タコスミって食べられる? イカスミ料理はあるのに なんでタコスミ料理はないの⁉ タコスミ料理 実食してみた!!!<WEBオリジナル記事>
こちらでは「知らないを好きになる」をテーマにWEBオリジナル記事をお届けしています。今回は「タコスミ」について取り上げます。
まだまだ暑い日々が続いていますね。
ライターのアルパカです。
アラフォーで独身。都内の隅っこで暮らしています。
最近は涼を取りつつ、バランスのいい食事も食べられる、ファミリーレストランばかりで作業しています。カフェよりも好きなんです。
最近もお気に入りのイカスミパスタを食べていたんですが、そのときふと疑問が…
なんでイカスミパスタはあるのに、タコスミパスタは無いんだろう?
イカとタコって似てますよね。
でもイカスミ料理は普通に食べていますが、タコスミ料理を食べたことがありません。メニューに載っているのも、見たことがありません。
イカスミが食べられるならタコスミも食べられそうですが。
「タコスミ料理をみかけない理由ってなんだろう?」
「タコスミ料理ってどんな味がするんだろう?」
「なんか、タコスミ料理がどうしても食べたくなってきた!」
ということで、タコスミ料理を作ってくださる方を探すことにしました!
目次
①タコスミの入手が とにかく大変!
まずは行きつけのファミリーレストラン。
イカスミ料理を出しているイタリアン系チェーン店3社の本社に問い合わせてみましたが、すべてNGでした。お忙しいというのもありますが、「タコスミを入手できない」とのことでした。
イタリアンが難しいということで、イカスミパエリアを出している都内の有名なスペイン料理店へ問い合わせます。
シェフに貴重なお時間を頂いてお話を伺いましたが…
とにかく、まずはタコスミを入手しないといけないようです。
しかし、タコ漁師に知り合いはいません。。。
その時、シェフの言葉を思い出しました。
ということで、タコ料理の専門店に片っ端から連絡してみた結果、ご協力いただけるお店をようやく見つけました!
②タコスミを入手できるお店を 見つけました!
東京の下町、千駄木にある『たこや三忠(さんちゅう)』さんです。
東京メトロ千代田線の千駄木駅から徒歩1分。
団子坂を上って、すぐ右手にお店はありました。
お店の中は、庶民的な和食屋さんといった感じです。
今回は比較のためにイカスミ料理も作っていただけることになりました。
タコスミ料理と食べ比べをしたいと思います!
今回、協力してくださった『たこや三忠』の親方・佐藤由之(さとう よしゆき)さん。
1987年7月にこのお店を立ち上げて、今年で36年だそうです。
③まず、イカスミとタコスミを 取り出します!
▲今回ご用意していただいたイカです。スルメイカ4杯。全長は約45cm。
イカは大きく分けると、スルメイカなどの先が尖ったイカと、コウイカなどの先が丸いイカがあります。
本来でしたら先が丸いイカの方がスミが多く入っているそうなんですが、夏の時季は産卵後で身が瘦せているので、あまり市場に出回っていないそう。なので今回はスルメイカを使用します。
▲そしてこちらがタコ。今回はマダコを使用します。
足から足まで広げてみると約80cm。すごい迫力です。まだ生きているので、油断するとまな板から逃げて行っちゃいます。
▲まず、イカを捌いていきます。
頭の部分をスルスルっと引っ張り出すと、すぐに内臓が。手で簡単に取り外せちゃうんですね。
▲イカのスミ袋は内臓の外側にくっついているので、手で簡単に剥がせました。
▲取り外すとこんな感じです。だいぶ細いですね。ここからどれくらいの量のスミが採れるのか?
