高分子フィルムの上で野菜を栽培するという画期的な栽培技術が、注目を集め、今、広がりを見せ始めています。野菜は畑で栽培するものという常識を大きく覆し、このフィルムを使うと、野菜はフィルムの上に根を張ります。生産されるトマトなどは糖度の高いもので、海外でもこの技術に注目が集まり、中東の砂漠地帯で、既にこのフィルムを使った野菜の栽培が始まっています。
文化放送The News Masters TOKYO「マスターズインタビュー」、今回は、この画期的な技術を開発した神奈川県平塚市のベンチャー企業「メビオール」の森有一社長に番組パーソナリティのタケ小山がお話をうかがいました。
収録当日、森社長はスタジオに、フィルム上に根を張ったレタスを持参してくれました。しっかりと根を張ったレタスは、フィルムを逆さにしても落ちてくることがありません。そもそもこの「フィルム農法」とは、何なのでしょうか。
「フィルム農法とは、文字どうり、フィルムの上で野菜を育てる技術である。今、スタジオにサランラップのような透明なフィルムを持ってきたが、このフィルムが畑の土の代わりをすると考えてほしい。なぜ、そんなことが可能なのか。それは、このフィルムの性質にミソがある」
森社長は、このように、レタスが根を張ったフィルムの表と裏を見せながら説明してくれました。フィルムの裏面は水で濡れていましたが、表面はさらさらに乾いています。
「このフィルムには、ナノサイズの小さな穴がたくさんあいている。フィルムの表面にレタスの種をまくと、レタスは、フィルムの裏側に浸した水や肥料を、フィルムの穴を通して吸い込む。ただ、この穴は非常に小さいので、雑菌などを吸い込むことはない。
また、フィルムの表側は、ハイドロゲルになっており、赤ちゃん用のおむつが、おしっこを吸収してしまうように、水を吸収してしまうので、水で濡れることがない。レタスの種は、フィルムを通して水と肥料を吸い込み、フィルムを土と思って、そこにしっかりと根を張るという仕組みである。このフィルムさえあれば、土がなくとも、どこでも野菜が育つということになる」
それでは、フィルム農法で育った野菜の品質は、どうなのでしょうか。野菜の商品価値などについてうかがいました。「フィルム農法で育った野菜の特徴は、糖度が高く、リコピンなどの機能性成分がおおいことである。特に、トマトなどはこの農法に適しており、フルーツトマトは、日本国内150か所、約10万坪の農場でフィルム農法を使って栽培されている」
森社長のお話をうかがっていると、土のいらない農業という革命的な手法を考案されたと言えますが、従来の農業と比べて、生産コストという点ではどうなのでしょうか。
「フィルム農法は露地栽培ではなく、ハウス栽培になるので、ハウスを作るコストはかかる。ただ、ハウスさえ作ってしまえば、土はいらない。生育させるのにも失敗は少なく、収益は上げやすい。しかも、日本全国どこでも、栽培が可能である。海外でも、ドバイで、4年前から、フィルム農法を使って、砂漠で野菜を栽培している。中国では上海で、この農法が広がっており、インドでも取り入れられている」
そもそも、この画期的なフィルム農法を考え出した森社長の発想の原点は何だったのでしょうか。「スティーブ・ジョブズの言葉が印象に残っている。それは、先端技術は生物学と交差するところから生まれるという趣旨だった。そこから、農業を工業化できないかという発想が生まれたように思う。でも、最初は大変だった。100種類ぐらいのフィルムを集めて、その上にレタスの種をまいて観察する日々だった。会社でやっていると、『社長は何をやっているのか』と言われるので、自宅で観察していた。そうしていたら、ある時,芽が出てきた。
ただ、最初の18年間は赤字続きだった。農家の人たちに説明しても、彼らにとっては土は神聖なものであり、それをペラペラのフィルムに変えることなどとんでもないということで、信じてもらえなかった。それでも、世界100か国で特許を得ることができて、一つの事業としての可能性が生まれてきた。
考えてみれば、フィルムの原料は石油である。その石油は、大昔の植物が堆積してできたものであり、今、その石油からできたフィルムが、未来の植物を育てていると思っている。フィルム農法を使えば、これまで農業が成り立たなかった場所でも、野菜が育つ。アフリカの貧しい国々が、この農法を使って、食糧危機を克服し、豊かになれれば本望である」
元々は化学繊維メーカーの社員であった森社長。50代半ばで自分の会社を立ち上げ、フィルム農法を考案したわけですが、60歳までは勉強の時。還暦を過ぎて起業しても、全く遅くはないと力説しておられました。