過去の放送分
過去の放送分 過去の放送分 2007 10月20日 放送分
「ゆで卵を速く回すと、なぜ立つのか」(1)
コーチャー/下村裕(慶應義塾大学法学部教授、理学博士)
大村正樹&下村裕
大村正樹
今日は最初に問題があります。みんな、冷蔵庫に、あるいは今お母さんが夕ご飯の準備中でゆで卵とか作ったりしてない? そのゆで卵をクルクル回すとどうなるのか? ということで、今日はそれを解明された方がサイコーとして来てくださってま〜す。すごい面白い話になりますから、じっくりお話を聞いていきましょう。さぁ、今週のサイコーは慶應義塾大学法学部教授で理学博士の下村裕(ユタカ)さんです。こんにちは。
下村裕 こんにちは。よろしくお願いします。
大村正樹
法学部の教授で理学博士って、文系も理系もOKってことですか?
  下村裕 いえ、私は理系人間で、ただ大学では文科系の大学生に物理学を教養として教えています。
大村正樹
なるほど。法学部で法律を勉強する学生さんにも物理も教えるってことなんですね。
  下村裕 そうです。あと政治学科、それから文学部、経済学部、商学部も全部教えています。
大村正樹
今日はゆで卵を高速で回転させるとどうなるのかということですが、その前に、そういう研究をする専門家がいるのも驚きです。先生、ゆで卵を速く回すとどうなるんですか?
下村裕 速く回すと寝ていた卵が立ち上がる。
大村正樹
立つんですか! ゆで卵が? ゆで卵ってよくお尻をちょんと割ると立つと言いますけれど。
  下村裕 そう。コロンブスはそうしました。
大村正樹
そうか、あれはコロンブスの卵か。速く回すと立つ?
  下村裕 そうです。立つというのは、卵の中心が低い力で上に上がるということです。普通は重力があるので重いものは下に落ちていくはずなのに、この場合は立っている。コマもそうですが、ちょっと不思議な現象なんですね。
大村正樹
今日はこのラボにゆで卵が2つあります。先生、これは手でも回せるんですか?
  下村裕 もちろん。
大村正樹
手で回して立つ。
  下村裕 はい、立ちます。
大村正樹
じゃあキッズのみんなも、もし冷蔵庫にゆで卵があったら回してみてね。ちょっと先生やってください。
  下村裕 じゃあ、いきま〜す。
大村正樹
回った、回った、回った。おぉ立った、立った、立った! おぉ〜!!(拍手)コマですね。コマの原理。
  下村裕 そうですね。コマと同じように重心を上げるということなんです。
大村正樹
ちょっと待って、僕もやってみる。
  下村裕 はい、立ちました。
大村正樹
立つ! 先生、ちょっと待ってください。これ極めて簡単ですけど、これで何か賞をとったり、ものすごい偉いことで発表されたりとか、そういうことなんですか?
下村裕 いえいえ、もう何もありません。「サイエンスキッズ」にご招待いただいたのが最大のご褒美です(笑)。
卵
 
