文化放送・The News Masters TOKYO『マスターズインタビュー』。今回のインタビューのお相手は、ヘアカット専門店「QBハウス」などを運営するキュービーネットホールディングス株式会社代表取締役社長・北野泰男さん。
北野社長は、大阪外語大を卒業後、株式会社日本債券信用金庫(現:あおぞら銀行)に入行。破たんなどの厳しい局面もあったものの、およそ10年勤め、その後、キュービーネット株式会社に入社。2009年には代表取締役社長に就任します。『The News Masters TOKYO』パーソナリティーで、プロゴルファーのタケ小山が、今に至るまでの「QBハウス」の躍進の秘密などを伺った。
◆バンカーが理美容業界を選んだ理由
学生時代には海外を放浪していた北野社長。いろいろな国を見てまわったが、水一つとっても日本とはまるで違った。海外の国に刺激を受けることもあったが、日本の素晴らしさを再発見したのだそうだ。
北野「その中で、将来は日本の当たり前に良いものを海外の人たちに届けたいと思うようになったんです。そのためには自分で事業を興すしかないと考えました。」
タケ「ジャパンクオリティを提供するのに銀行に?」
当時の北野青年は数字に物凄く弱かった反面、「苦手なものを克服すれば、強くなれる」とも思っていたため、就職活動では、ありとあらゆる銀行へチャレンジしたのだ。
「社会に出て、10年くらいは同じ会社にいないと本質は見えてこない」と父から教えられていた北野社長であったが、そこに転機が訪れる。入行から10年程の月日が流れたころ、勤め先の銀行が経営破たん。当時の取引先を見ると、憂き目にあう会社もある中で、厳しい環境ながら残っている会社もあった。その共通点は、「社会の何らかの問題を解決している会社」。
また行員時代には、職業柄色んな会社の話を聞く中で、こんなことにも気付いた。
「髪の毛はどこの国に行っても伸びる。しかも、不景気でも関係ない。」
その不景気でも関係ない理美容業界の中でも、QBハウスは10分1000円で自分が今まで行った中で一番優れていると衝撃を受けた。その後、縁あって出会ったキュービーネットの創業者・小西氏の「北野君、このビジネスには終わりがなくて、国境はない」の言葉にも深く共感。
北野「それでは、頑張ってくださいと言ったら、”いやいや君もやるんだよ”と言われ、気が付いたら、この会社に入っていました。」
◆急成長から生まれた歪み
創業者の言葉に感化され、気づいたらキュービーネットに入社していた北野社長。入社当時、会社を取り巻く環境も今とは異なるものだったのだそうだ。
タケ「社長が入ったときと今の違いは?」
北野「入った時は国内に75店舗出しており、本社の人数も20人程度。毎月常に店を出していくという状況でした。」
会社も急成長し、お店にはとてつもない勢いでお客が来ていた。現場の技術力には自信もあったが、時折現場に行くとその歪みも目の当たりにしたという。
北野「自分達は店をつくって”はい、よろしく”ですが、現場はお客様一人ひとりに満足してもらい、また次の来店につなげていかないといけないのです。」
後者の方が大変だと感じた北野社長。急成長からくる歪みも当然生まれた。お客様からのクレーム、それも「スタイリストの当たり外れが大きい」というクレームもたくさん届いた。
当時は、スタイリスト1人一日当たり60人ほど散髪していた。朝の体力があるときは調子がいいが、夕方のビジネスマンでごった返す時間になると、集中力も続かない。都内の繁盛店は常に混んでおり、そこにはベテランの人を付けるが、手薄になる時間帯・エリアがあった時にそこにもドッとお客が来る可能性もある。
そうしたときのお客さんの個別対応は大変難しく、さらにそれまで「1000円だからしょうがない」と許してもらっていたところが、会社の規模とともに期待も膨らんでいき、お客からのオーダーも細かくなっていく。そこにも応えなければならない現場は、徐々に疲弊していった。
タケ「対策は打たれたんでしょうか?」
北野「その対策として、切り手のトレーニングはもちろん、出店も抑えました。」