▲続いてはタコのスミ袋。
親方は慣れた手つきで捌いていきますが、まだ生きているのでタコも抵抗しています。腕に吸盤が吸いついてきちゃうんだそう…
▲タコの頭の部分を裏返すと、中から内臓が出てきました。普段はなかなか見ない光景です。スミ袋はまだ確認できません。
▲内臓を捌いていくと、薄っすらと黒いモノが見えてきました。あれがタコのスミ袋⁉
▲取り出してよく見ると、イカのスミ袋と違って、タコのスミ袋は内臓の内側に埋まっています。取り出すのは難しそう。
▲ちょっと触るだけで破れてしまうんだそうです。
タコスミ料理が少ない理由の一つは、イカと違って、タコはスミ袋を取り出すのに手間がかかるからみたいです。
▲スミ袋からイカスミを出していきましょう。細長い管から絞ります。袋が細いので実に繊細な作業です。
▲黙々とスミを絞り出していく佐藤親方。体勢がキツそう。
▲格闘の末に採れたのが、こちら。スルメイカ4杯分のスミ袋を絞りました。
真っ黒というよりは、少し茶色っぽいですね。
▲次はタコです。
▲スミ袋だけを取り出すのが難しいので、傷をつけて絞り出していきます。
▲肝がスミで染まっていきます。服についたら大変ですね。失敗するとまな板も真っ黒になるそうです。
▲色が全然違いますね! イカスミは少し茶色、タコスミは真っ黒。
写真ではわかりづらいんですが、粘り気も違います。イカはどろっとしていて、タコはさらさらです。
匂いはどちらも海の香りがほんのり漂う程度で、差は感じられません。
ちなみに皆さんはセピア色ってご存じですか? 濃い茶色ですよね。
JIS色彩規格で「ごく暗い赤みの黄」と定義されているセピアですが、実はギリシア語でイカのことなんです。
『セピア色はイカスミから作られた顔料』で、歴史は古く、古代では文字を書くインクとして使われていたり、19世紀末には印刷にも使われていたとか。
④イカスミごはんとタコスミごはんを 炊きます!
スミの味をできるだけダイレクトに味わうために、ごはんに混ぜて炊くことにしました。
▲今回の実験(?)に使うのはコチラ。電子レンジでご飯が炊ける、ガラス製のお釜です。これならお米が黒く染まる様子も横から見えそう。
▲研いだお米に、イカスミとタコスミをそれぞれ入れていきます。
▲と、その前に。熱を加えない状態=生の、スミそのものの味も比べたいので、パンにつけて食べてみました。
まずはイカスミから。
▲続いてタコスミ。
親方にとっては、普段から見慣れているタコスミですが、改めて口にすると?
▲親方の感想を聞いて、僕もひと口。
たしかにイカスミからはイカの味がちゃんとします。なんか不思議。
タコからは海の香りはしますけど、タコって感じは伝わってこないですね。
▲お米1合に対してはちょっとスミの量が多いそうですが、せっかく採取した貴重なスミなので、全部入れてみましょう。
どろどろしていますので、お米を浸す水でイカスミを溶いてから、お米に混ぜていきます。
▲それに対してタコスミはさらさらです。色は不純物のない真っ黒で、光沢もキレイに出ています。
▲左がイカスミ、右がタコスミを入れたお米。こんなに色が違うんですね。
お米にスミを吸わせたところ、イカスミの方はどろどろしているせいかお米がスミを吸収しきれず、お米の白さも目立ちます。
タコスミの方はさらさらしているため、お米の隅々まで水分が浸透している感じがします。
▲美味しくご飯を炊くため、少し時間をおいてお米に水を吸わせていきます。
上から見ても、色の違いが明確です。左のイカスミは茶色、セピア色。右のタコスミは墨汁くらい真っ黒。
▲お米は1合。600Wで10分間チンします。
今回は味をわかりやすくするため、調味料はなにも加えません。
⑤ついにタコスミ料理完成!イカスミとタコスミを食べ比べします!
▲ まずはイカスミごはん。10分炊いた後に、10分蒸らしたもの。
なかなか上手に炊けたんじゃないでしょうか。ご飯にもしっかり色が浸透しています。
▲あっという間に炊けたことに感動している親方。ガラスの釜を見る姿は、まるで虫カゴをのぞきこむ子どもみたい。
▲タコスミごはんも完成。炊く前には色の違いがありましたが、炊飯後にも違いは見えるのでしょうか?
