マスターズインタビュー第6回は下町ボブスレープロジェクト推進委員会の細貝淳一ゼネラルマネージャーが登場。金属材料を販売する会社を経て、1992年にアルミ加工業の「マテリアル」を創業し、2011年に大田区の町工場でボブスレーを作る「下町ボブスレープロジェクト」を立ち上げた。詳しい話を伺いにタケが訪れた。
細貝社長に会う前から気持ちが昂るタケ
生まれ育った町工場の街の魅力とは
中学校卒業後から働き始めた細貝社長。様々な仕事を転々とする中で、人とのコミュニケーションをとることに向いているのかもしれないと気づかされる。そんな折に、素材を扱う町工場の社長からスカウトされる。
町工場で目の当たりにしたのは「100円の素材を加工により10万円にする」技術。これぞ、日本が誇る大田区の町工場の力。しかし、彼がこの地に根を下ろしたのはそれだけではない。今ではなくなりつつある「人と人とのつながり」に魅せられたからだ。今、彼が手にしている一流の加工技術は、近隣のおせっかいなおじちゃん、おばちゃんから直接教わったもの。これが彼の原点なのである。
これにはタケも「へぇ~そんなことあるのかね~」と町工場の温かみに感心。
しかし現在は、情報漏洩の観点からこうした人と人との繋がりは希薄になってしまった。そこに「1つの目標があれば、こうした集いがまたできるのではないか?さらに自分たちをアピールするために、オリンピックの道具、それも自分たちには技術がない炭素繊維の分野だったら一つの目標として面白いのでは」と考え、そこから「日本企業が進出していない分野で」と考えボブスレーの道へ。
ボブスレーを作ろう!
タケ「誰がボブスレーって考えたんですか?」
大田区産業振興協会の職員が、「炭素繊維でオリンピック目指したい」と言っていたら持ってきてくれた。しかし、ボブスレーの知識は完全にゼロ。そこで仙台大学からメンテナンスをすることを前提にソリを借りて来て分解。中を見ての感想は「こんなもんか」。
それを参考に、とりあえず試しに1台作ることに。それがメディアに注目され、それをみた北海道の選手が「私たちに作ってほしい」と名乗り出るなど、嬉しい連鎖が生まれた。俄然やる気になった細貝社長。その後、若手の経営者を呼んで、テーブルの上に図面を広げて、「好きな図面を持って言ってくれ!」と呼びかけてチームが編成。プロジェクトがスタートした。
ジャマイカと走る
女子選手の方が世界との力の差が小さかったので、女子選手をターゲットにソチオリンピックを目指すことに。選手たちは、最初はどこのメーカーかわからないソリは不安だった。しかし、実際に乗ってもらうと、選手たちから評価され、全日本の大会で好成績も出してくれた。
細貝「これでソチオリンピックにいくぞ!ということになり連盟と話をしたら、女子選手は派遣しない…と。」
タケ「なんでですか!?」
資金の問題であった。さらに次の平昌オリンピックは、海外メーカーと競争になったが、2年前に不採用に。
タケ「平昌は出られないんですか?」
視点を変え、海外にオファーを出したところ、ジャマイカが最初に手を挙げてくれた。今回、ジャマイカの女子チームは資金不足でW杯に出られなかったが、これから資金を集めて転戦してポイントためれば、必ず五輪出られると思う。
細貝「1度、世界第3位になったパイロットが乗るんです。さらに、もう一人の選手が2年~3年前の400mリレーの金メダリスト。ソリが調子よければ…、いい線行っちゃうんじゃないかなぁ~」
タケ「ソリがでしょ!?凄いエンジン積むぞ~!」
いつかは日の丸で連覇を
タケ「最終目標は日本チームでしょ?」
細貝「日本人は日本チームが勝つのが一番好き。チャンスを与えて欲しい。我々のボブスレーに日本人が乗ったら感動は大きいと思う。オールジャパンは諦めてない。だからこそ、ジャマイカチームに活躍してもらいたい。」
しかし、本当の夢は、その先にある。
細貝「2大会連続で金メダル。1回はラッキーで取れるかもしれないが、2回は実力。最強ということ。それにわれわれのソリがかかわるのが夢です。」
下町ボブスレーでボブスレー自体も注目されている。こういう環境は珍しく、だからこそ、ボブスレーがメジャースポーツに切り替えられるチャンスでもあると感じている。
細貝社長の考える職場環境と仕事への姿勢
細貝社長が、朝必ずすることがある。30人の社員に「何か俺にある?」と声をかけることだ。この一言が職場の環境作りになる。
その中で、大切にしているのは「原理原則を大切にする」である。お金にならないのではダメで、いいなと思うものを出来る限り具現化するのが中小企業の役目。知的財産の管理をしっかりして、大企業と一緒になって大きな市場を狙っていけばいいと考えている。
最後にこの質問「なぜここまでボブスレーにのめりこめるのか?」
細貝「やっていることが楽しい。そしてボブスレーを作って結果を見たい。勝つためにはどうしたらいいか。諦めた時が潮時。やり続ければ負けない。負けるのが嫌だから続ける。ただ、”もう少し努力すればできる”という段階までもっていってこその継続。」
ゼロからスタートしたプロジェクトが、紆余曲折を経て来年一つのチェックポイントを迎えようとしている。アイススケート、スキージャンプなど、注目選手が、目白押しの平昌オリンピック。一方でボブスレーの、さらにジャマイカ代表にも注目してみてはいかがだろうか。
収録終了後にソリを見せて頂いた。実物を見て童心むき出しのタケ小山。いつかこの町工場で生まれたソリを従えて日本人選手が、表彰台に登る…そんな日も近いのかもしれない。