マスターズインタビュー Master’s Interview

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閑古鳥から大繁盛へ ホテル業界の風雲児による星野リゾート・大改革

観光業界に次々と革命を起こしてきた星野リゾート。チャレンジと成功を繰り返すことで伝説をつくり続ける星野リゾートの代表、星野佳路(ほしの よしはる)氏に文化放送『The News Masters TOKYO』のパーソナリティでプロゴルファーのタケ小山がマスターズインタビュー。星野代表の経営哲学に迫った。

■星野リゾート 大阪に進出!

今年、衝撃的な発表があった。大阪・新今宮というディープなエリアに星野リゾートが進出するというのだ。

リゾート施設や旅館の再生で知られる星野リゾートではあるが、これまでとは一線を画す土地柄での開発に「あれを発表してから心配する電話がたくさんかかってきました。改めてイメージの強い場所なんだと気付いたんです」
とは言うものの星野代表は冷静に分析していた。「客観的にみると非常にいい場所で、空港や新大阪駅へのアクセスも良く、市内を動き回る上でも便利なんです」確かに新世界や通天閣などにも近く大阪っぽさを実感できる場所だ。

「何と言っても地域で暮らす人たちがおもしろいんですよ」こういったことも星野代表が大切にしていることなのだ。「星野リゾートは、地方の地域の文化を楽しくご紹介、旅をする喜びを演出してきたんです」
“感じてもらう””体感してもらう””経験してもらう”のだと。

今回のプロジェクトは、観光客をターゲットにした都市型の大規模ホテルをオープンさせること。「ほとんどの都市ホテルはビジネス客向けに部屋のデザインやサービスが考えられています。それを観光客視点で見直すとどうなるかというのが今回のテーマなんですよね」

これまでは、その地域らしさを感じてもらうために観光地を演出してきた。しかし都市だと周りの人達が地域らしい文化を持っている。ここが大きな違いだと星野代表は言う。「リゾートは旅行客が主役。だが、都市観光の場合は、周りの人達のチカラをいかに借りられるか。周りの人達を主役にするのがホテルの役目だと思っている」

星野リゾートはコンセプトが異なる3つのブランドを全国で展開している。
非日常感に包まれたラグジュアリーホテルの『星のや』
地域の魅力を満喫できる温泉旅館の『界(かい)』
スタイリッシュな西洋型ホテル、ファミリーリゾートの『リゾナーレ』
さて、観光客に特化した都市ホテルのブランドネームは?とタケ小山が斬り込んだ。覚えやすくて、インパクトがあって、ちょっとヘンだなと言われるくらいのネーミングにしようと考えているそうだが、それは10月まで楽しみにしていて欲しいとのことだった。

■老舗旅館の四代目

今年、創業から103年目を迎えた星野リゾート。軽井沢の老舗旅館『星野温泉旅館』の四代目として生まれた星野代表は、幼少の頃より「四代目です」と紹介されていたので、家業を継ぐのが当然だと思って育ったそうだ。
中学から慶應義塾へ通い、アイスホッケーと出会って、1983年に慶応義塾大学を卒業するまで熱中するという学生時代を過ごした。

日本がバブル景気へと向かっていた時代背景の中で「さぁ家業を継ごうと考えた時に、しっかりとホテル経営を勉強したかった」と星野代表。1984年アメリカのコーネル大学ホテル経営大学院に入学して2年間学んだ。最初の1学期は英文との格闘で、睡眠時間は1日平均3時間だったが、アイスホッケーで培われた体力と精神力で乗り切った。奇しくも当時はアメリカのチェーンホテルが爆発的に伸びていた時代だった。そんな環境で学べたことが財産となっていると振り返った。

修士課程修了後は帰国せずシカゴにある日本航空開発(現JALホテルズ)に就職。ホテルの開発から開業までの業務に携わった。アメリカで学び、肌で感じたのは、世界のホテル業、観光業は、常に目まぐるしく変わっていくものだということ。そしてその変化は今でも続いていると言う。

家業を継ぐことについてタケ小山が質問をぶつけた。
「良い面と悪い面の両方があるんです。悪い面は公私混同。逆に良い面は長期視点で経営ができること。ファミリービジネスの長期戦略というのは息子にどう継がせるかなんです」大企業であれば3年、5年は中長期戦略だが、ファミリービジネスは30年単位で考えることができる。100年つぶさない。短期的な利益よりも持続可能性を追求する視点。それが日本の経済にも大きく貢献しているのではないかと星野代表は言う。

“リゾート運営の達人””再生のカリスマ”などと呼ばれる星野代表の情熱の原動力は、日本旅館をなんとかしたいという強い気持ちだ。日本人は、親切で優しくて丁寧で気遣いがある。ホテル業界に向いているんです。にもかかわらず世界のホテル業界は欧米に牛耳られている。ここに食い込んでいきたい」確かに、日本のホテル業やサービス業がグローバルスタンダードになってもおかしくはないのだ。

■星野代表の経営哲学

1989年『星野温泉旅館』に入社するが半年で退職。2年後に呼び戻されて代表取締役に就任。同族経営のしがらみやバブル崩壊のあおりを受けながら、老朽化した旅館の建て直しやリクルーティングに奔走していた星野代表。普通であれば家業を再興させることで精一杯なってしまうところだが、代表に就任した翌年の1992年に『リゾート運営の達人』というビジョンを掲げ、”ホテル・リゾート施設の運営サービスに特化する”というビジネスモデルを打ち出していた。
1995年には『星野リゾート』に改名。ブランドイメージの向上が加速した。

