マスターズインタビュー Master’s Interview

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配達ドライバーは最強の営業マン!? 1日6万食を実現する仕出し弁当『玉子屋』の秘密

組織のリーダーやトップに、プロゴルファーで、文化放送『The News Masters TOKYO』のパーソナリティタケ小山が迫る『マスターズインタビュー』。今回の主役は、京浜東北線・東海道線ユーザーなら必ず目にする蒲田~川崎間で見かける黄色く目立つ建物、仕出し弁当の「玉子屋」。その2代目の菅原勇一郎社長である。

◆紆余曲折あっての2代目就任

プロ野球選手になりたいと思い、大学でも野球をされていた菅原社長。立教大学の選手として、神宮球場に6大学野球の試合で来ていた際に、当時ヤクルトスワローズだった池山選手や広沢選手のバッティングを目の当たりにした。

菅原「このレベルではプロではできないと思いまして。」

そこで社長になることを決意。しかし、実家の玉子屋はその選択肢にはなく、将来的に社長になることを考えると、決算書が読めたり、数字に強くなければと考え、銀行への就職をする。色々な企業を見て自分がどういう会社の社長になりたいかを決めようと思ったのだ。銀行で一番学んだことは「良い会社とはなんだろう?」という自分なりの問いに答えが出たことだった。

タケ「どんなところが良い会社でしょうか?」

菅原「良い会社とは規模の大小ではなく、健全経営をしつつも、そこで働く従業員が喜んで、なおかつお客様が満足する会社です。」

さらなるステップアップを求め、銀行を辞めた菅原社長。続いて就職したのは、流通マーケティングの小さな会社だった。行員時代は周りにお金があったため感じなかった「お金を稼ぐことの大変さ」を学び、勉強になったという。一方で、昼食は毎日「玉子屋」のお弁当。

マーケティング業に精を出す側ら「今日のお弁当は美味しい、今日はイマイチ。もっとこうできるんじゃないか?」という気持ちが徐々に芽生えていった。そんなある時、先代の社長から玉子屋の決算書をみせてもらった。そこからさらに、玉子屋改革への気持ちを一層強める。

菅原「継いでもいいかなってなっちゃって」

タケ「お父様の策にハマっちゃったんですねぇ。」

◆玉子屋に入社して

入社してすぐに当時社長であった先代は「俺よりもすごい息子が戻ってきた。すごい優秀だから俺以上に言うことを聞け!」と社員に紹介。対する菅原社長も…

菅原「父親が社長でいるけれど、僕はいずれ社長になるわけだから、温故知新で父親の良い部分と僕のやろうと思っている改革をやるので、ついてきてほしいと言ってスタートしました。」

タケ「社員との見えない壁はありましたか?」

菅原「当然ありました。”血の繋がりだけで入ってきて”、と絶対思われていましたね。一人ひとり、毎晩夜飲みに行って、数ヶ月かけて話を聞いて、自分のやりたいことを話しました。」

ついてきてはくれたものの、「面従腹背なのでは」という想いもあり、結果を残すことにも余念がなかった。2年経ったある日の飲み会で「(菅原勇一郎)常務について行きます!」とようやく言ってもらえたという。

玉子屋に入社して改革へ着手した菅原社長。そこで考えたこととは

菅原「女性が光り輝く時代になることを予測していたので、女性が喜ぶメニュー構成にしました。」

タケ「メニューを変えるところから始めたのですね。」

パスタは当時、ミートソースとナポリタンくらいがお弁当の定番で、町工場や工事現場で食べる男性向けのものが主流だった。オフィスで働く女性が食べたくなるメニューをということでパスタの種類を豊富にした。

◆玉子屋のドライバーは営業マン

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流通マーケティングの会社で玉子屋のお弁当をお客として食べていた菅原社長。その配達には4人のドライバーがいたが、4人のうち2人は「この人が配達しているのなら食べたい!」もう2人は「この人が配達しているのなら、お弁当食べたくない!」と思ったのだ。

