『大垣尚司・残間里江子の大人ファンクラブ』 住宅価格、どこか間違ってませんか?
情報番組「大垣尚司・残間里江子の大人ファンクラブ」では、残間里江子さん(フリープロデューサー)と、大垣尚司さん(青山学院大学教授、移住・住みかえ支援機構代表理事)が、お金や住まいの話を中心に、大人世代のあれこれを語ります。
この連載は、番組内の人気コーナー「おとなライフ・アカデミー2023」の内容をもとに大垣さんが執筆した、WEB限定コラム。ラジオと合わせて、読んで得する家とお金の豆知識をお楽しみください。
★メールまとめ
近所の80平米の土地に4軒も家が建って、それぞれ7,8千万で売り出されます。何かおかしくありませんか?
★メール本文
近所のアパートが取り壊されて更地になり、
どうなるのかと思ったらそこに看板が立てられて
「好評分譲中」だそうです。
好評ならけっこうなんですが、なんと…
2階建てアパート1棟が建っていた80平米の土地を
4つに分割して売り、4軒の家が建つそうです…
20平米ってことは、敷地一杯に建てて、
2階建てでも40平米、3階建てにしてやっと60平米…
それで7千万とか8千万とかするんですよね。
なんか世の中間違ってるような気がします。
大垣先生はどうお考えですか?
(猛暑はもうけっこうさん 中野区 61歳)
住宅価格が高騰中で…
これはタウンハウスという、連棟(繋がって建つ建物)タイプの住宅だと思います。建物は一つでも、一戸一戸を分けて売る、マンションのようなものですが、確かにこのタイプでも、都内だと最近はこれくらいの値段になってしまうんです。土地はそれほど値上がりしていませんが、上物が500万から1千万くらい値上がりしているので、全体としては2,3割、下手をすると1.5倍くらいの値段になっています。
昔ながらのやり方で家は持てない
これだけ物価が上がっているから、賃金も上げなくちゃいけないと新聞に書いてあります。でも物価が3割、4割上がっているときに、賃金はせいぜい3%…。それでも賃金としては、けっこう大変な上がり方なんです。
率直なところ、私も何かが「違うんじゃない?」って気がしてきています。国は「長期優良で100年もつ家を建てなさい」「環境性能のいい家を建てなさい」と言うばかり。円安だの物流経費上昇だので、住宅価格がどんどん上がっているのに、もっと上等な家を建てなさい、と…。でも住宅は本当に買いにくくなってきています。金利は少しずつ上がる気配はあるけれど、それでも住宅ローンはゼロに近くて、だけど、買えない。いい家を買いたいのは山々だけど、廉価住宅しか買えない…そんな話ばかり耳にします。
考え方を変えるべきとき
もう思想を変えたほうがいいと思います。業者の皆さんは、みんな新築を作りたいんです。これまでずっと、新しい家を建てて、売ってきた人たちなので「修繕だけでは食えません」っておっしゃいます。そうなのかもしれません。
でもね、ヨーロッパのことを考えてみてください。ヨーロッパに「新築でしか食えません」って建築屋さんは、いません。そもそも新しい家が建ちません。貸すためにビルの中をきれいにする、そういう大工さんはいますけど、更地い家を建てることでメシ食ってます、なんて人はほとんどいませんよね。
新しい家がすべてではない
日本では、いまだに「新しい家を建てないと住宅屋じゃない」みたいな風潮が続いています。展示場があって、来てもらって…それ以外の売り方がわからないんですね。最近ではネットでも不動産を売ってますし、中古を買う方も増えてきてはいます。でも発想を変えるべきとき。
本当に100年もつ家を作りたいなら、買う側も「25年分だけ買います」と、割り切って考えることが合理的ではないでしょうか。その値段じゃ買えないから安くします…というのも違う。とにかくローンを組んで、80まで必死に働きます…というのも違う。
国がシャカリキになって、100年もつ家を建てなさい…って言うなら、若い人たちは「そのうちの25年分だけ買っちゃダメですか? そしたら4分の1のお金で済みますよね」って言うべきじゃないでしょうか。
考え方次第でラクになる
誰でも家を買うと「自分のモノ」って思うんです。でも、子どもが巣立ったら、夫婦二人で持て余してしまうんですよ。選択肢が示されないから、「家を買う」っていうと「こういうもんだ」って思ってしまうのですが、そこで一歩立ち止まって考えてほしい。
自動車のディーラーのことを考えてみましょう。ディーラーは新車で儲ける、と、皆さん思っていませんか。でも実は、定期点検と車検が稼ぎ頭なんです。一年で売れるクルマの台数は限られていますが、それ以前に売った台数はハンパじゃないものがあります。車検や定期点検は、確かに新車を売るよりは儲からないでしょう。でも、母数が多いので、グルグル回っていれば、確実に売り上げに結びつきます。
新築以外でも儲かるはず
住宅も同じことだと思うんです。100年もつ家なら、その間に少なくとも3回は手を入れて修繕する必要があります。そこにフォーカスすれば、それで事業は成り立つはずです。新築だけの業者さん、維持させる業者さんに分かれていくことも、これからは起きてこなければならないはず。現状のような、これまでやってきたことを何も考えず続けていきたい人ばっかりだと、世の中がどんどん貧乏になっていくばかりのような気がします。それで残価設定ローンという、期間所有ができるものを考えたわけです。これから家を買う皆さんには、ぜひまっさらな頭で判断してほしいと思っています。
今回は、「高すぎる住宅の価格」について考えてみました。
メールをお寄せいただき、ありがとうございます。
大垣尚司 プロフィール
青山学院大学 法学部教授、一般社団法人 移住・住みかえ支援機構代表理事。
第一線で培った金融知識をもとに、住宅資産の有効活用を研究・探究する、家とお金のエキスパート。
東京大学卒業後、日本興業銀行、アクサ生命保険専務執行役員、日本住宅ローン社長、立命館大学大学院教授などを経て、現在、青山学院大学法学部教授。
2006年に「有限責任中間法人移住・住みかえ支援機構」(現、一般社団法人 移住・住みかえ支援機構)の代表理事に就任。
日本モーゲージバンカー協議会代表理事を兼務。著書に『ストラクチャードファイナンス入門』『金融と法』『49歳からのお金ー住宅・保険をキャッシュに換える』『建築女子が聞く 住まいの金融と税制』など。
家とお金に関するご質問、お待ちしてます
番組では、家とお金にまつわるメールやご質問をお待ちしています。
宛先は、otona@joqr.netまで。
※この記事で掲載されている情報は全て、執筆時における情報を元にご紹介しています。必ず最新の情報をご確認ください。
お知らせ
パーソナリティの一人である大垣尚司さんが代表理事を務める一般社団法人「移住・住みかえ支援機構」(JTI)では、賃貸制度「マイホーム借上げ制度」を運用しています。
住まなくなった皆さまの家をJTIが借り上げて、賃貸として運用。
入居者がいない空室時でも、毎月賃料を受け取ることができます。
JTIは非営利の公的機関であり、運営には国の基金が設定されています。
賃料の査定や、ご相談は無料。資格を持ったスタッフが対応いたします。
制度についての詳しい情報は、移住・住みかえ支援機構のサイトをご覧ください。
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