そうは言っても、まったく出店しないのは出店の話がこなくなるので、バランスは考えつつ事業は行った。そこで従業員を緩めない限り、現場も苦しい上に、クオリティの面でも、お客に迷惑をかけることになるという理由から、2009年ころを境に出店の数は半分に減らした。従業員も「自分の力で現場で鍛える」から「ゆとりを持った状態で研修・教育」を受けさせる形にシフトしていく。
◆技術と接客への飽くなき追及
以前は、接客すらも無駄とそぎ落としていたと振り返る北野社長だが、より高みを目指すため、そこにもメスを入れた。接客はお客の満足度調査を行い、ちょっとした喜びを紹介していった。
技術の面では、社内でカットコンテストを行った。だが、最初はベテランのスタイリスト勢から「俺の技術を誰が正しく評価できるんだ?」という思いがあったようで、誰も乗ってくれなかったという。しかし、回数を重ねるごとに、状況は変化した。
コンテストの表彰者は全国予選を勝ち上がってきたスタイリストから選ばれる。これは、仲間から選ばれるということでもある。若い人を中心にカットコンテストで称えられるスタイリストたち、そこから連覇する人も出てくるようになるとベテランのスタイリストも黙ってはいられない。また彼・彼女らも刺激され参加するようになり、コンテストのレベルもグッと上がった。
もっともその中でも北野社長が、感動したのは海外の人が優勝したこと、それも日本の理美容業界のお家芸ともいえる「スポーツ刈り」部門でのことだった。大相撲でも同じことがQBハウスでも起きていたのだ。
「どんな方が、優勝を?」タケが前にノリ出す
優勝したのはシンガポールの女性。日本で理美容師になるには国家資格が必須となるが、海外では国家資格を必要としない国がほとんど。シンガポールでも、理美容は飲食店を営んでいた人が「なんとなくやってみる?」と無資格で始めるような仕事。優勝した彼女もバリカンしか使ったことがなく、「ハサミでは疲れる」という意見を持っていたが、10年勤めていくにつれて、技術に目覚めて、リスペクトしている日本人の集まる大会で優勝するまでに至ったのだ。
◆最大の効率化:10分1000円の秘密
このコーナーでこれまで数多くの経営者と対峙してきたタケ小山。それと同じ分だけ、独自のビジネスモデルに触れてきた、彼からこの質問が飛び出した。
タケ「10分1000円で儲かるんですか?」
北野「1店舗だけで1000円カットをやるとたぶん儲からないですね。僕らは『10分1000円カット』で時間を売っているんです。」
時間をかけて綺麗にカットするのも大切だが、それをいかに10分でお客様の期待している髪型にするのかが大切ともスタイリストに日ごろから話している北野社長。30分で1000円ならば、それは儲からない。これを1時間で4人来れば、4000円と普通の理美容店と変わらなくなる。
普通の理美容店は「朝だけ忙しい」「土日だけ忙しい」でもQBハウスは店舗ビジネス。立地にも、こだわっているので、「月曜から金曜が忙しい」場所に出していく。稼働率の商売なので、そういう場所に出すことと、時間にこだわることが強みであり特徴ともいえる。
タケ「10分という時間は、どう意識していますか?」
北野「QBハウスを利用するとお客様には分からないところでスタイリストが何分で切っているかわかるようになっています。」
本部にはデータで、○○店のスタイリスト××さんが、切った時間がデータとして表示される。15分で切ったからダメということではなく、自分の今の状況が数字やデータで把握できるような環境を作っている。自分では「10分で切った」とスタイリストが思っていても、意外と15分、20分経っていたというケースもあるためだ。
もちろん、店舗・土地によって客層は違うので、そのお店ごとに合わせて「女性のお客様が多いから美容師でオペレーションした方が良い」「サラリーマンの男性が多いため、かりあげの得意な理容師さんを沢山入れた方が良い」などの細かいオペレーションを出すのも、現在のビジネスを成立させている一要因だ。
お客さんは、時間をかければその分満足度は高まる。しかしQBハウスに来るお客様はどういう人か、それは基本的に面倒くさがりということ。パッと入って、パッと出たいからスタイリストがより丁寧にやるというより、限られた時間の中でベストなパフォーマンスを行う必要がある。そしてそれがQBハウスの理美容業界の中での存在意義なのでもある。
