マスターズインタビュー Master’s Interview

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日本最大級の車検チェーンを率いるイノベーター・株式会社コバック代表取締役社長・小林憲司さん

今回のマスターズインタビューでは株式会社コバックの小林憲司社長にお話しを伺いました。小林さんは町の自動車工場を全国に知れ渡る一大車検チェーンに育て上げた革新的経営者。顧客満足を第一に掲げ、常に新しいアイデアで新しい道を拓いてきた小林社長が次に向かう先には何があるのか?タケ小山が迫ります。

◆「自分の代では潰せない!」一念発起で町工場を大改革

トヨタ自動車の城下町豊田市で父と母が二人三脚で始めた自動車工場「小林モータース」、それが「車検のコバック」のはじまりだった。いかにしてファミリービジネスが車検の全国チェーンに発展していったのか?タケの興味はまずその「小林モータース」時代のことにさかのぼる。

オイルの匂いを嗅いで育った小林少年は、当然家業を継ぐものと思っていた。地元の豊田工業高校で自動車整備を学び、しばらく他所で修行したのち、実家が経営する「小林モータース」に入社。整備工をするつもりでいたが、父である社長から思わぬ命令が。

「『お前は整備はやらんでいい、仕事を増やせ』と言うんですよ。車検営業をやれというんです。営業なんて右も左もわからない。車検には値段がついていないし売りようがないと困りました。」

小林さんが仕事を始めた30年前の自動車修理業界は、かつて車が富裕層の贅沢品だったころの古い業態のままだった。その昔はタイヤ交換だけでも当時の大卒の初任給ほどの高額で、いわば「殿様商売」だったのだ。小林さんは振り返る。
「例えば人間ドックで、検査前に治療代を見積もる医者はいませんよね?それと同じで、お客さんも工場も車検というとプロ任せで、前もって値段を知りたいという発想がなかったんですよ。」

もはや車は庶民の乗り物、いつまでも旧態依然のやり方では淘汰される。

「これまでと同じことをやっていたら100パーセント私の代で工場は潰れる!と危機感でいっぱいになりました。」
小林さんが車検営業でぶち当たった壁は試練だったが、新しいビジネスのヒントでもあったわけだ。ピンチはチャンス!タケは思わず膝を打つ。

◆汚くて薄暗い整備工場を、明るい車検専門店に!

当時、値段のつかない車検ビジネスでは、予想外の高額請求や、頼んでいない部品の交換などへの不満、不払いなどお客さんとのトラブルがよくあった。整備工にしても仕事も5K(危険、汚い、きつい、暗い、臭い)で給料が安く、家庭を持てるような仕事ではなかったので離職率が高かった。

「こんなに人が寄り付かない商売に未来はない。業態を変えて車検専門店をやろうと決心しました。車を買った店ではなく、車検は専門店に出しましょう、ということにチャレンジしたんです。」

そこで、小林さんは100人以上の人に直接聞いてみることにした。ユーザーに直接聞いて、ニーズを反映するのが、早くて確実だと考えたからだ。そして女性でも入りやすい明るいデザインの店舗に変え、保障を充実させる、高いサービスを提供する、料金表の提示、低価格など、ディーラーや整備工場ではなしえないことを実行した。社長の反対もあったが小林さんはひるまず、どんどん新しいアイデアを投入していく。

「新規開拓のためにチラシを配りました。同業者からは料金を宣伝されたらやりにくいとか、チラシをもってきた客に値引き交渉されたとか、『やりにくくなった』と反発もありましたね。」
しかも料金はディーラー車検の半分程度、最初は赤字だったが、台数が増えていくうちに利益が出て、うまく回るようになっていく。小林モータースはこうして「車検センター新豊田」に生まれ変わった。

「思い切って始めた新業態は大成功でした。年間車検台数も400台から2800台になり、売上は7倍に。間違いなく豊田市で一番の自動車整備工場になったんです。これで私の代は安泰だ、もう倒産する心配はないぞ、と一度は満足したんですけどね・・・」

26歳で業界を驚かせるような成功をおさめた小林さんだったが、さらに大きい夢を描くようになる。どうせなら日本一の車検屋になろうと思ったのだ。「それで?」タケは話の先をうながさずにいられない。

◆本邦初、車検の全国チェーン始動!コバックが変えた車検の常識

大成功が噂になり、全国から工場を見学させてほしいと見学者が殺到した。店がキレイ、価格が安いだけではない、高品質の仕事を5人のメカニックで年間2800台車検こなすために築いたノウハウは宝物だ。だが、業界全体を盛り上げたい、という一心で見学者には、整備マニュアルから、運営システムまで気前よく見せた。

「一日見学して説明を聞いても、その通り再現できるわけではないんですよね。表面的にまねをしても、経営理念が伝わらない限りうまくいかない、いい方法はないかな?と考えました。」

