「note」創業者から見る今後の本とコミュニティー『浜松町Innovation Culture Cafe』
みなさん、「note」というサービスはご存知でしょうか?
「note」とは文章、写真、音楽動画などを気軽に投稿して、作者とフォロワーを繋ぐサービスです。気軽な創作活動ができる一方で、作者が自由に課金を行うことができます。「note」最大の特徴のひとつは、創作活動×ビジネスを実現したことでしょう。現在では月間2000万人も使われるサービスへと成長しています。
12月17日に放送された文化放送のラジオ『浜松町Innovation Culture Cafe』では、「note」を運営する株式会社ピースオブケイクの創業者の加藤貞顕さんをゲストをお呼びして、「もしドラ」の誕生秘話や、「今後の本とコミュニティー」についてお話ししてもらいました。
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なぜ「note」はここまで利用されるサービスになったのか?
田ケ原 加藤さんはこれまでアスキー、ダイヤモンド社に編集者として勤務されてきました。岩崎夏海さんの「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」、堀江貴文さんの「ゼロ」など数々の話題作を編集。その後、2012年にはコンテンツ配信サイト「cakes」を2014年にはメディアプラットホーム「note」をリリースされ、特にnoteは月間アクティブユーザー数が2000万人を突破しています。
入山 加藤さんは初めてお会いするんですけど、メディア界では本当に有名な大スーパースターで、なんといっても「もしドラ」が有名ですね。2009年の12月、もう10年前になりますが、大旋風を巻き起こした「もしドラ」の担当編集をされた方ですね。加藤さんは本の大ヒットメーカーで、今は非常に若い方を中心に支持されているメディアプラットホーム「note」を運営されていますが、月間アクティブユーザー数が2000万人を超えたんですね。知ってる方もいると思いますが、知らない方のために「note」がどういったものなのか教えていただいてもよろしいですか。
加藤 はい。「note」っていうのは、Twitterのように誰でも簡単にアカウントを作ることができて、文章とか写真とか漫画、イラストとか何でも投稿できるんですね。それを読むこともできるので、プロもアマチュアもたくさんいます。最大の特徴はコンテンツを見るだけでなく、コンテンツを販売することができます。なので、プロが真面目に仕事のコンテンツを挙げたりして、そこにファンがつき、つながっています。たとえば、作家の吉本ばななさんが定期購読のものを作って、ファンの人が買ったりしていますし、占い師のしいたけさんが「月刊ふたご座」とか「月刊みずがめ座」とか12星座あるんですが、そういったコンテンツを販売しています。
入山 コンテンツってタダで読める部分もあるんですよね?でも、販売しているものもあるっていうのはどういう違いがあるんですか?
加藤 お金の話をしましたが、9割以上は無料で利用できるんです。よくネットでみていると有料のサイトってあるじゃないですか。ここまでは無料だけど、こっから先は有料っていう「ペイウォール」があるんですけど、これを自分で設定できるんですよね。自分で作った記事に対して、自分でペイウォールが引けるんです。
入山 作り手任せにするってことなんですね。
加藤 そうです。自由に作れるんですよ。だから、必要ならばコンテンツ販売もできるっていう仕組みになっています。
入山 おもしろいですね。実は2週間前、Twitter小説家の燃え殻さんに来ていただいたんですよ。燃え殻さんも大ブレイクしたきっかけはcakesに小説を書いたことなんですよね。つまり、色んな人たちが気軽に参加できて、基本タダなんだけど、お金を取ろうとしたら自分たちで設定して取ることもできるオンラインプラットホームを作っているのが、加藤さんがやられていることなんですね。
「もしドラ」の誕生秘話!奇抜な組み合わせで大ヒット!
入山 テーマの「本とコミュニティ」についてお話していきますが、たぶんラジオを聴いてる方はあの「もしドラ」の編集者ってことで、その辺の話も気になっていると思いますが。「もしドラ」ってどういうきっかけで作られて、加藤さんは当時どう思われていたのか教えていただいてもよろしいですか?
加藤 10年位前の本で、270万部とかなり売れた本ですね。もともと、著者の岩崎夏海さんがインターネットのWebサイトにこれの原案みたいのを書いてたんです。5000字くらいのあらすじみたいのを挙げてて、これが面白かったんですよ。なので、連絡して会いまして、「小説にしませんか?」って言って、始まったんです。
入山 へぇ。noteとかcakesとかで書いてるものが人気がでて、書籍化されたりするじゃないですか。それの原点みたいなのが「もしドラ」になるんですね。
加藤 僕は昔からネットから本にするってのは、やっているんですよね。アスキーにいた時に、「英語耳」っていう英語の学習書を作りました。「英語耳」もブログとかより前の時代ですけど、著者の方が書いてたものを面白いと思ったので、本にしました。僕はそういう感じでやってることが多いですね。
入山 そうなんですね。結果的に270万部という大ヒットになったわけですけど、作った当初はどういう感触だったんですか?
