『大垣尚司・残間里江子の大人ファンクラブ』 映画の宣伝方法は、30年前と同じです
情報番組「大垣尚司・残間里江子の大人ファンクラブ」では、残間里江子さん(フリープロデューサー)と、大垣尚司さん(青山学院大学教授、移住・住みかえ支援機構代表理事)が、お金や住まいの話を中心に、大人世代のあれこれを語ります。
この連載は、番組内の人気コーナー「おとなライフ・アカデミー2023」の内容をもとに大垣さんが執筆した、WEB限定コラム。ラジオと合わせて、読んで得する家とお金の豆知識をお楽しみください。
今回は特別編。映画プロデューサー、シネマ・エッセイストの高野てるみさんをゲストにお迎えした、9月2日放送のダイジェストをご紹介します!
配給をやりませんか、と声をかけられて
高野 もともとフリーランスのライター、エディターをしていたのですが、1985年にそれを会社にして、ものすごくうまく行ったんです。それでもう一つぐらい会社を作ってもいいかなあ、って思ってるときに、フランス映画の配給大手の方から声がかかり、このチャンスを逃したらいけないと思いまして。迷うことなく、2つ会社をやることになったんです。そもそも私の祖母と母が大のフランス映画好きで、毎日のように「アラン・ドロンはダメよ」とか「ジャン・ポール・ベルモントはいいわよ」とか。二人が私の師匠だったんです。ライター、エディターをやっているときも配給会社の方から「こういう俳優が来日するから」…そのころ、人気の女性誌でたくさん連載を持っていましたから、そこで取り上げてくれないかとか。そんなところへ「あなたも配給ができますよ」なんてそそのかされまして、「そうか!」って飛び込んじゃった。いわば異業種参入というところです。配給は本当に手がかかって大変です。でも手がかかることが好きなものですから、最初は手探りでしたが、異業種参入であるからこそ、業界の方に関係なく、思ったことをどんどん、新しいことをやれました。
配給という仕事の中身は…
大垣 そもそも配給と言うのは、どういう仕事なんでしょう。
高野 配給というのは、まず映画を買い付けます。買い付けるのはお金があればできます。買い付ける場所は、まず国際映画祭ですね。カンヌとかベネチアとか。でもそこで買うだけではなく、プロデューサーと知り合いになって、先方から声をかけられるといったこともあります。でもそれで終わりじゃなくて、劇場をブッキングしなければなりません。ここが大変なんです。
大垣 先に買っちゃってからブッキングするんですか?
高野 それは危険です。約束とか正解がまったくない世界、予算というものもない。「フランスで大ヒットしたから、絶対いいよ」とプロデューサーに言われても、果たしてそれが日本でウケるかどうか。逆に無名の作品でも、上手に宣伝して、日本で大ヒットさせる、ということもあるんです。
私は「これは日本の女性に絶対にウケる」というものを選んで、それから雑誌が「これはいいですね」と、賛同を得られないと宣伝にならないので。ハリウッドの映画とは違って、おカネをかける宣伝ではないんです。やっぱり「雑誌がいいって言ってるから」というのがポイントになりました。
大垣 お仕事を始められた80年代当時と現在とでは、やり方は変わってきているんですか?
高野 これは自負していることなんですが、たとえばアパレルと組んでTシャツを作って、映画の宣伝中だけ売り出すとか。いろいろなことをしました。映画評論家ではない、意外なオピニオンリーダーの方にお話をしてもらうとか。すごく手がかかるんです。たとえば記念のお菓子を有名なお菓子屋さんと提携するとか、そういったコラボレーションを始めたんです。当時は業界で「映画がよくないからそういうことするんじゃないの」なんて言われましたけど、不思議にこういったやり方が、いまだに生きています。
稚拙でも魅力のある作品を
残間 大手がカネにあかせて、なんていうこともあるんでしょう?