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大村正樹
そうですか。ありがとうございます。先生はゆで卵を高速で回したら立つということのご専門なんですか?
  下村裕 いえ、私の専門はもちろん物理学ですが、その中でも流体力学といいまして、空気とか水がどんなふうに流れるかを調べる学問が専門です。
大村正樹
空気や水の流れ。例えば、川の上流から下のほうに水が流れていくこととかを研究されている? それが何でゆで卵の立ち上がりの研究をテーマに選ばれたんですか?
下村裕 直接は関係ないんですが、2000年から2年間イギリスのほうで勉強させていただく機会を大学からもらいまして、その時に、最初は流体力学を研究しようと思って行ったのですが、2年間のうち1年間ちょっとやってみて、なかなかうまく新しい発見ができませんでした。それでどうしようかな〜と思っている時に、ケンブリッジ大学のモファット先生の講演を聴いたんです。
大村正樹
ケンブリッジ大学って、何百年も前からある超有名名門大学ですよね。
  下村裕 そうですね、世界一流の大学です。
大村正樹
そちらに留学されて行き詰っちゃったんですか、先生は。
  下村裕 行き詰っちゃって(苦笑)。
大村正樹
モファット先生に出会った。
  下村裕 そうです。その講演自体は別の話だったんですが、なぜか講演の最後に彼が卵のパックを持っていて、さっきやっていただいたように回し出して、やっぱり立ったわけです。それで彼が言うのは、こんなふうにゆで卵を回すと立つのは昔から知られている現象で、どうして立つかという説明も簡単にできる。ケンブリッジ大学の学生に非常にいい試験問題になると言うんですね。私はこの現象自体は学生の頃から知っていて、なかなか解けている論文を見たことがなく一度暇があったら研究しようと思っていたんですけれど、その時、彼が解けているというので、ちょっとショックを受けたんですね。だけど、その後で彼が今度は生卵を持ってきて、生卵は回すとゆで卵みたいに簡単に回らないんです。
大村正樹
あっ、生卵をラボに用意すればよかったですね。生卵は簡単に回らない。
  下村裕 回らない。
大村正樹
立たないですか?ゆで卵だけは立つ。
  下村裕 そうですねぇ。生卵は立たないかどうかは分からないんですが。
大村正樹
分からない。キッズ、もしあったらやってみてよ。ゆでと生の両方で。
  下村裕 それが、モファット先生が言ったオープンクエッションなんですね。
大村正樹
オープンクエッションというのは?
  下村裕 未解決のままです。今も未解決です、実は。
大村正樹
超有名な頭のいい大学で、何で卵を回して立つかどうか、原理が分からないんですか?
  下村裕 分からない。彼が言ったのは、生卵は手でやるとなかなか速く回らないんですが、機械でものすごく速く回した場合にゆで卵と同じように立つかどうか、それが未解決の問題だと言うんですね。それで、私がちょうど行き詰ったものですから、ちょっとこれを考えてみようかな、挑戦してみようかなと思って、それで考え出したんですね。専門が流体力学ですから、生卵は中に黄身が入っていて液体ですよね。そうすると流体力学も生きてくるので、これはいい問題かなと思い考えてみようと。
大村正樹
それで結論はどうだったんですか?
  下村裕 結論は、研究し出した頃に生卵は中に液体が入っていて難しいので、まず簡単なゆで卵から自分なりに計算してみようと。それでやり出したら、立たないことが逆に証明されてしまうんですね、私がやると。
大村正樹
生卵は立たない。
  下村裕 いえ、ゆで卵です。簡単なほうのゆで卵が立つはずなのに、計算でやると立たないという結論になるわけです。
生卵
 
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大村正樹
でも今、実際手で回したら立ったわけですよね。
  下村裕 そうなんです。厳然とした事実があるんですけれど、理論的に説明しようと思うと立たないとなって困っちゃったなぁと思った時に、また、ひょんな所でモファット先生と会いました。「先生のおっしゃるように立たないんですけど」と言ったら、「じゃあ一緒に共同研究しましょうか」ということになって、まぁ、趣味のような話ですけれど2人で週に1回ずつぐらい議論して研究し出したんですね。それで、運良く卵が立っていく時の数学的な解(カイ)が得られたんです。普通は解けない方程式なんですが。
大村正樹
カイというのは答え?
  下村裕 答えです。
大村正樹
正解の解(カイ)ですね。
  下村裕 ええ。方程式の答えが得られて、非常に単純な答えで、これをぜひ論文にしようということで『ネイチャー』という雑誌に。
大村正樹
あっ! 有名な科学雑誌。
  下村裕 はい。それにちょうど3月末の欧米のイースター祭、復活祭に。卵がシンボルの復活祭の頃に掲載していただいて、世界中から大きな反響をいただきました。
大村正樹
ゆで卵が高速で回るとなぜ立つのかということが。
  下村裕 そうです(笑)。
大村正樹
でも、これはすごく重大なことで、実際手で回したら立つわけです。それが答えじゃないですか。
  下村裕 はい。
大村正樹
でも、そうなるという説明付けをつけることにより、ものすごい権威のある科学雑誌『ネイチャー』に掲載されるということですね。研究というのは。
下村裕 そうですね。逆に言うと、本当に身近なありふれた現象の中で、まだまだ起こる理由が分かってないものがあるということですね。科学って分からないことを分かりやすく説明することが非常に大事な使命ですから、そういう意味で『ネイチャー』も評価したと思うんですね。
大村正樹
でも先生、『ネイチャー』で評価されたよりも、今日この「サイエンスキッズ」のラボに来られたことのほうが権威があるとおっしゃった。
下村裕 もちろんそうです。小学生の皆さんが将来こういうことを発見していくと思いますので、夢が与えられれば私は一番幸せですね。
大村正樹
なるほど、素晴らしい。先生、ゆで卵に関しては、回すと立つ以外にもうひとつ変わった現象があるんですって?
  下村裕 これはもう信じがたいことですけれど、実は立ち上がっていく途中でひとりでにジャンプする。
大村正樹
ゆで卵がジャンプする!?
  下村裕 そう。
大村正樹
おっと、この辺りで時間になってきました。回転するゆで卵がなぜジャンプするのか!? そのナゾについて来週迫っていきたいと思います。今週のサイコーは慶應義塾大学法学部教授で理学博士の下村裕さんでした。ありがとうございました。
下村裕 ありがとうございました。
ゆで卵
 
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