加藤 どんなこと言ってましたかねぇ。割と手ごたえを感じて作っていたと思います。
岩佐 岩崎さんと加藤さんが初めて打ち合わせしているのが聞こえたんですよ。「加藤さん、おもしろいこと考えてるな」って思ってて。だってドラッカーと女子高生が会話で一緒に出てくるんですよ?
加藤 普通は大企業のエグゼクティブという固い本ですよね。この企画は岩崎さんが企画を出してきて、ダイヤモンドにおいてはドラッカーってとても大事なコンテンツなんです。だから、やりづいらいところはあったんですけど、おもしろかったので。ただ、一番最初はね、打ち合わせで岩崎さんが「200万部売りたいです」って言ったんですよね。だから、岩崎さんに「本って1万部売れたら2ベースヒットなんですよ」って。とはいえ、10万部以上は目指そうと思ってたんですよ。だから、まずは10万部を目指して、そのあと100万とか200万とかはあり得る話かなって。
入山 僕も出版に関わっているのでわかりますけど、10万ってむちゃくちゃ大変ですよ。ありえない数字ですもん。でも、10万はいけると思ったんですね。
加藤 100万だって可能性はゼロじゃないので、もちろんそこも狙いましょうと。まずは1万、そして10万、100万狙おうと始めました。でも、その言葉は耳にも残っていたし、意識もしていたので、表紙もそうですが、普通より手間をかけて、作りました。
入山 昔から意識はあって、結果的に200万部を超える日本を代表する著書の1つになったってことですね。
本とコミュニティーとは
入山 では、ここからは「本」そして、そこから出てくるプラットホームやコミュニティについてのテーマで話してみたいと思います。
入山 まずは加藤さんにお聞きしたいのですが、具体的に新しい時代で本が生み出しているものとか、noteを含めた提供できてる価値っていうのはなんだと思いますか。
加藤 本ってもともとクリエイターのまとまった思想を伝えるのに適したメディアだと思うんですよ。本とコミュニティという話で言うと、本とコミュニティが一緒になっている最大のものってキリスト教の「聖書」だと思うんですよ。世界最大で、きっとこれ以上に大きな本とコミュニティが一緒にあるものは生まれないと思いますけどね。コーランの方が大きいかもしれないけど、元々そういうものだと思うんですよ。言葉って消えていくけどそれを本にしたことで、保存性がでて、共有されているんだと思うんですよね。
入山 その著者の思想が全部消えないで、記録されるから、結果としてそれが基盤となってコミュニティが生まれてくるということですね。
加藤 アーカイブされたメッセージなわけですよね。だから、コミュニティの基礎にもなるし。コミュニティって長く続くためにはアーカイブ(記録媒体)が必要で、口で伝えると消えていっちゃうからね。
入山 なるほどねー。僕の話になっちゃうんだけど、ある歴史の本を読んでいたら文、「基本的に文明っていうのは文字の記録が残っているところからが起源。そうでないと、たとえばメソポタミアとか残ってるけど、それがないと文明があったっていうのがわからない」と。だから、それ以前に、社会を作っていた民族はいたかもしれないけど、文字の記録を残していないから文明にならないんですって。だから、文字で記録に残すって、思ったよりでかいことなんですね。
加藤 そうですね。しかも、持ち運びができるっていうのも本って新しいんですよ。本って今では古い話になりつつあるんだけど、元々は新テクノロジーで、当時は壁に書いたりとか、石版詰んだりとかだから、スマートフォンができたくらいのことだと思うんですよ。だから、キリスト教は活版印刷が出て移行、世界に広まっているんですよ。これは情報革命なんですよ。
入山 活版印刷技術が、今我々がインターネット社会に直面しているようなものだったということですね。
加藤 あれは情報革命だったと思うし、その延長で考えたらわかりやすくて、今も情報革命がきているんだと思うんですよね。
入山 なるほど。情報革命の時代っていうけど、昔からあったってことですね。
岩佐 僕もまったく同じ考えで、もし文字と動画がなかったら一日何やってるかなって考えるんです。だから、それぐらい文字って偉大だなって。