▲やっぱり色がまったく違います。スミの色をそのままキープして炊きあがった印象です。
イカスミは粘り気が強かった分、お米にスミがまとわりついている感じです。
一方のタコスミはさらさら感のせいかお米が薄くコーティングされ、スミの色自体はイカよりも黒いはずなんですが、お米の下地の白が生きて、明るい黒といった感じ。
▲淀みのない黒さでいえば、タコスミごはんの方が強いですね。
▲イカスミごはんは少し緑系にも感じます。光もあまり反射せずに、吸収している印象です。
▲タコスミはお米の白さと相まって、ロマンスグレーという感じ。光沢も強いですね。
▲それではついに念願の食べ比べです! 均等にスミが行き渡るように、よくかき混ぜます。
▲イカスミごはんから味見。
▲今度はタコスミごはん。
▲親方に続き、僕もいただきます。
やはりイカスミは、食べ慣れたイカスミパスタの風味がします。
タコは海の香りが多少する程度で、味はほとんどしません。
▲親方が急にガス台に立ちました。
と、塩とダシを足して煮詰めてくれました。
▲さすがは親方のひと手間!
調味料を加えたことで、かなり味が締まりました。
イカはよりイカスミパスタの味に近づいた印象です。
タコは奥のほうにわずかにあった、コクと旨味が一気に引き立ちました。
食べ進めると、イカスミごはんはちょっと尖った味にも感じてきました。
タコスミのほうが風味が柔らかいので食べやすいです。
イカは香りも強いので、もしかしたら磯臭さが苦手な人は、タコスミのほうが好きかもしれません。
⑥イカスミとタコスミの 決定的な違いとは?
今回のイカスミ料理とタコスミ料理の実験によって、イカと同様にタコからもスミが抽出できる、そして食べられることがわかりました。
親方曰く「スルメイカ以外のイカだと、また少し違うかもね」ということですが、この実験では、味はタコよりもイカのほうが強く感じました。でも少し手を加えると、タコスミも十分に味わえます。
ではなぜタコスミ料理が一般的ではないのでしょうか?
1,イカとタコは、それぞれ違う目的でスミを出す
▲イカは分身の術でスミを出す!
イカは敵に襲われるとスミを吐いて、自分の分身を作ります。そのため水の中でスミが散らばらないように粘性の高いスミを吐き、敵の前に塊として漂わせます。敵の目が分身に引きつけられているうちに、逃げていく作戦です。
▲タコは煙幕の術でスミを出す!
一方のタコは敵に襲われると、目くらましをするためにスミを煙幕のように出します。そのため粘性が低く水に溶けやすいスミになっていて、敵の視界を遮っている間に姿を隠すのです。
2,イカスミとタコスミは、成分量が違う
「どろどろ」か「さらさら」かは、成分量によって変わります。なので必然的に、味も変わってきます。
▲イカスミとタコスミに含まれる栄養素は、タンパク質・色素・多糖類・脂質などの成分で、実はほぼ同じだそうです。ただイカスミは多糖類と脂質が多く、タコスミは多糖類と脂質が少ないんです。そのためイカスミのほうが、粘り気が強くなるのです。
しかしアミノ酸のタウリン、アルギニン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸などのうまみ成分の量は大きく違うんです。
*引用文献:日本調理科学会誌. 31巻3号
▲この数字は驚きです。
うまみ成分で比べてみると、なんとイカスミよりもタコスミのほうが多いんです。
今回の実験ではマダコ1杯に対し、スルメイカ4杯を使用しましたので、その影響も多少はあるかもしれませんが、上の表では個体数ではなくスミ100g中の含有量ということですので、ほぼ同量を使用した今回の実験方法としては、間違っていなかったと思います。
食べ比べたときにはイカスミのほうが味を強く感じましたが、上手に引き出すことさえできれば、タコスミのほうが美味しくなる可能性が十分にあるんですね。
3,イカとタコは、スミ袋の場所が違う
イカ:内臓の外側にスミ袋が隣接しているため、慣れている人でしたら手で簡単に取り外すことができます。
タコ:内臓の内側にスミ袋が埋まっているため、傷つけずに袋だけを取り出すのは至難の業です。したがってスミを包丁で破って、絞るように採らなければなりません。
4,タコスミは、入手が難しい
イカ:イカスミは料理用に、実はパックで売られています。「イカスミパスタ用」として加工された商品を目にしたことがあるかもしれませんが、ただの「イカスミ」としても、瓶詰などで大型スーパーでは扱われています。だいたい100gで300円くらいです。
タコ:タコスミとしては売られていません。これはタコは捕獲されたときにスミをたくさん出してしまう習性があること、生きたタコのスミ袋からは多少採れますが、国産のタコが少ないことなどが理由です。
⑦番外編:イカとタコの “肝” も味比べしてみた!
