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12月19日(月)〜12月22日(木)今週のテーマは、「職人の技・東京の伝統工芸」 受け継がれてきた匠の技をご紹介します。
12月19日(月)放送分 + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + +
今日は、「彫刻看板」をご紹介します。
台東区松が谷(まつがや)に、坂井保之(さかい・やすゆき)さんの仕事場兼店舗があります。屋号は、幸福の福に、善良の善、福善堂(ふくぜんどう)で、坂井さんは三代目です。
古代中国の宮殿や寺などに掲げられた木の札から始まったとされる扁額(へんがく)が、日本に伝わったのは、およそ1400年前の飛鳥時代で、時代と共に、寺や神社の額や看板、商店の告知用など、広い範囲に使われるようになりました。坂井さんは今年63歳で、昔ながらの手彫りで看板を作っている職人です。修行の始まりは15歳の時で、父親の与三次郎(よさじろう)さんに弟子入りしてから、間もなく50年になります。家業を継いだのは1962年(昭和37年)でした。今は、10年の経験を持つ長男の智雄(ともお)さんと一緒に作業をしています。
依頼された文字を紙に写しとり、彫る木に貼って、彫っていきます。ここで使う紙は、和紙に限るそうです。また、糊は「ふのり」が良いそうで、木が傷まず、剥がしやすいからだそうです。彫り終えたら、慎重に塗りの作業にかかりますが、完成までに機械を使う作業は一切ありません。家業を継いだ頃、看板製作の世界は、プラスチックをはじめとする新しい素材や手法が入ってきた時期でした。坂井さんは迷った末に、伝統的なやり方を続けていくことに決めました。手彫り看板の店は、現在都内に2、3軒だけになってしまいましたが、坂井さんの作品は、街なかでもよく見かけます。大きなものでは、お酉様で有名な浅草の鷲神社の看板で、長さ4メートル、幅80センチもあります。都心のデパートの外壁に取り付けらえたマークは、坂井さんが補修を頼まれ、新品同様に生まれ変わっています。他にも、老舗の和菓子屋さんや旅館などからの注文が多いそうです。十八代目・中村勘三郎の襲名公演のときの招木札(まねぎふだ)も坂井さんの作品です。ご贔屓から贈られた166枚の招木札が歌舞伎座2階のロビーに飾られていたのをご覧になった方もいらっしゃることでしょう。
お客さんの注文の中から、思わぬ発見や新しい工夫が生まれることがあるそうです。木の温もりが、ここでも見直されているんでしょうか。最近は、木に名前を彫った携帯ストラップの依頼が増えているんだそうです。
坂井さんの技法は高く評価されていて、平成16年3月に、台東区無形文化財に指定されています。
12月20日(火)放送分 + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + +
今日は、「東京桐箪笥」をご紹介します。
千代田区神田和泉町の、人通りの多いJR・秋葉原駅に近い、ビルが立ち並ぶ一画に、相田弘治(あいだ・こうじ)さんの自宅兼作業場があります。相田さんは昭和5年生まれの75歳で、父親に弟子入りしたのは、18歳の時でした。
昔のことですから、休みは月に2回だけでしたが、黙々と桐箪笥づくりを続け、親方に反抗することはなかった、と笑いながら話してくれました。3年ほどたち、100棹ほど作った頃のことでした。滅多に人の仕事ぶりを褒めることのない、ある家具屋のご主人が、「息子さん、だいぶ腕を上げたね」と父親に話してくれた、と聞いた時は本当に嬉しかったそうです。
わが国で箪笥が使われ始めたのは、実は、そんなに古くなく、江戸時代の初めの頃といわれていて、それまでの、長持ちや葛篭(つづら)に代わって使われた家具なのです。江戸そして東京の桐箪笥は、結婚の調度品として発展し、その技術が全国に広まったほどの名産として知られていました。1987年(昭和62年)東京桐箪笥は、東京都伝統工芸品に指定されました。千代田区にも、以前は10軒以上の同業者がいましたが、現在は相田さんだけになってしまいました。
桐箪笥の製造は、最初の木の乾燥から最後の全体調整まで、およそ20もの工程がありますが、すべて手作業です。大学卒業後に修行を始めた弘之(ひろゆき)さんと二人で仕事に取り組んでいます。和風の住宅が少なくなり、箪笥の需要は減っています。でも、相田さんの仕事場は、作業の順番待ちが出来るほどの人気です。最近は、戦前の品や、30年40年と使われた桐箪笥の修理の依頼が多くなっているそうで、新しく作るよりも修理の方が多いそうです。製造は月に1棹(ひとさお)か2棹(ふたさお)、修理は4棹から5棹あるそうです。
「しっかり作った箪笥は長持ちしますよ」
そんな相田さんの言葉そのままに、作る側も使う側も親子代々受け継がれていくものなのでしょう。
桐箪笥が湿気や火に強く、軽いことは知られていますが、手抜きをしない職人の技がしっかり支えているのです。そのひとつの表れが、金具。相田さんが作った桐箪笥の金具は、決して緩んだりしません。長い経験から生まれた工夫と技が活かされているのです。
決して見ることの出来ない、裏側にある金具を固定する作業は、実に力強い!
