのが八街。で、その八街周辺の物件情報を見て回っていたのが最初です。
予算の都合で安いところを回ると、私が通常イメージしていた郊外のベッドタウンとは全然違う光景が広がっていて。でも当時、それについての情報がネットに何もなく、情報がないと買うのも怖かったということで、自分でブログを始めたのがきっかけでした。
残間 どんな光景なんですか?
吉川 ほとんど空き地なんですよ。数十区画ある分譲地でも、家は数軒しかなくて、残ってるのが全部空き地で。売地の看板が立っていたりするんです。そもそも、道そのものが雑草に埋もれていて、もうこんなところ誰も通らないよっていう場所の奥に「売地」の看板が…。なんでこんなに空き地がいっぱいあるんだろうと思ったのが最初にブログを始めるきっかけでした。
残間 前から興味があったんですか?
吉川 不動産そのものは好きでしたね。若いころ不動産会社に就職しようなんて考えたこともあったので。
大垣 まだ住んでらっしゃるものもあるんですか。それともまったく廃墟になってる?
吉川 いや、基本的には住んでるんです。建物に関しては安いなりに中古物件として出回ってるんですけど、更地の市場は死んでしまってる土地ですね。市場が崩壊してると言わざるを得ないです。
残間 家だけ建ってても、電柱もないとか…。
吉川 家がまったくない分譲地もあって、そういうところは電線も来てなかったりしますね。上下水道もないところが多いです。
大垣 それって首都圏って呼んでる地域ですよね。
吉川 はい。ですから、もともと開発の段階で、とにかく当時の業者が安い土地を買ってそこを適当に造成して体裁だけ区画割りして。住宅地の体裁を整えて、それを投機商品として売ってただけなので。実際に住むことをあんまり想定してなかったと思います。
騙された、というよりは…
残間 中には騙されて買った人もいるわけですよね。
大垣 きっと買ってる時は騙されてるというよりは、盛り上がってたんでしょうね。
吉川 そうなんです。確かに北海道の原野商法とかだと、騙されたと言ってもいいかもしれないですけど、一応道路は舗装して、造成工事も行ってますので…。
大垣 その当時の感覚で言うと、通える町だった…
吉川 たぶん、これからまだ土地が値上がりするので、今は田舎でも、今後発展したら値上がりするという見込みがあったんでしょう。
大垣 今でこそ投機ですけど、あの当時は絶対右肩上がりだったんですものね。
吉川 当時のパンフレットには「株よりも有利」と書いてありました。
大垣 実際にそういうところが多かったのは事実ですよね。
吉川 はい。事実なんですよ。だから一定の説得力はあったんです。
残間 詐欺なんでしょう?
大垣 違います。たとえば工場が移ってきたとしますよね。そうすると、例えばそこに通えるぞ、みたいな。あの当時の感覚だと、10キロとか、けっこう離れてても全然ありじゃん、みたいな雰囲気だから。絶対に広がったら上がるよね、と思ってたんですよね、みんな。
吉川 はい。私が住んでるエリアは成田空港の建設計画がありましたから、これから空港で、成田新幹線が伸びて…と、そういうアピールも行っていました。
大垣 バブルになると、そういうのから完全に離れて、土地買って、3か月ぐらいして倍になって、また売って、みたいな…そういう状態になってたから、もう本当に投機に近かったですけど…いま取材されてる場所って、きっとその手前のやつですよね。
吉川 前ですね。70年代前半です。
大垣 だから、たぶん…みんな信じてたんですよ。
残間 そういう人たちはどうしちゃったんだろう。
吉川 基本的には今でも持ってますね。もちろん手放した方もいらっしゃいますけど、手放す手段もなくなってしまって、今でも抱えている方、本当に大勢います。
大垣 放棄するぐらいしかしようがない?
吉川 そうですね。ずっと延々、…放置しておくと草が生えて近隣からクレームがくるので、何十年も業者を頼んで草刈りを繰り返している人も大勢います。
いまも仕込まれる「限界分譲地」
大垣 今回のご本に書かれているようなやつっていうのは、たぶん、別に騙されてるわけじゃなくて、ここからまだイケるよね、みたいなのでワーッと作られてるんですけど。実はいま…この2年くらいかな、住宅が急にぐあ~っと高くなったでしょう?
