バスケットボールのB.LEAGUE(Bリーグ)は、2年目のシーズンを迎えた。初年度は開幕効果や終盤戦の残留争いなどでシーズンを通していい流れで成功を収めたといえる。その流れを2年目にどう活かすかが、リーグと各チームの課題となるだろう。今回は、千葉ジェッツふなばしの社長で、Bリーグの副チェアマンでもある島田慎二氏に、文化放送『The News Masters TOKYO』のパーソナリティでプロゴルファーのタケ小山がマスターズインタビュー。経営破綻寸前の弱小チームだった千葉ジェッツ(当時)を、たった5年で再生させ、”売上高”、”観客動員数”、”成績”で日本一を成し遂げた。”バスケ界の革命児”と呼ばれる男、島田慎二氏とは!? タケ小山が迫った。
◆『バスケットボール界のお家騒動の渦中へ』
長い間、日本のバスケットボール界は、リーグの分裂という危機的な状況にあって発展も人気も遅れていた。アマチュアリズムと実力を重んじる実業団チームのJBL(その後のNBL)、エンターテインメント性も追求するプロリーグのbjリーグ。相容れないトップリーグが並立状態にあった。
それまでバスケットボールとはなんの関係もなかった島田慎二氏は、バスケ界のそんな現状をどう思ったのか。「2つのリーグがあるって、わかりづらい。これだと盛り上がらないと言うか、流行らないな」
当時、経営破綻寸前で、人気も実力もイマイチだったbjリーグ・千葉ジェッツの再生を任された島田氏。チームもどん底、リーグとバスケ界のお家騒動の渦中で島田氏はなにからはじめたのか?
「お金も無ければ、人もいなかった。何もないからこそ明確な方向性、経営理念を示すしかなかった」”5年間で千葉ジェッツを日本一にする!”というのもそのひとつだ。「わかりやすい目標を示すのが一番」とは言うものの、人気も実力も劣り台所事情が厳しい千葉ジェッツを立て直す勝算はあったのかとタケ小山が突っ込むと、あっさりと「なにもなかったですね。でも5年くらいあればなんとかなるかなと漠然と思った」
確かに島田氏は経営者として辣腕を振るって結果を残してきた。それは主に旅行業界を中心としたものでスポーツビジネスの世界ははじめてだった。
タケ小山が更にそこを突くと「”スポーツビジネス”という言葉は好きではないですね。ビジネスはビジネスだろう、と。スポーツビジネスのスポーツはいらないよね。と先ず思いました」”スポーツビジネス”という言葉を使っている時点で、色眼鏡で見ているし特殊産業としてみている。スポーツビジネスと言えばなんでも許されるというような甘えが出てくる気がしたと言う。
「なので、私は完全にビジネスに徹するようにしようと思った。社内でも”スポーツビジネス”という言葉は禁句にしたんです」
同時にバスケットボール界に蔓延っていたネガティブな発想を取り除くことにも着手した。「マイナーなバスケットボールに携わっているから儲からないとか、観客が入っていないような産業だから給料があがらないという人が多かったんです」
前途多難な島田慎二氏の改革がはじまった。
◆『経営再建の戦略的ストーリー』
タケ小山が、西船橋にある『千葉ジェッツふなばし』のオフィスへ入っていくと社員全員が立ち上がって挨拶してくれた。活気が伝わってくるオフィスだ。
しかし、5年程前は違っていた。チームは弱小、運営は財政難。選手もスタッフも希望が持てず負の連鎖の中でもがいていた。なんとチームの銀行口座の残高は数百円だったそうだ。
“バスケ界の革命児”島田慎二社長が行った経営再建の戦略的ストーリーとは。
「どうやってお金を集めるか、頓智の世界だった」と振り返る。「その頃、日本一を争うような実業団チームだったトヨタを敵とみなし”打倒!トヨタ”を掲げで地元千葉のベンチャー企業に、私達と一緒に戦ってくれというメッセージを投げたんです」当時の実力では雲泥の差があっただけに鼻で笑われてしまうようなビッグマウスぶりだ。ただバスケ界に乗り込む当初から島田社長にはある戦略があった。「バスケ界で1番やんちゃなキャラクターを演出しました。ビッグマウスも意図的で、叩かれれば話題になるんです」島田社長の第一の矢ならぬ最初の戦略が当たり、チームは弱小で観客動員数も少ないのにスポンサーだけが増えていくという不思議な現象が起こった。
