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3月10日(月)〜3月14日(金)
今週は、「職人の技 東京の伝統工芸」と題しまして、受け継がれてきた匠の技をご紹介してまいります。
3月10日(月)放送分 + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + +
初日の今日は、「江戸組み紐」をご紹介します。
台東区清川。創業が明治9年、江戸組み紐づくりの老舗・桐生堂の五代目、羽田眞治さんの仕事場です。
武士の時代、組み紐がなければ始まらない・・・といっていいほど、組み紐は欠かせない品でした。鎧や兜、刀や馬具・・・日本の道具に組み紐があってこそ成り立っていたんです。ところが、武士の世が終わった。困った職人さんが工夫をして、女性の帯締めや、羽織の紐などに力を入れるようになったそうです。
そんな「組み紐」の老舗の五代目を継いだ時期は、和装品が下火だった時代、呉服店やデパートに納めているだけはいけない・・・こう考えた羽田さん、趣味性の高い組み紐づくりを心がけると共に、小売店を開き、広く知っていただくことにしたんですね。
一対の羽織の紐、一掛けと呼ぶそうなんですが、組み上げるのには1時間から10時間かかるんですが、その前に糸を作る下準備から大変な時間がかかるものなんです。
組み紐というのは実用品、消耗品なんです・・・と伺いました。確かに、大事な品を入れた箱をきつく結んだり、衣類で結んだり解いたりの繰り返しですから、次第に腰がなくなってくる、弱ってくるそうです。50年ほど使ったもの、古いものでは江戸時代の組み紐の修理も頼まれるそうなんです。修理をしながら、昔の職人の作業ぶりを勉強させてもらうそうです。
現在、浅草と深川に組み紐をはじめとした江戸小物の店、桐生堂を開いていて、人気を集めています。組み紐の技を使った商品では、髪留めや携帯ストラップが人気だそうで、そのあたりから江戸の伝統工芸に馴染んでいただこう・・・という狙い、大成功を収めております。
現在、関東地方の組み紐職人は50人ほど。昭和22年生まれ、この道40年余り、五代目の羽田さん、これからの組み紐の仕事について、伺いました。
3月11日(火)放送分 + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + +
今日は、「江戸やすり」をご紹介します。
江戸から伝わる伝統工芸を支えてきたものが数々の道具でございます。このコーナーでも、取り上げてまいりましたように数々の道具。合羽橋道具街も近い台東区東上野に、「やすり職人」深沢敏夫さんの作業場があります。全国に6人しかいない「手作りやすり職人」。全国から注文が入る、知る人ぞ知る職人さんです。
やすりの目を作る目立て、と呼ばれる作業の音です。ひとくちに「やすり」と言いますが、使い道に応じて、実に種類が多いんですね。一番小さいものは、直径1.5ミリ、これは釣竿の中を通して穴をあけるための「やすり」。大きいものは、幅30ミリ・厚さ10ミリ、長さ250ミリ、こちらは和楽器の尺八の根を削るために使います。
実は、深沢さんのつくる「やすり」、伝統工芸の世界だけで使われているわけではありません。最先端の工業用ロボットの部品を作る工場でも使われていますし、こんな場所でも・・・。奥歯を削る、細かい治療にも使われているんですね。全国から、「こんな物、出来ますか?」と書かれたスケッチがファックスで送られてくることもしばしば。「難しい注文であればあるほど、なんとか工夫して、作り上げてしまいます」そう話してくださいました。
伝統工芸ばかりでなく、いろいろな分野で使われている深沢敏夫さんが作る「江戸やすり」。「深沢さんが作ったやすりがなきゃ、仕事にならないよ・・・」全国の、さまざまなモノづくりの現場では、常識だそうです。注文してから2〜3ヶ月、ものによっては1年もかかるほどの高い人気でございます。
3月12日(水)放送分 + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + +
今日は、「桐工芸」をご紹介します。
台東区寿。江戸からの伝統を受け継ぐ技、桐工芸の株式会社・箱長の本社があります。社長の宮田新司さんは桐工芸職人の4代目。
品物を納める前の、最後の調整を、ここ浅草の本社で行っているんです。桐の箱に、彫刻刀で溝を彫り、布地に和紙を裏打ちし、それを切ってはめ込む技術を考案し、やがて特許が認められたんですね。東京にある10軒ほどの桐箱職人さんの中で、木目込み・・の技術で作っているのは、「箱長」だけです。
4代目を継いだ頃は、核家族化が始まり、住まいが小さくなり始めていました。
(このままだと、今のような大きな家具は売れ行きが減ってしまうかも・・)
こう考えた宮田さん、新しい技術を考え出しました。桐の箱に、彫刻刀で溝を彫り、布地に和紙を裏打ちし、それを切ってはめ込む技術を考案、やがて特許が認められたんですね。
桐工芸の職人だった宮田さんが仕事の規模を広げるようになった切っ掛けは、あるデパートから「実演販売をしてみませんか?」という誘いがあったこと。実際に取り組んでみると、お客様の「ナマの声」が聞ける、どんなものに人気があるのかがわかったそうです。