吉川 そうなんです。
大垣 マンションはずーっと上がってるから、上がってるよね、なんですけど。実は最近まで戸建ては上がってなかったんです。それが戸建てもぎゅ~って上がってったもんだから、だんだん見てると…安くしないともう買えないから、限界分譲地とは言わないんだけど、都市計画の未指定のところとかに開発をして。ちょっと前までは都心だったんですけど、最近は高くなってるんで、また郊外にとか…。そんで中古買えばいいのに、それは売らないからまた作るんですよね。そんな中で人は減っていくでしょう? いままた、目先の限界分譲地を仕込んでるんじゃないかな、とか思ったり…。
吉川 私の住んでるところも、今でも新築を建てて販売しているところもあるんですけど。これちょっと切実な理由があって、子どもが減ってるので、もう小学校が統合してるんですよ。で、バスもなくなってるので…どうしても子育て世代は学校のそばに家を作りたいんですね。離れちゃうと、友達の家にも遊びに行けなかったり、学校通うのにも足がなかったりするので。中古住宅が今のニーズに合わないという問題も起きています。
大垣 そうかー。
吉川 もちろん中古は中古で買う人はいるんですけど、一方でどうしても建てないと自分の条件を満たす住宅がない、というような人も一定数いるんです。
常識的にありえない「超長期ローン」
大垣 ここ1年くらい、急速に40年とか50年のローンを組む人が増えているんですよ。
吉川 それは、さすがに…驚きですね。
大垣 地方はほとんどそうなっていて。それで、千葉のある銀行なんかは、審査が通らなくなるので、住宅ローンを借りるに際して、たとえば自動車ローンの月3万を、住宅ローンの方にまとめてくれたりするんです。あと3年で終わるものを35年にしたらゴミみたいな金額になるので…。それで通りましたとかね。でも率直なところ、40年後にここに人が住むんだろうか、とか…。
吉川 その貸し方は「いつか来た道」ですね。昔も借金があってローンを組みにくい人に不動産屋がお金を貸して、まず一回借金を清算させて、きれいにした上で住宅ローンを組ませて売るという手法があって…。結局パンクしたりとかがあって…。
大垣 バブルのときはそれで最長100年まで行った。
吉川 親子3代ローンとかってやつですね(笑)。
大垣 かたや限界分譲地。もうあんなもの、手をつけられないですよね。
吉川 土地に関しては。ただ中古住宅は私の住んでる田舎町でも余波があって、値段は若干上がってるんですよ。土地は全然上がってないですけど。公示地価は下がっているのに、中古住宅だけ値段が上がっているいびつな状態で。
大垣 こんなに「家が余ってる」とかって話になってる割には、また余らせるものが出てきている…
「限界分譲地」は全国に広がる!?
残間 この先、どうなっていくの?
吉川 私がいつも取材して思うのは、とにかく空き家もそうですし、空き地も、連絡が取れなくなってるんですね、もう。当初買った方がお亡くなりになっていたり…。住所変えても登記を変更しなかったりで。それを探す手段は民間レベルではなかなかないので。それで「空き家活用」とか言われても、「いやもう連絡取れないから」としか言いようがないので。活用以前の問題でつかえてるところがあまりにも多いというのが事実ですね。
大垣 田舎暮らしの物件でいうと、鉾田とかたくさんありますよね。ちょっとびっくりするようなところも。
吉川 あります。あそこも私の取材の対象でもあるので。鉾田なんかは動き始めてると聞いてます。あまりに放置別荘が多すぎて。廃墟の多さでは別荘地のほうが上ですね。
大垣 これ、千葉だけってことはありえないですよね。
吉川 私は当初は千葉だけかと思って調べたら、全然そんなことなかったというのが実情でした。調べたのは関東だけですが、おそらく全国にあるのが実情だと思います。私一人では関東を回るのが精一杯なので(笑)。
残間 読者はどんな感想を寄せてくれます?