チームを強くするという命題より先に、千葉ジェッツという運営母体の経営再建を優先させた島田社長にタケ小山は「商品としてのバスケットボールは、NBLがやっていた勝つ方が先なのか? bjリーグがやっていたファン楽しませる、興行が先なのか?どっちだと思いますか?」と次に着手したチーム再生の戦略について訊いた。
「どっちもだと思う。強いだけでもダメですし、エンターテインメントで派手なだけでもダメ。バランスだと思います」日本ではまだメジャーなスポーツとは言えないバスケットボールが人気になっていく過程で、はじめて観に来るお客さんが多くなる中、1回観て面白いと思わせなければビジネスとして成り立たないと島田社長は言う。「お客様を楽しませるコンテンツとしての必須条件がチームの魅力となって、会場に来た際のわくわく感や非日常感につながるんです。そして迎い入れるスタッフのホスピタリティも大切」それが千葉ジェッツふなばしの試合をまた観に来たいと思わせるのだと。
ある程度チームが強くなってくれば、そのような良い循環も可能になるとは思うが、そこに至るまではどうしたのだろうか?
「スタッフには集客しなくてもいいと言いました」
当時はまだ弱くて興行的にも投資できないチームだった千葉ジェッツ。観客に来てもらってがっかりさせるくらいならば無理に呼び込む必要ないと言う判断。
「そんな試合をはじめて観たら二度とバスケットボールを観戦しようなんて思ってもらえなくなるでしょう」と島田社長はあえてスポーツビジネスの収入源のひとつを後回しにした。しばらくは”打倒!トヨタ”を旗頭にしてスポンサー集めに奔走し、ある程度の資金力がついたところで魅力的な選手を獲得し、機が熟したところで一気呵成に攻める。これが島田社長の描いた戦略的ストーリーだった。
◆『島田流 マネジメント術』
“就業時間中の喫煙はダメ。だらだらするな。毎朝雑巾がけしろ。来客があれば立ち上がって挨拶しろ”など、千葉ジェッツふなばしの運営には細かいルールがいろいろとある。
「ビジネスマンの1日の労働時間の約3割が何かを探していると言われているんです。整理整頓されていないと無駄な時間を費やすことになるので、そこはうるさく言っています」生産性を上げるにはどうしたら良いかという経営者目線で考えた際、島田社長はまず整理整頓であると考える。その結果、新たな効果も生まれた。「以前は生きるか死ぬかという状況だったが、たった数年でチームは強くなり、財政も改善された。スタッフ達も一歩間違えると調子に乗ってしまうので、当初の謙虚さを忘れさせないためにも、膝をついて雑巾がけするのは必要だと改めて感じた」と言う。
では、「禁煙令を出したことで社内から反発はありませんでしたか?」とタケ小山。
「タバコを吸う時間を計ったところ1本で約5分。1日10本だとすると50分。1週間で250分となり、年間にすると11日位の休暇になっているんです。ウチの有給休暇が10日だから、吸わない人からすれば不平等だろうと」島田社長はホワイトボードを使って説明したそうだ。最初は不満たらたらだった愛煙家の社員たちも納得した。「根拠なく頭ごなしにタバコはダメ!と言えば不満もでるが、短い労働時間で生産性を生み出し、結果が出せれば、給料も出す。それに健康にもいいじゃないかと。きちんと伝えれば理解してもらえるんです」
島田社長はスポーツビジネスの悪い方の一面にも言及する。「バスケットボールが好きでこの世界に飛び込んできている人たちが多いので、長時間労働の上に休みも無くて、しかも薄給というのを良しとしているような風潮がある。これこそスポーツビジネスがやりがい搾取と言われる温床となっているので、なんとかぶち壊したいと思っているんです」残業を無くして、且つ日本一強くて観客を呼べるチームにする。そうすれば必然的に給料もアップする。スタッフと一緒にその究極の目標を達成するための改善なのだ。