現在では、浅草仲見世近くで小売店を開き、家具などから実用品まで、たくさんの商品が飾られているんですが、販売だけではなく、ここでも、店を訪れるお客様の声から次の商品のヒントも生まれているそうです。
桐工芸の小物は、女性に大変な人気。40代から60代を中心に、「なごむ」「かわいいい」と、立ち寄るお客様に喜ばれています。なによりも、遊び心に満ちた作品は、ひとつひとつに個性が感じられます。結婚式の引き出物や、「何周年記念」の記念品に使われることも多い、そうですよ。
3月13日(木)放送分 + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + +
今日は、「市松人形」をご紹介します。
墨田区本所。市松人形づくりの二代目、藤村明光さんの仕事場があります。
桐の「おがくず」を固めて土台にし、貝殻の粉で作った胡粉と呼ばれる粉を20回以上塗るなど、74もの工程を経て作られています。市松人形、と申しますのは、まあ七五三あたりの年齢の子供、幼な顔の子供の人形です。子供の健やかな成長を祈る親たちが、お子さんの身代わりとして、また、お守りとして使われていたものなんですね。また、子供たちが着せ替えをして楽しむことも出来た。まあ、江戸時代のリカちゃん人形・・・でございましょうか。公家や上級武士の間の子供たちの人形であった「御所人形」に対し、市松人形は、江戸時代も後半になってから、庶民の間に広がったんです。
この市松人形、明治や大正の時代になっても、意外な場所で実用に使われていたそうです。どんな場所だったんでしょうね。それは、女学校。人形を使って、着物の着付けと、縫い方を勉強していたんですよ、と藤村さんはお年も召した女性から聞いたことがあるそうです。全国各地のデパートなどでの実演販売には積極的に出向く・・・という藤村さん、お客様の声を聞く貴重な場にもしているようです。
現在、市松人形の大きさは、20センチほどから80センチほどの大きなものまでいろいろあり、人気のあるのが45センチほどのもの。この大きさで、20万円前後、決して安くはないのですが、いま、女性の間で静かなブームになっております。お求めになるのは、コレクター、楽しみとして、部屋の飾りに、初節句の祝いに・・・さまざまですが手作りの味わいが喜ばれているのでしょう。
昔ながらのやり方で市松人形を作っているのは、全国で10軒ほど。職人さんは、20人足らず。およそ80年ほど前の昭和初期には、全国に80軒ほどで作っていたそうですが、いま、「本物の良さ」が見直されているんです。
人形を作るのは藤村さんで、着物をつくるのは、奥様の正子さん。お二人の合作というわけなんです。女性のお弟子さんと三人、人形作りが続いております。藤村さんに、これからのことについて伺ってみました。
プラスチックや石膏を使って量産できる人形と違い、仕上げまでの工程74、昔ながらの作業から、飽きのこない人形が作られています。今月26日から来月1日まで、銀座松屋7階で、個展「藤村明光展」が開かれます。
3月14日(金)放送分 + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + +
最終日の今日は、「東京の伝統工芸 まとめ」をご紹介します。
今週は、「江戸組み紐」「江戸やすり」「桐工芸」そして「市松人形」、4種類の伝統工芸を取り上げました。磨き抜かれた技術を、何代にもわたって受け継いできたご苦労もさることながら、400年にわたって、常に日本最大、あるいは最大の都市であった江戸そして東京は、同時に文化の発信地でもありました。当然のことですが、将軍や大名、大商人、高級官僚、実業家など豊かな生活を送った人々を中心に、さまざまな技術の発展と向上に役立ちました。
さらに、将軍や大名、武士、大小の寺や神社、さらには庶民たちの日々の生活まで、優れた技術を必要としていました。そんな大都会の中で洗練されていった技術の中で受け継がれてきたものは、したたかに現代も生きているんですね。
「東京歴史探訪」では、これまでに、およそ40名の伝統工芸の職人さんをご紹介してまいりました。お目にかかった印象は、一言でいうと、「元気」だとういうこと。苦労話しをするよりも、「これから」を話す姿は、とてもお年には見えなかったんです。
幸い、多くの職人さんがご家族に後継者を得たり、優れたお弟子さんを育てておられます。都内でも特に伝統工芸が盛んで、職人さんの数も多い、台東区・墨田区・江東区などでは、自治体の保護・育成の動きが軌道に乗っているほか、職人さん仲間での情報交換や、共同した実演販売の催しも盛んに行われています。
東京の伝統工芸は、火事や地震や戦争、度重なる試練に耐えてきただけに、対応力も十分にございます。
今週取り上げた職人さんに限っても、
☆携帯ストラップを組み紐で作り上げて大人気・・。
☆ハイテクの現場で使われている江戸やすり・・。
☆桐工芸に工夫を加えて特許を取った・・。
☆実演販売を通じてお客様の声を直接聞く・・。
まことに、新しい動きも素早く取り入れて、自分の仕事に取り入れているんです。
浅草でも、銀座でも、新宿でも、江戸からの伝統を受け継いでいる工芸品を扱う店が増えています。値段は少々高いんですが、本物だけが持つ「味わい」と「懐かしさ」が感じられます。
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