そんな中、日本マクドナルドの藤田田氏の著作を読み、ひらめくものがあった。ハンバーガーと同じように自分の方法論で車検工場を展開したらどうか。自動車整備業界を革新するにはフランチャイズしかないんじゃないか?思いついたら即行動、しかしつてはなく、市の図書館で全国のハローページを調べ、フランチャイズシステムの先生を探した。

「ご縁ですね。たどり着いた方がマクドナルドのハンバーガー大学のプロデューサーだったんですよ。最終的にフランチャイズ専門のコンサルタントを紹介してもらい、提示されたシステムがフルパッケージで1億円というんです。払えるわけがないと、ずいぶん悩みました。」

ひたすら革新へ猛進する小林さんの話を聞きながら、タケはふと「小林モータース」を立ち上げた先代のことが気になった。
「父は大反対でしたよ!『お前は何を考えているんだ、今の事業の成功で十分じゃないか、チェーンなんてとんでもない!!』反対の一点張りでした、それでも、うんというまで、説得するしかない。こいつは何を言っても無駄だと、最後はようやく諦めてくれました。」

1億円の費用については、議論を重ねた末「インセンティブ」つまり1店舗増えるごとに報酬を払うスタイルで契約が成立した。コンサルも小林さんのビジョンに賛同したのだろう。いよいよフランチャイズチェーンになった車検センターは「コバック」に名前を変え、自動車整備業界だけではなく、業界の外にも大きなインパクトを与える事業へと大成していくことになる。

「どんな商売も同じことの繰り返しでは永続性がない、昨日より今日、今日より明日と現状を打破し続ける革新していくこと、現状維持より現状打破です。」
パイオニアならではの力強い言葉に、セカンドキャリアに踏み出した50代のタケも背中を押された気持ちになる。

◆「私たちの商品は満足感です。」という企業理念

小林さんの名刺には代表取締役の下に「お客様満足最高責任者」と書いてある。タケはそれが気になっていた。
「私たちの仕事は、お客様ありき、どんなに良いサービスを提供しているつもりでも、お客様の満足がなければ、意味がない。これについてどう責任をとるかを考えるのが私の仕事だということです。お客様が満足しているかどうかは、お金をいただくときにわかるものなんですよ。顔に書いてありますから。」

コバックの車検は、高品質で、高サービス、清潔感のある施設で、保障が手厚く、気持ちよく利用していただけるのが信条だという、それでいて安いに越したことはない。しかし、それは一朝一夕では実現できない、社員一丸となった努力と蓄積があってのことだ。

「整備工の中にはファンレターもらうスタッフもいるんです。想定外のサービスなどにお客様が満足していただいたということではないでしょうか。そういう人材が育つのも、それだけ社員が企業理念のもとに様々なことを高めあってきたからだと思います。」

人材育成については、さらに一歩進み、ついに学校まで設立した。愛知県の認可を受け、車検ビジネスで独立できるように、整備の国家資格を取る勉強だけではなく、経営や接客も学べるのだそうだ。そうした企業努力が実り、現在のコバックの取り扱い車数は年間で5500台、快進撃が止まらない。

手入れをして長く乗れば、心豊かになる。愛車をもつことは喜びです。
実は日本の車検は世界でも独特の文化だ。小林さんはコバックのやり方で車文化を諸外国の主流である「故障してから直す」から「故障する前に予防する」流れに変えていきたいと言う。車も機械である以上、メンテナンスをしなければ故障する。IT化が進んでも、部品は摩耗するし、消耗劣化は免れない。今後ASEANも含めモータリゼーションで車は地球上で増えていく。これから地球と人と車が調和した持続可能な車社会のために、自動車整備の仕事が良い影響を与えていくはず、と小林さんは考えている。

「日本で生まれた『予防整備』という、車が故障しないようにメンテナンスしていく考え方を広めていきたいですね。そういった考え方で車を故障させない、資源を無駄遣いしない文化をひろめることで、コバックの車検が地球環境に貢献していけたらいいですね。」

新しい夢は2030年までにASEANをはじめ、アメリカやヨーロッパなど世界100か国に1万店以上の「コバックチェーン」を展開することだそうだ。
「私はトヨタの初代エスティマに26年乗っていますが、大事にメンテナンスをしているので、まだ全く問題ありません。車は機械ですから放っておけば壊れる、でも愛着をもって、大事に手を入れて乗っていると、心豊かになります。愛車をもつことは幸せなことです。そういう理念を世界に広げていきたいと思っています。」

町工場が全国チェーンに、そして次は世界に。小林社長の座右の銘は「心に描いた夢は必ず実現する。」だそうだ。時代の先へ向かって、車社会に寄り添って走り続けるコバックから目が離せないとタケは思った。(了)

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