高野 監督さんといろいろお話しして、最初の作品とか、稚拙でも何かイキイキしてる、そういうものをやりたいと思ってきました。たとえばジェーン・カンピオンさんの「スウィーティー」なんていうのはね。こんなちっちゃくてこんなヘンな映画。あの方は「ピアノ・レッスン」で世界的に有名になって、もうそうなりますと、私たちの手から離れます。買い付けるときに莫大なおカネになりますから。
大垣 金融をずっとやってまして、80年代後半、シネマファンドなんていうのがあったんです。売れてるワーナー・ブラザーズとかの映画の収入をそのまま金融商品に代えて売る、といったものだったんですけど。そのイメージでいうと、ものすごい大きなおカネが動くっていう感じがあって。でもいまお話を伺って、何もないけどセンスで入って行かれたのが、すごい面白いなと。
高野 もちろんおカネは必要ですが、銀行関係はあまり興味を持たないような…たとえば「サム・サフィ」という、1992年のヴィルジニー・テヴネ監督作品。この方が素晴らしくて、トリュフォーやロメールの女優さんだったんですけど、監督になる。こういう女性の生き方っていいですよね。ステキな方なんで、惚れこんじゃって。一作目の「ガーターベルトの夜」っていうのは小さい作品ですけども、割とヒットしました。そして第3弾が「サム・サフィ」。日仏合作で「あなたが日本側のプロデューサーになっておカネを集めて下さい」って。私のお金を投じるんではなくて、テレビ東京とか主婦の友社とか。DVD化するビクターとか。そういうものを集めればいいわけで。ミニシアター関係のものって結果論で、「アメリ」なんかもヒットしたから会社はビルを一つお買いになったわけです。面白いというか、作ってる監督とか作品に惚れこんで、愛があってのことですから、なかなか…
残間 ダメだったとしても悔いはないわけですよね。
高野 私は「一人の方に影響を与えられればいい」って…まあ、本心じゃないですけど(笑)。そういう気持ちがないと、続けられないと思います。大げさにいうと、命がけっていうか…。
「歩みの遅さ」がフランスの魅力
大垣 これだけ情報化、ITが進んでも、映画って案外、変わらないんですね。
高野 歩みが遅い。フランスじたいがそうですね。パリとか、お詳しいと思いますが。その歩みがステキだなって。それから、監督がずーっと作り続けるんですよ。それでもやっていけるんですよね。そこが日本との違い、土壌が違う。生活していけるんです。日本だと演劇なんかでも、別の仕事をしながら、というのが多いですよね。職業的にも、フランスではものすごくリスペクトを得られます。
大垣 どのぐらいまでが「映画世代」なんでしょう。
高野 映画に関係していると、長生きできるんですよ。
大垣 これは重要な情報ですね!
高野 映画好きだと、脚を引きずってでも見に行くじゃないですか。いまの長寿社会に絶対映画は必要だと思います。私は集英社新書から「職業としてのシネマ」という本を出させて頂きましたが、何を言いたかったかというと、コロナのときに書き始めていて、劇場で公開できなくなりましたよね。これはいけない、映画どうなるんだろうと思ったときに、やっぱり映画は絶対なくならないと考えながら、それを軸にして書きました。「映画と映画の仕事は持続可能」というスローガン、私としては言い続けていく。それからココ・シャネルという方が「私はこれから起きることの傍にいたい」と言った、これは「私は映画の傍にいたい」ということだと、私は解釈していて、自分もそう思っているんです。皆さんもぜひ、今日を機会に映画を劇場で見て頂いて。配信もいいんですけど、劇場は独特の時間ですね。そこではスマホとかLINEをちょっとお休みになってもいいんじゃないでしょうか。これをご縁に「大人シネマファンクラブ」というコーナーでも定期的に作っていただいて(笑)。いつでもはせ参じますので。
大垣尚司 プロフィール
青山学院大学 法学部教授、一般社団法人 移住・住みかえ支援機構代表理事。
第一線で培った金融知識をもとに、住宅資産の有効活用を研究・探究する、家とお金のエキスパート。
東京大学卒業後、日本興業銀行、アクサ生命保険専務執行役員、日本住宅ローン社長、立命館大学大学院教授などを経て、現在、青山学院大学法学部教授。
2006年に「有限責任中間法人移住・住みかえ支援機構」(現、一般社団法人 移住・住みかえ支援機構)の代表理事に就任。
日本モーゲージバンカー協議会代表理事を兼務。著書に『ストラクチャードファイナンス入門』『金融と法』『49歳からのお金ー住宅・保険をキャッシュに換える』『建築女子が聞く 住まいの金融と税制』など。
家とお金に関するご質問、お待ちしてます
番組では、家とお金にまつわるメールやご質問をお待ちしています。
宛先は、otona@joqr.netまで。
※この記事で掲載されている情報は全て、執筆時における情報を元にご紹介しています。必ず最新の情報をご確認ください。
お知らせ
パーソナリティの一人である大垣尚司さんが代表理事を務める一般社団法人「移住・住みかえ支援機構」(JTI)では、賃貸制度「マイホーム借上げ制度」を運用しています。
住まなくなった皆さまの家をJTIが借り上げて、賃貸として運用。
入居者がいない空室時でも、毎月賃料を受け取ることができます。
JTIは非営利の公的機関であり、運営には国の基金が設定されています。
賃料の査定や、ご相談は無料。資格を持ったスタッフが対応いたします。
制度についての詳しい情報は、移住・住みかえ支援機構のサイトをご覧ください。
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この記事の番組情報
大垣尚司・残間里江子の大人ファンクラブ
土 6:25~6:50
楽しいセカンドライフを送るためのご提案などがたっぷり! 金融・住宅のプロフェッショナル大垣尚司と、フリープロデューサー残間里江子が 大人の目線でお届けします。…