島田流 マネジメント術は細かいルールの中に宿っていた。
◆『”島田塾”とは』
Bリーグ各球団の代表が自主的に集まって開催される勉強会『島田塾』。島田社長が千葉ジェッツふなばしで積み上げてきたノウハウを他のチームの代表にも包み隠さず教えてしまうのだそうだ。
敵に塩を送るような勉強会が誕生したのは、各チームの代表達と飲んでいる席で島田社長がブチ切れてしまったことによる。翌日、アグレッシブに行き過ぎたと反省した島田社長は「ダメ出しだけなら誰でもできるから、そんなことを言う以上は、自分が持っているものを全部伝えたいので一度会いませんか」と申し出た。すると、是非!ということになり、せっかくの機会なので2人だけではなくBリーグB2のチームに声をかけると10チーム程の代表が集まった。こうして秘密の勉強会がスタートした。
その後、観客動員が増えたチームが出てきて、それが噂となって広がり、B1のチームからも勉強会をして欲しいということになって今に至っている。
現在、観客動員数1位の千葉ジェッツふなばしだが、島田塾のノウハウを身に付けた他のチームに抜かされることもあるだろう。島田社長は「それはそれでいいと思っています。そもそも地場産業の事業規模はたかが知れているので、結局産業が発展しない限りは本当の恩恵は受けられないんじゃないかと。日本全国で盛り上がって、もっと大きなお金がバスケットボール界に入って来て、ダイナミックになってこそ、大きな恩恵が千葉ジェッツふなばしにもくるんじゃないかと思ってやっています」
千葉ジェッツふなばしの経営理念は『オールハッピー』。
ジェッツに関わる人みんなが幸せになれる方法を模索し続けることだそうだ。
◆『バスケットボール界の未来』
千葉ジェッツふなばしの社長でありながら、Bリーグの副チェアマンでもある島田慎二氏に、まずは「千葉ジェッツふなばしの未来はどうあるべきか?」とタケ小山が尋ねた。「この6年間はベンチャーだと思ってやってきた。勢いよく伸びてきたので何れは成長痛みたいなこともあるだろう。これからはファンとのコミュニケーションの質、チームの質、エンターテインメントの質など、その時にできる経営資源全てを使ったMAXの質向上のたゆまぬ努力を続けるような球団にしていきたい」
続いて「日本のプロバスケットボールの未来について」訊いた。
「オリンピックや世界大会での勝ち負けは盛り上がりには重要だが、そこを超越した地場産業の集積体のような、Jリーグやプロ野球とは違う新たなスポーツの産業を創り出せるポテンシャルはあると思っています」経営者の目で6年間携わってきた島田社長は、バスケットボール界の未来は個人的にも魅力的だと感じている。「ただ、これまではポテンシャルあるある詐欺みたいな歴史もあったので、最初で最後のチャンスだと思っています。ここをちゃんと切り拓けるようにみんな努力しています」
最後に「島田社長の未来は?」チェアマン就任も期待される島田社長にタケ小山がズバリ斬り込んだ。
「正直あまり考えていないんです。何かをやりたいとか、次はあれがしたいとかは純粋にないんですよね」と意外な答えが返ってきた。
そこには島田社長の人生観があった。「やりたいことって、やりたくなくなったらやめられるでしょう。モチベーションを保ち続けるのは結構大変なんですよ。だけど、人から頼まれたものは頑張らなければというモチベーションが続くんです。やりたい、やりたくない、ではなく、約束したことを果たす、義理というか義務がエネルギーの原点になるんです」
野心に溢れていた30代での失敗がその後の生き方、考え方を変えたのかもしれない。
「今後もこういう生き方をしていくと思う。必要とされて、それがいいかどうかピュアな目で判断して、いいと結論できれば都度都度決断していくんじゃないかと思います」
Bリーグが活性化して発展を遂げるためには島田社長のような人物が必要だと思われる。
プロ野球、Jリーグに続くようなプロスポーツリーグにしていただきたい。