吉川 本の前からいろいろな発信をしてたのですが、一番多かったのは、まず「隣の千葉県でこんなことが起きているとは全然知らなかった」というものと、地元の方は「空き地があることは子どものころから知ってたけど、なんでこんなにいっぱいあるのかわからなかったのが、ようやくわかった」と。
大垣 確かに「子どものころから」っていう世界。それくらい古いんですよね。だからこういうことにもうちょっと認知を増やして。単純に「空き家が増えてる」とかって問題じゃないですよね。なのに、いまも仕込みが起こってる。
吉川 70年代ほどの勢いじゃなくても、基本的に新築とかの供給の仕組みは何も変わってないと思います。規模が縮小しているだけで…。
大垣 まだあの頃は人が増えてたんですもんね。これからはどんどん人が減るわけだから。ものすごくちゃんとやってても、人が減れば限界分譲地になっていく可能性はあるわけですよね。
吉川 はい。朽ち果てた空き家がいくつもあるような分譲地でも、新築が建っているところもあるので…。本当にいびつなんですよ。
社会の情勢についていけない不動産業界
残間 建てたってそんなところに入る人がいるの?
大垣 もっといいところが買えるんだったらみんな買うわけですよ。でも、みんなそんな裕福になってないのに家ばっかり高くなるから…。
吉川 家の資材とか建築費が高くなったら、私たちの住んでるエリアは土地代を削るしかなくて。それができてしまうんですよ、売地はたくさんあるので。だから結果として、本来「今からここをベッドタウンにするのか!?」っていうような立地でも新築が行われている。特にここ3,4年、よく見るようになってきました。
大垣 バブルのときは逆だったんです。その土地を転がしたいから、上物の手を抜くんですね。建物の手を抜いて、全体として辻褄を合わせて、土地をのせていくんです。でも、最近は建物が高いので、土地は削れるので…それで、安い方へ行きがちなんですよね。
吉川 そうなんです。おっしゃる通りです。
大垣 みんなが認知しないといけないんです。
吉川 社会の情勢の変化に、不動産の市場が追いついていないっていうのが、根本の問題なんです。
大垣 社会の情勢をまったく無視して、きのうと同じことしかしてないという…。
吉川 割と保守的な業界でもありますから。
大垣 まず実情を知って…。みんな「空き家が増えてる」ぐらいの話しか知らないと思うんです。だから、もっともっと…時代を分けると問題が全然違いますよね。そういうのをもっとがんばって調べていただいて(笑)…。吉川さんが気づかせてくれた。それで、気づいていくと「さすがにあれはね…」って思うってことで、変わっていく。これは行政が規制して変わる、とかいう話じゃないですよね。
吉川 そうですね、いろんなところで考え方とか…。買う方も売る方も考え方が変わらないと、なかなか。
吉川祐介さんの最新刊「限界分譲地 繰り返される野放図な商法と開発秘話」(朝日新書)もぜひご覧ください!
大垣尚司 プロフィール
青山学院大学 法学部教授、一般社団法人 移住・住みかえ支援機構代表理事。
第一線で培った金融知識をもとに、住宅資産の有効活用を研究・探究する、家とお金のエキスパート。
東京大学卒業後、日本興業銀行、アクサ生命保険専務執行役員、日本住宅ローン社長、立命館大学大学院教授などを経て、現在、青山学院大学法学部教授。
2006年に「有限責任中間法人移住・住みかえ支援機構」(現、一般社団法人 移住・住みかえ支援機構)の代表理事に就任。
日本モーゲージバンカー協議会代表理事を兼務。著書に『ストラクチャードファイナンス入門』『金融と法』『49歳からのお金ー住宅・保険をキャッシュに換える』『建築女子が聞く 住まいの金融と税制』など。
家とお金に関するご質問、お待ちしてます
番組では、家とお金にまつわるメールやご質問をお待ちしています。
宛先は、otona@joqr.netまで。
※この記事で掲載されている情報は全て、執筆時における情報を元にご紹介しています。必ず最新の情報をご確認ください
お知らせ
パーソナリティの一人である大垣尚司さんが代表理事を務める一般社団法人「移住・住みかえ支援機構」(JTI)では、賃貸制度「マイホーム借上げ制度」を運用しています。
住まなくなった皆さまの家をJTIが借り上げて、賃貸として運用。
入居者がいない空室時でも、毎月賃料を受け取ることができます。
JTIは非営利の公的機関であり、運営には国の基金が設定されています。
賃料の査定や、ご相談は無料。資格を持ったスタッフが対応いたします。
制度についての詳しい情報は、移住・住みかえ支援機構のサイトをご覧ください。
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この記事の番組情報
大垣尚司・残間里江子の大人ファンクラブ
土 6:25~6:50
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