伝統を受け継ぎ、伝えていく様子を確かに拝見しました。
12月21日(水)放送分 + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + +
今日は、「表具(ひょうぐ)」をご紹介します。
表具、あるいは経師(きょうじ)と呼ばれる工芸の世界には、全国組織の組合もあり、およそ7000名の会員がいるのですが、どんなお仕事なのか、あまり知られていないようです。
荒川区南千住に、表具師・星野秀隆(ほしの・ひでたか)さんの仕事場があります。1936年(昭和11年)台東区生まれで、中学3年の頃から家の仕事を手伝い、成人前にはひとり立ちしました。この道一筋55年、平成16年には、台東区の優秀技能者の表彰を受けました。
表具というのは、書や絵を紙で裏打ちして、掛け軸や屏風、巻物などに仕上げる技術のことで、1000年以上の歴史がある工芸です。作品を丈夫にするために、裏側に薄い紙を何枚も重ねていくのです。生地(きじ)に紙を馴染ませるためには、打ち込みという作業が欠かせません。昔から、表具師が繁盛しているかどうかは、打ち込みの音がしているかどうかで分かったといいます。
「また打ち込みの音がしている。ご繁盛だね!」
…という具合だったんでしょうか。
まんべんなく叩き、生地(きじ)に紙を馴染ませるのですが、叩きすぎれば肝心の作品が痛み、打ち込みが足りなければ補強する役割が果たせず、経験がものを言うのです。使う刷毛は棕櫚(しゅろ)で作られたもので、「たち板」あるいは「のりつけ板」と呼ばれる作業台は、ホウやヒノキで出来ています。
表具の仕事が多かったのは、大正時代末から昭和のはじめにかけてで、日本画の人気が高まり、個人の家に掛け軸や屏風を置くことが流行ったのです。表具の世界も分業で成り立っています。紙や糊だけでなく、たくさんの材料や部品があってこそ成り立っているのです。仕事の依頼があった時、生地の見本帳を見ながら「どの紙を組み合わせよう」と考えるのが楽しみなのだそうです。
最近は内装や襖(ふすま)の仕事も受けていますが、団塊世代やシルバー層が書や絵に取り組むことが盛んで、額装の仕事も着実に増えているようです。息子の裕孝(ひろたか)さんは36歳で、同じ道に進んでいます。表具の技術は、「江戸表具」として東京都の伝統工芸品に指定されていますが、後継者の心配もなく、仕事に取り組んでいます。
仕事をしていて一番うれしいのは、どんな時ですか?…と尋ねると、作品を納めた時、「良い仕上がりですね」と言われた時、と答えてくれました。
12月22日(木)放送分 + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + +
最終日の今日は、「透かし彫り」をご紹介します。
墨田区石原(いしわら)、都営地下鉄大江戸線・両国駅から歩いて3分ほどのところに、松本彫刻店があります。松本一広(まつもと・かずひろ)さんは木(もく)彫刻を生業とする家の三代目で、昭和25年生まれの55歳です。京都の二条城や、有名な寺、旧家などで「欄間(らんま)」の見事な彫刻作品をご覧になった方も多いことでしょう。初代は浅草で仕事を始め、先代の時代に、現在の場所に本拠を移しました。
一広さんが家業を継いだとき、住宅が大きく変わり、畳の生活が減っている中で、もっと木の良さを知ってもらおう…と考えました。欄間づくりの仕事は続けながら、室内のインテリアとして使える図柄にも挑戦しました。例えば、左右対称の図柄などは新鮮に受け取られ、茶道具やテーブルウエアのような、実用性のあるものも作り始めました。
欄間はすべて「見込み生産」ですが、実用性のある品ならば、あらかじめ作っておきます。新しい試みは、これだけではなく、大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパンにあるレストランに飾られている2メートルほどのキリンのレリーフは、松本さんの作品です。機械も使いますが、効率を上げるためにつかうのではありません。
先月には、木彫りショップをオープンさせました。ここには、大小さまざな木彫りの製品が飾られていて、どれも「透かし彫り」の技術が裏打ちされた作品ばかりです。来店したお客さんの反応が面白く、猫の壁飾りを見て「犬のはないの?」、バイオリンの置物を見て「ウクレレは、出来ませんか?」といった具合です。
そこから、新しい作品の工夫が生まれてくるという、まさに、一石二鳥です。店の2階では、月に3回、木彫り教室が開かれています。現在、生徒さんは10名で、年齢も、お住まいも、経験もバラバラ。思い思いの作品をご自分のペースで制作中だそうです。お孫さんに手作りのプレゼントをしたいという方、来年の干支・犬の置き物に取り組んでいる方と、いろいろです。
地元・墨田区が認定している「すみだマイスター」の一員でもある松本さんは、区内のさまざまな分野の職人さんと協力して、伝統工芸の保存と発展を目指して活動しています。墨田区のユニークな活動である「小さな博物館」のひとつ「木彫り資料館」も置かれ、伝統工芸だけでなく、さまざまな試みを通して、木に触れ、木に親しむ機会を増やしている松本さんの活動は注目されています。
12月23日(金)放送分 + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + +
コーナーはお休みしました。
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