加藤 動画も最近はポータブルになって、Youtubeってすごい革命なんだけど、でもその一方で文字がすごいなって思うのは、情報の圧縮性が圧倒的に高いです。たとえば、「トンネルを抜けたらそこは雪国だった」ってシーンがあるじゃないですか。これってものすごい情報量が圧縮されているってことですよね。たかだか十何文字でこれだけの光景がわかるってものすごい力を持っていて、映像がどれだけ発展しても、なくなることはなく、併存していくんですよね。
砂山 今のシーンを動画でやろうとしたら、トンネルのシーンをしばらく使ったあとに、雪が出てきっててなりますもんね。
加藤 しかも、クオリティがみんなが思っているところにぴったりこないことが多いわけですよ。それぞれが違ったものを思い浮かべてるけど、文字にすれば自分が一番いいものを思い浮かべるわけですよね。これはこれで価値があるので、絶対無くならないですよ。将来もしかしたら、直接脳にデータを届ける発明がでてくるとは思ってますけど、それまでは文字は強い伝達ツールですね。
入山 前に出した本で、漫画化しないかっていう声をいただくんです。でも、15万字くらいの本の1万字くらいしか漫画にならないんですよ。だから、絵が入ることで情報が豊かになるようだけど、逆で内容がものすごく薄くなるんですよね。それって文字の力がすごいってことですよね。
加藤 そうですね。まぁ、僕もkindleでものすごい本を買うんですけど、ちゃんと勉強しようかなと思うものは紙で買います。
岩佐 僕はほとんど紙ですね。でも、処分しちゃうので、家にあまり残ってないですけどね。
入山 加藤さんはcakesとかnoteを作られて、インターネット上で文字のプラットホームを作ることで人と人の新しいつながりを実現しようとしてるのかと思いますが、どういうのを目指してるとか、紙の時代と何が違うとかありますか?
加藤 文字だけにしようとしてるわけじゃないんですよ。本だって、写真もあるし、そこは決めてないです。僕が何をやろうかっていう話は会社のミッションでもあるんですが、「誰もが創作を始め、続けられるようにする」ということです。
出版って良い仕組みが築かれていて、おもしろいことを考えたり言いたいことを聞けよって思ってる人が世に投げかけることが出来る。それが産業になっていて、100年くらい続く「エコシステム」が回っていました。でも、ラジオやテレビもそうだけど、インターネットがでてきて、このシステムが変わってきた。インターネット上でできるエコシステムってあんまりないんですよね。たとえば、新作のコンテンツを入山さんがブログに載せて、広告を貼って、お金を稼ごうとするとします。でもインターネットの仕組みだと儲けるのって大変ですよね。それこそ、村上春樹さんが新作を無料ブログで乗せて、広告をつけてとかやらないですよね。紙でやったほうがちゃんと届くし、ビジネスになるし。要するに、エコシステムがネットでは遅れてるんですよね。映像も同じですけどね。
入山 なるほど。なんとかして、金銭的報酬が良い作品には入ってきて、その人たちが作るインセンティブもできるようなエコシステムをネット上に作りたいと。
加藤 お金だけじゃないですけどね。仕組みもそうだし、完成しきってないシステムを作り上げようというのが目指しているところです。そうすると、作家はおもしろいことをやればそれが評価されるので。
入山 ネット上でおもしろいことをやれば、ちゃんと評価される仕組みですね。そういったシステムを作り上げるために、noteやcakesをやっているんですね。
入山 岩佐さん自身も今、フリーの立場で文章を書かれていて、「世界標準の経営理論」ができた秘話みたいなものも書いておられたりもしてますよね。その他にもnoteで書いて、そこからお仕事がきたりもするんですか?
岩佐 フリーなので仕事がくるパターンって2つで、一つは元「ハーバード。ビジネス。レビュー」の編集長としてなんですね。でも、そうすると似たような仕事がくるんですよ。違うことをやろうとしても似たような仕事がくる。noteに書いてみると、期待してなかったけど、そこから問い合わせがきたりするっていうのがとても新鮮なんですよ。たとえば、再生エネルギーを事業化したいので、相談に乗ってくれだとかね。
入山 えー!すごい!!そういう事業の話を書いたんですか?
岩佐 それっぽいことは書いたんですけど、紙の編集じゃなくて事業の編集をしてみたいなって思ってたんですよ。なので、僕の場合、編集技術を違うジャンルで活かせるんじゃないかなって。それがnoteで書いてるとくるんですよね。
入山 岩佐さんは本の編集だけじゃなくて、事業を編集したいってことですか?
