武田鉄矢に聞く「これからを生きる オトナの人生論」。『武田鉄矢 今朝の三枚おろし』30周年記念インタビュー

武田鉄矢に聞く「これからを生きる オトナの人生論」。『武田鉄矢 今朝の三枚おろし』30周年記念インタビュー

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1994 年の放送開始以来、30 年。一冊の本をきっかけに、武田鉄矢さんが時事問題から人類の起源まで幅広いテーマで語り尽くす『武田鉄矢 今朝の三枚おろし』
放送30周年を迎えた今の心境や、50代以上を中心とした「オトナ世代」の生き方などについて、武田鉄矢さんにお話をうかがいました。

※こちらは文化放送のフリーマガジン「フクミミ」2024年6&7月号に掲載されたインタビューです。

目次

  1. 自分の内側に眠っているものに気づく
  2. 紹介する本は「芋づる式」で
  3. 昭和を語らねば令和にはたどり着けない
  4. その人が持っている肌感覚を大切にしたい

自分の内側に眠っているものに気づく

─ 放送30周年を迎えられて、改めて今の心境をお聞かせください。

武田 昔は、ちょっと力んだ感じで「学び」を意識していました。「知識を集めて、番組で伝えるんだ」という想いが強かったのですが、最近は知識の分量で勝負するのではなくて、「自分の内側に眠っているものに気づく」ことのきっかけになればいいなと思い始めたんです。

年を取るというのは面白いもので、雨で土が流されて岩肌が露出してくるように、若い頃に気づかなかったものが自分の中から出てくることがあるんですね。「ああ、これが俺の本性なんだ」と。頭で考えていた自分と、体として存在している自分が食い違っているというか。そんな自分を「再発見」する面白さがありますね。

紹介する本は「芋づる式」で

─ 自分を再発見するための媒介となるのが、番組で紹介している本だと思います。紹介する本を選ぶ際に、何か基準のようなものはあるのでしょうか?

武田 本選びはもう全くの「芋づる式」ですね。例えば、一冊読んで納得がいかない箇所があったり、逆に面白く感じた箇所があったりしたら、その記憶をきっかけにして次の本を選ぶことがあります。

10年ほど前に『狼の群れと暮らした男』という奇妙な体験記を番組で紹介しました。イギリス人の男性がオオカミの群れに入って、子育てを担当する係として何年か一緒に過ごすんですよ。すごい人ですよね(笑)。この人はオオカミの群れを離れた後、犬の訓練士になるんです。オオカミと暮らした経験が犬の訓練にも生きるんですね。

そこから分かってきたのは、犬の性格というのは、オオカミとして群れで暮らしていた頃の役割を受け継いでいるらしいということ。例えば、飼い主よりも先に歩きたがる犬は、群れでボスだったオオカミの子孫。人によく吠える犬は、群れを脅かすものがいないか偵察をする係だった。遠吠えをする犬は、時間を知らせる係だった。だから、散歩をしていてやたら吠える犬に遭遇したときに、「おたくの犬はオオカミの群れの中じゃ見張り役だったのかもしれませんね」なんて言うと、飼い主さんからとても喜ばれます(笑)。

それ以来「犬って面白いな」と思っていたら、今度は『犬と人が出会うとき』という本を見つけました。かいつまんで言うと「犬が人間の暮らしの中に入ってきたことで、人間の言語能力が発達した」という内容です。近々番組で取り上げることになりますけど、自分でも「それは確かにそうだな」と思い当たるところがあって、とても面白い本でした。そういう本に出合うと、番組を続けていくうえでも励みになりますね。

番組で紹介する本などをメモしている“ネタ帳”

昭和を語らねば令和にはたどり着けない

─ この春からの文化放送の編成キャッチ「オトナのホンネ 文化放送」に関連して、50代・60代以降の人生を豊かなものにするために必要なことは何でしょうか?

武田 一番大事なことは、「年を取ることには意味がある」ということだと思います。例えば、「高齢化社会」っていう言葉があるけれど、高齢者に問題があるわけじゃないですよね。みんな最後は高齢者になるわけだから。あと、「昭和の常識、令和の非常識」という言葉があるけれど、昭和が全部悪いわけじゃないですよね。昭和に建てた日本家屋を喫茶店にしたら、海外からの観光客もよくやって来るそうじゃないですか。だから、「昭和を語らねば令和にはたどり着きませんよ」というか、日本の良いところを見つけるなら昭和を経由させたほうがいいこともありますよ、と。それがこれからの『三枚おろし』のネタにもつながるような気がします。

─ 今の「昭和を語らねば令和にはたどり着けない」というお話で、昭和のテレビ鼎談で武田さんとタモリさんと筑紫哲也さんという九州出身の三人が「九州各県の県民性」をテーマに語り合っていた回があって、子供心にすごく面白く感じたことを思い出しました。

武田 あったあった。放送後に抗議の電話がいっぱい来たやつだ(笑)。

─ らしいですね(笑)。タモリさんが各県を面白おかしく論評していくんですよね。抗議が来るような内容だったことの是非はさておき、「大人がうまく冗談を交えながら楽しそうに話す」というのは『三枚おろし』にもつながるところがあるのではないかと思うのですが。

武田 そうですね。自分でも『三枚おろし』で危ない橋を渡っているときがあるというのはよくわかってるんですけど、自分が生まれ育った博多には伝統的に「生き生きと悪口を言う」という文化があるんですね。博多の住民同士でも町単位で悪口を言い合ったり。例えば、祭りの(博多祇園)山笠では町を「流(ながれ)」という単位で区切るんですけど、他の流について「バイト雇うてまで早よ走ろうとするけん、あそこの流の走りには魂がなか」とか、そういう言葉が飛び交うわけです(笑)。同じ福岡出身者でも、僕はタモリさんよりかなり下町の出だから、タモリさんは僕のことをからかったりするわけです。そういう前提を共有している三人だったから、あの鼎談のノリも生まれたんでしょうね。

その人が持っている肌感覚を大切にしたい

武田 もう一つ「本音」ということで言えば、「人間を本音で語ろうとするとき、その人のどこに触れるか」ということが大切になるような気がします。「触れる」というのは物理的に握手をするという意味ではなくて、「その人が持っている肌感覚にきちんと触れようとしているか」ということなんです。最近の天気予報って「今日はこんな服装でお出かけください」ということまで教えてくれるじゃないですか。気を利かせ過ぎというか、ちょっと余計なお世話なんじゃないかと。時として雨に打たれるとか、寒さで縮みあがるとか、そういうものが季節の情感を醸すはずなんですよね。その意味では「気を利かして、気が利かないように振る舞う」というのがラジオの使命ではないだろうかとも思うし、それを今いちばん実践しているラジオパーソナリティが野村邦丸さんなんじゃないかと思います。あの人の「気が利かない」感じは素晴らしいなと思いながら、いつも放送を聴いています。

最近は年を取ったせいもあるんでしょうけど、たくさんの情報を次々と話し続ける喋り手というのは聴いていて疲れますね。逆に、こちらが考え事をしているときに邪魔をしない喋り手っていうのは、いい喋り手なんじゃないかと。つまり、聴くべきところと聴かなくていいところの緩急があるわけですよね。そういう喋りを私も残りの人生で身につけたいと思って、今、懸命に学んでいるところです。

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武田鉄矢 今朝の三枚おろし

武田鉄矢 今朝の三枚おろし

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