▲イカとタコの肝が、まな板の上に…
そこで思いました。「イカの塩辛ってあるけど、タコの塩辛って無いよな」と。
親方に聞いてみると、タコの肝も食べられるということなので、この機会に肝も味比べさせていただきました!
▲イカの肝を裏ごししていきます。スミ同様に、肝もやっぱりどろっとしています。
▲次はタコ。こちらのほうがさらさら。色も明るい。
▲スミと同じく、肝も色が全然違いますね。イカの肝は濃い茶色なのに対して、タコは薄い茶色。
▲こちらも熱を入れずに生で比べたいので、パンをつけて味見。
▲まずはイカの肝。
▲続いてはタコ。スミと同じく肝もさらっさら。
▲渋い表情の親方。
▲僕も試食。
イカの肝は食べ慣れているせいか、塩辛の味そのまんまです。
そしてタコの肝は初体験。磯臭さはしますが、なんか柔らかいですね。磯臭いのが苦手な人は、タコのほうが食べやすいかもしれません。
イカとタコの肝も、少し調べてみました。
イカの肝にはタウリンが多く含まれていて、食べると肝機能の回復やコレステロールの低下といった効能が期待できるといわれているそうです。
タコの肝も、基本的に食べることができます。胴体や足などの身と同じように、様々な栄養素を含んでいます。ただし、日本で流通しているタコの大半が海外から輸入された蒸しダコなので、国内では肝を目にする機会は少ないということです。
今回の取材は以上です。たこや三忠の佐藤親方、ご協力ありがとうございました!
佐藤由之さん。荒川区生まれの生粋の江戸っ子。
文京区千駄木でタコをメインにした和食居酒屋「たこや三忠」を営業。
「うちはタコ料理の専門店なので、タコのことに関しての問い合わせや相談があったら、できるだけ受けさせていただく使命がある」という佐藤親方。
タコに注目するようになったのは、自分が若いときに勤めていたお店で、仕入れや調理を担当していたとき。
当時は生のタコを扱っているのは高級なお寿司屋さんぐらいだったそうで、「スーパーで売られているような茹でダコではなく、生のタコはどんな味なんだろう」と疑問に思い、試しに仕入れてみたそう。
その美味しさに驚くも調理の仕方がわからず、手探りで料理を出していったら評判になったので、タコ料理専門店をオープンしたそうです。
「買ってきたものは売らなきゃいけないし、タコ刺しで1杯丸ごとを使い切るのも難しいですから。もともと自分は凝り性だし、自分で店をやるんだったら、イチからやりたかったというのもあった。タコを武器にしたらそれが可能になるだろう、自分らしいお店ができるんじゃないかというのが始まりでした」
お店では、タコスミを使用したごはん「たこめし黒」を提供しています。皆さんもぜひ食べてみてください。
たこや三忠
住所:文京区千駄木3-1-17
電話:03-3824-2300
営業時間(月火木金)17:30~23:00
(土日祝)17:00~23:00
定休日 水曜日
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