2月でデビュー21年目を迎え、ますますエネルギッシュで多彩な表現に挑戦し続けている氷川きよしさんですが、ラジオにおいても20年にわたって文化放送への出演が続いています。今回は、氷川さんの「歌」の世界を中心に、たっぷりと話をうかがいました。
※こちらは文化放送の月刊フリーマガジン「フクミミ」2020年2月号に掲載されたインタビューです。
【こちらもおすすめ】
女優・今泉佑唯インタビュー「ひとりじゃないから、前に進める」「受験生応援キャンペーン」(フクミミ12月号)
「氷川きよし」というジャンルを生み出したい
―― 最近では『紅白歌合戦』の出演が大きな話題を呼びました。ほかにも、昨年12月にリリースした楽曲「確信」など、「新生・氷川きよし」を感じさせる新しい表現にチャレンジなさっています。
氷川 『紅白歌合戦』の「限界突破×サバイバー」をはじめとしたメドレーでは、「これまでとは違う自分を見てほしい」という思いで臨みましたし、大きな達成感がありました。「確信」のような楽曲に関しては、心の底から、命の深い部分から人の心を打つ作品を歌いたいという思いがあります。それを実現するためには細かい「ジャンル」は要らないというか、おこがましいかもしれませんが、これからは「氷川きよし」というジャンルを生み出していくべきだと確信しています。
―― 「命の深い部分」を表現したい。
氷川 そうですね。やっぱり歴史を振り返ってみても、芸術というのは楽しいことだけじゃなくて、さまざまな苦難の中から素晴らしい作品が誕生するケースもあるわけですよね。今の自分自身についても、ようやく「時が来た」という感覚があります。
―― 芸術や表現にまつわる苦難という面では、作品が完成するまでの過程において思い悩む時間も多いと思うのですが、氷川さんの場合はどのようなプロセスで作品と向き合っているのでしょうか。
氷川 一つは、自分の中で哲学というか、「こうあるべき」という原則を持つことですね。もう一つは、「これは本当に正しいことなのか」という判断をしなければいけないときに、自分だけで判断せず、まず尊敬する人の生き方をお手本にしたり、信頼する人の話を聴いたりします。そのうえで最終的に自分で決断して、乗り越えていくことが大切なのかなと。決断した結果として失敗することもあるわけですけど、その失敗は次の成功のための学びだと思うようにしています。たくさん失敗して、痛い目に遭って、人間という生き物が形成されていくんじゃないかと思っています。
歌手としての原点を表現したニューシングル「母」
―― 2月4日に新曲「母」がリリースされます。人生の根本的なテーマを歌っています。
氷川 誰もがお母さんから生まれてきたわけですけど、その一方で、お母さんを亡くされた方もいるでしょうし、小さい頃に離ればなれになっていい思い出がないという方もいるかもしれません。みなさんそれぞれお母さんに対する思いは違うと思うんですが、そのうえで人間の普遍的なテーマである「母 」という存在に自分として向き合いたいという思いがあります。 レコーディングのときに、なかにし礼先生(作詞)から「自分の母親が病室にいて、生きるか死ぬかという状態のとき、子供としてどんな思いを抱くのか。『生きてほしい、絶対死なせたくない 』という一念を心に入れて歌いなさい 」というご指導をいただきました。自分の母も年齢を重ね、命に関わる手術をしたこともあります。十八のとき、東京に鞄ひとつで上京してきましたけど、やはり母がいたからここまでがんばってこれたと改めて感じています。そんな原点というか、なぜ自分は歌っているのかという根本の部分を、デビュー 20周年を越えた、この21年目に、またゼロからスタートする気持ちを込めて歌わせていただきます。
―― 最近ではインスタグラムでの発信も話題ですが、デザイン性の高いビジュアル表現が印象的です。
氷川 ありがとうございます。自分にセンスがあるとは思わないですけど、やはり見せ方ひとつで価値が変わってくるというか。例えば人物写真でも、余白の空間がゆったり広がっているとすごく素敵に見えたりしますし。ああいう表現を作り上げていくのはすごく好きですね。ただ、大変なのは同じ服を着れなくなることです(笑)。だからメンズとレディースを組み合わせたり、コーディネートの面でもいろいろ試行錯誤しています。楽しいですね。最近はインスタグラムが生きがいになってます(笑)
21年目を迎える今、目指す場所
―― そういった新しい分野にチャレンジする一方で、ラジオ出演も長年にわたって継続されています。
氷川 ラジオは写真や動画と違って、言葉だけで自分を表現しないといけません。特に自分は幼い頃、喋るのが苦手だったので、それを克服したいと思いながらラジオに20年挑戦し続けてきました。今はようやく一人喋りでも間が持つようになったのかなと。エンジンがかかると、つい喋りすぎちゃうこともありますけど(笑)。聴いてくださる方を傷つけない範囲で言いたいことが言えたらいいなとも思います。コンサートのMCでも、自分がちょっと強めの発言をすると、「そうだ、そうだ!」って拍手をいただいたりするんです。そういう反応があると、みなさんを代表しながら表舞台に立たせてもらっているんだなと、身の引き締まる思いになります。「氷川きよし号」という一つの船に、ファンのみなさんと一緒に乗っているような感覚ですね。
―― 最後に、デビュー21年目に突入ということで、今後に向けた抱負やメッセージをお願いします。
氷川 先日、知り合いがコンサートを観に来てくれたんです。お目当ては「限界突破×サバイバー」だったらしいんですけど、コンサートが終わると「他の演歌系の曲も好きになった」と言ってくれました。最初はポップス系で興味を持ってくれたけど、コンサートで他の楽曲にも触れることで興味が広がる。ジャンルを超えていろいろな楽曲を歌うことで、こうした道筋が生まれてくることがうれしいですね。最近よく言うことなんですが、「男だから」とか「女だから」とかではなく、一番大切なことは「人間であれ」ということだと思うんです。音楽も同じで、「演歌だから」とか「ロックだから」とかではなく、大事なのは、まずそこに心があるかどうか。だから、自分としてはそれらすべてを包み込むようなスケール感のあるエンターテインメントとして音楽を表現していきたいと思っています。その途中には苦難もあるし、いろいろな人の思いも重なってくるでしょうけど、そこをきちんと汲み取りながら自分自身と戦っていきたいと思います。
●氷川きよし(ひかわ きよし)
9月6日生まれ、福岡県出身。2000年、日本コロムビア創立90周年記念アーティストとして歌手デビュー。「箱根八里の半次郎」「きよしのズンドコ節」など多数の代表曲を発表し、2006年、「一剣」で日本レコード大賞を受賞。2月4日、ニューシングル「母」をリリースする。