◆これからの理美容業界
QBハウスに集まるスタイリストにはある傾向があるという。それは業界をずっと転籍・転職してきた人。その中でも特に…
北野「表参道の単価の高い美容室から転職してくる人がとても多いのです。」
そこには理美容業界に根付く風習が関係していた。それは、業界的に「技術は見て盗め」という考えが広がっており、修行期間が非常に長いのである。もちろん専門学校などに行き、勉強はするが、カットの勉強は実践が必要で学校では学べない。いざ現場に出ると下積みが「洗髪」から始まり、「パーマ」→「ロット巻き」→「カラー」→「カット」は最後。そこにたどり着くまで短くても3~4年、個人店の場合は10年間カットまでにたどり着かないという人もいるが、皆やりたいのは「カット」。従来の理美容店と比べて「自分のやりたいカットがすぐにできる!」という熱い思いを持った人が入ってきてくれているのだ。もちろんいきなり現場に行くわけではなく、(6)か月間の独自研修を行ってからである。理美容業界の風習に、風穴を開けたキュービーネット・北野社長。彼は今何を見据えているのだろうか?
タケ「これからの理美容業界、どうなるのでしょうか?」
北野「かなり理美容室の数があるので、銀行のように良い意味で、広がったものは統合されていくというタイミングがあるでしょう。その中で、質が上がったり、個性が出てくる。さらに歴史をたどっていくとさらに広がっていく。これはどの業界でもそうです。」
そう語るには根拠がある。理美容業界も2005年が一番広がったが、そこから徐々に統合されている。加えて、理美容業界は平均年齢が70歳近くになってきたので、世代交代という課題もある。業界トップで走ってきた世界的ヘアドレッサーのヴィダル・サスーン氏を支持して走ってきた人たちも70歳。その後、誰が引き継いでどういう束ねていくのかという問題が起こってくる。
特に2020年が一つのターニングポイントと言われているが、生活に密着している業界のため、お客がもっと選択していくようになるのではと北野社長は分析している。
例えばキュービーネットでは今、女性のお客様が増えている。節約志向もあるだろうが、『カットはこの店』『カラーはこの店』とお客が選ぶのだそうだ。詳しく聞くと、「予約を入れると『今月もパーマ・カラーですよね?』と言われて、前髪だけカットしてほしいと言いにくい」とのこと。身に覚えのある方もいるのではないだろうか?
今までは総合的な面でお客様の満足度を高めていたが、これからの時代は、より専門化、専門性に自分の受けたいサービスを選べると求められるという風に変わっていくのではないか?北野社長は、今後の未来についてそう語ってくれた。
カットコンテストに消極的だったベテランスタイリストや職人気質の「見て盗む」の風潮からも分かる通り、理美容業界にはどこか旧態依然としたものが、今も漂っている。それを心地よいと感じる人もいれば、一方でそれにより機会を阻まれている人・現場があるのもまた事実。キュービーネットでは、他にも給与面では同世代の会社員くらいの給与を従業員に与え、社会保険も完備するなど、これまで業界では不十分だったそれを従業員に保障している。海外進出して、広がりをみせるキュービーネットの事業。これが次に統合されるとき、世界の理美容業界に、技術以外の面でもまた新たな時代が始まるのかもしれない。
文化放送『The News Masters TOKYO』のタケ小山がインタビュアーとなり、社長・経営者・リーダー・マネージャー・監督など、いわゆる「リーダー」や「キーマン」を紹介するマスターズインタビュー。
音声で聞くには podcastで。
The News Masters TOKYO Podcast 文化放送「The News Masters TOKYO」
http://www.joqr.co.jp/nmt/ (月~金 AM7:00~9:00生放送)
こちらから聴けます!→http://radiko.jp/#QRR
パーソナリティ:タケ小山
アシスタント:文化放送アナウンサー 西川文野(月~木)/長麻未(金)
「マスターズインタビュー」コーナー(月~金 8:40頃~)