菅原「お弁当を運ぶ人の中で一番良い配送員ではなくて、物流に携わるすべてのドライバーの中で一番になるようにドライバー教育、社員教育をしようと考えました。」

まず「笑顔」「挨拶」「礼儀」「身だしなみ」を注意したが、すぐには良くならなかった。加えて大事なのは「お客様とのコミュニケーション」。行った先でお客様が何を求めているのかというニーズをしっかりと引きだして帰ってくるのも玉子屋のドライバーの仕事なのである。

タケ「ってことはドライバーが”メニューどうでしたか”って聞くんですか?」

菅原「そのために回収弁当箱を使っています。もちろん環境への配慮でもありますが」

そういう面で、午前と午後、1日2回月曜から金曜で考えると、1週間で2×5=10回も顔出してもよい、通行権を持っている営業マンは他にはいないのだ。

◆1日6万食を配達、しかし廃棄率は0.1%


玉子屋のお弁当に舌鼓を打つタケ。

タケ「これで450円でいいんですか!?」

菅原「いいんです。」

玉子屋のメニューは日替わりで1種類のみ。当日注文・当日配送で6万食の注文を受けると、複数のメニューを作るのは大変だからだ。1種類だと大量に多く作れて、例えば衣の薄いコロッケなどプライベートブランドの開発も可能になるのだという。

タケ「その日の朝に注文を受付けるんですか?」

玉子屋は、電話・FAX・インターネットで当日に注文を受付け、12時までに配送する。食品ロスを出さないために少し少なめに材料を仕入れ、9時半までにその数を作り終える。10時までに追加注文が入ってきているのであれば、あと何千食というのを予測する。

必要な材料は15分以内に届くシステムになっており、短時間での大量生産を後押しする。そこから1分間で最大360個盛り付けできる従業員が11時過ぎまでに3000個のお弁当を完成させ、12時までに配達。そこまでやっても配達料込みで税込450円、廃棄率は脅威の0.1%を実現しているのだ。

◆玉子屋の社是は「事業に失敗するコツ」

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会社・結社の経営上の方針・主張が書かれた社是。普通は成功するコツがかかれているのだが、玉子屋のそれはその反対。

≪玉子屋の社是≫
① 旧来の方法が一番良いと信じていること

② もちはもち屋だとうぬぼれていること

③ 暇がないといって本を読まぬこと

④ どうにかなると考えていること

⑤ 稼ぐに追いつく貧乏なしとむやみやたらと骨を折ること

⑥ 良いものは黙っていても売れると安心していること

⑦ 高い給料は出せないといって人を安くつかうこと

⑧ 支払いは延ばす方が得だとなるべく支払わぬ工夫をすること

⑨ 機械は高いといって人を使うこと

⑩ お客はわがまますぎると考えること

⑪ 商売人は人情は禁物だと考えること

⑫ そんなことはできないと改善せぬこと

⑥に関しては「美味しい」と言われると、「良いもの売ってる」という意識が強くなる半面、おごってしまうこともある。和菓子など伝統を重んじて、味を変えない方が良いケースもあるが、玉子屋はサラリーマン・OLにとって、午後の活力になるようなお昼のお弁当を作っている。それであれば、時代に合わせて変化した方が良いと思っていのだ。

タケ「この社是は先代が作ったのですか?」

菅原「これは会社を継いだときに友人から”お前の考えにピッタシのものがあった”とFAXで送られてきました。」

150年以上前、富山県のお寿司屋さんが作ったのではないかと言われている代物。ここに書いてある内容をやると失敗するが、ここに書いていないことはお客様目線では何をやってもいいということではないかと菅原社長は捉えた。

菅原「外部向けではなく、社員に”ここに書いていないことはどんどんやっていいよ。責任は最後に僕が取るから、やってごらん”という権限移譲を言いたいということで社是にしています。」

時代と共に進化を続けるメニュー、営業マンの役割も担うドライバー、日替わり1種類のメニュー、事業に失敗するコツ…様々な歯車が上手くかみ合わさったことで、1日に6万食と言う莫大なお弁当の生産を実現している。こうして仕出し弁当の玉子屋は、首都圏のビジネスマンの胃袋を今日も支えているのであった。

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