岩佐 何か組織だとか、コンセプトだとか他のことに活かせるんじゃないかと思ったのでね。
入山 おもしろいですね~
加藤 そういった感じの人って結構いて、岩佐さんは自分自身の考えをたくさん書いてくれていたんですよね。そうすると「岩佐さんてこういう人なんだ」とか「こういうこと考えてるんだ」ってわかったから、それを理解して依頼がきたんだと思う。僕、個人のnoteアカウントって本に近いと思うんですよ。岩佐さんというメディアになってるじゃないですか。
入山 確かにそうかも。この人のってなりますもんね。
岩佐 自分のホームページを作ろうか迷ったんですけど、自分の考えをここに書いて、そこから理解してもらえればいいやって思って、note始めてホームページ作るのをやめたんですよね。
加藤 割とそういう人増えてますね。やりたいことって、基本的にただ伝えたいことですよね。それなら、仕組みが出来上がってるところで、見に来る人が多いところでやったほうがいいよねっていう。これが僕らが提案していることですね。
田ケ原 私も見てますが、自己紹介を書くってのもありますよね。noteの中でもマガジンをカテゴリーに分けて、整理が出来る機能があるので、書く側も見る側も便利なんですよ。cakesだと燃え殻さんとか、noteだとかっぴーさんという漫画家さんがいるんですけど、「左ききのエレン」をチェックしてます。
入山 コミュニティとかプラットホームって場合によってはすごく閉鎖的になるじゃないですか。逆にオープンにしすぎると、色んな人が入ってきて雑多なものになってしまうってよく議論されると思いますが、そういったことって気を付けたりしてますか?
加藤 もちろん、個別の運営者によっても考え方があって、閉じたい人も開きたい人もいるので、そこは両方できるようにしてるんですよ。そもそもnoteってWeb上にあるから、オープンにやりたければいくらでもオープンにできるし、課金をうまくやって閉じれば閉じれるし。Webにあるのが重要で、課金したとしてもペイウォールが好きなところに引けるから、それを一番上で引けば完全に閉じてる状態になるし、途中まで見せることもできるので、だいぶオープンだけどちょっとクローズとか、自由な選択が可能なのが大事なのかなと思います。
入山 自在にオープンとかクローズとかコントロールできるのが、サービスの新しいところだということですね。
岩佐 あと、根本的にnoteってケチつける人がいなくて、「面白かった」とか「共感した」っていうコメントが多くて、荒れないってのがいいですね。
加藤 インターネットって荒れやすいので、気を付けているんです。荒れやすい理由があって、インターネットって広告モデルが基本なので、荒れやすいんですよ。広告モデルってページ需要が増えれば増えるほど儲かるってことなので、激しい表現をしたりとか、見出しを強くしたりとか、簡単に言えば人の悪口とか、コピペとかをするんです。
入山 僕も実は某ネットメディアで、タイトルを某編集者の人がつけて、結果的に激しく炎上したことがあったんです。でも、PV数は稼げちゃうので、ある意味良かったみたいな感じになりがちなんですよね。
加藤 そうそう。noteは広告がないので、そういうインセンティブがない設計になってるんですよ。あと、ランキングもないんです。ランキングってあると荒れやすくなるし、みんな色々なことをやっているので、多様性があった方が面白いんですよね。
入山 そういう仕掛けを取ってるから逆に共感のコンテンツになるってことなんですね。
砂山 そんな中でも新しいサービスをリリースされるんですよね。
加藤 ありがとうございます。今日、発表したんですけど、2月から「サークル機能」が始まります。月額課金のコミュニティが簡単に作れる機能です。サブスクリプションのコミュニティを簡単に作れるってことです。たとえば、自分がタレントだったら掲示板があるので、ファンクラブ的に使うこともできるし、新橋で月一ビールを飲むサークルを作ってもいいですし、アーティストの活動を支援してくださいっていうサークルでもいいですしね。ファンクラブ的なのでも、ビジネスの勉強会やゼミの会費を取ってもいいですし。オススメしたいのがレストランやバーで使ってほしくて。月に1回1杯無料にするとかにしてね。色々な仕組みのあるサービスをリリースしますよ。
入山 ぜひ、チェックしてみたいですね。
みらいブンカvillage 浜松町Innovation Culture Cafe
放送日:火曜 19:00~21:00
出演者:入山章栄、砂山圭大郎アナウンサー、田ケ原恵美
過去回:Podcast
毎週火曜日、午後7時から生放送でお送りしている『みらいブンカvillage浜松町Innovation Culture Cafe』。パーソナリティは早稲田大学ビジネススクール教授の入山章栄さん、砂山圭大郎アナウンサー。アシスタントはVoicy広報の田ケ原恵美さんが担当します。
「みらいブンカvillage浜松町Innovation Culture Cafe」はさまざまなジャンルのクリエーターや専門家・起業家たちが社会問題や未来予想図などをテーマに話す番組です。自身の経験や考え、意見をぶつけて、問題解決や未来へのヒントを探ります。
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