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  • 小松左京とは何者か

    初めて書いたかもしれません(汗) 文化放送の鈴木敏です。

    小松左京展~D計画という展覧会が、12月22日(日)まで東京・世田谷の世田谷文学館で開かれています。その展覧会もまもなく終わるという事で、急いで今日紹介しました。

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    D計画とは、代表作『日本沈没』の中で、事態に対応するために創られたプロジェクトの名前。Dはディザスター(災害)を意味しています。

    実は、この小松左京展、10月12日(土)の初日に取材に行くはずだったのですが、本当のディザスター、台風19号が上陸し、河川決壊、緊急放流と我々も大混乱の中、取材に行けずじまいでした。と思っていたら小松左京展自体も順延になったそうです。

    文学館の方も「まるで小松左京さんに見透かされていた気がする」と話していました。

    翌日に延期された初日には、いきなりSFファン垂涎の、筒井康隆さんと豊田有恒さんの対談!先日も、テルマエロマエのヤマザキマリさんと、とり・みきさんの対談など実に豪華な企画が続きました。今の目玉は、開高健から小松左京に送られた手紙、オーパ!!

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    ちなみに展示会では、小松さんが使っていた書斎の机も展示されています。

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    このほか、左京氏が使っていたビオラや時計や手帳、取材ノートや日本地没の詳しい図解なども、とにかく様々な貴重な品々が展示され、どのように「日本沈没」は創作されていったのかということも良く分かります。

    ちなみに猫が大好きだったそうで、猫部屋も再現されていますよ。

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    小松左京、星新一、眉村卓、豊田有恒、平井和正、そして筒井康隆...子供の頃からSF小説をむさぼり読んだ私ですが、正直大人になってからは少し遠ざかっておりました。

    この「知の巨人」を記憶から呼び戻すきっかけになったのが、「午後の三枚おろし」でおなじみのアメリカ人の詩人、アーサー・ビナード氏。

    今年の春のこと、アーサー氏はいつもの甲高い声で「スゴイ本、ミツケタヨー!!」と叫びながら走ってきたのです。それは「戦争はなかった」という短編小説でした。

    1968年の作品。ある日同窓会に出かけた主人公が、戦争中の思い出話で旧友たちを話の花を咲かせようとするのですが、誰も「戦争のこと」を覚えていません。一種スリラー小説と呼べるこの作品の中で心動かされるのは、主人公自身も「確かに、今が平和で幸せならいいじゃないか」と戦争への記憶を忘れ去ろうとする場面。しかしそう思い込もうとすればするほど、あの悲惨な戦争を忘れられなくなります。そして主人公はある決断をするのです。

    フジテレビ「世にも奇妙な物語」の題材になったこの作品を手に、いささか興奮気味にアーサーは「これは預言書なんだよ。だって今現実にこうなっているじゃないか」と訴えてきました。彼は言葉を続けて「来年の長崎原爆の日には、東京オリンピックの閉会式が行われるんだ。わかる?光をあてると、残さなければいけない闇も消されてしまうんだよ。小松左京はそれを予感していたのだよ」と。そう言われて読み返すと、改めてこの小説の底なし沼のような怖さに気が付きました。結局、報道部の有志8人で、今年の夏に、この小説をモチーフにした「戦争はあった」という番組を作ることに(小松左京ライブラリさん、ご快諾の上です)。ちなみに左京氏には「地には平和を」というすごい作品もありますのでこちらもぜひご一読下さい。

    さて「SF魂」というエッセイの中で左京氏は、

    「あの戦争が無かったら、おそらく僕はSF作家にはなっていない」と書き綴っています。

    展覧会では、戦時中に使っていた「防空頭巾」まで展示されていました。

    左京氏が、テーマに掲げていたのは「災いへの危惧」で、それは時に、「地震や風水害」などの自然災害であったり、そして「戦争」であったりもします。

    「日本沈没」「復活の日」などディザスターものを多く書いているが左京氏ですが、それはいずれも日本の未来を予見するような内容。日本列島の重量を、科学的知見をフル稼働して独自で計算し、熊本地震でもクローズアップされた「中央構造帯」を分析しつくした左京氏の預言書とも言えるのかも知れません。

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    左京氏は東京生まれの母親に関東大震災のことを聴いて育ち、神戸で戦争を経験し、勤労崎の造船所で終戦を知りました。1995年の阪神大震災では「小松左京の大震災95」という連載ルポルタージュを書き上げます。そして東日本大震災のおよそ4か月後に80歳で亡くなりました。リアリズムにあふれたSF小説、その代表作「日本沈没」は1973年に発表され、累計470万部を売り上げました。映画化もされ大ヒット。その映画は、2006年に「進撃の巨人」や「シンゴジラ」の樋口監督によってリメイクもされています。そして今度はネットフリックスのアニメ版が、準備されているとのこと。これは2020年の東京オリンピック直後の日本が舞台となっているそうで、どのような作品になるのでしょうか?

    もちろんテーマは、戦争や災害だけではありません。1970年の大阪万博では、岡本太郎さんらとタッグを組んで、テーマ館のサブ・プロデューサーを務めました。ラジオ大阪では桂米朝さんとDJまでやったラジオ好きです。若き日には、高島忠夫さんとバンド活動に打ちこみ、晩年までビオラ演奏に興じた音楽好き。旅をし、酒を飲み、家を抵当に入れてアーサー・C・クラークら世界のSF作家を呼びシンポジウムを開いた冒険家。若き日は、高橋和巳と文学論を交わした京大の純文学青年。

    展覧会を眺めれば眺めるほど「小松左京とは何者か」という疑問は深まるばかりでした。

    最後に、私がもっとも気に入った展示写真はこれ。

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    まだSFという言葉が世の中に定着していなかった時代。筒井康隆氏、星新一氏ら日本SF作家クラブのメンバーで旅行に行ったら、旅館に「日本SFサッカークラブ様」と書かれていたという。彼らが大笑いする声が聞こえてきそうです。この時代には、過去と未来があふれていたのですね。

    若い世代には、最近、小松左京という巨匠の名前がピンとこないのだとか。
    なんともったいないことか。

    過去を忘れ、未来が見えない現代に我々が、小松左京から学べる事は、まだまだたくさんあるのでは...。これが私のセールストークなのか、それとも本当にあなたの右脳も左脳も刺激するものなのか、足を運んで確認してみてください。

    入館料は、一般 800円/65歳以上 ・高校・大学生600円 、小・中学生300円/ 障害者手帳をお持ちの方 400円(但し大学生以下は無料)です。

    周囲は銀杏の落葉も香ばしく、癒されますよ~。

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