2001年、星野リゾートが最初に手がけて再生させた『リゾナーレ八ヶ岳』は、一体何から手を付けたのか?タケ小山は気になっていたことを質問した。

「大事なのは”コンセプト”。誰に対して何を提供するか、それを社員全員が共感しなくてはならない」

『リゾナーレ八ヶ岳』では、スタッフが好きになれるお客様にターゲットを絞った。温泉旅館のスタッフから嫌われるのは酔っ払い。対して好かれているのが家族連れ、なのだそうだ。「結果、3年間で劇的な業績となって表れた。この成功体験がその後の案件に対して自信を与えてくれたと思っています」

転職について星野代表はどう思っているのか伺った。

「90年代、入社してくれる人がいなくてとても苦労しました。そんな中で転職組もきてくれて、今では経営の中心を担ってくれています」

そして転職を考えている人に星野代表からアドバイス。「仕事だけでなくて生活環境も含めて考えること。地方にはたくさんのチャンスがあるので地方に目を向けて欲しい」

■”星野リゾート”ブランド

ホテル、旅館運営のトップブランドとして圧倒的な地位を確立している”星野リゾート”。
コンセプトが異なる3つのマスターブランド戦略が浸透してくると、東京の大手町に日本旅館を開業したり、大阪の新今宮エリアに都市観光ホテルのプロジェクトを発表したりするなど、その取り組みには常に注目が集まっている。星野リゾートのブランドについて星野代表に分析していただくと「地域らしい体験ができること。旅の本質は非日常。この場所に来てよかったと思ってもらえることがテーマなんです」それが積み重なった結果が、今のブランド力につながっているのではないかと言う。

温泉旅館の四代目として生まれ育った星野代表だが、若い頃は日本の旅館はカッコ悪いと思っていたそうだ。しかしアメリカ留学で求められていたのが”日本らしさ”だった。「世界のホテル業界の中で活躍するには旅館をカッコ良くするしかないと思った。それが自分の使命であると教えてくれたのが留学経験なんです」

星野リゾートが展開するブランドは、それぞれ違うセールスポイントが売りになっているが、共通する点はスタッフだと言う。「スタッフ全員がコンセプトを理解して共感しているために彼らの踏み込み方が違うんです」星野リゾートでは、建物やインテリアなどのハードを舞台と呼んでいる。「ハードが商品なのではなく、その上で演じるスタッフが私達の商品そのものなんです」視点を変えるだけでサービスの内容が大きく違ってくることを実証した。

それは海外展開しているバリでも同じだ。「欧米のホテルチェーンはバリ人のスタッフを労働力だと思っていますよね。私達はサービスのクリエイターだと思っています」バリ・ヒンドゥー文化が商品そのもの。だからこそバリ人スタッフには舞台で演じてもらっているのだと。「作業をする人ではなく、サービスをつくっていく人だという自覚をもって接客していることが大きな違いだと思います」これこそ星野代表がつくりあげてきた組織文化なのだ。

■日本の観光業界の未来

「常にサービスを進化させる」というこだわりを持つ星野代表に日本の観光業界の未来について伺った。
今年6月に成立した住宅宿泊事業法(民泊新法)ついては、「IT革命がガラリと旅行業界を変えてきた。成長分野としてもっと進化させていかなければならないし、このマーケットが日本経済の下支えや地方再生につながる」と受け入れるべきであるという考えだ。

と同時に注意も必要だと言う。「今現在のインバウンドは日本の旅行消費量全体の15%だということ。当面は日本人が一番大事な市場であることは間違いない」85%の日本人旅行客を維持しながら、どうやって15%を伸ばしていけるかという発想が大切なのだと。

日本人旅行客について星野代表は若い世代の取り込みを訴えている。「日本の若い人の中でハワイには行ったことがあるけど、伊豆へは行ったことはないという人がいるんです。ですから日本の若い人たちにもっと国内旅行をしてもらいたい」そのために魅力的な観光地を提供していくのが自分達の課題だと言う。

星野リゾートが目指すものとは?タケ小山が聞いた。
欧米のホテルチェーンが世界のホテル業界を牛耳っている時代をずっと見てきた星野代表にとって、日本のホテル業界がそこに食い込んでいくことこそ変わらない思いだ。「やっと私達は出場権を得たばかりで、まだまだ戦えるような存在になったとはとても言えない。いつか日本のホテル業界が世界の中で存在感を示せるよう頑張っています」星野代表の思いは、破竹の勢いで突き進む星野リゾートをみていると近い将来実現する予感がする。

傍からみると常勝軍団のような星野リゾートだが、経営でうまくいかなかったことも多いと言う。
「うまくいかなかった時の大事なポイントは、”やり続けること”。やり続ければ絶対に失敗しないんです。そのかわり長期的な視野で経営する必要がある」

最後に星野代表が”大事にしていること”を訊いた。
それはスタッフ。若いスタッフを地方に送り込むことが多いので、その土地で楽しくハッピーに生活と仕事ができているかを常に気にかけていると言う。星野代表のその人柄にスタッフはついていくのだと感じた。

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